第92話 スッッッッッッパ!

 うーん………ここは何処?ダンジョン?眠い目をこすりながら起き上がるとベッドの上だった。


「おはよう。目が覚めたかい?」


 レーヴァがそばにいて微笑んでいた。


「もうすぐ夕食だから着替えようか」

「うん」


 鳳蝶丸が寝室に入ってきて、熱い蒸しタオルを冷ましてから私の顔を拭く。


「お嬢は何が着たい?」

「こえ」


 ハイビスカス柄の青いムームーを出す。

 着ていた服をあっと言う間に脱がされて、次にバンザイポーズでムームーを着せてもらう。

 更に、髪を梳かし編み込みをして、小さなリボンをつけたら完成。


「なるほど」


 レーヴァが鳳蝶丸のすることをじっと見ている。

 幼児に触れたことが無いから、今までミスティルと鳳蝶丸がどうしていたのか勉強中なんだって。


「服を脱がされるのは嫌ではないかい?」

「だいじょぶ。わたち、あかたん」

「そう?じゃあ、これからは俺も触れるけれど、嫌なことがあったら教えて?」

「うん」


 レーヴァ抱っこでリビングに行くと、ミスティルが以前作ったアロハシャツとハーフパンツを着ていた。


「おっ、俺も着るか」

「それは姫支給の服?」

「うん。イェーバ、作ゆ」

「良いのかい?嬉しいね」


 レーヴァにもTシャツとアロハシャツとハーフパンツを再構築する。


「こえ」

「綺麗な柄だね。嬉しいよ。ありがとう、姫」


 ミスティルが私を受け取ったので、2人は着替えに行った。

 着替えたレーヴァはやはり軽く着崩していてセクスィーだった。うん、知ってた。




 コンコン。

 しばらくして扉がノックされレーヴァが対応した。


「外に食事の用意をしてあるって」

「行きましょうか」


 ミスティル抱っこで扉を出る。

 コテージと海の間くらいに大きな敷布が敷いてあり、そこに大きめのテーブルが置いてあった。

 白いテーブルクロスには食器がセッティングされ、外はまだ薄明るいけれど、すでに蝋燭の炎が灯されている。


 給仕の男性が椅子を引こうとしたので待ってもらい、鳳蝶丸がハイチェアーと普通の椅子を交換する。

 ミスティルが私をそこに座らせて隣の椅子に、鳳蝶丸とレーヴァも空いている椅子にそれぞれ着席した。


 お品書きと飲み物のメニューは3人に渡された。


「俺達はワイン、お嬢に果実水を頼む」

「かしこまりました」


 お品書きを見せてもらったら、何とか海老の何とか何とかって書いてある。

 え?分からないって?私も分からない。



 まず飲み物と薄切りパンに魚やお肉がのったカナッペが出される。

 パンが硬くて噛みちぎれなかったので諦めた。

 3人が次々と具材を口に入れてくれたので味わえたけれど、パンと食べるものだからちょっぴり塩辛かった。


 次はサラダ。

 色々な野菜の盛り合わせで美味しそうだったので口に入れてもらった。



 すっぱ!!!



 ドレッシングではなく、酢がそのままかけられたみたいにすっぱい。

 食べ切れそうにないので、給仕さんの目を盗んで無限収納に隠した。



 次はお魚のカルパッチョみたいなの。生魚だし念のため鑑定する。

 私達は毒を飲んでも大丈夫な体だけれど、何となく気になるからね。

 問題ないようなのでミスティルに視線を送ると、ニコッとして魚を口に入れてくれた。



 すっっっぱ!!!

 さっきよりすっっっぱ!



 生魚にかなりすっぱいお酢が振りかけてある。

 微かにレモンの香りもあるけれど、全てを抑えつけるお酢の力。

 思わずスッパ幼女フェイスになり涙目でミスティルを見上げると、慌てて果実水を飲ませてくれた。

 お酢のジュースみたいだった。


 またしても給仕さんの目を盗んで収納。

 鳳蝶丸とミスティルから目配せで頼まれたので、二人の分も収納。

 後で聞いたんだけれど、マジックバッグはなにか器に入ってないと液体は入れられないんだって。

 カルパッチョ風もお酢が沢山かかっていたためそのまま収納出来ず、私に頼んだみたい。

 ちなみにレーヴァは酸っぱいね…と呟きながら食べていた。凄い!



 次は塩分強めのオリーブオイルと香草で焼かれたロブスターみたいな大きな海老だった。

 海老の焼ける良い香りがする。よく焼けた身の部分が香ばしくて美味しい。あと、パンを小さく切ってもらいオリーブと香草のソースをつけて食べたらすっごく美味しかった!



 次はお肉。

 牛の赤身肉を塩と香草で焼いたもの。

 脂の甘みは無いけれど、肉の旨味がじゅわっと出て美味しかった。



 次は口直しらしいお酒。

 私にはさっきと違う果実水。レモンっぽくてさっぱりした果実水だった。



 最後にフルーツ盛り合わせ。マンゴーやパパイヤ、パイナップル、パッションフルーツの他に、プルメリアベリーなる白い果物もあった。



 最初のお酢攻めでどうなるかと思ったけれど、後半は美味しく食べられて良かった。



 食後のお茶をいただきながら辺りを見回すと、いつの間にか真っ暗になっていた。テーブルの蝋燭と、あちこちに灯されている篝火が幻想的でとても綺麗。


「きえい」

「そうだな」


 ザザン、ザザンと聞こえる波の音。

 夜の海は怖いけれど、南の島で大分慣れた。

 それに今は独りぼっちじゃない。満天の星空の下で寂しさに泣いたあの日をちょっぴりだけ思い出した。




 食事が終わり部屋に戻る。今日は私が疲れているからと清浄カードで汚れを落とし、私はすぐに寝てしまった。

 おやすみなさい。






 今日はお出かけ無し。

 ちょっと色々細かい仕事をやっつけようと思います。



 鳳蝶丸から我が朝宮家のルールや今までの出来事、私に仕えるにあたって等、初歩的な必要事項は教えてあると報告があった。

 レーヴァからは基本自由なのはありがたいと言われた。

 うんうん、用事がある時は誰かに伝えてくれれば出かけていいからね。



 まずは朝食。

 鯵の干物、卵焼き、ほうれん草のおひたし、海苔の佃煮、ナメコのお味噌汁、漬物、ご飯。


 レーヴァからはとても美味いと大絶賛だった。和食大丈夫で良かった。

 漬物は酒のアテになるぜ。特に日本酒だな、と鳳蝶丸が言うと物凄く興味を示していたよ。

 貴方もお酒大好きですね?



 食事の後は転移の門戸で荊棘ドームちゃんの神域に行きテントを設置する。

 三人でペグ打ちすると早いね!


「イェーバ、テント、ようこしょ!」


 我が家のテントは初心者のレーヴァ。靴を脱いで入るところから説明した。

 次は、私達のみ入れる場所の案内をして部屋を決めてもらった。レーヴァは入り口近くの部屋に決めたみたい。


 その後のテント案内は鳳蝶丸達にお願いして、私は和室に向かった。



 まずは従者専用マジックバッグを作ります。

 小さい皮のベルトバッグ。レザーカービングは火焔鳥さんのデザインにした。容量や使い方は二人と同じで、勿論時間停止にして完了!


 あとは、2人に支給した物と同じ、PCやカメラなどのセットも用意。良し!



 レーヴァが部屋にいなかったのでリビングに移動すると、3人はソファや椅子に座りフェリア通信を読んでいた。


「イェーバ」

「ん?何だい?姫」

「こえ、プエジェント」

「ん?」


 まずはマジックバッグ。


「これは………美しいね」


 ベルトバッグを手に取って、じっくりと眺めている。

 マジックバッグに髪の毛で登録をして、PCやカメラ等の支給セットも渡す。


「ありがとう!嬉しいよ、姫」


 レーヴァは嬉しそうに笑顔を浮かべ、早速2人に使い方を教わっていた。



 また和室に戻りずっと見ていなかったステータス等を確認する。

 体力、魔力、神力全て少しずつ上がっていた。


 レーヴァのマジックバッグと無限収納を共有で繋げて、お金、食べ物、飲み物、清浄カードなど必要なものを入れておく。

 ついでに鳳蝶丸とミスティルにも色々追加した。



 あれ?

 【虹の翼】フォルダが[NEW]になってる!


 早速開いてみると、お手紙と注文書とお金が入っていた。


 【虹の翼】邸にお風呂場の発注をしたこと。それまで待てないからお屋敷の横に小屋を立て、しばらくはその場所をお風呂にすること。

 水は井戸から汲んで大鍋に移し、ミムミムお姉さんが火魔法で沸かすこと。


 め、めっちゃ時間かかりそう。


 たぶんそれほど遠く無い未来、お風呂関係のダンジョンが出来るし…………。良し、それまで貸し出そう!

 私のお風呂で使っているタッチレス水栓とシャワーヘッド。

 魔力の充填は必要だけれど、ミムミムお姉さんやエクレールお姉さんがいるし、何とかなるよね?



 もう一度リビングに行くと、3人はPCをいじっていた。


「ミシュチユ、おてまみ、だいひちゅ、してくだしゃい」

「わかりました。何と書きますか?」


 今の私は文字が書けないのでミスティルに代筆してもらう。


 まずは挨拶と返事が遅くなって申し訳なかったこと、新しい仲間が増えたこと、それから、もし良ければタッチレス水栓やシャワーヘッドを貸し出すこと。

 それには魔力充填が必要だけれど大丈夫?と書いてもらい、共有フォルダに入れる。


 すると、直ぐに返答があった!

 やっぱりシャンプーとか待っていたよね?ごめんね。


 お手紙は、仲間に会えた事への祝辞、私が元気で安堵したと言うことと、私さえ良ければタッチレス水栓やシャワーヘッドをぜひ貸してほしいと言うことだった。

 貸出料は年間百万エンと書かれてあってド吃驚したよ!

 魔力はお姉さん達が充填するから1万エン(ただでもいいけれどダメと言われているので)と書いたら怒られた。

 この世界でのお風呂はとても贅沢で、維持するにはかなりの金額がかかる。

 もし、私達への貸出料金が安いと世間に知られてしまった場合、問い合わせが殺到してしまう、とも書かれてあった。

 わかってる。わかっているけれど、地球にいた頃の私が申し訳ないと思っちゃうんだよ。



 高速のやり取りを経て、タッチレス水栓やシャワーヘッド2つずつの年間貸出料金は50万エンに決定した。

 ダンジョンができて、お姉さん達がお風呂セットを手に入れたら差額を返そうっと。



 クイーンの魔石を小さい水晶玉みたいに加工して、台座も作る。

 鳳蝶丸にタッチレス水栓やシャワーヘッドの魔石とクイーン魔石を繋げてもらい魔力を充填出来るようにしてもらった。

 それを無限収納に入れて2つずつ複写。

 レーヴァも字が綺麗だと言うことで、契約書を代筆してもらい、それも1枚複製。

 2枚に私のガタガタ赤ちゃん文字で[ゆき]とサインした。


 【虹の翼】共有フォルダに、注文書にあったシャンプーやコンディショナー他と、タッチレス水栓やシャワーヘッド2つずつとクイーン魔石と台座、ミスティルが書いたマニュアルとレーヴァは書いた契約書を2枚入れる。

 念のため契約書にサインして1枚を戻して欲しいと書くと直ぐに返却され、50万エンが支払われた。


 手元に大金があるなんて、お金持ちだね!

 お礼にたい焼きセットを入れると、めちゃくちゃ喜んでくれたよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る