第96話 大当たり~♪私はいつもティッシュだった
翌日、朝食を食べてからミスティルにお手紙の代筆をお願いする。
お祭り日程のお知らせに対するお礼、中日の3日間屋台で参加すること、【虹の翼】のお祭りバイトの正式な要請。
あと、もし可能ならば、フィガロギルマスに1日目の催し物の案があることを伝えてほしいと言うこと。
それと、ビョークギルマス帰ってきた?と。
すると、その日のお昼には手紙の返事が入っていた。
お祭りバイトはもちろんオッケー。
ビョークギルマスはもうすぐ帰ってくるらしい。
フィガロギルマスに伝えたら、お祭り参加大歓迎!と、その催し物についてぜひぜひ聞きたい!と興奮気味に言われたよ、と綴られていた。
あと1ヶ月ちょっとだし、一旦帰ろうかな。
転移の門戸ならば普通に行き来出来るしね。
まずは我が家の3人に、一旦ミールナイトに帰りたい旨を知らせて了承をもらい、ミスティルに代筆してもらう。
直ぐ帰る手段があるけれど、【虹の翼】の皆さん以外に知られたくない。出来れば一旦部屋を貸してほしい、とお願いする。
すると、この間泊まった部屋ならば空いているからいつでもおいでと返事がきたので、1時間後におじゃましますと書いて共有フォルダに入れた。
では、宿のチェックアウトをしよう。
手続きを終えると、チェックインした時のお姉さんが「またのご利用をお待ちしております」とレーヴァだけに挨拶をする。
一貫してレーヴァにのみ話しかけるお姉さん。ある意味己を貫いているね。
褒めてはいないよ?
すると、レーヴァが珍しく女性に向かって顔をしかめた。
「今回泊まったのは俺1人じゃなく仲間も一緒だって言ったよね?支払い手続きも俺がしたわけじゃない。なのに俺だけに挨拶するのはどうかなと思う」
「え…あの……」
いつも優しく応対するレーヴァに言われて戸惑っている。
「客を不愉快にするのはいただけないよ?」
「私は…また来ていただきたくて……」
「うん。また来てねって言ってくれるのは嬉しい。でも、そこは宿泊客皆に言うべきじゃないかな。宿の職員として働いている君に、仲間を無視されたのは嬉しくない。今俺は、我が主にこの宿を紹介したことを後悔しているよ」
いつも女性に優しいレーヴァだけれど、ダメだと思う事はダメだと言うんだね?
ちょっと見直した。
「あ、あの、何かございましたでしょうか?」
「いや、何でもない。世話になったね」
何かを察知してマネージャーさんっぽいおじさまが慌ててやってきた。チェックインの時も来てくれたよね?
「は、はい。恐れ入ります。ご滞在ありがとうございました。またどうぞ当宿にお寄りくださいませ」
その言葉にまた来るとは応えず、レーヴァは軽く手を振って宿を出た。
「姫、すまない。あまり良い宿じゃなかったね」
「ううん。けちき、きえい。浜あしょび、楽ちかた!あにあと」
「………我が姫は優しいね」
「主の優しさに甘えないように」
「もちろんだよ」
ミスティルの言葉に首をすくめるレーヴァ。
何か、気を遣わせちゃってごめんね。でも景色もきれいだったし、お部屋も清潔だったし、衝撃のスッパイ経験もしたし、なかなか楽しかったよ。
そのまま人気のない場所まで行って、転移の門戸で荊棘ドームちゃんの所へ行き、テントの寛ぎの間で少し待機。
そして1時間後。寛ぎの間から【虹の翼】邸の部屋へ転移の門戸を繫げた。
「わあっ!」
「何だ!」
レーネお姉さんと、リンダお姉さんの声がした。
「師匠!」
「凄いですわ……」
「やあ、ゆきちゃん、おかえり。待っていたよ」
ミムミムお姉さんに、エクレールお姉さん、ローザお姉さんも。
【虹の翼】大集合だった。
「おねしゃん!」
テテテテテと走って、ふと立ち止まる。
「くちゅ」
「了解」
鳳蝶丸がマジックバッグから靴を出して履かせてくれる。
皆がそれぞれのマジックバッグから靴を出してお姉さん達の部屋にお邪魔した。
「おねしゃーん」
「ゆきちゃん!」
そして、改めてお久しぶりの抱擁をしたのだった。
久し振りに会ったお姉さん達は、初めて会った時から美女揃いだったけれど、更に磨きがかかって光り輝いていた。
「おねしゃん、皆、きえいよ」
「ありがとう。ゆきちゃんの洗髪石鹸や化粧品のおかげだよ」
「最近、あちこちから声がかかるんだよ」
「この間なんて、結婚してください〜なんて言われちゃった」
ローザお姉さん、リンダお姉さんの、レーネお姉さんが嬉しそうに笑っていた。
「男性からもですけれど、女性達からもどんなお手入れをしているの?なんて沢山聞かれますのよ」
「特に貴族、鬱陶しい」
エクレールお姉さんとミムミムお姉さんが少し困った表情で笑っている。
「どちらにしても、ゆきちゃんには感謝するばかりだよ。ありがとう」
リンダお姉さんに頭を撫でられて何だか嬉しくなった。
皆喜んでくれて嬉しいな。
「っと、こちらの話ばかりでごめん。そちらが?」
ローザお姉さんがレーヴァに体を向けた。
「あい。あたやしく、かじょく、なった。イェーバよ」
「俺はレーヴァ。姫の従者だよ。以後お見知りおきを」
片手を胸に当てて、優雅に挨拶をするレーヴァ。
レーネお姉さんやミムミムお姉さんがちょっと顔を赤らめていた。
「私は冒険者パーティ【虹の翼】のローザ。ゆきちゃんとは友人の間柄だよ」
「同じく、
「同じく、リンダだよ」
「アタシはレーネ」
「ミムミム」
【虹の翼】の皆さんが自分の名を告げて挨拶をしてくれた。
「他の従者達から話を聞いているよ。よろしくね」
「こちらこそよろしく」
ローザお姉さんが今度は私に体を向ける。
「ゆきちゃん。新しい仲間が加わって良かったね。おめでとう」
「あにあと」
「さあ、立ち話も何だからサロンへどうぞ」
案内されて、皆で応接間に向かった。
「転移、羨ましい。教えて、師匠〜」
「ゆち、わたなない」
毎度お馴染みの会話が繰り広げられていた。
ミムミムお姉さんの探究心は揺るがないのである。
従者達は、他のお姉さんに転移のことは他所で漏らさないようにと話をしていた。誰かに強要されたり期待されるのは面倒だからね。
勿論、お姉さん達は一切漏らすつもりはないと約束してくれた。
ローザお姉さん達はこの1ヶ月の間に近郊の討伐依頼を受けていたんだって。
今のところは大きな指名依頼も無いし、祭りも気がかりなのでこのまま町にいようって話になり、今は拠点に滞在中らしい。
「資金には余裕があるからね。それよりもゆきちゃんの屋台が気になって」
「屋台、考えてゆ。決まゆ、味見ちて?」
「いいの?師匠の料理、楽しみ」
「するするっ!味見するよ!」
リンダお姉さんもミムミムお姉さん、レーネお姉さんもウキウキしていた。
「ところで、料理が出来る知り合いの件だけれど、その頃この町にいないんだそうだ。申し訳ない」
「その代わり、と言うのも違うのですが、アスナロリット様が給金はいらないのでぜひ参加したいとおっしゃっておりますの」
あの高級料理店のオーナー兼シェフの、貴族の人?
でも、多分……屋台には高級料理店で出すようなものは作らないよ?
「屋台、ちょうちゅう、ちあうよ?」
「屋台で出すのは高級な料理じゃないぞ?」
「ああ。私からも言ったんだが、構わないということなんだ」
「なら、いいよ」
「レシピをお教えすることになりますが、よろしくて?」
広めるつもりなので全く問題無いんだけれど、何しろ調味料がまだこの世界に無いからな。
唯一しっかりと調理したことがある、鳳蝶丸から説明してもらう。
「レシピは広めてもらって構わないらしいんだが、お嬢の持つ調味料は特殊だから、どこまで真似できるかはわからん。それでも良ければ参加してもらっても良いぜ」
「わかりました。お話しをしてみますわ。ご検討いただきありがとう存じます」
「あい、だいじょぶ」
次は抽選会の件。
先日、色々考えながら回転式抽選器本体と玉を作ったんだ。
本体は木製で1千玉用を作成。これを4台複写して全部で5台用意した。
5千玉中、金は1玉、銀は5玉、白は14玉、緑は50玉、青は130玉、紫は3百玉、黄は5百玉、赤は1千玉、黒は3千玉を分けて入れる。
5で割れない場合は、例えば白ならば3玉が4台、2玉が1台という感じ。
なお、玉の個数は適当なので当選率などは全く考えていない。
景品は私が提供するつもり。
抽選会が楽しいなと感じ何かしらの展開があれば良いなと期待して、初回は私が特別に景品を提供するよ!
…………まあ、採用されたらの話だけれど。
もし採用されなかったら個人的にやっても良いしね。
お姉さん達には玉の色で景品が変わり、黒、赤、黄、紫、青、緑、白、銀、金の順に景品が良いものになること。黒は玉数が一番多く、金は5千玉の中で1個しか無いのだと説明した。
すると、めちゃくちゃ興味を持ってくれて、楽しそう!やってみたい!と言ってもらえた。この世界はあまり娯楽が無さそうだもんね。
まずは抽選器を回す体験をしてもらおう。
本体を出すとしげしげと眺める【虹の翼】の皆さん。
抽選の体験をする順番を話し合いで決めて、1番目はレーネお姉さんになった。
このハンドルを回してと言ったら、凄い勢いでグルングルン回し出す。
ああ!待って、待って!
そう言えば、先にウチの従者達に体験してもらったら、鳳蝶丸が早く回しすぎて玉が出なかったんだった。
ちなみに、ミスティルが強く回し過ぎて支柱をバキッと割り、レーヴァは回したあとの止めが力強すぎて、玉がスポーンと飛び出すという結果に。
お姉さん達に、ゆっくり1周回して欲しいとお願いすると、今度は慎重に回してくれた。
「ああ〜黒だったぁ」
「あたしもだよ」
「
「私、赤」
レーネお姉さんとリンダお姉さんは黒、エクレールお姉さんは黄色、ミムミムお姉さんは赤、そして………。
「あっ金」
何と、ローザお姉さんは金だった!
1/5000なのに凄くない?
作っておいたハンドベルを両手で持ちガランガラン♪と鳴らす。
「大当たい〜!」
その音にビックリしていたけれど、直ぐにお姉さん達が大笑いした。
「ビックリした!」
「大当たりいー!か。何だかウキウキするね!」
「まさか1回で金が出るとは思わなかったよ」
「幸先良いですわね?ローザ」
「そうだね。良いことがありそう」
まだ開催が決まったわけでは無いけれど、景品も考えようかな?
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