第111話 金賞は危険の香り…そうはさせないけれどね!
その後抽選会は問題もなく、景品の受け渡しもスムーズに進んだ。
もうすぐ17時という頃、突然「うわーん!」と言う子供の泣き声がしてビックリする。
周りの大人達も固まり、声のした方向を見ていた。
「ミシュチユ、行って?」
「わかりました」
抽選所に行ってみると、2、3歳の子を抱っこした10歳位の男の子が、ポカンとした表情で立ち尽くしていた。
目の前の受け皿には金の玉が1つ。
おお!当たったんだ!
「おめっと」
パチパチパチ
手を叩くと、周りも拍手した。
「俺、おばあちゃん先生が病気だから
男の子はブルブルと震えている。
聞けば孤児院の子で、面倒を見てくれている先生が病気、良くしてくれる近所のおじいさんが怪我をしているから、金賞を取って治したいと願ったんだって。
優しいね。
このまま静かにポーションを渡し、少ししてから金賞が出たと発表しようと思ったんだけれど、目撃した人が騒ぎ出してしまう。
「金が出たぞ!」
「当てたのは子供だ!」
「誰だ!誰が当てた!」
「俺に売ってくれ!」
このままだとこの子達が危険だと言うことで、金賞が出たとあえて発表し、こちらの都合で後日届けると告げておく。
そして、ビョークギルマスが同じ孤児院出身の冒険者達に家まで送るよう手配してくれた。
何かトラブルがあった時の為にミスティル、レーヴァのマジックバッグには景品をひと通り入れてある。
だから少しの間この場を2人に任せ、鳳蝶丸と孤児院の少年達に同行することにした。
「行って、ちましゅ。よよちくね」
「了解。姫、気をつけてね」
「あいっ」
「例の件、各ギルド長に伝えてくれ」
「わかりました」
念の為結界を張り地図を展開すると、黄色点や赤点が子供達を尾行しようとしているのがわかったので、皆さんにちょっと待っていてもらい魔法創造する。
周辺の景気と同化させ、結界内が見えなくなる【隠匿】
探索、気配察知を遮断する【気配遮断】
私達は自分のスキル【気配完全遮断】があるけれど、結界には付与出来ないから作ったよ。
少しだけ移動しながら人混みに紛れ、今作った魔法と声漏れ防止の結界で私達を囲う。途端に地図の黄色点、赤点が散り散りになり始めた。多分少年達を探しているんだろう。
「声、出しゅ、だいじょぶ」
「これは…どうなっている?」
付き添いの冒険者達がキョロキョロと周りを見回した。
「俺達を結界で囲っている。周りから気付かれないようしてあるから、今のうち移動するぞ」
「ああ、わかった。歩けるか?」
「うん」
お兄ちゃんの方は歩き、小さい子は冒険者の1人が抱え早足で移動した。
「孤児院と言ったな?悪意ある者が入れないよう敷地を結界で囲う。今日は誰も出歩かないようにしてくれ。明日には外に出歩けるようにするから、保護者に伝えてくれ」
「わかった。結界の件と本日の外出禁止は俺から伝える。それと今日、明日は子供達に付き添うよ」
「明日には出かけられるのか?」
「大丈夫だ」
「…わかった。ありがとう」
暫く歩くと小さな教会が見えてくる。その中に孤児院も併設されているらしい。
私は敷地全部に結界を張り、悪意ある者や悪意を持ってなされる行為を弾くを付与した。
「これで施設内は安全だ」
「ありがたいが………費用は?」
「今回、いなない」
「ん?」
「今回はいらんと言うことだ」
この国の騎士が冒険者からお酒を盗った時も感じたけれど、この世界には理不尽なことが沢山あるし、完全な安全などどこにもない。
【虹の翼】のお姉さん達やフィガロギルマスと色々話し合った時、こうなる予想も出来ていたけれど、でも、私は抽選会の開催を後悔していないよ。
烏滸がましいとは思うけれど、私のやることがこの世界の発展のキッカケになればいいなぁって思うし、これからも色々やるつもり。
あ!もちろん環境破壊の無いよう出来るだけ配慮したいと思っているよ。
ただ、抽選会の発起人としては、弱い立場の人が危険に晒されるならば手助けしなくちゃって決めていたんだ。
今回は費用無しで結界を張るよ!
「念の為言っておくが、これは抽選会当選者への特別な処置だ。簡単に手助けしてもらえると思わんでくれ」
「ああ、わかっている」
「でも、手助けしてくれてありがとう」
「どういたち、まちて」
自分達の結界を解くと、突然人が現れたことに驚いたシスター達がやって来た。
説明は冒険者達に任せ、私達は帰ることにする。
「こえ、金ちょ、おめっと」
「!ありがとう!!」
お兄ちゃんの方に金賞の景品を差し出すと、お礼を言って大事そうに抱える。
そして子供達に見送られながら会場へと戻ったのだった。
「おかえり」
「おかえりなさい」
「ただいま!」
金賞が出たからか、会場はまだ混乱中だった。
抽選会を一旦停止にして、小さな木のカップに入れた暖かい紅茶と、バターと苺ジャムのロールサンドを待っている人々に配ってもらう。
小休止が良かったのか、皆さんホッとして落ち着いてきたみたい。
「例の件、伝えておきましたよ」
「うん、あにあと」
例の件と言うのは【天罰!ラヴラヴズッキュン】発動のこと。
私達の間で、トラブルがあったら抽選会中でも発動しようと話し合っていた。
もちろん両ギルマスには事前に詳細を連絡済。両ギルマスは各機関に連絡しておいてくれた。
だから、ミスティルから両ギルマスに「今から発動しちゃうよ?」と言うことを知らせてもらったのだ。
さて、発動しちゃおうかな?って思っていると、領主さん、市長さんと一緒に、教皇様とお付きらしき人達、護衛の騎士がやって来た。
先程の綺羅びやかな衣装ではないけれど、オフホワイトのローブに身を包んでいるし綺麗な格好だから割りと目立つ。
何事かと注目する会場の人達。
そりゃそうだよね。だって領主様と教皇様だもんね。
真っ直ぐ私達に向かってきたので景品の飾り棚の裏に隠れ、音漏れ防止の結界を張り、ミスティルとレーヴァが結界の外で待機した。
教皇様が跪こうとしたのでミスティルが手で制す。
「悪意なければ我が主の近くへ」
「!………ありがとう存じます。御前を失礼いたします」
結界前で一瞬足を止め、お付きや護衛の人に何か指示を出し、ゆっくりと1人で結界に入ってきた。
レーヴァとミスティルも中に入るとすぐ結界に隠匿と気配遮断の付与を追加する。
だって、景品棚の影と言っても反対側からは丸見えだからね。
教皇様は薄っすらと涙を浮かべ、跪いて頭を垂れる。
「お初にお目にかかります。
「初めまちて、ウユしゃまの神子、ゆちでしゅ」
「
お祈りポーズで震えながら大粒の涙を流す。
私、そんなに大層な人物では無いので申し訳ないです。
「立って、くだしゃい」
「お嬢は畏まったことがあまり得意じゃないんだ。立ってくれ」
「……はい。では、御前を失礼いたします」
教皇様が立ち上がったので、テーブルと椅子を出す。
レーヴァには、フィガロギルマスに抽選会の続きを始めてもらうよう伝えて欲しいとお願いした。
「どうじょ」
「ありがとう存じます」
教皇様がゆっくりと椅子に座ったので、私も前の席に座らせてもらう。
後ろには鳳蝶丸とミスティルが控えていた。
「会いにちて、くえて、あにあと」
「とんでもございません。こちらこそ突然の訪問、大変失礼いたしました。天啓を受け、いても立ってもいられずやって参りました」
「てんけ?」
「はい。ウルトラウス様の御使い様がご降臨されたので力になるようにと」
すると、私の横にシュッとウル様ラインが表示される。
『ウンウン(スタンプ)』
『本当のことじゃよ』
「お〜ぅ!」
「御使い様?」
「少し待て」
「は、はい」
私が斜め横を見て驚いているから、教皇様が不思議そうな顔をした。
鳳蝶丸が制してくれたので、ラインに集中する。
『その者は信じるに値する者』
『面倒なことは押し付…』
『頼み事をすると良い』
『テヘッ☆(スタンプ)』
ウル様ってば。
『例えば【天罰!ラヴラヴズッキュン】を下すと』
『神から天啓を受けた、と』
『民衆に言ってもらうとかの』
『なるほど、なるほど』
『とても助かります』
『良き良き(スタンプ)』
『ではの』
『バイバイ(スタンプ)』
『ウル様、ありがとうございました』
うん。
とてもありがたい。
利用して申し訳ないけれど、とてもありがたい。
「神しゃま、伝言、ちた」
「おおぉ」
またしてもウルウルする教皇様。
「ちょうちょう……シュエしゃん、良い?」
「教皇と言いにくいのでシュレさんで良いか?と言っています」
「はい!シュレでもおじいちゃんでもジジでも、お好きなように呼んでくだされ」
うーん。じゃあ、
「シュエおじーたん?」
「ハウアッ!」
教皇様が胸を押さえて顔を真っ赤にした。
「シュエおじーたん、お願い、ちていい?」
「ええ、ええ、ジジに出来ることなら何でもいくらでもっ」
地図の青点キラキラが更に増している。
だ、大丈夫かな?
「こえかや、てんばちゅ、しゅゆ。シュエおじーたん、てんけ、受けた、言ってくえゆ?」
「これから天罰を下すが、旦那が天啓を受けたと言うことにして、民衆に伝えてくれるか?」
「はい。もちろんでございます。御使い様のお言葉なれば、天啓と同等にございます。さすれば
ゆっくりと頷き、ニコリと笑う。
「このジジにお任せあれ」
「よよちく、おねだい、しましゅ」
と、言うことで、鳳蝶丸からシュレおじいちゃんにどんな内容の天罰なのか説明してもらうのだった。
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