第86話 31階層で冒険者と出会う

「じゃあ、冒険者、ギユド、登録しゅゆ?」

「そうだな。今後、ドロップ品を売るのに登録するのもアリかもな」

「ただ、指名依頼などあると面倒臭いです」

「それだよな」

「ビョーク、ギユマシュ、頼む?」

「彼はまだ帰って来てないと思いますよ」


 と言うことで、今回は忍び込む方向に相成った。






 私達は今、人のいない海岸にいる。

 昼間は町をブラブラして過ごし、暗くなってからここに来た。


 暗視に切り替えると、海岸線ギリギリから柵が伸び、少し離れた場所に大きな柵門がある。門の前には門番が二人。近くには大きな建物。

 門の先は海なのに門がいるの?と聞いたら、引き潮になると道が現れて、その時開門するんだって。


 デリモアナ王国の全体図を見ようと地図を開く。



 ん?

 んん?



 ダンジョンに?マーク!

 鳳蝶丸の時もミスティルの時も表示されたよね?


 って事は、新しい仲間だ!


「でんしぇちゅの、武ち!」

「ん、正解」

「はい」

「会う、楽ちみね、頑張ゆ!」



 そうだったんだ。

 でも、居場所を教えてはいけないのでは?って聞いたら、その条件はウル様だし、鳳蝶丸達も詳しく伝えていないのだから問題ないのだと言う。

 確かに2人は伝説の武器がいるよ、とは言っていないもんね。


「山、あしょこ、飛ぶ?」


 頂上付近を指すと鳳蝶丸が首を横に振る。


「山の中がダンジョンになっているんだ」

「洞窟は下がるタイプのダンジョンが多いのですが、こちらは上がっていくタイプなんですよ」

「俺達は戦うが、お嬢はその間結界を張って待っていてくれ」

「うん。魔獣、来ゆ?」



 普通の道や森では、魔獣が私達を遠巻きに見るばかりで襲ってこない。それは、私が半分神だかららしい。

 でも、ダンジョンの魔獣は卵、若しくは母体から生まれた魔獣とは違うらしい。

 人などを呼び込む為ダンジョンコアに作られた意思無き獣なので、相手が強者であろうと神であろうと襲ってくるんだって。

 ましてや私達の様に大きな力を有する者を取り込みたくて、反対に襲わせる事が多いらしい。

 死の森みたいに、ダンジョンコア自体が私達を認識して魔獣に襲うなと命じれば襲ってこないけれど。

 そういえば死の森も最初は私達を取り込もうとしていたもんね。


「久しぶりの戦闘ですね」

「お嬢を守りつつ思いっきり暴れるか」


 心なしか二人がウキウキしているね。

 考えてみれば二人は武器。

 常日頃、ヤッちゃダメとお願いをしている。でも彼等の本分は戦うこと。

 武具には、武器、宝物、美術品と色々な形があるけれど、特に伝説の武器達は本来勇者と共にあるはずだった戦闘の為に存在しているのだ。

 毎日楽しいと言ってくれる二人に甘え、平和に過ごすばかりで申し訳ないことをした。深く反省しなくては。だから今後、魔獣討伐やダンジョン攻略で思いっきり戦ってもらおうと思う。




 このダンジョンは35階層。30階層位から手応えのある魔獣が現れるらしい。だから上層まで駆け抜けると言う事なので2人にお任せした。


「行くか」

「主、気配完全遮断してください」

「うん」


 各自気配完全遮断、私は鳳蝶丸おんぶで2人にも結界3を張る。

 そして、飛行ひぎょうで真っ暗な海を渡り、難なく岩漿山の麓に到着。

 ダンジョンの入口付近に行くと、広場に沢山のテントが張ってあった。

 気配完全遮断中なので誰に気付かれることなくダンジョンに突入。飛行ひぎょうのまま一階を駆け抜けた。


 ボス部屋前に到着。辺りに誰もいない。


「昼より強力な魔獣が出現するし数も多いので、夜は皆セーフティエリアで待機するんですよ」

「特定のドロップ品狙いで夜活動専門のパーティーもいるらしいが、多分数も少ないだろう」


 そう言いながらあっさりボス部屋へ入り、あっさり戦闘が終わる。

 それを繰り返しているうちに眠くなり、私は鳳蝶丸の背中でウトウトしてしまった。



 クンッ!



 突然の揺れで目が覚める。

 目を開けると目の前に2階建てくらいありそうな大きな熊がいた。

 鳳蝶丸はその攻撃をヒョイヒョイ躱し、ミスティルは大弓で射っていた。


 アッサリと倒し終わったので周りを見渡すと、ガランとした講堂くらいの部屋だった。


「ここ、どこ?」

「ここは30階層のボス部屋だ。多少手応えのある敵が増えてきたな」

「わたしはこのダンジョン相性悪いんですよね……。楽しいけれど、少し倒しにくくなってきました」

「ミスティルは木属性だからな」

「ええ。火属性相手だと急所を狙うしかありませんね」

「鳳蝶まゆは?」

「俺は水属性だから火属性は倒しやすいな」


 そうなんだ。

 小説や漫画で読んだ何とか属性ってやっぱりあるんだね。岩漿山は火属性の魔獣と、火属性の仲間かな。


 ん?そういえば、私はこのダンジョンに入ってから熊の魔獣以外見ていないや。

 起きていた時は魔獣無視で飛行ひぎょうだったし、気配完全遮断のままだったし、あとは寝ていたし。

 二人はボス部屋の時のみ気配完全遮断を解除して戦っていたんだって。



 ボス部屋奥の扉がガチャリと開き、扉を進むと小さな部屋に出る。


「たかやばこ!」


 ゲームを思い出してワクワクした。


「お嬢が開けるか?」

「ううん」


 そのたびおんぶ紐を解くの大変だからお任せするよ。

 宝箱からはマカマカの斧が出てきた。それをミスティルに仕舞ってもらい奥へと進む。

 奥には登り階段があり、2人は駆け上がった。



「31階層だ」

「ここからは徒歩で進みます」

「お嬢はこのまま、俺の背中にいてくれ」

「うん、わかた」


 洞窟は光源となっている岩があちこちに存在していた。

 何で岩が光っているの?と聞いたら、人などがダンジョンに入りやすいようダンジョンコアが作りだしているとのこと。

 下層は溶岩が溜まる場所があちこちにあって、もっと明るいらしい。


 暑そう………。



 私達は魔獣を倒しながら先へ進む。

 31階層は、イラプションレッドベアーが多めに出没。

 他にはボルケーノディモンラット、ブラストバーバラスラビット、イグナイトフライングフォックス、ブレイズボア、フレイムハウンドドッグ、フレイムラージバットなど、火属性のA級魔獣が出没する。


 鳳蝶丸おんぶのまま地図を開き道を確認していたけれど、何も言わなくても2人は迷いなくどんどん進んで行く。何なら、道を外れて宝箱までいただいていた。

 少し落ち着いたタイミングで聞いてみたら、2人は別々に何度か来たことがあるんだって。


「31階層からかなり広くなる。普通の人間ならば通り抜けに2ヶ月弱だろう」

「山、上が、ひよくなゆ?」


 頂上近くなのに、下層より広くなるの?

 ダンジョンって不思議。


「あ!」

「ん?どした?」

「2ヶげちゅ、困ゆ。おまちゅい」

「ああ、祭りか」

「我らは2、3日で抜けられるので大丈夫ですよ」


 2日として、35階層も含めて約15日か。

 だったらいいや。




 ザシュッ!

 カカカカカッ!



 2人の討伐スピードが半端ない。

 ドロップ品を拾わなくても自動収集してくれるからか、宝箱を拾うため時折止まるくらいで洞窟内を爆走。


 しばらく行くと、地図に人の反応があった。

 いち、にい、……10人かな?

 でも、そのうちの5人は、灰色点で、この世界に来て初めて見るの点の色だった。


「鳳蝶まゆ、ミシュチユ、ここ、行って?」

「助けるのか?」

「うん。近く行って、見ゆ」

「わかりました」


 急いで向かう。


「あ、8人、なた」

「ダンジョンに吸収されたんだな」

「でも、灰色点、5人」

「おそらくその灰色点は死亡者です。2人亡くなり2人吸収されたんですよ」


 白点3人。

 何とか間に合って!


 現場が見えてくる。

 4頭のイラプションレッドベアーが冒険者に攻撃を仕掛けていた。


 冒険者は皆バラバラの位置にいるため結界1は使えない。

 どうしようか迷っていると、1人がイラプションレッドベアーに噛みつかれそうになっていたので、慌てて結界3を張る。


 ガキン!


 イラプションレッドベアーの歯がボロボロ落ちて、口から血が大量に流れる。だが、それに構うことなく鋭い爪で目の前の冒険者を薙ぎ払った。

 冒険者の体は吹っ飛んだが、爪による傷はつかなかっただろう。

 他の1人は地に倒れ、もう1人は倒れている人の側で蹲っていた。


 亡くなった人も含む、皆に結界3を張る。

 その間に鳳蝶丸とミスティルがイラプションレッドベアーを倒していた。




 結界1を大きく張り、吸収されていない5人の遺体を結界内に運ぶ。


 生き残ったのは3人。

 イラプションレッドベアーに噛まれた人は屈強な体躯の男性。

 倒れて意識が無い人は中背の男性。

 蹲っていた人は女性。

 皆下を向き、女性はずっと泣いていた。


「助けてもらい、感謝する。続けてで申し訳ないが、ポーションを売ってもらえないだろうか?ダンジョン内で君達にとっても貴重品なのはわかっているが、どうか頼む。せめて、倒れている1人を助けたい」

「ポーションはない」

「え?」

「例え持っていたとしても、この後どうする?俺達は先を進む予定だが、武具も傷み丸裸に近く、ポーションも無く、3人しか残っていない。引き返すことも出来ないんじゃないか?」

「ハ………ハハハ……………。言われる通りだ。俺達に後はないな」


 すると、フルフルと慄えていた女性がギッと私達を睨む。


「どうして………どうして…………どうしてもっと早く来てくれなかったの?どうしてもっと早く助けてくれなかったの!もう少し早く来てくれればジェンルーが助かったかもしれないのに!」

「止めろ!この人達のせいじゃないだろう!」


 男性が一喝すると女性が口を噤む。

 すると鳳蝶丸とミスティルが盛大にため息をついた。


「………アンタ達がこの階層をアタックしていることも知らないのにどうやって駆けつけろと言うんだ」

「あなた達冒険者は死と隣り合わせでしょう?その覚悟もないのに冒険者登録したのですか?死を想定出来ないなら冒険者なんて辞めて、おままごとでもしていてください」


 うーん………辛辣。

 でも、二人は間違っていない。この世界は死が身近にある。冒険者ならば尚更。

 悲しみも混乱もわかるけれど、私達に当たり散らすのはお門違いだよね。


 それにしても、怪我をして唸っている人はどうするんだろうか?

 治療しなくてもいいの?


 私が鳳蝶丸の肩をチョンチョンと突くと、スッと後ろに下がってくれた。


「わたち、治しゅ。お金、いなない。ダンジョンで、わたち達会った、だえにも言わない、神しゃま、感謝しゅゆ、条件」


 そっと耳打ちすると、鳳蝶丸がニコッと笑って頷いた。

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