第110話 はあ、眼福、眼福
商業ギルドに近付く度に人が増えていく。
平民っぽい人、貴族の使いっぽい人、子供達。老若男女問わずめちゃめちゃ人が集まっていた。
商業ギルドや冒険者の人達が列の整理をしつつ、並んでくれるようお願いする。
「まだなの?!」と怒っている女性がいたので、ミスティル抱っこに切り替えてレーヴァを派遣した。
「待たせてごめんね?お嬢さん方。でも、順番に並んで待ってくれると嬉しいな」
バチコーン☆
レーヴァのウィンクは効果てきめん!
「だ、大丈夫よっ私達ずっと並んでいるわ」
「え、ええ。もちろん順番まで待っていますとも」
「そう?嬉しいな。君達に運が巡ってくることを祈っているね」(ニコッ)
キャー!
レーヴァさん、流石です。
女性達の歓声を聞きながら感じるイケメンの底力。
「姐さん達は我慢できて、兄さん達が我慢出来ないんじゃあ、格好つかないぜ?ここはひとつ、キッチリ順番を待って、男を上げたらどうだ?」
順番を待つと男が上がるかはわからないけれど、荒くれ男性達は何故か納得して列に並び始める。
鳳蝶丸は漢だねぇ。
「あ、あ、あ、あの。列の最後尾は、あの、どこでしょう?」
「…………フウ……。あちらで聞いてください」
「ああっ、いいっ!僕を冷たく射るその視線、たまらないっ!」
商業ギルド職員さんに聞けと素っ気なく対応するミスティルに、何故か喜び悶える男性。
「見てはいけません」
ミスティルが私をしっかり抱いてサッサと歩き出した。
ミスティル超絶美人だもんね。
商業ギルド横の広場に行くと、物凄い活気に溢れていた。
中には小さな赤ちゃんを抱いて、一家総出で来ているらしい家族もいる。
「よっしゃー!抽選券手に入れたぞ!」
「何だよ、くっそー!もう一度並ぶぞ!」
「いよっし!ポーション当てるぞ!」
「お肉!私はお肉が欲しいわ!」
あちこちから抽選券を手に入れて喜ぶ声、外れてガッカリする声などが聞こえる。白いピンポン玉に当たり散らし地面に投げつけ、弾んで顔面ヒットしている人もいた。
私達は会場組と合流、抽選券獲得クジ会場をあとにして広場へ向かう。
会場にはすでに机が並んでいた。
机の後ろが広く空いているのは、景品の一部を飾るため。
そこに予め作っておいた、ひな壇や、抽選器の回し方&景品の看板(抽選券獲得クジ広場と同じもの)を置いた。
倒れないように、それとイタズラ出来ないようにするため、それぞれに結界を張る。
結界には私と鳳蝶丸達しか入れないようにした。
ひな壇には景品のレプリカを置く。
お肉やクッキー、パウンドケーキを再構成で木製にする簡単なお仕事です!
おバカな発言してごめんなさい。
ポーション2本は硝子瓶のみを、ひな壇ド真ん中の一番高い位置に置く。
あとは下にそれぞれの景品と色玉の絵を、レーヴァセンスで置いてもらった。
デパートの展示品みたい。綺麗に並んだよ♪
ラヴァマヒェーリとアラリアの靴は木製にしても性能が消えなかったので、諦めて本物(複写)を飾っている。ラヴァマヒェーリなんて、木製のまま魔力を通したらボゥッ!と燃えて即炭と化したの!
危ない、危ない。
景品用のお肉やパウンドケーキなどは日持ちしないので、配り方をどうするのか色々と意見を出し合った。そして辿り着いたのは……。
それぞれに合った大きさの箱を作り、な、な、なんと!その箱を開ける瞬間まで時間停止のマジカルラブリンです!
ウル様に確認して、開けた瞬間時間停止が終了するならば利用しても良いぞと許可をもらいました。
箱には『ナマモノなので早めにお召し上がりください』と書いてあるし、【虹の翼】のお姉さん達とエレオノールさんには、消え物を渡す時早めにお召し上がりくださいと伝えてもらうようお願いした。
あと、飴玉を渡す時はゆっくり舐め溶かし飲み込まないでと書き、口頭でも伝えてもらうよう手配してある。
うん、こんなモンかな?
私達が支度をしていると、どんどん集まってくる人々。
何も知らない旅人や別の町からお祭りに来た人々が、これは何?と聞いてくるため、商業ギルド職員さん達が抽選券取得クジの案内をしていた。
あわてて走り出す人達の勢いが凄い。赤いピンポン玉が出るといいね。
午後になると、抽選券を持った人々がチラホラやって来る。
15時近くなると、長蛇の列になっていた。
「これで大丈夫?」
「少し短いような気がいたしますわ」
ローザお姉さんとエクレールお姉さんが制服を気にしながら歩いてきた。
そう、【虹の翼】の皆さんに制服を着てもらったのです!
美人&可愛いお姉さん達の制服、見てみたいでしょ?
落ち着いた青をベースにカチッとしたデザインのトップス。
あとはタイトスカートやプリーツスカート、フレアスカート、ミニのキュロット、パンツスタイルと同じ生地の違うデザイン。
「ちょっと恥ずかしいね」
「でも可愛いよ、これ。動きやすいし」
「回るとヒラヒラする」
リンダお姉さん、レーネお姉さん、ミムミムお姉さんも超格好良くて、そして可愛かった。
はあ、眼福、眼福。
追加した抽選器はエレオノールさんが担当する。
1ヶ月前から貸出テントでお肌と髪のお手入れをしたのはちょっぴりヒミツ。
エレオノールさんも【虹の翼】のお姉さん達に負けないほど磨き上げ、美しくなりました。
ちなみに制服はタイトスカートです。
「あーあーあー。ウ、ウン。長らくお待たせいたしました。商業ギルド長フィガロでございます。この度は抽選会にご参加くださりありがとうございます!」
フィガロギルマスが拡声器で話し出す。
声が後ろまで聞こえる!と皆さんが驚いていた。
「今回はスタンピード終息記念として商業ギルド・ミールナイト支部およびサクラフブキ主催で特別な催し物を行うことになりました。商業ギルド・エンタル支部および冒険者ギルド・ミールナイト支部の皆様にもご協力いただきました!」
拍手喝采の他、挨拶はいいから早くやってくれー!何て声も聞こえる。
「それではお待たせいたししました!抽選会の女神達の入場です!」
美しさ増し増しの【虹の翼】のお姉さん達とエレオノールさんが静々と登場!
それぞれが抽選器の前に立ち、後ろに助手として商業ギルド職員さんが配置につく。
美しいお姉さん達の制服姿にどよめきが起こった。
わかるよ。
皆さん綺麗だよね!
「それでは、祝!抽選会、開催します!」
わー!!
ウオオー!!!
抽選会開始です!
黒だーーー!
うちの子がやったわ!緑よ!!!肉と蜂蜜!
パウンドケーキって何だ?えっ菓子?うをを!高級品!
あちこちから喜びの声や、落胆の声が聞こえる。
でも皆笑顔で楽しそうだった。
展示品近くに座っていた私のところに、フィガロギルマスがやって来る。
「ゆき様、ありがとうございます。皆楽しそうだし、黒玉でも甘いモノとわかった途端に喜んでおりましたよ」
「よたったぁ」
するとビョークギルマスもやって来た。
「ゆき殿ありがとう。ウチの手伝いにまで券を配ってもらい、感謝する」
「ビョーク、ギユマシュ、抽しぇん、ちた?」
「まだだが、もう少し人が途切れたら引かせてもらう」
「ちなみに、私とビョーク殿はちゃんと獲得クジを引いたんですよ?」
「赤玉が出た時嬉しかったしワクワクした。こういう催し物は楽しいんだな」
そうだよ、ワクワクするんだよ!
「え?!銀賞?でも私、冒険者じゃないからどうしよう?」
抽選会場から女性の声が聞こえた。
ビョークギルマスがすぐに反応する。
「良かったら冒険者ギルドで買い取ろう」
「え?良いの?」
「もちろんだ。後で………………」
「ここにある宝を全て献上せよ!」
突然甲高い声が聞こえた。
声の主は、趣味の悪いやたら綺羅びやかな服を着た男性。
その周りに近衛兵のような男達がおり、皆が並んでいるところを乱暴に掻き分けズンズンと進んで来た。
「チッ厄介なのが来たぞ。お嬢さん、これを持って後日冒険者ギルドに来てくれ。窓口でギルド長かリインを呼び出せばわかるようにしておく」
「は、はいっ!」
冒険者ギルドの客人カードを女性に素早く手渡し、女性は焦ったように走り去った。
「あえ、何?」
「あいつは王太子殿下の一派で侯爵家の嫡子だ」
お年寄りや子供もいるのに乱暴にして何なの!
「ゆき殿、アレ等は厄介だ………」
「それが何だ」
「主が楽しみにしていた催しの場を、乱す者は許しません」
「姫、どうする?俺達は派手に暴れてもいいよ?」
「暴えちゃ、ダメ」
怪我人出ちゃうよ!
取り敢えずあの辺りに向かおうとしたその時、男性の声が響いた。
「止めよ!」
それほど大声ではないのに皆の耳に響き渡るような凛とした声色だった。
「そなたは侯爵家の長男坊だな。民に迷惑をかけてはいかんよ」
やって来たのは白い集団だった。
話をしているおじいさんは、白に銀糸の刺繍が美しい長いローブを着て、ミトラのような冠を被っている。
その横や後ろにはカロッタを被った同じような集団。何だかテレビで観たことある。
鎧をまとった騎士は、神殿騎士団とかかな?
「チヤチヤ、ちてゆ」
「教会の連中か?」
「教皇ってところでしょう」
「白なのに派手だね」
鳳蝶丸達が肩をすくめた。
侯爵の人は教皇(仮)様を目の当たりにして戸惑っている。
何で?と聞いたら、フェリアでは、実質的に王族より教会トップの方が力が強いので、侯爵家と言えど逆らうことは難しいんだって。
「……………」
「どうした?さあ、引きなされ」
侯爵の嫡子君がスゴスゴと撤退してゆく。
それを見届けたあと、神殿騎士達は倒されたり暴力的に扱われた人々を助け起こしていった。
「怪我をした方はおるかな?治療をするので遠慮なく申し出てくだされ」
教皇(仮)様の周りにいた人達が怪我人を治し、場が何とか収まる。
「邪魔をしてすまぬの?さあ続きを。皆に幸運があらんことを」
すると、シーンとしていた皆さんが、感激で涙を流しながら口々に礼を述べ出した。
「しゅごい」
「主の方が凄いんですよ?」
「あれは場数を踏んだ爺さんだからな」
「人の子らは面倒臭いね」
地図を見ると、白い集団が青くキラッキラ光っている。
敵ではなく味方なのかな?
教皇(仮)様が抽選会の再開をするようフィガロギルマスに促した。
すると、抽選会会場が何事も無かったように、再び活気と笑顔が戻る。
はあ、一安心。
教皇(仮)様は私の方に顔を向け、小さく頭を下げてから去って行った。
「あの方は、ウルトラウス神を信仰する教会のトップ、クラレツィア教皇。我が国……いや、フェリローラル公国の総本山にいらっしゃるんだ」
「しょうなの」
「おそらくゆき殿に会いにいらしたのだろう」
「しょうかも」
ビョークギルマスが少し興奮していた。
私も青点キラッキラ集団だから多分教会関係の人かな?って思った。
でもまあ、今は抽選会の方が大事かな。
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