第112話 看板のかわり。…コレ知ってる?

 教皇様がサッと立ち上がったので、椅子とテーブルを仕舞って結界を解く。教皇様のお付きさん(?)と護衛の人が少し慌てていた。

 それを制して会場側に向かい、この場にいる人々に話がしたいとフィガロギルマスに声をかける。



「皆様!教皇猊下よりお話がございます!」


 フィガロギルマスは教皇様に場を譲り、拡声器をその口元に添えた。


「楽しんでいるところ申し訳がない。天啓を受けたので皆に伝えよう。しっかりと聞くように」


 会場や周辺の誰一人声を出さず、シュレおじいちゃんの言葉に耳を傾けている。


「神々は、皆の無事をお喜びになっている。そして、無事を祝う祭りのあいだ悪事を許さず、良からぬことを行う者には天罰を下すと申された。皆、良き行いを心がけよ。神は我らをご覧になっている」


 シーンと静まる会場と周辺。


「無論、普通に過ごしていれば問題はないので安心して欲しい。天罰が下るのは悪しき者。皆、穏やかに、時には謳歌し、祭りを楽しもうではないか」



 わああぁぁー!



 会場のボルテージが一気に上がる。



 ん?

 結局、抽選会と屋台限定ではなく、祭り中の犯罪が対象になったかな?

 まあ、その方が良いかな?うん、やりましょう!



 範囲はミールナイト第1門から内側全部。

 期間はお祭りの間。

 悪意ある行動、犯罪行為、割り込み、転売目的の買い占め等を行う者は【天罰!ラヴラヴズッキュン】!



 バリバリバリッ

 ピシャーーーン!



 派手に雷が落ちて、そこここでラヴラヴズッキュンが発動。


「えっ!もう?」

「ああ。スリとか割り込みとかそんな奴等だろう」



「おい!指名手配中の"オヤジサン"だぞ!」

「捕まえろ!」


 何やらずっと捕らえることが出来なかった天才スリ師、通り名"オヤジサン"が捕まったらしい。




「おい、兄貴を笑うな!どうしちゃったんだよ、兄貴!また笑ったな!このヤロ……ああん、バカバカッ!ワタシったら、おバカさん☆」


 笑った人に腹を立て、殴ろうとして発動したらしい。

 その様子を目の当たりにした教皇様や領主様、両ギルマスが「ンッフッ」と笑いを堪えている。


 うーん。祭りが終わった後、笑った人に逆恨みしそうだな。


 念の為追加。

 今この場にいる者で、お祭りが終わった後も悪意ある行動、犯罪行為を行なう者は、一生涯【天罰!ラヴラヴズッキュン】発動!



 バリバリバリッ

 ピシャーーーン!



 またしても雷が落ちて人々が動揺する。


 教皇様が私を見てパチンとウィンク。

 フィガロギルマスが慌てて拡声器を用意した。



「皆静まれ!天啓を伝えたのにも関わらず、直後に天罰が下され神はお嘆きである。どうやら新たなる天罰が下されたようだがわたくしにも内容はわからぬ。今、天罰が下り動けぬ者達は悔い改めよ!」



 皆から大きな拍手が起こった。

 神は我らを見守ってくださっている!

 ああ、ウルトラウス様!


 ウル様の人気うなぎのぼりである。

 良かった、良かった。



「皆様!天の神々も我らの無事を祝い、そして奇跡も起こされました!さあ、この祭りを楽しみましょう!金賞は出ましたが、その他は景品がまだまだございます!抽選会、再開しまーーす!」



 ウヲヲーーーーー!!!



 フィガロギルマスの言葉に皆さんが盛り上がり、抽選会が再開された。

 金賞は出ちゃったけれどまだお肉とかたくさんあるし、抽選会を楽しんでね!


 この後、時折「ラヴラヴズッキュン♪」が発動するくらいで大きな問題も起こらず、皆さんが引いた玉に一喜一憂しているのを眺めつつ、楽しい時間は過ぎていった。


 抽選会は大成功で良いよね?うん!






「いやあ、楽しかったねぇ」


 リンダお姉さんがほろ酔いでニコニコと笑っていた。


「リンダ、彼氏出来た」

「おお!」



 【虹の翼】邸で、軽く抽選会成功のお祝いをしていた。

 抽選会の女神として立っていたお姉さん達は男性陣の注目を集め、めちゃくちゃ声をかけられたらしい。

 その中に、リンダお姉さんが片思いしていた巨人族の、あの!エルガさんがいて、2人はお付き合いをすることになったんだって。


 ローザお姉さんによると、リンダお姉さんとエルガさんはパーティーは違えど元から仲が良く、冒険者として切磋琢磨していたらしい。

 周りが気付くくらい想い合っているのに、なかなか先に進まない焦れったい状態だったみたい。


 男性から声をかけられる美しいリンダお姉さんの姿を見て、エルガさん頑張ったんだね!


「おめっと!」

「幸せそうな顔しちゃって!このこの!」


 私がお祝いを言うと照れて赤くなるリンダお姉さん。

 恋する乙女は綺麗だね!


 すかさずミイお義姉さんがニヤニヤしながら肘で小突いてたよ。

 リンダお姉さんパパは複雑そうだけれど。



 恋かあ。

 今は恋より異世界周遊かな?色んな所に行ってみたいし、見てみたいし、体験してみたい。

 せっかく丈夫な体を得たんだし、沢山楽しむぞ!おー!






 お祭り2日めです。

 屋台開始時間が11時だけれど、6時に冒険者ギルドへ行って訓練場に入れてもらった。


 本当は屋台の準備を前もってしたかったけれど、冒険者ギルドが日程ギリギリまで訓練場を使うため、屋台の当日設置をお願いされたんだ。



 屋台設置予定地に帆布シートを敷く。そのシート上に縦長の長方形に結界を張った。

 結界には入ったと同時に清浄。防塵・防砂を付与。

 悪意ある者、迷惑行為を行う者、犯罪目的、転売目的の買い占めを目的とする者は結界に入れないも付与した。



「清浄目当てで列に並ぶ、の排除はしないのか?」

「うん。いいの。皆、ちえいに、なゆ。ちもち良い、知ゆ」

「清潔に過ごすことの良さに気づいてもらいたいんですね?」

「うん」

「俺達は我が姫の思う通りで問題ないよ」

「あにあと」



 次に門から見て奥側に屋台を置く。

 屋台というよりはどちらかというと大き目の小屋っぽいかな?そしてちょっと小洒落た西洋風。

 いや、異世界で西洋風って言うのもナンですが……。


 屋台には関係者以外立ち入り禁止の結界。作業台は防熱・防火の結界。


「広くて動きやすそうですね」

「反対側でも作業が出来るのがいいね」

「ここが販売する窓口か。出来上がったものをここに置くんだな」

「うん」



 次は看板(?)。

 横長の帆布で垂れ幕を作るよ。

 垂れ幕には『帆布シートに足を踏み入れると清浄される』と『悪意ある者は桜吹雪エリアに入れない』等の文字を入れた。


 ラヴラヴズッキュンがあるから犯罪行為は少ないだろうけれど、念の為書いておいたよ。


 垂れ幕の両側に風船|(もどき)を結び、[浮遊]で結界内に浮かせる。

 イメージはアドバルーン。風船は無くても良いんだけれど、目に付くようにしたいからね。


「こりゃまた、派手で目立つな」

「文字が読めない人の子はどうします?」

「しょうだった」


 もう1つ垂れ幕を作って、文字用の下側に取り付ける。

 そこにピクトグラムもどきで、人型をキラキラさせたり(清浄)、割り込みしようとしている人型に☓(割込み禁止)等を表示した。


「わかりやすい表示だね?」


 レーヴァからも良しをもらったし、こんなもんかな。



 あとは出す料理によって器具や材料を変えるだけ。


「高温用、低温用各2台が唐揚げ用で、後の2台がフライドポテト用ですね?」

「うん」


 作業台にフライヤー6台設置。大きめの網付きバット、食品用スコップ、蓋付きでワックスペーパーを敷いたお弁当用竹籠(大・中・小、桜吹雪ロゴ付き)、木製フォーク(桜吹雪ロゴ付き)、木製飲み物用カップ(桜吹雪ロゴ付き)、商用の大きなコインケース等を用意。

 あと、間に合わなくなった時のため、既に竹籠に入れた出来立ての唐揚げとポテトフライ各種セット(ケチャマヨチーズ付き)を作ってある。

 当然鳳蝶丸達のマジックバッグにも大量に入れてあるよ!



 その後は、遊園地とかで並ぶ時に使われている様なチェーンポールを置き、結界を張っておく。地面に打ち込むのは面倒だし、ポールが倒れて怪我人が出るといけないから、もう結界でいいや。



 うん。大体準備出来たかな?




 やがて職員さん達がやって来て、冒険者ギルド用の屋台の準備を始める。


「おはようございますぅ。わあ!可愛い屋台ですね!」

「おはよ、ごじゃいましゅ。あにあと」


 ピピお姉さんが挨拶に来てくれた。


「テーブルや椅子、トイレはどこに設置する?」

「はい。この度は貸し出しにご協力くださりありがとうございます。トイレはあちらとあちらに設置いただけますか?テーブルと椅子は出していただければ、職員で配置いたします」

「あい。わかた」


 この場所を無償で貸してもらうので、トイレテントなどを無償で貸し出すことにしたんだ。鳳蝶丸が設置場所を確認してくれたので色々設置していくよ!



 まずは調査隊の時に使った6人掛けテーブルや椅子を複数出す。あと、ごみ箱と食器返却箱それぞれ5個。


 実は今回、テーブルを魔道具化してある。天板裏にデスクヒーターみたいな薄型パネルを貼り付けたのだ。

 素材はキングの魔石。君の素材はめっちゃ役に立っているよ、キング!

 念のため、足に直接当たって火傷しないように植毛加工してあるパネルヒーター用ガードもつけ、更に結界4を張って熱だけ通すにしておいた。



 冒険者らしき少年少女達がやって来て、テーブルと椅子、ごみ箱等を並べ始める。

 彼らは冒険者になったばかりの一番低いクラスで、冒険者ギルドで依頼を出した[祭りの手伝い]に参加した子達。ポイントにもなるし、お小遣い稼ぎにもなるらしい。


 テーブルを持っていこうとする人がいるかもしれないと鳳蝶丸達に言われたので、設置後に地中まで結界で囲みテーブルのみ通り抜け禁止にした。

 これで大丈夫かな?


 一応座ってみたら、テーブルの下がポカポカ暖かくて気持ちよい。

 寒空の下で飲食をするのは辛いし、これでゆっくり食事が出来るんじゃないかな?



 あとは男性用・女性用のトイレを2つずつ出すと、少年少女達がペグ打ちをしてくれた。



「こんなもんでいいか?」

「こっちも貼り終わったよ」

「こちらも終了です」


 トイレの使い方看板を作ったので、個室の中や手を清浄する場所に貼ったり立てかけたりしておく。

 これでいいかな?



 あとはピピお姉さんにお任せして、私達の屋台に戻る。

 このまま帰るのも中途半端なので、屋台の中に人ダメソファを出し、朝食のおにぎりと味噌汁、だし巻き玉子を食べた。



 さて、時間まで間があるからちょっとだけ寝るね!

 おやすみなさい。

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