第99話 別の物になっちゃった…ごめんね

 さて。

 目の前には斧で滅多打ちにされた食器棚。これをどうするのかと言うと、これを使って再構築するのです。

 私の再構築は私が触る、若しくは見たことがあるもの。


 そう。私は壊れる前の食器棚を見たことあるのだ。


 最初に寄った時、少し暗かったけれど奥の部屋に見えた食器棚。透かし彫りや浮き彫りがとても素晴らしかったので覚えていた。

 詳細や構造がわからなくても電化製品が再構築できるのだから、食器棚も出来るはず!


「鳳蝶まゆ、見えない、ちて?」

「了解」


 再構築や再構成は秘匿としておきたいので、親方さん達に見られないようにしてもらおう。



「これから特別な錬金魔法でこの家具を直す。秘術なので後ろを向いてくれ」


 錬金魔法じゃないけれど、そういうことにしておいて皆さんに後ろ向きになってもらう。


「俺が確認しておくよ」


 レーヴァが皆さんの前に立ってチラ見していないか監視してくれた。


 私は床に下ろしてもらい家具に手を触れる。



 せっかく美しく作ってもらったのに悲しいよね?

 でも大丈夫。私が元に戻すから。



 一旦無限収納に仕舞い、念の為壊れた状態で複写した。

 本体をそのまま直してしまうと証拠が残らないんじゃないかと思って。

 それに、ダミー若しくは試作を壊されたとか言えば良いんじゃないかなって。



 割れて無くなった部分を補うため、死の森産ハイ・ダークウォールナットからドロップした木材を使うことにする。

 私が持っている木材はこれくらいしかないんだよね。あとは茎とか根っこ、木皮くらいかな。

 正直言えば再構築に材質なんて関係ないけれど(海水でパン作ったくらいだし)、何となく使用する木材にもこだわってみようかなって思って。

 同じダークウォールナットだから良いよね?



 良し、再構築!



 あっと言う間に直りました。

 再構築と再構成は使いまくっているからか、最近時間がかからなくなってきているのだ。


 念の為鑑定してみたら、最高品質の食器棚になっていたよ。

 ………だ、大丈夫かな?


 とにかく、作り直した方と壊れた方を出してレーヴァにオッケーの合図を送る。


「準備出来たよ」

「え?」

「振り向いて良いって」


 皆が恐る恐る振り向く。



 !!!!!!!!!



 そして、驚愕の表情で目を見開いていた。


「こっちが直した方。こっちは偽物で壊された証拠になればと用意した」

「で、でも、どう言えば?」

「不穏な動きを察知して予め偽物を用意しておいた。そちらを壊されたと言えばいいのでは?」

「なるほど………ちょっと確認してもいいか?」

「ええ、どうぞ」



 職人さんたちが魔道具の様な物を持ってきた。


「確かにウチが作った物だ。ただ、不思議なのは壊れた方からも反応がある」


 ん?反応?


「壊れている方が本物だな。こっちはダークウォールナット。新しい方は更に高級なハイ・ダークウォールナットが使われている」

「あえ?」

「ん?」


 壊された部分を補うつもりが全体的な材質を変えちゃっていたみたい。


「それじゃ不都合か?」

「まさか!ありがたいが、更に高額な木材なので驚いただけだ」

「それによ。この彫り、俺の特徴が出ている。ハイ・ダークウォールナットに彫った覚えは無いが、でもこれは俺の彫りだと言える……不思議すぎて混乱してるぜ」


 職人さんが言った。

 そうだよね。仕組みがわからないから……うん、私にもわからないけれど……不思議だよね?

 でも、一度見ていれば何故か作れちゃうんだよ。

 凄いよね!再構築。


「何故かは分からないが、俺たちが作った物と寸分変わりねえ。俺達が本当に作った物じゃないのは職人として心苦しいが、今は背に腹は代えられん。俺だけじゃなく、お前らの首……本当の首…も、かかっているしな」


 皆さんが微妙な顔で自分の首を擦った。




 食器棚が何とかなったので、納品時間の14時前まで休憩&作戦会議。


 今回の件についてはこうだった。


 この国のとある高貴な方から食器棚の注文があった。

 いつもはランクの高いオッコソルトで家具を作るが、今回はダークウォールナット材で作って欲しいとの注文だったので隣国から材木を取り寄せ、数ヶ月をかけて作った。


 今日が納品日だったので支度をしていたら、隙を突かれて壊されてしまった。


 しかも、壊したのが卸している店の店員さんで、ハズモイと呼ばれていた人。

 彼は若い頃から親方さんが可愛がり、食事に困っていると食べさせたり、中古だけれど衣服を提供していたりと面倒を見てもらっていたらしい。


 職人さんが問いただすと、彼には大きな借金があり、その補填の為にマカマキ商会からお金を借り、借金を精算する代わりに親方の作成した食器棚を破壊するように言われたそうだ。


 そう、今回の黒幕はマカマキ商会。

 この国では大きな商店を経営し、お抱え工房もあるらしい。規模の違いで普段はライバルにもならないが、今回初めて目につけられた。


 あの食器棚が発端である。


 とある高貴な方からの注文は、間違いなくマカマキ商会のお抱え工房であろうと家具屋界隈ではもっぱらの噂だった。

 でも、蓋を開けてみれば発注が来たのは親方の小さな工房。


 おそらく、ギリギリのところで納品出来ないよう妨害し、潰してしまおうと思ったのでは?と言うことだった。



 それにしても……。

 暗殺者まで派遣する?って聞いたら、マカマキ商会は色々と黒い噂が付きまとっている商会で、潰された店や工房は数知れずなんだって。

 今回受注はマカマキだろうと噂が先行してあったため、親方さんや職人さんを殺めると足が付きそうだから、納品出来ない方向に仕向けたのでは?と言うことだった。


 食器棚を盗んでウチが作りましたってしないのかな?と聞いたら、詳細は言えないけれどそれぞれの工房には印があって、魔道具でどこの工房が作ったのかわかるようになっているんだって。


 ああ、それで反応って言ったんだ。


 材質が変わってしまったけれど大丈夫?今からでもただのダークウォールナットに変えようか?と言ったら、そのままでと言われた。


 その高貴な方は、品を見てから値を決めるそうで、気に入らなければ最低限の費用と工賃。気に入ればそれなりの金額をつけてくれるらしい。


 実際ハイ・ダークウォールナットで作ったのでは無いし、値をあげて欲しいなど全く思っていないけれど、マカマキ商会はすでに食器棚を用意し売り込む予定だろう。

 もちろん我々の腕が劣っているとは思わないが、材質で差をつけたい。

 職人としては心苦しいが、このまま奴らの思い通りになるのは癪に障る、との事だった。


 そうなると完全に目をつけられて更に危険な目に遭うのでは?と言ったら、いざとなればどこかの国へ工房ごと移転すると言う。



 うん。

 そこまでの覚悟なら任せるよ。



「俺達は約束の家具を作ってくれるなら問題ない」

「それは必ず。必ず納品する」


 鳳蝶丸の言葉に親方さんが真剣な顔で頷いた。



「運ぶ、どうすゆ?」

「運ぶ…そうだよな。それも考えてねえと」

「いつもはハズモイが店のマジックバッグに入れて運んでいたんだが、それも売り払っちまったらしい。どうするよ?親方」

「荷車に載せて運ぶしかあるまい」

「だが、また襲われねえか?」

「俺のパーティが護衛する」

「そうか。悪いな」


 皆さんが食器棚を運ぶ手筈を相談しあっている。



 う、うーん。

 ここまで乗りかかったんだし手助けしよう。困っている人を放っておけないよね。


「鳳蝶まゆ、ミシュチユ、イェーバ」

「ん?わかった」

「はい」

「なんだい?」


 2人はわかっているよ、と笑顔を浮かべる。

 レーヴァは仲間になって日が浅いので?な表情をしていた。



「俺達で運んでも良い、とお嬢が言っているがどうする?」

「えっ!」

「ゆきちゃんが?」

「もちろん強制では無いので、貴方達の都合で決めてください」


 鳳蝶丸、ミスティルが話を進めてくれる。


「この家具を作り直してもらって更に運んでくれるのか?………料金はどれくらいだ?」

「おたね、いなない」

「無料だそうです」

「でも、それじゃお嬢ちゃんが儲からないんじゃないか?こんなに親切にしてもらって申し訳が立たん」


 親方さんが心配してくれた。

 うん、心配するよね?このやり方。普通の商売人ならば細かく金額の提示をするんだろう。


 でも、私はそれで問題無いのだ!


「わたちたち、優秀ちょう。問題、なち!」

「…………………」

「優秀商は独自の値を設定できるのでしょう?」

「姫が良しと言えば、俺達も良し、だからね」

「まあ、気にすんな」

「気になゆ、なら、家具、増やちて?」

「家具の追加でいいのか?」

「うん」



 親方、女将さん、カルメハオさん、職人さんで話し合う。

 そして意見が固まったみたい。


「家具を直してもらったうえ、運んでもらうなんざ図々しいと思うが、協力してほしい。よろしく頼む」


 親方さんが深々と頭を下げると、他の皆さんもそれに続いた。


「うん、いいよ!」



 と、言うことで、12時頃に出発することになった。

 同行するのは親方さん。それから念の為と言うことで【海の息吹】のメンバーが護衛してくれることに。

 お礼の家具は私の欲しい物を全て作ってくれるということになった。



 何を頼もうかな♪

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