第100話 ああん、ワタシったらおバカさん☆
さて、ずーっと転がしていたハズモイさんと暗殺者だよね。
まずハズモイさんの結界を解くと白目を剥いて気を失っていた。
この世界に来てから白目沢山見てる気がする。
そっと再結界。
「はあ…どうするかな。どれほどの借金か知らねえが、このまま許すわけにはいかねえ」
「マジックバッグを売ったとなると、店にも損害が発生しているね。それも話さなくちゃならないよ」
「何でこんなことになったんだか……」
親方さんと女将さんが嘆いている。
「この人の処遇は私達は関知しませんので、おまかせします」
「ああ。わかった」
次は暗殺者達。
結界を解く前に半神の天罰を下しておこう。
今後、全ての種族を含む罪なき者に対し、陥れる、悪意ある行為、殺傷を、自らまたは他者に指示を実行しようとする、加えて証拠隠蔽のため自傷・自死しようとすると、
どうしようかな?
うーん…。
「ああん、バカバカッ!ワタシったら、おバカさん☆愛が、愛が足りないわっ。こんなんじゃダメよワタシ!皆に愛と幸せを運ばなくっちゃ♪心はいつでもラヴラヴ、ズッキュ〜ン(はあと)」
と言いながら両手でハートを作り、内股で体をくねらせながら片足をチョコンとあげてしまう。
その後、生命維持以外は体が動かなくなり、1時間後に解ける。
この戒めは一生続く。
これでどう!
名付けて【天罰!ラヴラヴズッキュン】
半神の配剤に登録されたので3人に見せたら大爆笑した。ミスティルが顔を隠して震えている珍しい光景を見たよ。
ええと、対象は暗殺者2人と……この2人が所属している組織全体と、マカマキ商会で悪事を働いている者とその関係者全員で。
よしっ!
結界解除。
【天罰!ラヴラヴズッキュン】!
ピシャン!
パーン!
稲妻が暗殺者2人に落ちる。
「!」「!!」
暗殺者は気を失ったりしなかった。
一般人(?)のハズモイさんよりは精神的に強いらしい。
まあ、自分に毒を使ったり、爆発しようとしたりするくらいだから強いのは当たり前かな。
鳳蝶丸に暗殺者達のロープを解いてもらう。
親方さんと達はもちろん慌てて止めたけれど、レーヴァが手で制した。
ザッ!!
即女将さんを人質に取ろうとしたのか飛躍しながら暗器を握ったところで【天罰!ラヴラヴズッキュン】発動。
「ああん、バカバカッ!ワタシったら、おバカさん☆」
暗器を握る手の甲で自分の頭をポカっ。
「愛が、愛が足りないわっ」
胸の前で両手をグーにして、体をクネらせ、
「こんなんじゃダメよワタシ!皆に愛と幸せを運ばなくっちゃ♪」
グーにした両手を上下に振って、お尻も振って、
「心はいつでもラヴラヴ、ズッキュ〜ン(はあと)」
両手でハートを作って(暗器がカラーンと落下)、胸辺りから手のハートを前に突き出し、内股の片足をちょこんと上げて、固まった。
またしても従者達大爆笑。周り唖然。
暗殺者達は、ハートポーズのまま目を最大限に開いて驚愕しているようだった。
まさか、まさかここまでの威力があるとは。
セリフをおかしな方向に考えた私が言うのもなんだけれど、男の人がやると何だかアレな感じ。
………暗殺者になったことを後悔してくれるといいな。うん。
「クク…お前達に天罰が下った。悪さをしようとするたび今のが発動して動けなくなるぞ、ハハハ!」
「クスッ、ちなみにその天罰は一生涯だから。うっかり外でやらかすと魔獣の餌食だから考えたほうがいいかもね?クスクスクス」
「フフッ悪事を働かなければ普通に過ごせますよ?フフフフフフ」
あ、伝説の武器達の目に涙が………。
暗殺者達はもちろん動けず、話せず、ハートポーズのまま呆然と固まっている。
「それから一応伝えるが、お前達とそこに転がっているのは強制的に魔法契約をしたからな。俺達のしたことを誰かに教えようとすると更に体が動かなくなるぞ」
鳳蝶丸が最後の釘を刺した。
「い、今のは一体何だ?」
「さあて、ね」
レーヴァが肩をすくめる。
「世の中には知らない方が良いってこと、あるだろう?」
「………………」
皆さんが神妙な顔で頷いた。
「これらは魔法契約に入っているからな。俺達がしたことは漏らさないように」
「あ、ああ」
「私達は行商人で、運ぶのを請け負ったと言うことにしてくださいね?」
「わかった」
鳳蝶丸とミスティルの言葉にも、戸惑いながら了承する。
結局、カルメハオさんが優秀商の私達と顔見知りなので、ハイ・ダークウォールナットの問い合わせをして購入した。
それとは別に何となくキナ臭い噂を耳にしたので、同じものをダークウォールナットで作成してあった。
すると、やはり納品の今日、普段卸している店の運び屋が食器棚を壊した。
でも、壊したのは偽物の方で、本品はカルメハオさんが私達に預かっていてもらっていたので無事だった。
と、言う設定にした。
カルメハオさんは【海の息吹】の活動以外でも、奥さんであるモーリンさんと2人で依頼を受け国外に出ることもあるらしく、私達とはそこで知り合ったとすれば良いだろうと言うことだった。
うん。地球だと無理そうな設定だけれど、この世界なら何とかなるかな?
一方その頃、デリモアナやその周辺の国では摩訶不思議で大変な事が起きていた。
まずは大量の落雷である。
晴れて穏やかだった空から突然、
バリバリッ!
パーーーン!
という音とともに見たこともない数の落雷があった。
国の中枢が慌てて調べたが被害が全く出ず、火事も起きていなかった。
次に犯罪者の捕獲騒動。
今まさに殺人を、強盗を、窃盗を、恐喝を、嫌がらせを、暴力を、誘拐を、性犯罪を、その指示を、他小さな犯罪を行おうとしていた者共が、一斉にラヴラヴ、ズッキュ〜ン(はあと)をしたのである。
犯罪集団と密に関わりのある者共も例外ではない。
とある貴族が犯罪集団の仲介役に指示をしている最中もそれが起る。
国の中枢にいた腹黒い大貴族にもきっちり天罰が下った。
まずは迷惑を被っていた人々が犯罪者達から逃げ出し、一斉に衛兵の待機所に駆け込んで事が発覚した。
衛兵が駆けつけると、丁度戒めが解かれたところだったが、頭に血が上って怒り狂い、見物人に殴りかかろうとしてラヴラヴ、ズッキュ〜ン(はあと)が発動。
固まったまま捕獲されることになった。
この摩訶不思議な現象は国王の耳にも届く。
情報収集がされ、その現象は皆、デリモアナ王国を脅かす犯罪集団に関わっていることが確定された。
信頼していた者達が私利私欲のために犯罪集団と繋がっていたのは残念だが、それら全て含め一網打尽の
国王は、この国に根強く蔓延っていた犯罪集団を壊滅させるべく、直ぐに行動を起こす。
王国騎士団、近衛兵、衛兵、自警団。
あらゆる者達を差し向けて、おかしなポーズで固まる悪人を捕らえ、犯罪奴隷に落とし、あるいは処刑していった。
一部逃げた者もいるが、人を利用しのさばることはもう二度と出来ないだろう。
国王は、見つけ次第捕縛するよう命を出し、やがてこの騒動は収束した。
一区切りついて落ち着いた頃、あの現象は一体何だったんだろう?と言う話で持ち切りになる。
住民達の間では、神が天罰を与えたのだろうともっぱらの噂で、神に感謝する者達が増える結果となった。
中には岩漿山を作りし神が我らに手を差し伸べたのだと、噴水の彫像に祈りを捧げる者も現れる。
それはやがて宮殿や貴族の屋敷にも伝わり、奥方様や姫君、令嬢達が熱心に祈りを捧げるようになった。
そのうちに、美しく雄々しい男性の人形が町に出回り、あまりの美しさに女性達がこぞって買い漁り、一大ブームとなったのは後の話。
結局、今回の現象を詳しく説明する者は現れず、後の世に語り継がれる伝説となった。
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