第88話 精神耐性高いけど、高いけどお!

虫系が登場します。

苦手な方はご注意ください。

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 2人はゆっくり休めたかな?

 リビングに行くと、すでに2人が待っていた。


「一時的に結界で外からの音を遮断しないでほしいんだが、良いか?」

「外の動きを把握しておきたいですからね」

「うん、わかた」


 鳳蝶丸おんぶで外に出る。皆は寝袋を畳んだりしていた。

 私がテントを仕舞っている間にミスティルが5人を集める。


「ボス部屋に入るので、あなた達も一緒に入ってください。結界を張りますので絶対に出ないように。もしうっかり出てしまっても私達はもう助けません」

「承知しました」

「絶対に結界を出ません」


 4人は緊張しながらもしっかりと頷いていた。



 重い扉を開けると講堂の様な建築物の中だった。それほど広くない。

 私は直ぐに結界を張って、辺りの様子を見ていた。



 ガゴン!



 どこかから石が動いたような音がした。

 静寂の中、私達の間に緊張が走る。


 どうなっているの?凄く静かだよ?

 

 開いたままの地図を凝視する。

 今の所は何も………。


「来るぞ」


 鳳蝶丸の言葉のあと…………………。



 ベタッ


 結界に何かがくっついた。



 ベタペタッ


 それは3cmほどの小さな何か。



 !!



 目を凝らして見ると、胴体が蝉っぽく、ゲジゲジのように脚が沢山生えた小さな虫だった!



「っ!!」



 びゃーーーーーーーーーーーっ!!!



 声が出ず、心の中で叫ぶ。



 ペ………………ペ、ペ

 ペタペタペタペタッ




 ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ!



 結界が小さな虫が張り付いて真っ暗になる。


 虫さんには罪が無いのはわかっている。わかっているけれど、地球にいた時から虫が大の苦手だった。

 今の状況は、精神耐性の高い私でも耐えられないよ!


 思わず目を瞑り、鳳蝶丸の背中に顔を押し付けてしまった。



「シカーダスコロペンドラ!」

「こんな大量に!」

「何てことだ!」


 男性達が一斉に叫び、結界の中心に寄って固まる。


「こいつら水や氷に弱かったか」

「部屋を貴方の水で満たしてしまえば良いのでは?」

「そういや、前もソレしたな。ミスティルはどうしたんだ?」

「私ですか?出口の扉をこじ開けましたよ。無理やり」

「力技だな」


 でも、鳳蝶丸達ののんびりした声色に場が和む。


「何とかなりそうですか?」

「ああ。問題ない」


 鳳蝶丸の答えに男性達がホッとした表情を浮かべたその時!



 ギーーーーーーーーーーー!

 ギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチギチ



 虫が鳴き出した。

 顔を上げると、虫の色が段々赤くなる。

 暗く赤黒い部分と熱を帯びた明るい赤。

 それがモゾモゾ動いて本当に本当に不気味だった。



 怖い怖い怖い怖い怖い。



 私は慌てて目を瞑り、指で耳栓をする。



 クンッ!



 いきなり鳳蝶丸の体が動き、塞いだ耳の外側から男性の怒鳴る声と女性の悲鳴が一瞬聞こえた。



 でも、私は目を開くのが怖くてそれどころじゃない。

 そう、それどころじゃないんだよ、ママン!

 ママンって誰なの!

 いや、もう何考えているのかわかんないよ!



 ここにいるのヤダッ!

 どうしたらいいの?

 消せばいいの?

 虫さんごめん。ダンジョン製の虫さん、さようなら!


 全部綺麗にいなくなって!




 清浄ーーーーー!



 ビカーーーーー!




 ボス部屋中が真っ白く光る。

 男性達の、目が、目があぁぁと言う声だけが響いた。



 やがて静かになってから目を開ける。


「虫、いない?」

「ああ。もういないぞ」

「鳳蝶丸が水を出さなくてもボス戦終わりましたね」

「ありがとうな、お嬢」


 周りを見ると部屋中ピッカピカになり、ひび割れさえ無ければ新築の様に綺麗になっている。


「ミスティル、頼む」

「ええ」


 鳳蝶丸は転送部屋を通り抜け、32階層に続く階段前で足を止める。


「ミシュチユ?」

「転送部屋であの男達を送っている。直ぐに来るから安心してくれ」

「うん」


 ミスティルが直ぐに戻って来たので安心する。


「2人にお礼と、よろしくと言う事でした」

「うん。あにあと。あのちと達、たしゅけて、ごめんね?嫌だったね」

「嫌では無いので大丈夫ですよ」

「ああ。気にするな、お嬢」

「私達はあの女性の性質があまりよろしくないので警戒していただけです」

「今後も思い通りにしていいからな。俺達はお嬢が何をしても、どんな事をしても、色んな角度で楽しんでいるから心配するな」

「ただ、主を守るために何かしらの処置をする事があります。それだけは承知していてくださいね」

「あい。だいじょぶ。あにあと」


 私達は笑顔で次の階に向かったのだった。




 数年後。

 雑談の最中に岩漿山の31階層ボス部屋で、あの女性が亡くなったと聞いた。

 結界の近くで外側に体を向けていた鳳蝶丸と私の背中を押して、結界の外に出そうとしたらしい。

 でもいち早く鳳蝶丸が気付き体を避けたので、女性は勢いを止められずそのまま結界外に走り出てしまったらしい。


 私はその頃虫に怖くて気づかなかったよ。

 ボス戦後、足早に進んだのは私が心を痛めるだろうという判断だったみたい。


 どういう理由で私達の背中を押そうと思ったのか。

 今はもう想像でしかないけれど、やはりリーダーを助けなかったことへの恨みかな?そもそも既に吸収された後だったし、何故間に合わなかったって言われても知らなかったんだから助けようが無いのに。


 でも、やっぱりあの当時聞いたら悲しくなったかも。

 私の家族は優しいね。


 ありがとう!大好きだー!




 

 32階層は虫系の魔獣ばかりだった為、2人が討伐しつつガンガン進んでくれました。

 私が苦手だからと合わせてもらっちゃってごめんね。


 ちなみにボス戦は巨大なスズメバチで、ドロップ品はホットハニーと言う蜂蜜(液体)。

 ホットハニーは何故か暖かくてとてもサラサラしている、でも甘くて濃厚な香りの美味しい蜂蜜。鑑定すると細菌(ボツリヌス菌)も無く、小さなお子様でも口にできるものだった。

 魔獣産だから?


 地球の蜂蜜は、1歳未満の赤ちゃんに食べさせちゃダメだよ!

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