第98話 オートモード発動、本人達は迷惑かも
さて、4日間暇になった。
皆で話し合い、朝食の後、家具屋さんの店名を聞きに工房へ向かうことになった。
到着した早々工房の中から怒鳴り声が聞こえ、何やら立て込み中の模様。
出直そうかと話していると、工房からカルメハオさんが飛び出してきた。
「あ!」
「!!!………………、はあ、冷静になった。ありがとうゆきちゃん」
「?お兄たん、どちた?」
「いや……」
気まずそうに押し黙る。そこへ親方さんと女将さんがやって来た。
「ダメだ。取り返しがつかないほど壊されてる」
「今日が納品なのに。どうする、アンタ」
「くそっ!アイツ何故こんなこと……」
私達の存在に気付かないほど落ち込んでいた。
あ!親方さんに初めて会った時、会ったことがあるような気がしたのは、カルメハオさんと親方さんがそっくりだからだ!
……深刻な時にごめんなさい。
「親父とオフクロにあんだけ面倒見てもらいながら、裏切りやがって」
小屋の中から怒鳴り声と、泣いているようなうめき声が聞こえる。
「壊しちまったモンはしょうがねえ。事情を話して再度作らせてもらうか」
「でも、あのダークウォールナット材は早々手に入んない!それに相手はお貴族様だ。どんな事情でも許してもらえるとは思えないよ!ヘタすると……」
「俺が詫びに行ってくる。………帰って来られなかったら、カルメハオ。お前が母さんを支えるんだぞ」
「そんなっアンタっ!」
う、う〜ん。
何となく事情を察し。
今日、貴族特注の何かを納品しようとしたら、目にかけていた誰かがわざと壊したってことかな?
相手は貴族だし、どんな理由であれ下手すると糾弾されるかもしれない。まあ、貴族側だって納品されると思って色々準備しているだろうから、怒るのは仕方ないと思うけれど。
「そ、そうだ。君達は商人って言ってたな?何か珍しい品を持っていないか?いくらでも払う」
「カルメハオ…えっ!貴方達は優秀商の!」
女将さん、今気がついたんだね?
「親父。詫びとして珍しい品を献上して、何とか工期を伸ばしてもらえないか頼み込んでみよう。俺が金を払う」
親父、オフクロと言うことは、親方と女将さんが前に言っていた、すでに自立した子供ってやっぱりカルメハオさんのことなんだ。
何やらお困りの事情を聞いてしまったのは偶然か必然か。
力になれるならばなりましょう。
「みしぇて?」
「え?」
「その壊された物を見せてくれ」
「あ、ああ」
カルメハオさんの案内で、以前通された倉庫に向かう。
そこには、おそらく斧で滅多打ちしたのであろう食器棚の残骸があった。
その横で大泣きしている青年と、取り囲んで糾弾している職人のおじ様達。
そして、倉庫の、たぶん上にいる赤点。
ひときわ赤くチカチカしたので、咄嗟に結界1をかける。
カカカッ!
小さな音がして、複数の針が転がる。と、同時に、鳳蝶丸が姿を消した。
「こ、これは……」
「毒針です。触らないほうが良いですよ?」
「毒針!」
親方さん達が狼狽えた。
「おそらくハズモイを暗殺して口封じしようとしたんだろうよ。君達が助けてくれたんだろう?心より感謝する」
カルメハオさんと親方、女将さん、他の職人さんも一緒に深々と頭を下げた。
「俺の姫君に怖い思いをさせるわけにはいかないからね」
ミールナイトでは出会いが出会いなだけに正体を明かしたけれど、一部を除き(岩漿山ダンジョンの冒険者達)マカマカでは私の力を話していないため、レーヴァが結界を張ったように説明する。
バタンッドタンッ!
しばらくすると、黒服で顔を隠した忍者みたいな格好の2人の男が、鳳蝶丸に投げられ結界外に落ちてきた。
とても細い紐でグルグル巻にされ転がっている。
念のため、その二人を結界で囲い倉庫の商品を傷付けさせないように………、
「!!!」
解毒!!
一瞬苦しんだので毒だと思って解毒する。
うわっ!治癒!
腰辺りが破裂したので治癒する。
黒装束の二人は驚愕の表情をしていた。
暗部の人が、捕らえられた途端に奥歯に仕込んだ毒で自ら口封じ、と言うのはお約束だからすぐに対応出来たよ!
もう面倒なので、結界に自動解毒と自動治癒を付与、外から音も視界も遮断して中の2人を孤立させておく。
1回だけ毒針再チャレンジしたみたいだけれど即解毒され、そこからは諦めて寝っ転がっていた。
痛くて苦しい思いをするだけなので止めたほうがいいよ。
一方、当の本人…ハズモイさん?は、ガクガクと震えていた。
「命が助かったな。詳細を聞きたいが今は時間がねえ。じーさん達。こいつをギチギチに縛り上げてくれ」
「わかった」
職人さん達が縄を持ってきてハズモイさんを縛り上げている。
その間鳳蝶丸達に結界の詳細を伝えておいた。
「こいつらに結界が張ってある。音も視界も遮ってあるから話をしても大丈夫だ」
「そんな細かい設定の結界が出来るのか?君達は何者……いや、聞くのは止めておく。それで、さっきの件だが協力しちゃくれないだろうか」
鳳蝶丸が私をチラリと見たので頷く。
そして、ミスティルに魔法契約すれば食器棚を直すと小さな声で伝える。
「まずはアンタとだけ話がしたい」
皆さんが一瞬戸惑ったけれど、カルメハオさんが別の部屋に案内してくれた。念の為音を外に漏らさないように結界を張る。
「私達のしたこと、私達から聞いたことを一切漏らさないと約束して魔法契約を交わせば、食器棚についての解決方法を教えて差し上げます」
「えっ?解決?」
「ええ。解決です」
「…………契約の内容は?」
「俺達のことを他者に話さない。書かない。伝えない。もし契約を破ろうとすると、1時間話せず、手足も動かせなくなる」
「えっそれだけか?」
「それだけとは?」
「罰金とか奴隷落ちとか」
「そこまでする必要はない」
普通は契約書にそこまで盛り込むの?相手が悪人の時以外、私はしなくていいかな。いや、そもそも悪い人の手助けはしないけれどね。
「もし…もし解決したとして、料金はいくらだ」
ミスティルに小声で耳打ちする。
「家具、ちとちゅ、ほちい」
「わかりました」
ミスティルが鳳蝶丸に視線を送り、耳打ちをする。
「家具がひとつ欲しい。それを報酬とする」
「……そ、それで良いのか?」
「ああ。それで良い」
「わかった。一応ここにいる皆に聞いて、契約をする者は立ち会い、契約をしない者は席を外してもらう。それで良いか?」
「それでいい。行こう」
皆が待っている部屋に戻り、ハズモイさんにも音と視界遮断の結界を張る。一応自動解毒と自動治癒も付与しておいた。
先程の部屋の結界を解除して、今いる倉庫に音漏れ防止の結界を張る。
「~~~と言うわけだ。俺は魔法契約を結ぼうと思う」
「魔法契約の内容を聞く限り刑罰もないし、俺も結ぼう」
「アタシもやるよ。優秀商だし信頼できる」
い、いいのかな。
自分で言っておいてナンだけれど。そんな簡単に私達を信じて良いのかな?
後から聞いたんだけれど、優秀商の証って、それだけで信頼されるんだって。
責任重大だね………。
結局職人さん含む全員が魔法契約をしてくれた。
早速進めようとしたら、食器棚が見えそうで透明の結界が不安という意見があったので、暗殺者とハズモイさんの結界を闇で覆う。これで中からも外からも見えないからね!
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