第85話 Ah...憧れぇのっデリモアナ航路~

 港はとても賑わっていた。

 大きな帆船や魔導船は沖合に、中型や小型船が港に停泊している。

 頭の上をウミネコらしき鳥が飛んでいて、ミャア、ミャア、と鳴いている。

 時折聞こえるギョエエェと言う鳴き声は何の声だろうか。



「あれがデリモアナ王国に向かう船だ」


 それは桟橋に停泊中の中型客船だった。 

 フェリアの船はガレー船やキャラック船みたいなものと勝手に想像していたんだけれど、今から乗るのは外車船に近い型の魔導船。船の両側に水車のような車輪がついている。

 地球だと外車船は蒸気船が多く、波など少ない河川に使用されることが多い……だったかな?

 フェリアでは、動力部分に魔力を貯めた魔石を使っているし、車輪部分は軽くて丈夫な鉱石で出来ているので壊れにくく、海の波があっても推進力には問題無いんだって。

 何となく気になったので2人に聞いてみたら、キャラック船やガレオン船みたいな帆船もあるらしい。

 いつか乗ってみたいな。



 船には渡り足場が設置され、もう乗船が始まっている。


「どれくらい、ちゅく?」

「2時間半くらいだな」

「中に売店もありますよ」

「やた!」



 船のそばまで行くと、船着き場の入り口に係員が2人いて、乗船券を回収していた。

 私達も3人分の券を渡し、乗船の列に並ぶ。


 渡り足場は可動式の建築工事の足場みたいな形で、その階段を登り、船に渡された橋のようなものを渡る仕組み。

 足の悪い人やお年寄りは難しいのでは?と聞いたら、そういう人は滑車で荷を揚げ下げするリフトみたいなものがあって、それで乗船するんだって。


 出港までまだ時間があるので、私達が行ける範囲を見て回る。

 ミスティル情報によると、こういう船は大まかに6層に分かれていて、5層目の船底に砂のバラストを積み、4層目に荷物と船員の待機部屋、3層目は客室|(個室含む)、2層目はデッキと休憩所、1層目は操舵室と言う構造らしい。

 私達は2層目のデッキで過ごすんだって。


 デッキをウロウロしていると、さっき言っていたリフトが可動していたので覗いたら、ムッキムキの屈強な船員さん達が滑車にかけられたロープをいい笑顔で引いていた。

 超笑顔だった。嬉しそうだった。ハアハアしていた。


「見てはいけません…」


 何故かミスティルに見学を中断された。



 売店はデッキにあると言うので早速行ってみる。

 売店には水や果実水、軽食、お土産らしき貝のネックレスなどが置いてあった。

 ココナッツジュースも売っており、ココ椰子の実にストローのようなものを差して売っている。

 ココナッツジュース…………フェリアに来たばかりの頃、飲んでみたくて四苦八苦したっけ。

 結局、粉砕してしまって飲めなかった思い出………。切ない。


 私達が過ごすデッキには船端から2メートル内側にぐるりと線が引かれ、その中がセーフティエリアとしてお客さん達が過ごす場所なんだって。

 室内の休憩所には机と椅子。デッキの一部にはベンチなどが置かれていた。


 私達はデッキの端にあるベンチに座り出港を待つ。

 地図で確認すると周りに赤点も黄色点もいなかったので、結界を解いた。

 途端に感じる気温は暑く、直射日光が眩しい。

 ギラギラした強い光を遮るため、自分達の頭の上に平面の結界4をそっと張った。イメージは軒先とかバス停の屋根とかそんな感じ。

 肌に感じる暑さはあるけれど、日本みたいに湿気はなくカラッとしているし、結界で直射日光を遮っているのでわりと快適!


 3人でこれから行く国の話をしていると、冒険者がデッキのセーフティエリア外に待機を始め、桟橋の係員が大きな声を上げた。


「出港!」



 ピーーーーー!



 操舵室から出港の合図と汽笛が聞こえ、船がゆっくり動き出す。



「わああ!」


 ゴウンゴウンと言う車輪が回る音。

 ザザザザザーッと車輪に運ばれる水の音。

 陸からゆっくり離れていく景色。

 潮の香りを運ぶ風。



 旅行気分でワクワクしながら景色を眺めていた。




「あれ?ゆきちゃん?」

「ん?」


 振り返るとカルメハオさんが立っていた。


「おにいたん」

「!!!うんうん、お兄ちゃんですよ」


 お兄ちゃん呼びに大喜びしてくれました。


「旦那もデリモアナへ向かうのか?」

「ああ。指名依頼があってアハーロにいたが、元々俺達の拠点はデリモアナなんだ。アンタ達はハロハロの商業ギルドへ来たんじゃないのか?」

「目的はデリモアナ観光ですよ」

「そうなんだ。嬉しいねぇ。自然豊かな国だから、山の幸、海の幸、両方堪能できるぜ。そうだ!案内しようか?」

「いや、先に用事があるんだ。気持ちだけもらっとくよ」

「おにいたん、ごめんね」

「!!!、いいんだよ。俺達はマカマカの冒険者ギルドで活動しているから、何かあったらいつでも声かけてくれ」

「あい、あにあと」


 カルメハオさんは、じゃ、俺は個室なんで、と言いながら戻って行った。


「マカマカ?」


 カルメハオさんの言ったマカマカって何だろう?と思い、2人に聞いてみる。


 曰く、デリモアナ王国は、真ん中にダンジョンの岩漿山がそびえ立つ島とそれを挟むような二つの島、併せて三つの島が横に並ぶ小国なんだって。

 ハロハロと航路が繋がっている方はコアコア。ダンジョンの向こう側にあるのがマカマカと呼ばれていて、マカマカに王都のデリモアナがあるんだって。


 カルメハオさん達は普段マカマカの冒険者ギルドで活動していて、岩漿山攻略を目指しているのでは?と言う事だった。

 マカマカに会いに行けば観光案内してくれるかも?




 しばらくすると、空模様が怪しくなる。


「スコールが来そうだな」

「室内に入りましょう」

「うん」


 海の向こうから雨雲が近づいて、その下は大雨なのが見えた。

 南の島にいる時も見たけれど、パッキリ境目がわかる雲と雨って面白いよね。


 ザーッ


 雨の間は売店を素見す。

 お土産は島で買うとして、狙っていたアレを買おうかな。


「ココナッチュ、ジューシュ、くだちゃい」

「はい、かしこまりました」


 若いココ椰子の実の一部を大きなナイフで切り取って、ストローを差し渡される。


 これこれ!

 地球でも飲んだこと無いんだよね。南の島でも飲めなかったし。

 確か、ココナッツジュースは飲む点滴と呼ばれていたな。

 ココ椰子の実はミスティルが持っていて、ストローを口元に持ってきてくれる。


 ちなみにストローは植物の茎で、水分を飛ばして乾燥させたものらしい。

 口に加えても無味無臭で飲み物の味や香りが混ざらないのが良いね。廃棄しても土に帰るので環境汚染が無いところも良いね。


 では、いただきます。



 チューッゴクン



 美味しい!


 地球では味が今ひとつと耳にした事があるけれど、フェリアのココナッツジュースは香りと甘さがデザートみたいでとても美味しかった。


「こえ、おいちい」

「そうか。良かったな」

「鳳蝶まゆ、ミシュチユ、飲む?」

「いいえ。全て主のジュースですよ。ゆっくり飲んでください」


 鳳蝶丸も笑顔で頷いたので、遠慮なく私が全部飲みました。



 スコールが通り過ぎたのでまた結界4を張って外に出る。

 そして、景色を眺めたり、おしゃべりを楽しんだりしているうちに寝ちゃったみたい。

 気がついたら、デリモアナ王国の港が見える場所まで来ていた。


「わあ!」


 デリモアナ王国は、建物の壁が真っ白く、瓦のような屋根は暗めのコバルトブルーで、青空に映えとても美しかった。

 港町も、山に沿う建築物も全てその色で統一されている。


「白、青、きえい」

「本当ですね」

「イックイの樹脂とオッコソルトの果実液を混ぜて塗ると真っ白になるんだ」

「オッコソルトは塩害に強いので、果実液を壁に塗ると建築物の保護が出来ます」

「ちなみに木製部分はオッコソルトの樹木を使用している。理由は果実液と一緒だ」

「しゅごい」

「難点を言えば暑い地方でしか育たない事と、とても硬くて切り出しにくい事と、重い事だな。扱いづらい樹木とも言われている」


 おお、勉強になる。

 オッコソルトは、岩漿山でドロップするマカマカの斧とかマカマカのノコギリなどの工具シリーズならば苦なく切れるんだって。


 あと、ダンジョンドロップのマカマカクレイは、オッコソルトの果実液を混ぜて焼くとあのコバルトブルーの瓦になって、もちろん塩害に強いらしい。


 オッコソルトの果実液って、白になったりブルーになったり不思議だね?




 それにしても、目の前の景色は何となく地中海っぽい?ウル様は地中海の島々みたいにしたかったのかな?

 私のイメージはハワイなんだよね。色々混ざっていて面白い。




「着港!」



 ピーーーーー!



 船が方向転換、後退で着港し、しばらくして渡り足場が設置され人々が降りて行く。


 あ!【海の息吹】のお兄さんだ!

 キョロキョロと周りを見て私に気付き、手を振ってくれる。

 私も彼らに手を振った。



 港には大きめの門があり行列が出来ていた。私達も最後尾に並び順番を待つ。

 入口近くまで来るとデリモアナ王国の近衛兵達が見えた。ムキムキマッチョで肌が浅黒く精悍な顔つき。皆髪が長く後ろで結っている。紺や深緑、赤黒など暗い系の髪色が多かった。



「身分証は持っているか」


 私達の順番になり、商業ギルドカードを見せる。

 透明の板に載せるように言われて置くと、板が緑に光った。


「問題なし。デリモアナ王国にようこそ」


 先に進むよう促されて真っ直ぐ歩く。

 門から出るとそこは白と青で統一感のある美しい港町だった。


「きえいねえ」


 キョロキョロ周りを見ていると、出口に立つ衛兵と目が合う。

 思わず手を振ると、ニコッと笑顔を浮べ小さく手を振り返してくれた。



「あれがこの国のダンジョン、岩漿山だ」


 町の向こう側にかなり大きな山がそびえ立っていた。噴火で隆起したのか、形は富士山に似ている。

 山の中腹まで植物が生え、頂上に行くほど土か岩の様な色に変化している山だった。


「夜まで待ちましょう」

「ああ」

「どちて、よゆ?」

「基本的にダンジョンは冒険者か騎士、衛兵など戦闘可能な者しか入れません」

「俺達はどこにも属していないから本来は入れない。が、飛行ひぎょうで忍び込むつもりだ」

「気配完全遮断をするとはいえ、明るい時間はそれなりに目立ちますからね」


 お、おう。

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