第114話 イメージはアーケードだよ。アーチ型じゃないけど
取り敢えず、屋台の裏側のちょっと離れた場所に大きめの帆布シートを出し、侍従さん達に敷いてもらう。
その間に6人掛けテーブルを再構成で高級っぽくしておくよ。
最初、テーブルと椅子は白いロートアイアンにしようと思ったけれど、寒空の下では冷たくなりそうだから断念し、アンティーク調の白いテーブルに作り替えた。
天板裏のパネルヒーター&ガードはそのままなので、足元暖かだよ。
椅子はロココ調の白いアームチェア。布部分の柄は薔薇にした。
敷いてもらった帆布シートにテーブルと椅子のセットを何台分か出すと、皆感嘆の声が上がる。
「まあ、素敵!」
「何て美しいテーブルだろう」
一応、帆布シート内は防塵・防砂の結界を張って、悪意ある者の侵入とあらゆる攻撃を阻止してあると告げておく。
「先程までとても寒かったのですが、結界に入った途端に寒さが和らぎましたわ、お父様」
「ゆき様のおかげだね」
「ありがとう存じます」
小さくカーテシーをするシトリンちゃん。本物の伯爵令嬢のカーテシーは美しい所作だなあ。
「よたったね」
「さあ、座って?」
「はい」
レーヴァが着席を促すと、執事さん、護衛さん達以外が着席する。
「わっ!何だ!」
「暖かいですわっ」
「はぁ~…本当に素晴らしい」
テーブルの下が暖かいことにひどく感動した様子の皆さん。
「これは?」
「客が冬空でも凍えないように用意した物だよ」
「他のテーブルも暖かく出来るのかい?」
「あい」
「何という素晴らしさ。冬の寒い時季の書斎にもぜひ欲しいよ」
「暖たい、眠くなゆ。おちごと、出ちない。寝ゆ」
「う、うーん。それは困りますな」
「それに、魔力充填が出来る人がいないと難しいよ」
貴族だから、魔力充填できる人は雇えるかな?
売るのは吝かではない。でも値段設定がよくわからないよ。フィガロギルマスに相談してみようかな?
「さて、私達も唐揚げとやらのセットをいただこうか」
「はい、お父様」
「あ、毒味、しゅゆ?」
貴族の皆さんはお毒味がいるよね?
「いえいえ。ゆき様のお出しくださる食事に毒味などいたしませんよ」
領主さんがにこやかに宣言した。
先程シトリンちゃんが購入したのは、今回この町に一緒に来た護衛さん侍従さん達用なんだって。実はもう一組並んでいて、ここで食べる分を買ってくることになっているらしい。
食べ物が届いたら飲み物の用意をするので声をかけて欲しいと伝え、その間に屋台裏用トイレテントの用意をする。
偉い人用と使用人さん達用(男女両方)をちょっと離して立てればいいよね?
侍従さんの一部がペグ打ちの手伝いをしてくれたので作業はすぐに終わったよ。
テントの中に使用方法カードを置いて外に出ると、領主さんと市長さんがテントを眺めていた。
「モーガフェンが申していたトイレとはこのことですね?」
「モーダヘン?」
「我が領の騎士団団長、オルフェス・モーガフェンのことです」
「オユヘシュしゃん!」
オルフェス団長が領都に帰ってからの報告の中にトイレがとても快適であったと報告したんだって。
「どうじょ、入って」
「それでは
市長さんは死の森調査隊の活動に参加していたのでトイレテントは体験済み。
あとは任せて私は屋台にもどったのだった。
皆で交代しながら売り続ける。お客様の列は途切れることが無かった。
私はレーヴァと大口や貴族の従者らしき人達の窓口をしたり、荷物を抱えて戻って行くお客様に「あにあと、ごじゃいまちた!」と声をかけ続ける。
訓練場ではお客様達が美味しそうに食べる姿が見られて私も嬉しかった。
本日の屋台は終了。
途中から鳳蝶丸とミスティルに最後尾に待機して断ってもらったほど列が途切れなかった。
最後のお客さんに売ってから、帰り支度をする。
まずは訓練場全体に清浄をしていると、ビョークギルマスに声をかけられた。
「ビョーク、ギユマシュ、おちゅかえ、しゃまでしゅ」
「ゆき殿もお疲れさん。大盛況だったな」
「あい。おかでしゃまえ。ビョーク、ギユマシュ、食べた?」
「いや、忙しすぎてまともに食っていない。まあ、職員達も同じような状態だから……俺だけ食うわけにもいかんしな」
「まだ、皆、いゆ?」
「ああ。今夜は泊まり込みだな」
タダで場所借りているし、差し入れしようかな?
「かやあげ、皆、食べゆ?」
「うん?売ってくれるのか?」
「差し入え、しゅゆ」
「いや、金を……」
「お金、いなない。おちゅかえ、しゃま、しゅゆ」
「いいんじゃない?我が姫の心遣い、受け入れなよ」
「そうか……では、遠慮なく」
【虹の翼】の皆さんには先に帰ってと伝え、私達は冒険者ギルドに向かった。
職員さんの休憩室みたいな場所に案内され簡易テーブルを数台出す。
唐揚げセット、ビーフシチュー(寸胴)、ロールパンとミニチーズフランス(大量)。サラダはビュッフェみたいに大きなボウルに入れ、各種ドレッシングも用意してテーブルに置いた。
「おーい!サクラフブキのゆき殿が夕飯を振る舞ってくれた。手が空いた者から休憩してくれ」
ビョークギルマスの言葉に歓声が上がる。
沢山用意したから皆さんで食べてね!
「あちた、取いに、来ゆ」
「俺達は帰るよ」
「悪いな。馳走になる」
「あい!バイバイ」
「ああ。また明日」
ビョークギルマスに挨拶して、お着替えテントに戻る。そして転移の門戸で自分のテントに帰った。
やっぱり我が家に帰るとホッとするね!
翌日はあいにくの雨だった。
土砂降りでは無いけれど、今日はお客さん少ないかも?
それでもお客さん0人と言うことは無いだろうし、屋台の準備しなくちゃ。
と、いうことで、転移の門戸から屋台に向かった。
外は雨だけれど、私達は結界3で濡れることはない。
鳳蝶丸抱っこでまずは冒険者ギルドに行った。
ビョークギルマスに挨拶しようと思ったけれど、緊急の連絡が入ったとかで会えなかった。
とりあえず、昨夜出した夕食の鍋やボウルなどを回収する。
そしてピピお姉さんに挨拶し、今日私がしようとしていることを説明した。
「それは大変ありがたいです。ギルド長にお伝えしますね!よろしくお願いしますぅ」
ピピお姉さんにはもう伝えたし、早速訓練場に手を加えようっと!
私が何をするのかと言うと、訓練場に結界で屋根を作って、泥濘んだ地面を乾かす作業なのだ。
お客さんが来て濡れちゃうといけないから、平面の結界4を訓練場全部+冒険者ギルド建物の上に張り、結界に触れた雨は空気へ変換を付与しておく。
囲ってないから横からの雨は防げないけれど、屋台と食事の場が濡れなければいいや。
あと、地面の雨水を清浄してぬかるみを解消した。
一度に全部清浄にしちゃうと土がカサカサになって砂埃が舞いそうなので、少しずつ、調整しながら何回か清浄する。
昨日とあまり変わらない程度の地面に仕上げたよ。
屋台のフライヤー他唐揚げの道具を全部仕舞い、たこ焼き機やその道具、食材に変更する。
看板も交換。
価格表の下に、中が激熱なので火傷に注意!フーフーして食べてね!と書いておく。
そして、もう1つ看板を浮かべ、明日は甘い系だよ!と表示した。
昨日と今日みたいに、お酒に合う食べ物と思って来てしまうと申し訳ないからね。
次は屋台裏の偉い人用エリア。
本当は特別扱いしたくはないけれど、領主さん登場に他のお客さんが萎縮していたから隔離しておいたほうが良いと思って。
貴族の人のためじゃなく、他の人が怖がらないようにしておこう。
偉い人エリアは結界があるから濡れていないけれど、領主さん達が使用したので一応清浄する。
昨日は何組かの貴族関係者から問い合わせがあったから、更に利用者が増えるかもなあと思い、結界を広げてテーブルや椅子を増やしたよ。
8時近くになり、ビョークギルマス他、冒険者ギルドの数人が集まり門を開けると、5人位の人が入って来た。
雨避けマントを目深に被っていたけれど、訓練場に降っていないと気付くと皆不思議そうに空を見上げている。
その中にガグルルさんがいたので手を振った。
「ガウユユしゃん!」
「おう!嬢ちゃん!」
1人でテテテ…と走って、る、つもりでヨチヨチと歩いて行くと、頭を撫でてくれる。
「昨日は仲間が買っておいてくれて唐揚げ?とやらをいただいたぞ。凄く美味かった!熱いうち食って、エールを飲めなかったのが残念だがな」
ガグルルさんが残念そうな表情を作って首を横に振る。
厳ついけれどその仕草が可愛らしくて思わず笑うと、ガグルルさんもニコニコした。
「あ、こいつらは俺の仲間じゃよ」
「おはよ、ごじゃいましゅ」
「おはよう」
「おはよう。昨日は美味かったぜ!今日も楽しみだ」
訓練場にやって来たのは全員ガグルルさんの仲間だった。
「エーユ、あゆ、飲んで?」
「おう!今日と明日は休みをもぎ取ってきたからな。楽しむぞ!」
「あちた、甘いものよ」
「お、そうか。俺は甘いものもイケる口じゃ。問題ない」
「あい!たのちみ、ちて?」
「おう!今日も明日も楽しみだ!それにしても……これは嬢ちゃんか?」
空を指差す。
「うん、しょうよ」
「相変わらず凄い結界じゃな。でも、濡れる覚悟だったからありがたい」
ガヤガヤ…
しばらくすると、門の辺りがにわかに騒がしくなる。
そして突然静まり返り、ギルド関係者が並んで跪いた。
「ん?何だ?」
「わたなない。戻ゆ」
「おう、またな!」
わからないから戻るねと伝え、ガグルルさんとお別れした。
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