第95話 カッチカチ?いただきましょう、ええ
「あーダメだ、ダメだ。帰ってくれ!」
陶器の工房を見学をさせてほしいと言ってみたけれど、何処からも断られてしまった。
忙しいだろうし、突然訪ねたし、秘密なこともあるだろうからそれは良いんだけれど、断り方がぞんざいでウチの従者達がキレそうです。
「もういいよ。嫌なちもち、ごめんね?」
「主は何も悪くありません。気にしないでください」
「断わるにしても普通に断りやがれっての!姫、大丈夫かい?」
「うん、あにあと」
優しい口調のレーヴァまで荒れているよ。
ぞんざいな扱いは日本で嫌というほど体験して慣れているから大丈夫。
それより見てみたいなんて言ってごめんね。
すると、たまたま通りかかったお爺さんに声をかけられる。
「何かあったかい?」
「いやなに。可能ならば工房を見学させてほしいと言ったんだが、ぞんざいに断られてな」
「ああ……この辺りの職人はちとアレでな。もし良かったらワシの工房を見学するかい?ここいらみたいな大きい工房ではないがね」
「いいの?」
「おう、良いよ。こんな可愛い嬢ちゃんに冷たくするなんて、酷い大人もいたもんだ」
「おじたま、あにあと」
「おじさまって言ってくれているのか?俺はもうじいちゃんだよ。ありがとな。でも、出来ればじいちゃんって呼んでおくれ」
「じいたん!」
「おお!可愛いなぁ。はいはい、じいちゃんの工房を見せてやろうな」
「あにあと!」
おじいさんの名前はポンポさんって言うんだって。
奥さんのハノアさんと息子さんのポノアさんで小さな工房を経営していて、作っているのは屋根瓦ではなく主に食器類みたい。
お話しながら歩いていると、工房に到着。
「狭いから足元気をつけてな」
まずは客間のような部屋に通される。
「おーい、ばあさん!お客さんだぞ!」
「はいはーい!」
直ぐに恰幅の良い初老の女性がエプロンで手を拭き拭きやって来た。
「あらあらぁ。何て可愛いお嬢ちゃん!」
「うちのばあさんだよ」
「はじめまちて、ゆちでしゅ」
「念のため、ゆき、俺は鳳蝶丸、ミスティル、レーヴァだ」
「丁寧にありがとうね。さ、座ってくださいな。今お茶を用意しますから」
「おたまい、なく」
「おかまいなく、だそうです」
あらぁ、難しい言葉を知っているのね!と言いながら奥に引っ込み、お茶を入れて持ってくるハノアさん。
「今日はどうしたのかしら」
「陶器工房を見学したいらしいんだが、アイツらが冷たく断っていてな。気の毒だし声をかけたんだよ」
「あぁ〜。あの人達は王室の屋根瓦を担当してからああなっちゃってね。嫌な思いさせてごめんなさいね」
「だいじょぶ。じいたん、ばあたん、やしゃちい、あにあと」
「貴方達が優しくしてくれたので大丈夫だそうです」
「そう言ってもらえると嬉しいわ」
お茶をいただいてから早速見学をさせてくれることになった。
まずは木製のロクロのようなものがある部屋に案内される。
「ここで成形するんだよ」
聞けば、この国で主流なのは陶器みたいで磁器は無いらしい。
日本の旅行先で、陶器作り体験をした時に聞いた陶器と磁器の違いについての解説を思い出す。
陶器は確か陶土を使い、細かい過程を経て粘土状にし成形しているはず。
こちらでは、その細かい過程をすっ飛ばしてマカマカクレイを練って成形出来るんだって。
ロクロは二人がかり。
片方はハンドルでロクロを回し、片方が成形するスタイルらしい。
後は地球とほぼ変わりなく、乾燥させて素焼きして釉薬を塗ってまた焼くみたい。詳細はわからないけれどそんな感じ。
マカマカクレイで作られた陶器は厚みがあって、素朴だけれど力強い器だった。
マカマカクレイなら私も岩漿山産のドロップ品を持っているので、今度何か作ってみようかな?
ふと部屋の隅を見ると、蓋付きの木箱と蓋なしの木箱が置いてあった。
「あえ、なあに?」
「おお、あれはマカマカクレイだよ。蓋の無い方は乾いてしまってカッチカチな上、変色しちまったんで廃棄するんだよ」
「見ていい?」
「良いが、足元に気をつけてな」
乾燥が大敵と言うことで粘土の方は見せてもらえなかったけれど、自分のがあるので問題ない。
なので乾燥した方をレーヴァ抱っこで見せてもらう。
マカマカクレイの素焼きを見せてもらったら、地球で見た素焼きより表面がツルッとしていたので、もしかして陶石に近いのでは?と感じた。
それに、何となく捨てるのは勿体無いと思ったのと磁器って石を砕いて作るんだったよな、と思って。
カチカチに固まったマカマカクレイは白色で、鑑定すると品質は上級だし、固まることで材質が変化し、高温で焼くと硝子質になる、と出ている。
おお!凄いね、マカマカクレイ!一人二役!粘土だけれど。
「じいたん、捨てゆ?」
「おお、捨てるよ」
「もやって、いい?」
「もやって?……ああ、貰って、か?もちろんいいが、ゴミだぞ?」
「ゴミ、ちあう」
ゴミじゃないってどうしてだ?とポンポさんに聞かれたけれど、失敗するかもしれないから詳細がわかったら教えるねと約束して、乾いたマカマカクレイを全部もらう。
家具屋さんと同じ、お礼にパウンドケーキと紅茶を渡し、やっぱり貴族と間違われ、商業ギルドカードを提示してまた驚かれる流れは一緒だった。
でも今回は、ちゃんと卸しているお店を聞いてお暇したよ。
夕闇が迫っているので宿に戻る。
そして、コテージに鍵をかけて転移の門戸でテントに向かった。
夜ご飯は豚肉、ピーマン、ナスの味噌炒めと鶏肉のさっぱり煮、卵と玉ねぎのお吸い物、大根サラダ、漬物。お肉が多いのは、皆がボリュームを欲するからだよ。
リビングで寛ぎながら、皆で談笑。
何となくインベントリを開くと、【虹の翼】フォルダに[NEW]が表示されている。
確認するとまたお手紙が入っていた。
内容はお祭りのこと。
立冬祭は11の月20の日から5日間と正式に決まったんだって。
元々3日で準備を進めていたけれど急遽日程が変更になったため、お祭り関係者同士各所で揉めているとも書かれてあった。
…………そりゃそうだよね。
仕事でもあったなぁ、突然の変更。
会社主催のパーティを、社長の思いつきとかで追加変更されて怒りながら走り回りヘトヘトになった思い出よ。
屋台は4日間。最終日はセレモニーだけで終わりそうだと言うこと。
中日の3日間は芝居小屋や吟遊詩人の歌など催し物が、最終日は屋台の人気投票と閉会式などが決まっているけれど、初日は開会式と屋台以外に何をするのか等、なかなか進んでいないんだって。
「ビンゴ、みたい、しゅえば、いいのに」
「ん?」
鳳蝶丸に手紙を渡し、ビンゴ大会でもすればいいのにねと伝える。
ビンゴって?と言われたので一生懸命伝えたけれど、文字が読めない平民も参加するんじゃないか?と言われてしまう。
「確かにとても楽しそうですが、祭りは人が多く参加するので主の言う大会は難しそうです」
「ただのクジにすりゃ良いんじゃないか?」
「うん、しょえ。ちょと、考えゆ」
皆が酒盛りを始めたので、私は和室に入る。
大の字に寝そべって、クジの事を考えていた。
うーん……。
あ!
ビンゴがダメなら回転式抽選会で良いんじゃない?
黒ならハズレ、赤ならクッキーのセット、青なら柔らかいパンのセットとか。
でも何回も来ちゃう人いるよね?
目立った場所でやれば、誰かが「お前さっきやっただろう!」とか言ってくれないかな。
って、そもそも相談されてもいないのに、何でこんなに考えているんだろう?
でも何だか楽しくてワクワクしちゃって。
日本にいた頃出来なかったあれやこれややってみたくなっちゃう。
気楽にそう考えられるのは、ムウ様、ウル様、桃様のおかげだよね。感謝しています。
今度何か贈り物をしよう。
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