第101話 どんな味かな?どんな味かな?

 納品に出発する少し前、貴族の使者が訪ねてきた。


 使者は紋章が描かれた箱を持っており、箱の中には書状が入っていた。

 親方さんが恭しく受け取り書状を読む。

 要約すると『本日は立て込んでいて都合が悪くなったため、納品を後日にしてほしい。落ち着いたら改めて連絡する』という内容だった。


 一瞬マカマキ商会が送り込んだ偽物では?と思ったけれど、使者に見覚えがあるし、封蝋と書状には紋章が描かれているので間違いないと言うことだった。



 女将さんが連絡のお礼と日程の変更に応ずる旨を書き、親方がサインと印鑑のような魔道具を押印した羊皮紙を使者に渡す。

 使者はその書状を手に工房を出て行った。



 偉い人に手紙を書けて凄い!と言ったら、貴族からの発注もあるから文字や手紙の書き方を勉強したんだって。

 ただ、親方さんは文字が上手では無いので、主に女将さんが書いてるみたい。


 協力し合う仲良し夫婦で素敵だね!




 今日は納品をしなくて良くなったので時間が出来た。


 今のうちにいつも卸している店舗へ行き、ハズモイさんがマジックバッグを売り飛ばした話をして、衛兵待機所へ行き暗殺者達とハズモイさんの引き取りをお願いするんだって。


 貴族の屋敷に納品する頃までに他のマジックバッグを用意するか、カルメハオさんの知り合いでマジックボックス持ちの冒険者にお願いするとのこと。


「本当にありがとう。予定が色々変わったが、食器棚を復活してもらえて大変助かったよ」

「どういたちまちて」



 私は壊れた食器棚とハイ・ダークウォールナットの食器棚を倉庫の奥、鍵が掛かる部屋に置いた。

 これ以降は親方さん達がすることで、私達の出る幕はない。

 また来るねと約束して工房を後にした。



 ……………あ!またお店の名前聞くの忘れた!






 今日は【虹の翼】の皆さんとフィガロギルマスに会いに行くよ。

 抽選企画は通ったかな?



「私の力不足で申し訳ありません」


 やっぱりダメだったかぁ。


「大変魅力的な企画ではありますが、人員確保が難しいと言われてしまいました」

「じゃんねんね」

「………ですが!商業ギルド主催で行うなら広場を提供しても良い、と約束を取り付けました。そして、商業ギルド幹部にも掛け合い、了解していただきましたよ!」

「う、うん」



 流石、フットワークの軽いフィガロギルマス!

 その勢いに驚いてしまったよ。ごめんね?



「具体的にどうすんだ?」

「当ギルドの職員は手一杯なので、近くの商業ギルド職員を幾人か借りました。【虹の翼】の皆さんもお手伝いいただけるんですよね?」

「もちろん、そのつもりだよ」

「あとは冒険者ギルドに依頼を出します」

「じゃあ、私等の知り合い何人かに掛け合ってみるよ」

「あにあと」


 立冬祭の1日目、広場を借りられるのは15時から18時。

その前に、開会セレモニー後から14時までの間、商業ギルド横の敷地で抽選券を千人分配布する事になった。

 抽選は15時集合、15時30分開催。17時までに来なければ無効。


 抽選券配布はこれはこれでクジにする。

 箱に赤と白のピンポン玉入れて、赤を引いた人が抽選券を貰える。この時引くのは1回だけれどまた並べばチャレンジ出来る、と言うことにした。

 赤玉が5千個に達したら抽選券の配布は終わり。


 次に、フォーク並びで5台の抽選器をどんどん回してもらう。

 金、銀の時だけハンドベルを鳴らす?って聞いたら、恐喝などあるといけないので、その場で「おめでとうございます」と言えば良い、ということになった。


 で、抽選会の女神として【虹の翼】メンバーが各台についてもらう。助手に商業ギルド職員が着いて、各色の個数の集計や玉集め。

 冒険者には列の整理やいざこざの処理。

 フィガロギルマスと私達は抽選会の補佐と、景品関連の係になった。


 お祭りの一週間前に予行演習をするので、抽選券と景品の一覧表はその時に持って行くと約束して解散となった。




 さて、屋台である。

 そろそろ決めないとね。今のところ、唐揚げ&フライドポテト、たこ焼き、クレープを考えている。



 唐揚げ&フライドポテトは、町内会の夏祭りに駆り出された時にフライヤーを使った。


 たこ焼きは会社のイベントで関西出身者に手ほどきを受けた。

 まあ、あんまり上手じゃないけれど、この世界には無いのだから何とかなるかな?


 クレープは、友達のキッチンカーを手伝ったことがある。

 売り物なので、私は果物を切ったり、チョコスプレーやトッピングシュガーをタッパーに入れたりだったけれど、お客さんのいない時間自分用に焼かせてくれた。

 最初は切れたり穴空いたりだったけれど、終盤は結構上手に焼けたよ!



 と、言うことで…。

 実は、デリモアナにいた時、鳳蝶丸にはフライヤーやたこ焼き器、クレープ焼き器の魔道具化をお願いしていた。

 まだクレープ焼き器が終わっていないけれど、もうすぐ出来上がるんだって。



 出来上がった魔道具を使ってみたいな。

 何処かにテントを張りたいって言ったら【虹の翼】邸のお庭を貸してくれると言うことで、一旦荊棘ちゃんのところに戻り、テントを回収してお姉さん達の元へ戻った。


「庭はあまり広くないんだけれど、使って」

「あにあと!」


 いえいえ、十分な広さです。私はそこにテントを張らせてもらった。



 テントのキッチンで【虹の翼】の皆さんも参加の調理を(作業は主に鳳蝶丸達)始めるよ!


 以前再構築したフライドポテトはくし切りのホクホク系だったので、今回はカリカリサクサク系を目指します。

 まずはじゃがいもの皮を剥き、芽をエグって細切りにし、水に1時間ほどさらしておく。


 じゃがいもを水にさらしている間、お肉の調理です。

 お肉は死の森産のクルコッコクイーンと、岩漿山産のレッドホットワイバーン。



 先ずは2種を薄切りにしてフライパンで軽く焼き試食。


 クルコッコクイーンは噛むと旨味がジュワ〜っと出て、脂がノッている柔らかい鶏肉と言う感じ。凄く美味しい。

 レッドホットワイバーンは脂に甘みがあって味が濃く、ちょっぴり噛みごたえある。でもやっぱり鶏肉に近い感じかな?

 何故か肉自体がピリッとしてこちらも凄く美味しい。



「あっピリッとしてる!これは何の肉?」


 レーネお姉さん聞かれて答えようとしたけれど、とっても言いにくいよ!レッドホットワイバーン。


「鳳蝶まゆ、おねだい、ちまちゅ」

「クルコッコクイーンと、こっちはレッドホットワイバーンだな」



「レ、レッドホットワイバーン?!」「レ、レッドホットワイバーン?!」「レ、レッドホットワイバーン?!」

「クルコッコクイーン?!」「クルコッコクイーン?!」


 全員で声が揃ったよ。



「クルコッコクイーンは擬態が上手くて、配下のクルコッコ達にガッチリ守られているから、幻の鳥と言われているんだ。死の森にいるらしいけど姿を見た者はいない」

「しょえ」


 たぶんその子。

 ダンジョン産ドロップのお肉なので個体と言っていいかわからないけれど。


「レッドホットワイバーンって、話に聞いたことはあるけど、実際に見たこと無いよ。存在しているんだね」


 リンダお姉さんが感心している。


「ダンジョン、いた」

「ダンジョン潜った?」

「あい」

「でも、ゆきちゃん冒険者じゃ………今更だった」


 ハッ!そうだった!

 冒険者や騎士しか入れないんだった!

 ミムミムお姉さんにツッコまれて思い出した!


 でも、自分で解決してくれた。良かった。




「そろそろ進めて良いですか?」

「そうだね。すまない。」


 ミスティルが作業を進めてくれる。


 少し食べてみて味を決める。

 レッドホットワイバーンは味がしっかりしているしピリッと辛いから塩唐揚げに、クルコッコクイーンは醤油味にしようと思う。

 あ、味付けは我が家流でいくよ!



 全てのお肉は同じくらいの大きさに切り、包丁で少し切り込みを入れておく。


 レッドホットワイバーンの肉に塩少々を揉み込む。

 酒、鶏ガラスープ、すりおろし生姜とニンニク、ごま油を入れた調味料に肉を投入して更に揉み込み、20分ほど漬け込む。


 もう1つは、酒、醤油、すりおろし生姜とニンニク、ごま油を入れた調味料に、クルコッコクイーンの肉を投入して揉み込み、20分ほど漬け込む。



 低温と高温に設定したフライヤーを用意する。

 漬かったお肉は揚げる直前に粉をまぶす。


 塩唐揚げは片栗粉のみ。醤油唐揚げは片栗粉と小麦粉のブレンド。


 塩唐揚げを作る時は、いつも片栗粉に粗挽きの黒胡椒を混ぜてからお肉にまぶすけれど、レッドホットワイバーンは肉自体がピリ辛なので止めてみた。

 試食して物足りなかったら入れようと思う。



 塩唐揚げの漬け込み時間が終わったので、バットに片栗粉を敷いて、そこでレッドホットワイバーンの肉に粉をつける。


 そして低温の油に投入!

 大体4、5分位揚げ油から出して5分程馴染ませる。馴染ませている間に熱が中まで通るので、次は高温の油に投入!

 焦がさない程度にカラッと揚げて、油を切ったら……。


 塩ワイバーン唐揚げ完成!



 皆、揚げている間ずっと美味しそう〜!食欲そそる〜!っと呟いていていたよ。

 揚げ物の油の香りって食欲そそるよね?



 では、いただきますっ!



 ザクッ!

 熱っ!!あっつ!ホフホフ、ホッホッホッホッ…。


 モグモグ、ゴックン!



「う、う、う、うまあ!」☓8


 私以外が美味しい!と身悶えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る