第91話 お泊りしゅゆ、南国リゾートコテージ

「ダンジョン、おちゅかえしゃま、でちた」

「おう、お疲れ。楽しかったぜ」

「主もお疲れ様です」


 目的は達成したし、今はゆっくりのんびり歩いて町なかに入る。


「うーん」

「どうした?お嬢」

「ししぇん、感じゆ」

「視線?」

「うん」


 特に女性の。

 鳳蝶丸とミスティルだけでも目立ったけれど、今後はレーヴァもいるからね。




 まずは宿の確保。

 皆で話し合って、取り敢えず2週間泊まる事にした。

 この町に時折遊びに来ていた、レーヴァオススメ宿に連れて行ってもらう。そこは貴族街近くの異国情緒溢れる素敵な宿だった。


「ここなら落ち着けると思うよ」


 1階建ての大きな木造建築で、入口には篝火が揺らめいている。イメージは南国の高級リゾートホテル。

 ……行ったこと無いけれど。



 宿に入ると大きめの受付があった。


「いらっしゃいませ!」

「やあ、お嬢さん。久し振りだね?元気だったかい」

「はい。レーヴァ様もお変わり無く」

「ありがとう。ところで、今日から2週間ほど泊まりで、場合によっては延長するかもしれないんだけれどどうかな?」

「問題ございません。いつものお1人部屋ですか?」

「いや。4人部屋だよ」

「あの、どういったご関係………」

「俺のプライベートを聞きたいのかな?でも内緒。いつか気が向いたらね」


 レーヴァが少し素っ気なく言ったけれど、お姉さんの目は完全にハート型になってますよ。

 いや、それよりもお客さんのプライベートに踏み込み過ぎじゃないですか?



 この後マネージャーっぽいおじさまが慌ててやって来て、宿泊の手続きをササッとして、私達の泊まる部屋に案内してくれる事に。

 ちなみに、この宿で3番目にお高い部屋にしてみたよ。憧れのプライベートビーチを体験してみたかったので!



 この宿は宿泊施設が全てコテージだった。

 平民も泊まれるけれど、富裕層じゃないと泊まれない高級宿なんだって。

 レーヴァはここに何度か泊まったことがあるらしい。

 お金どうしたの?って聞いたら、伝説の武器達はダンジョンや魔獣の素材を旅の商人などに売ってお金にしているんだって。

 人間界(他の種族含む)では商業ギルドに登録していなければ売買は違反になってしまうので、旅の途中を装って町の外で売り、そのお金をプールしているらしい。

 抜かりなし。流石です。



 受付をした本館内を突っ切り扉を出ると、広い敷地に沢山のコテージが並んでいた。

 その向こうには青くて美しい海。

 ザザン…と波の音がして、潮風が気持ち良かった。


 私達が案内されたのは、海に近い大きなコテージ。

 目の前に広がる海は、私達が泊まるコテージ客だけのプライベートビーチ。

 沖合まで魔獣除けが施されているので、波打ち際近辺ならば入っても問題ないんだって。

 後日海水浴しよう。


 それからコテージ近くに建物があり、常駐しているホテリエさんに声をかければ色々な手配をしてくれるらしい。

 至れり尽くせりだね。



「本日7時頃にお食事のご用意をいたします。では、ごゆるりとお過ごしくださいませ」


 案内してくれたマネージャーさんが丁寧にお辞儀をして本館に戻って行った。


 実は今夜だけ食事をお願いして、明日以降はその日に決めるとお願いしたのだ。

 14時までに連絡すれば当日の食事を出してくれるとのこと。

 何でキャンセルしたかって言うと、子供料金無しの1人1万エンだから。

 払えないこと無いけれど、日本にいた頃の節約魂が疼いちゃった。お金をまわす為に使ったほうがいいんだろうけれど。

 ちなみに朝食は宿泊料金に含まれているけれどキャンセル。その分は値引きしてもらいました。




「わあ!」


 コテージの部屋はとても清潔で素敵だった。


「探検しゅゆ!」


 コテージ探索するよ!

 ふと気配に振り向くと、鳳蝶丸がビデオカメラ片手に立っている。

 撮影するの?だったらコテージ紹介しちゃうよ!

 私はテレビタレントになった気分で、扉を開け………られなかったので、鳳蝶丸に開けてもらった。


「こちら、しんしちゅで、ごじゃーまーしゅ」

「寝室でございます」


 クスクス笑いながら鳳蝶丸が通訳してくれる。

 誰に?ってツッコまないでね?


「ベッド、あが、上がえにゃい」


 自力で上がれず、手で触って感想を言おう。


「硬い」


 トテトテと歩きながら次の部屋へGO!


「トイエ」


 一番奥はトイレ。綺麗ではあるけれど、ボットンでちょっと臭う。


「怖い」


 そして大きな穴に落ちそうで怖かった。


「あ!おふよ!おふよ?」


 トイレ横に大きな瓶?と、手桶のような物が置いてある。コテージの床はあえて隙があって、外の土が見えていた。


「おふよ?」

「頼めばここに湯を貯めてくれるから、手桶で掬って体にかける感じだな」


 かけ湯オンリー的な?

 床は湯が隙間から外に落ちる感じかな?台風とか強風の日は、風が吹き上げそうだけれど大丈夫なのかな?覗きとかは?


「ここ、ダメ!」


 あとは荷物を置く部屋とか、使用人の控室とかだった。



 最後はリビング。すでにミスティルとレーヴァが寛いでいた。


「居間、いましゅ。以上、ゆちでちた」

「コテージを紹介してくれてありがとな」

「うん!」


 撮影が終わったのでソファに座らせてもらう。

 ミスティルの腕時計を見るとすでに15時。

 お腹が空いたので、おやつにパウンドケーキを出して鳳蝶丸に切ってもらい、珈琲と紅茶|(ホット・アイス)を出してミスティルに用意してもらった。


「イェーバ、甘いの、ダイジョブ?」

「ん?」

「俺達は何でも食べる。特に好きな食べ物はあるが、食べられないものは無い。気にせず出してくれ」

「あい、わかた」


 ミスティルとレーヴァは紅茶、鳳蝶丸と私は珈琲を選んで、いただきます!


「ん?んんっ。美味いっ。お前達が自慢していただけのことはあるね」

「ふふふ、主の出すもの全て美味しいでしょう?」

「酒も最高なんだぜ?」

「今後が楽しみすぎる」


 嬉しそうに頬張る3人に私も嬉しくなる。

 ん?ちょっと待って?


「自慢?」


 私が出す物の話をいつしたの?


「ああ、俺達伝説の武器は、定期的に集まって報告会議をしているんだ」


 聞けば、遠い遠い昔から、定期的に集まって伝説の武器会議なる話し合いをしているんだって。

 今までは報告することがあまり無かったので、数百年とか数千年に一度とか、そんな単位だったけれど、ここ最近、私が現れてからは割と頻繁に会って話をしているので、レーヴァは初めてあった気がしないんだって。

 ちなみに、私が寝ている時間にどちらかが会議に出席しているらしい。



「姫と過ごす毎日が楽しいとか、何を出されても美味いとか、主が本当に可愛らしいとか、そんな自慢話を毎回しているんだよ」


 おおう、そうなのか。

 私と過ごすのは楽しいって言ってもらえて嬉しいな。私も楽しいよ。皆、ありがとう。




 その後も色々と話をする。

 ダンジョンはわりと楽しかったから別のダンジョンにも行きたいねとか、ミールナイトのお祭りに出た後はどこに行こうとか。


 そういえば今回は結局何日潜っていたんだろう?と思い、コテージのリビングにあるカレンダーのような札のプレートを確認したら、半月強潜っていた事がわかった。

 私は寝ている時間が多かったからかそんなに潜っていた感じがしない。

 2人は元々日にちや時間の関心が薄く、そんなに経っていた?と言う感じみたい。


 思えば日本にいた頃は時間に追われる毎日だったな。

 この世界に来てからそういう日程的なものにそれほど囚われず過ごしていることに気が付いた。お祭りまでにミールナイトに行く、とかはあるけれど。


 のんびり好きなように過ごせるっていいなぁ。何て思いながら段々瞼が重くなる。



 ………………ンハ!



 寝そうになったよ。でもおやつ食べたい。



 コクリコクリ、もぐもぐ、コクリ……………ハッ!



 寝たり食べたり、でも眠くてグズったりを繰り返していると、誰かが抱き上げてくれた。

 背中をポンポン叩かれて、暖かくて、気持ちが良くて、父や母に抱きしめてもらった日々を微かに思い出し、ああ幸せだなと微睡みながら、やがて深い眠りへと誘われていく。



 おやすみなさい。

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