第89話 ギッチギチのあの子はボルケーノキングワームちゃん
岩漿山ダンジョンの33階層にやってまいりました。
目の前に何故か草原が広がっております。
さっきまで洞窟で、ボス部屋の階段を上がり地下鉄の出入り口みたいな場所から出たら大草原でした。
ランクアップしたのか、以前より広範囲表示されるようになった地図をピンチインしてみると、広大な草原の中にちっちゃくポツンと出口が表示されている。
ちょっと意地悪だなって思ったのは、階段を上がって来た前方向では無く、後ろ方向に34階層への階段がある事。
これじゃ、どんなに強い冒険者だって目印も無い草原から次に進めないんじゃないかな?
岩漿山コアの、栄養を吸収してやろうって強い意志を感じるね。
ただ、死の森コアにも言ったけれど、より高い(?)栄養を持つ冒険者が上層にたどり着けないから損してる様な気がするよ?
まあ、君たちに人間を捕食させたいわけじゃないけれど。
「この階層は飛翔系が多いか」
「バイソンやラビット、ルースター、マイアーレ系統もいますよ」
何気なく、遠くを飛んでいる魔獣を鑑定してみると、レッドホットワイバーンと表示された。
名前だけでも美味しそう………。
そして、肉がピリッと辛く大変美味と書いてあるのでぜひドロップしたい。
「お肉、ののっぷ、しゅゆぅ?」
「肉のドロップか?あったと思うぜ」
「あえ、おいちい」
「あれ?ワイバーンですか?」
「うん。ピニッと、かやい。おいちいって」
「ピリッと辛くて美味しい、です?」
「うん」
「なるほど。ヤるか」
「ヤりましょう」
うふふ。
さあ、狩りのお時間です。
沢山お肉を置いていってね?
そしたら
ズバッ!
ズバッ!
飛翔系を狩るために、赤く色付けした結界4を空中に点々と張る。
鳳蝶丸がそれを足場にどんどん狩っていた。
カカカカカッ!
ミスティルも足場を利用しつつ、大弓でガンガン落として行く。
討伐が一段落すると、結界4を解除して移動、夜はテントを張る。
テントの結界に水ジェットを付与して寝ると、魔獣が攻撃して自動で討伐されるし、鳳蝶丸とミスティルが順番に夜の草原に行ったので、朝になるとドロップアイテムが沢山収容されていた。
草原のあちこちにある宝箱を開きながらジワジワ進み、とうとう遠くに出口が見える場所に到着。
今日まで5日費やしました。
出口は大きな洋風の格子門で、後ろは草原なのに、門の中だけ登り階段が見え、とても不思議だった。
転移の門戸みたいな感じかな?
「この辺りから進むとボス戦になる」
門に近づくとエンカウントするらしい。
一歩足を踏み入れると、ゴゴゴゴゴ……大地が不気味に揺れだした。
バッ!!!
二人が左右に飛ぶ。
私達がいた場所の地面から、巨大なミミズもどきが現れた。
また虫?!
ベチャッ
「ボルケーノキングワームだ。こいつは溶岩を口から吐き飛ばす」
ベチャッ!
そのプッって感じで吐き出すの止めてー!
「面倒なので、任せますね」
ミスティルは華麗なステップで攻撃を避けながら、戦うことを放棄する。
「了解」
すると鳳蝶丸が、垂直に飛んだ。
私は結界4の足場を作っては消して、鳳蝶丸のサポートをする。
それをステップにしてどんどん上昇。
ボルケーノキングワームが大口を開けて襲うその瞬間、ナイアガラの滝が如く轟音を発し落ちてゆく水を口の中におみまいした。
ゴーーーーーーッ!
ビッタンッ!ビッタンッ!
のたうち回るボルケーノキングワームが段々と動かなくなりスウッと消えると、格子門がゆっくりと開いた。
何だかあっけなくて拍子抜けだったね。
「行くか」
「そうですね。次は34階層です」
門の中に宝箱があったのでガチャリと開く。中身はミニチュアの格子門だったのでそのまま無限収納に入れて終了。
さあ、次の階に行くよ!
34階層は古代遺跡の神殿みたいな造りだった。
今回は今まで出現した魔獣の上位種ばかり。キングとかエンペラーとか変異種とかが名前や説明についたS級も多数。
とはいえ、2人は強くどんどん進んでいるので、なんの問題もないはず。
「どちて?」
問題無いって思っていたのにちょっと行き詰まる。
通路いっぱいギッチギチにボルケーノキングワームちゃんが詰まっていた。
あまりにもギッチギチなハマりようで、前にも後ろにも動けないボルケーノキングワームちゃん。
時折思い出したかのようにプッ、プッ、と溶岩を吐いているのが何とも…………。
「どちて、しょこ、ハマってゆ?」
間違えて詰まったのかとも思ったけれど、後ろから魔獣達が湧いて数を増やし、挟み打ちっぽくなっている。
「岩漿山コアが俺達を何とか取り込もうとしているのかもしれないな」
どんなに湧いたって、二人が強いから問題ないけれど、進めないのは厄介かも。
「お嬢、結界1を張ってくれるか?」
「うん」
私が結界1を張ったと同時に鳳蝶丸が激流の川みたいな水でボルケーノキングワームを攻撃する。
詰まっているから水が一部戻って来るけれど、ついでに湧きまくっている魔獣達を押し流していった。
討伐がほぼ終わったので結界1を解く。
足止めを食らったので宝箱は放置することにして先を進もう。
走って、走って、
私は鳳蝶丸の背中で2人をサポートしつつ、約2日後にボス部屋近くのセーフティエリアへ到着。
テントを張って半日休暇する事にした。
お風呂に入って、ぐっすり眠り、ご飯を食べたら元気いっぱい。
今日はリヴロースステーキ、サラダ、コーンスープ、ソフトフランスパンにしたよ!
さて、34階層のボスは………。
溶岩のように真っ赤で巨大でゴツい百足みたいなボス。
その名もイラプションエンペラーセンティピード!
シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ
古代遺跡の物凄く広い部屋の中を縦横無尽に移動している。
凄く素早くて、尾(?)や顎の攻撃は強力、おまけに火炎放射の様に火を吐くボスだった。
私は大きめな結界1を張って中で待機、二人は結界を出たり入ったりしながら攻撃を繰り返す。
二人がすぐに倒せないって事は、結構強いんだろう。
でも、楽しそうに戦っているから良いのかな?
うん。
私の家族が楽しそうで何よりです。
ズバン!!
ミスティルのいつもより大きな矢が、イラプションエンペラーセンティピードの眉間に食い込み戦闘が終わる。
鳳蝶丸が水の魔力で攻撃したり、切りつけて敵の体力を削っていたからか、最後はわりと呆気なかった。
ゴゴゴゴゴ…
重い扉が開く音がしたので移動。
扉に入ると、転移装置と宝箱、登り階段のあるセーフティ部屋だった。
「ここを上がるといきなり35階層のボス部屋です」
「戦闘に入ったら直ぐに結界1を張ってくれ。お嬢はその中で待機だ」
「うん、わかた。ミシュチユ、鳳蝶まゆ、気をちゅけて」
「このダンジョンは私の苦手な属性なので鳳蝶丸頼りになりますが、問題無いでしょう」
「力を削るのに多少時間がかかるかもな」
「ボシュ、苦手、他と同じ?」
「そうだな。水か氷だ」
良し。
結界にかなり強めの水ジェットを付与しとこう。
一応2人には、敵が近付いた時のみ発動するから巻き込まれないように、と説明して了承をもらった。
結界待機なので鳳蝶丸抱っこのまま階段を登る。
出た先は連なる山々と深い森、そこにポッカリ開けたフィールドだった。
そして、全身が炎に包まれ、片手に火柱の様な剣を携えた巨人が立っている。
鑑定すると、ムスペルという……魔物?巨人だった。
「ここまでよく来た。最後の試練、覚悟はできているか」
低く重々しい声で巨人が話す。
え?
言語を解するの?
私達が階段を登ったところで動かずにいると、魔物も動く気配がない。
しばらくそのままでいたら、
「ここまでよく来た。最後の試練、覚悟はできているか」
と、繰り返す。
うん。言語を解しているわけではないのね。
「しゃあ、行くぜ」
「結界ですよ?」
「あいっ!」
エンカウント!
途端にムスペルが襲いかかってきた。
私を中心に結界をかけたのでボスの近くまで移動し、私は待機、二人は戦闘を始めた。
ドォーン!
ビューーーーー!!!
私を何とかしようと思ったのか、結界を掴もうとした。
でも水ジェットが発動してムスペルの手に直撃!
ギャアァアァァァァ!
強めの魔力を使った水ジェットだからか、巨大な右手を包んでいた炎が消失し、炭のように黒くなる。
ダアン!
鳳蝶丸が大きな腕を切り落とした衝撃で大地が揺れた。
バスバスッ!
ミスティルの矢がムスペルの両目に突き刺さる。
グアアアァアァァァァ!
目が見えなくなり、見境なく攻撃をするようになる。
片腕に持った火柱剣を振り回し、両足で大地を踏み鳴らす。
「あ…」
私の結界を踏みつけそうになり、水ジェット発動。
アガッ!
グオオォォオオォ!
ドォーン!
もんどり打って倒れたところに鳳蝶丸の攻撃。短剣を振り上げる。
シュパーーーーー!
短剣から水の刃が迸り、ムスペルを気持ち良いくらい真っ二つに切り裂いた。
お股から。
い、痛そう。
下から切ってごめんね?
討伐成功!
正直言って、イラプションエンペラーセンティピードよりも早かったかも。
ムスペルのドロップ品は、イグニスソードと言う真っ赤に燃えている剣だった。
ゴゴゴゴゴ…ガゴンッ
山側から音が聞こえ行ってみると、山の中腹に大きな門が開いていた。
宝箱の中身は頑丈そうな錠前と鍵だった。
私が収納していると、鳳蝶丸がスタスタと部屋の奥まで歩き、死角の壁辺りに何かをしていた。
ガコン!
ゴゴゴゴゴ……
一番奥の壁の一部がズレて、その向こうに道が繋がって見える。
「行けるか?」
「ええ、もちろん」
2人で頷き合った後、私に詳しく説明してくれた。
ここから先は岩漿山コアでさえ干渉出来ない神域で、荊棘ドームの様な場所。
ミスティルや鳳蝶丸は本体を見つけて従者になったけれど、ここでは伝説の武器を手に入れる為の試練があるらしい。
戦闘は鳳蝶丸とミスティルでするけれど、新たな従者を探し出会うのは私の役目なんだって。
うん、やるよ。頑張るよ!
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