第108話 ん?何で知っているの?

「ゆきさんにお願いがあるの」

「あい、なあに?」


 ミムミムママから声をかけられた。


「私達もゆきさんのを参考にして、唐揚げを作っていいかしら?」

「あい、いいよ!」


 早速作ってくれる人が現れた!


「でも、あの量の油、ちょっと難しくない?」

「そうねぇ…」

「そしたや、焼く、しゅゆ」

「やくする?」


 ミスティルの手に[油で焼き上げる]と書く。


「油で焼き上げるんだそうですよ」



 作業台にコンロとフライパン、包丁、まな板、清潔なふきん、油を出す。

 そしてすでに漬けてあるクルコッコのお肉をまな板に載せた。


「半分、ちゆ。しゅいぶん、取ゆ」


 包丁を指して切る真似をする。

 リンダママが半分に切って、清潔なふきんで軽く水分を取り、バットで粉をまぶす。


 その間に、レーヴァにフライパンに大さじ3杯ほどの油を入れてもらい熱しておく。


 あとは踏み台に乗ったミムミムママにお願いしよう。

 粉をまぶしたクルコッコをフライパンに投入し、弱火で色がつくまで半面焼きする。

 裏面に返したら蓋をして蒸し焼き。

 肉に火が通ったら火力を強め、余分な脂を拭き取りながら、衣がきつね色でカリッとするまで焼き上げる。


「かやあげ、ちょとちあう。でも、おいちい」

「どれどれ?」


 皆で試食する。


「美味しいわ!」

「これなら油を多く使わなくても良いわね」

「お家、帰ったや、ちゅくって」

「ありがとうございます!」


 ご家族皆さんが喜んでいた。良かった、良かった。


「いいの?ゆきちゃんの秘匿技術じゃない?」

「ううん、皆に、ひよめて、いいよ」

「ありがと!」


 リンダお姉さんもミムミムお姉さんも喜んでくれた。



 するとアスナロリットさんが、自分も唐揚げやクレープなどをヒントに研究して、お店に出したいと言うのでもちろんOKしたよ。

 ただし、お店に出すのはお祭りが終わってからね、とお願いしておく。

 承知しております。誓っていたしませんとアスナロリットさんが約束してくれた。




 皆さんがもう少し練習したいと言うのでお姉さん達に許可を取って、【虹の翼】邸の厨にフライヤーとクレープ焼き機、たこ焼き機を置いた。

 魔道具化した冷蔵庫も置いてもらい、食材を入れておく。

 冷蔵庫はマジックバッグ化はせず[共有]だけしたので、頃合いを見て食材の補充をするよ。



 自由に練習してね!






「こんにちは、ビョークギユマシュ、いましゅか?」


 私は今、冒険者ギルドに来ている。

 昨日までは屋台に出す食べ物の練習をしていたので来られなかったから、やっと今日来られたよ。


「こんにちは。アポイントはありますか?」

「無いでしゅ。ピピしゃん、リインしゃん、良いでしゅ。おねだい、しましゅ」

「少々お待ちください」


 受付のお兄さんにお願いすると、すぐにピピさんがやって来た。



「お待たせしました!お久しぶりですぅ」

「ピピおねしゃん、こんにちは」

「ビョークギルド長にお取次ぎいたします。こちらへどうぞ」



 応接間に通された。

 ピピお姉さんにお茶を出してもらって飲んでいると、ビョークギルマスがやって来る。


「久しぶりだな。元気だったか?」

「うん!ビョーク、ギユマシュ、元気?」

「まあまあ元気だ。今日はどうした?」

「あのね、あたやしい、かじょく。イェーバよ」


 まずはレーヴァの紹介です。


「おう、俺は冒険者ギルド・ミールナイト支部及び死の森ダンジョン支部のギルド長、ビョークだ。よろしく頼む」

「俺はレーヴァ。よろしく」

「念の為聞くが、伝説の武器か?」

「そうなるね」

「そうか………」


 ビョークギルマスが目頭を抑えてため息をついた。


「だいじょぶ?」

「ああ、悪い。ここのところ、色々あってな。なかなか疲れがとれん。もう歳だな」


 わかる、うん。

 前日の疲れが取れないんだよね?


 私はそっとレインボーアコヤのバター醤油焼き(焼き立て)を無限収納から出した。


「ゆき殿は本当に気が利くな。ありがとう。食ってもいいか?」

「どうじょ」


 バーベキューの時はあんなに抵抗したのに、美味しそうに咀嚼している。

 慣れって凄いね?



 コンコン



「失礼します」


 リインさんがお金を持ってやって来た。

 トイレの貸出料金だって。すっかり忘れてた!


 私も【虹の翼】のお姉さん達とご飯を食べたお礼を伝える。

 ビョークギルマスが行けなくてすまなかったなと言って、クスリと笑った。


「あと、これは水虫代・・・だ。ローザリアとエクレール合わせて3人分ある。納めてくれ」


 麻袋の中を見ると、大金貨が6枚入っていた。

 大金貨?ん?



 2百万エン!3人分?!



「いなない、言った」


 私が袋を押し返そうとすると、ビョークギルマスが首を横に振る。


「俺達にとってこれでも全く足りないくらいの価値ある治癒だ。どうか受け取ってくれ」

「ギユマシュ………あにあと。受け取ゆ、しゅゆ」


 金額は以前他の人に施す治癒代として決めた金額。

 今回は受け取って、いつかこの世界の何かに役立てよう。


 私が無限収納にお金を仕舞うと、ビョークギルマスが満足そうに頷いた。




「おまちゅい、ギユド、しちち、あにあと」

「祭りの期間、冒険者ギルドの敷地を貸してくれて感謝する、とお嬢が言っている」

「ああ。毎年開放するが、それほど需要もなく空いていたからな」

「それで、だ。屋台の件だが」


 鳳蝶丸が屋台の説明をする。


 【虹の翼】メンバーから、恐ろしく混雑するだろう。場合によっては混乱が生じるだろうと指摘があったこと。

 色々と対策をしたいので、予め看板を出す許可が貰いたいと伝えた。


「…………あー…。どんな対策だ?」

「まずは清浄と防塵・防砂付き結界を張ること。列に並んだ者は清浄は無料、と言うことを看板に書くよ」

「次に、結界には購入する意志の無い者、悪意ある者、並ばない者、強引な割り込みをする者、買い占め、転売目的の者は結界に入れない、を付与してあると注意書きします」

「更に、購入した者から商品を強奪しようとする者は、祭りの期間限定である魔法がかかるから止めておけ、と書く」


 レーヴァ、ミスティル、鳳蝶丸の説明を強張った顔で聞いているビョークギルマス。


「………………なるほど。で、その魔法とは?」

「【天罰!ラヴラヴズッキュン】だな」

「ラブラブ、ズッキュン?」

「こちて、動かない」


 私が手をハート(の形を作ったつもり)にして前に突き出す。


「主がすると可愛いですが、大人がやるとすごく恥ずかしいポーズで1時間固まります」

「…………もしかして、最近デリモアナに行ったか?」

「何で、ちってゆ?」

「ははは………文書通信でな」



 デリモアナの冒険者ギルドから、今回の騒動の連絡が来たらしい。

 そして、蔓延っていた悪の組織が壊滅したのは神の配剤のおかげであると、我が国をお救い下さったと誇らしげな連絡が来たらしい。


「文書を読んだ時、すぐにゆき殿の顔が浮かんだんだが、やはりそうだったか」


 ん?そんな?

 そんなに悪の組織が蔓延っていたの?


「不思議そうな顔をしているね」

「あの国に暗殺者の仲間が沢山いたってことだな」

「しょっかあ」


 レーヴァと鳳蝶丸の言葉に納得する私。

 ミスティルはひたすら私をナデナデしていた。


「あっちは一生涯だが、今回は祭り期間内だ」


 私達の説明を聞いて、自分の頬をパンッと叩くビョークギルド長。

 覚悟を決めろ、良しっと呟いてから私の目を見て言った。


「この件は衛兵にも知らせなければならないが、いいか?」

「うん、いいよ」


 たっくさんやらかしている気がするけれど、今更だしね。


「…………ふう。あー、看板は穴などを元に戻してもらえるならば立ててもらって構わない」

「あにあと」


 ビョークギルマスは小さなため息をついたあと、自分の顔を再びパシン!と叩いて大きく頷いた。


「衛兵やその他関係者に伝えておく」

「あい。よよちく、おねだい、しましゅ」



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