第87話 魂の安寧を……

 ビンッ!カカカカカッ!



 その間、魔獣が襲ってきたのでミスティルが矢を放つ。

 結界は問題ないけれど、増えすぎても困るからね。



「アンタ達を助けてやらなくもないが、条件がある」

「助けてくれるのか?」

「条件を承諾したらな」


 男性がしばらく考えて、ゆっくりと頷いた。


「条件を言ってくれ」

「ダンジョン内で俺達に会った事を誰にも言わない。俺達がした事も誰にも言わない。ダンジョンを出るまでは俺達に逆らわず指示通りに動く。ドロップ品は諦めろ」

「わかった。その通りにする」

「目覚めた奴にも説明をしてくれ」

「ああ」

「では魔法契約を交わしてもらう。契約内容は俺達に会ったこと、俺達の能力やした事を誰にも言わない。その他どんなやり方で伝えるのも禁止だ。違反すると口、手足が1時間全く動かなくなる」

「ああ、その内容ならば契約しよう」


 鳳蝶丸が空中に魔法陣を展開した。

 途端に女性が首を横に振る。


「私は承知していないわ」

「マキトム」

「私は嫌よ。魔法契約なんて」


 頑なに拒否。


「アンタが承知しようがしまいが、勝手に契約をするから問題ない」

「勝手に?そんな事出来るわけ無いじゃない。魔法契約が出来るのは本人の同意が得られ……………」

「もう終わった」

「は?」

「アンタの分はもう終わった」

「え?」


 【虹の翼】に契約を行わなかったのは、信頼できる人達だと判断したから。

 今回は男性は良いとして女性は信用できない。

 赤点だからね。


 鳳蝶丸が魔法契約を行っている間、鑑定をしてミスティルに寄ってもらう。


「死亡、3人、間に合わにゃい」

「わかりました」


 鳳蝶丸による魔法契約が無事に終わると、今度はミスティルが3人に近寄った。


「全員助けるのは無理そうです。出来るだけの事はしますが文句は言わないように」


 ミスティルがマキトムと呼ばれた女性を冷たく一瞥して言う、と同時に私が治癒魔法をかける。

 結界の中がカッと光りやがてゆっくりと収まると、大怪我していた男性が目を開けた。


「ラッタ!」

「俺は………」


 最初の男性が駆け寄り大怪我をしていたラッタさんを助け起こす。


「痛みがない」

「良かった。治ったんだな」


 2人が喜びあっていると、他の男性2人が起き上がった。


「イラプションレッドベアー!」

「どうなった!」


 すると、起き上がった2人をポカンと見つめる3人。


「どうなっている!」

「な!何してる!魔獣が来てるぞ!」

「お前達…………死んだ筈では?」

「は?」「え?」


 最後に亡くなった2人は助けることが出来た。

 先に亡くなった3人は残念ながら駄目だったけれど……。


「まさかそんな………、き、奇跡だ!」

「俺達が死んだって、どう言うことだ?」

「どうなっている?俺は助かったのか?」

「何で?ねえ、ジェンルーは?」


 皆混乱している。

 収集がつかないので、最初に話をした男性を呼んだ。


「2人は死亡してから時間が経っていなかったからか助かりました。でも他3人は無理でした。吸収された人はどうにもなりません」

「死者でも息を吹き返す……今の世には無い、賢者様がお使いになっていたプレミアムヒール!」


 何度聞いてもプレミアムビール………。


「貴殿は賢者様!」

「………外で話さないように」

「はいっ」


 大分興奮している。


「プレミアムヒールの代金は一生かけて支払います!」

「いや、代金はいらん。外で話さなければいい」

「しかしっ!」

「感謝の気持ちがあるならば、俺達に出会う機会を与えてくださった神々に感謝すればいい」


 何と言う温かい優しさ!と、感極まる男性。

 でも私は全員救えなかったよ?

 私が少し落ちこんでいると、ミスティルが頭を撫でてくれた。



「落ち着け。経緯と魔法契約の説明を他の奴にして、それから遺体をどうするか話し合ってくれ」

「はい」


 未だワアワア混乱している集団と話し合いをさせる。


 私達はその間、湧き出る魔獣を間引いていた。

 ちなみに鳳蝶丸の背中で私はストローマグのお水を飲んで、あとはウトウトしていたよ。


 話が終わったらしいので結界に戻る。

 承諾を得て残りの2人にも魔法契約を交わした。

 ご遺体は連れて行けないのでこの場に残すことにしたらしい。皆悲しそうに形見の品を袋に入れていた。


「お前達とパーティが組めて楽しかったぜ」

「ありがとうな」

「お前達の形見の品は家族に渡しておくからな」




 ウル様。冥府の神様。

 どうか彼らに魂の安寧を。


 私は祈る。

 心からの祈りが自然と声となり、歌となった。

 私の知る弔いの歌を地球の言葉で死者に贈る。



 気がつくと周囲が輝き、キラキラと光る魂が登って行く。

 ここは洞窟だけれど、不思議なことに、魂が青空にゆったりと消えて行く姿が視えた。


 その様を4人の男性が見上げている。



「天の世界へ旅立ったのか?」

「こんな光景は初めてだ」

「聖女様…………」

「聖女様に見送られるなんて奇跡だ。ある意味羨ましいぜ」


 私にとって、この世界で初めて間近に見る[死]であった。






「今後についてですが、あなた達には私達と一緒にこの階のボス部屋まで行き、戦闘後にダンジョンを出てもらいます」

「え?も、戻るのではなく?」

「何故戻る。アンタ達には我々と共に先に進んでもらう」

「戦わなくても結構です。見学していてください。ちゃんと外に送り出しますよ」


 パチン!


 ミスティルが指を鳴らすと、空中から棘を引っ込めた荊棘ちゃんが5本現れ五人の胴に巻き付きた。5人は驚いたり悲鳴をあげて逃げようとしたけれど、荊棘ちゃんの方が早く、あっと言う間だった。


「結界2と浮遊をお願い出来るか?浮遊は、そうだな。ミスティルの体の高さと一緒にする、と調整をしてもらいたい」

「わかた」


 小声で打ち合わせをしてすぐ、声を外に漏らさない(外からの声は聞こえる)を付与した結界2と浮遊を5人にかける。


 フワリ


 突然浮かんだ体に驚き叫び声を上げていると思うけれど、音を遮断しているのでとても静か。

 そして荊棘ちゃんに繋がった姿はまるで風船の………。ううん、そんな事考えちゃいけないよね。


「結界1、解除、しゅゆ。さよなら、しゅゆ」


 鳳蝶丸に耳打ちして未だ叫んでいる、と、思われる5人に、結界を解くと吸収が始まる。仲間の見納めだぞ、と告げてもらった。


 4人は静かになり、振り向いてご遺体を眺め、祈りのポーズを作っていた。

 そして、私達に顔を向けゆっくり頷く。

 私が結界1を解いたと同時に鳳蝶丸とミスティルが岩を蹴ってその場を後にした。






 凄いスピードで先を進む。

 魔獣は蹴散らしている程度でほぼ無視をしていた。



 ザンッ!!

 カカカカカ!



 空中移動中なのでフレイムラージバットに邪魔をされるけれど、2人はものともせず進んで行く。

 他の5人はと言うと、ミスティルの後ろの空間から伸びている荊棘ちゃんと一緒に私達の後をついてきていた。

 最初はわーわー叫んでいるっぽかったけれど、今は真顔で棒立ちになっている。気絶しないのは流石………あ、あの女性は気絶中だった。




 地図にセーフティエリアと表示されているところがあったので休憩することにした。

 そろそろ朝食だよね。


 次第にスピードを落とし、セーフティエリアに入る。

 念の為結界1を張って5人を開放した。


「こんな進み方するとは思わなかったぜ」

「安全そうだからありがたいが」


 ヘナヘナと座り込む4人に食事は持っているか聞くと、携帯食を持っているとの事なので、それぞれ食事をすることにする。



「うん、いつ食っても美味い」

「全部好きですが、おかかが美味しいです」


 ミスティルが簡易テープルと椅子を出し、鳳蝶丸が食べ物と飲み物を用意する。

 今朝はおにぎりセット(しゃけ、タラコ、おかか、ツナマヨ、煮豚)と、豆腐と長ねぎのお味噌汁、温かい緑茶の朝食です。

 私は鮭とタラコを食べたよ。


「それは何て食い物ですか?」

「初めて見る」

「握り飯と味噌汁と茶だな」

「う、美味そうですね」

「2,500エンで売ってもいいぜ」

「買います!」


 4人の男性がお金を出すと、鳳蝶丸がおにぎりセットとお味噌汁と緑茶を渡す。

 初めての食べ物なのに躊躇することなく食べ始め、美味い美味いとおにぎりを頬張っていた。


「賢者様と、聖女様。貴方様は剣聖様でしょうか?」

「あー。どれも違うな。俺達は賢者でも聖女でも剣聖でも無い」

「え!あれだけの強さと死者をも蘇らせる術をお持ちなのに?」

「あー……とにかく違う。それより、何故31階層を進んでいた。行けると思ったか?」


 4人はピクリと体を固くさせ、そして今回の出来事を話し始めた。



 彼等はいくつかのパーティが集まって協力体制をとっている集団グループらしい。

 リーダーはジェンルー。

 切磋琢磨してクラスAになった者も出始め、コアコアではちょっとした有名集団グループになっていた。


 彼等は29階層まで制覇出来ていたけれど、皆強くなってきたので30階層にアタックし、ボス部屋のイラプションレッドベアー(1体)の討伐に成功。

 勢いに乗って31階層に行くか、転送で戻るかの話になった。

 リーダーであるジェンルーが、まだ人類未踏の階層をこのまま進み岩漿山を初制覇したいと言い出し4人が賛同、残りはポーションが底を突きそうだからと反対した。


 とりあえず少しだけ進んで様子が見たい。直ぐに転送部屋に戻ると言うことだったので31階層に入ったが、何とか倒せるB級の魔獣ばかりでリーダーがどんどん進んでしまう。

 話が違う。今からでも戻ろうと言ったがそれを無視して進み、分散すると危険だと判断してリーダーに着いていった。


 途中から急に強い魔獣が出現するようになり、とうとうポーションも無くなった。

 慌てて引き返そうとした時にイラプションレッドベアー5体に囲まれてしまい、今に至る、と言う説明だった。


 途中まで倒せる魔獣にするなんて、岩漿山コアちゃんも考えたね。そしてその罠にまんまと引っ掛かってしまったんだ。


「何よ!ジェンルーが悪いって言うの?」

「悪いとは言わんが、判断を誤っただろう?」

「ポーションもほぼ無くなっている状態だったんだから引き返すべきだった」

「俺達を騙す形で進んだし、何度止めても俺等をバカにして聞く耳持たなかったじゃないか!」

「ジェンルーはクラスAなのよ?進めると判断したからじゃない。あんた達が弱っちいからいけないのよ!」

「だったらクラスAだけで集団グループ作りゃ良かっただろう!」


 言い争いが始まった。

 それは外に出て好きなだけやってくださいって事で、荊棘ちゃんがまた巻き付き、私が結界2で声も遮断。


「行くか」

「うん」


 再び凄いスピードで先に進んだのだった。




 ご飯の時だけ休憩し、ほぼノンストップでボス部屋前のセーフティエリアに入る。

 ここまで何と!2日弱。早く離れたいからと相当飛ばしたらしい。


 余計なことに首を突っ込んでごめん。放っておけなかったんだよ。



 エリア全体に結界を張り、半日休憩するので自由にしてと伝え一時解散。

 私達はテントを張り(ペグ無し)中で休んだ。

 何回か赤点がテントに入り込もうとしていたけれど、結界張っているから入れないよ。

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