第84話 海千山千ギルド長
「おはようお嬢。門が空いたぜ」
眠い目を擦っている間に仕度が進み、白い半袖のポロシャツ、デニムのオーバーオール、白の靴下と、ライオンさんベビーシューズを履いていた。
「おはよ」
「はい、おはようございます」
外に出るとまだ夜が明けたばかりだった。
まだ少し眠くて鳳蝶丸に抱き上げられながウトウトする。
「テント仕舞えますか?」
「うん……」
何とか目を開けてテント、ゴミ箱、帆布シートを無限収納に入れた。
「おはよう、っと、まだおねむだな。昨日はありがとう。もんの凄く美味かったぜ」
「ああ、それは良かった」
【海の息吹】の皆さんや、昨日お弁当箱を買った他の人も口々に美味しかったと言っていた。
「何処かで会ったらまた売ってくれ」
「了解」
「じゃあ、また。元気でな」
カルメハオさんが小さい声で私の顔を覗き込む。
眠くて薄す目だったけれど、私もお別れの挨拶をする。
「バイバイ、お兄たん」
「!!!!!」
今、お兄ちゃんって言ってくれたあぁぁ!と、小声で雄叫びを上げるカルメハオさん。
「わかった、わかった、ほら、行くよ。じゃ、ありがとね。元気で」
「もう1回、もう1回お兄ちゃんって言ってくれえぇぇぇ」
小声で雄叫びながらモーリンさんに引き摺られて行くカルメハオさんを見送る。
他の冒険者達も出発し始めたので、私達も門に向かった。
町に入る列に並ぶ。
待つ時間は眠くて眠くてウトウト。
「お嬢の商業ギルド証貸してくれ」
「うん………」
眠る寸前にカードを鳳蝶丸に渡して夢の中へ。
おやすみなさい。
ぐうぅ…。
お腹が空いて目が覚める。
気がつくと石造りの大きな建物の前にいた。
「ここ、どこ?」
「ハロハロの商業ギルドです」
「どちて?」
「ここで乗船券を買うんだ。まあ、直接船着き場に行って買っても良いが、券が売り切れている場合もあるからな」
「商業ギルドで買えば確実に乗船が出来ます」
「なゆほど」
「船は個室もあるがどうする?」
「海、見たい」
「わかった。デッキにしよう」
「そうですね。では行きましょうか」
朝とても早いけれど、この町の商業ギルドと冒険者ギルドはこの時間はもう開いているんだって。
窓口は比較的空いていたので直ぐ順番になる。
「3名分の乗船券が欲しい」
「何時の船をご希望ですか?」
「出来るだけ早い時間希望だ。デッキで過ごすから個室じゃなくていい」
「かしこまりました。少々お待ち下さい」
受付のお兄さんが席を外し、しばらくして小さな木札を3枚持って来た。
「朝一番、9時10分発の船をご予約いたしました。3名様で1万8千エンになります」
「商業ギルドに所属している場合、割引はありますか?」
「はい、ございます。ギルドカードをご提示ください」
私がカードを差し出すと、お借りしますねと笑顔を浮かべた。そして、カードを四角い板の上に乗せるとすぐに返してくれる。
「ありがとうございます。……!…皆様はギルド長承認の優秀商カードをお持ちなのですね」
え?ギルド長承認の優秀商カード?
「ギユド、しょうにん?」
「ギルド長承認の優秀商カードって何だ?」
「もしかしてご存じなかったのですか?」
「知らないな」
「エエエエエ!」
受付のお兄さんが物凄く驚いていた。
彼の説明によると、商業ギルドカードなのは間違いないが、その中でもギルド長が認めた優秀な商人のみ持つことを許されたカードなんだって。
これを持っていると、上限下限関係無い金額の設定で取引が出来、信頼度も高く、王族や皇族との取引も行えるようになる凄いカードらしい。
功績によっては年会費も免除されるんだって。
そんなカードだなんて知らなかったよ。
先に説明してー!
「名誉な事ですし、御本人が知らないとは普通ありえないんですが……」
「いや、特には説明されていない」
「何か特殊な事情がおありなんでしょうか?」
「さあ?…ところで乗船券の割引はしていただけるんですか?」
「失礼いたしました。3名様で、1万2千6百エンとなります」
言われた金額を支払い、焼印で船の絵と番号が書かれた木札を受け取る。
これが乗船券何だね。
ぐうぅ…
無事乗船券が買えた途端にお腹が鳴った。
「あやっ!」
「お腹空きましたか?」
「うん」
さっきからずっとお腹が空いていたの忘れてたよ。
「今日は朝市はあるか?」
「いえ、残念ながら朝市の開催日は明日になります」
「まだ朝早いですし町の店屋も始まっていませんよね」
「はい」
「あしょこは?」
商業ギルドの1階フロアには、軽食も取れそうなラウンジと、パーテーションで区切られ打ち合わせ出来そうな場所がある。
持ち込み可能なら利用したいな。
「何処かで持ち込みの食事をしたいんだが、このフロアは大丈夫か?」
「はい、あちらのラウンジでしたら問題ありません」
「わかった」
ササッと2人が移動したので、私は受付のお兄さんに手を振りながら「あにあと」と告げる。
お兄さんはニコニコ笑いながら「ごゆっくりどうぞ」と言って頭を下げた。
ラウンジはフードコートのような感じみたい。
早速空いている席に2人が座り、私はミスティル膝抱っこされる。
「何、食べゆ?」
「目玉焼きとチーズが乗っているパンが食べたいです」
「いいな。俺もそれで」
たまごチーズトーストね、了解です。
せっかくなので、昔懐かし喫茶店のピザトーストと、カフェのフレンチトーストも再構築しよう。このフレンチトーストは甘さ控えめなので、生クリームとメープルシロップも用意しておくよ。
飲み物はアイスティー、アイスロイヤルミルクティー、アイスコーヒー、アイスカフェラテ。
一応全部出してどれを食べる?と聞いてみたけれど、二人は全種類食べるって。
飲み物は、ミスティルはアイスティー、鳳蝶丸はアイスコーヒー。
私はフレンチトーストとアイスカフェラテを選び、ミスティルに生クリームを添えてメープルシロップをたっぷりかけてもらう。
「いただち、ましゅ」
「いただきます」
「いただきます」
三人の楽しい朝食が始まった。
ミスティルが小さく切って、生クリームとメープルシロップをたっぷりつけ口に運んでくれる。
何だか懐かしくて、そして凄く美味いフレンチトーストだった。
「少しお邪魔して良いかのう?」
突然声をかけられた。
声の主を見ると、褐色の肌、白い髭、細くて小さいけれど声に張りがあるおじいちゃんだった。
「あい。おはよ、ごじゃいましゅ」
「おはようございます。初めまして、ワシはハロハロの商業ギルド長ハンスモンスと言う者じゃ」
「ゆちでしゅ。鳳蝶まゆ、ミシュチユでしゅ」
「念の為、ゆき、ミスティル、鳳蝶丸だ」
「何の用件です?」
「いやなに。優秀商に挨拶をしようと思ってな。それにしても、美味そうじゃのう」
ちゃっかり要求される。
優しそうなおじいちゃんだけれど、油断ならないかも?
まあ、商業ギルドのトップだもんね。海千山千ってところだろうな。
「食べゆ?」
「良いかの」
「こえと、こえ、6百エン、こえ、8百エン。のみもも、ちゅき」
甘いモノは高価らしいので、フレンチトーストのみ高い値段に設定。
「のみもも?」
「飲み物付きでその値段という事だ」
「こんなに豪華な食事で、その値段は安すぎてはないかの?」
「いいの。わたち、決めゆ」
「………………。そうか、そうか。では、ありがたく購入しよう」
「どえ、しゅゆ?」
「全部いただこう?」
はい、2千エンお買い上げです。
お金を受け取ると、鳳蝶丸の横にちゃっかり座るハンスモンスギルマス。
「何、飲む?」
「アイスティー、アイスロイヤルミルクティー、アイスコーヒー、アイスカフェラテの4種類です」
「アイスという事は冷たいんじゃな?」
「あい」
ハンスモンスギルマスはしばらく考えて、アイスロイヤルミルクティー、アイスコーヒー、アイスカフェラテをオーダーした。
「氷が入って贅沢だのう。紅茶と珈琲は飲んでいるが、冷たくして飲むのは初めてじゃ。では、いただくとするか」
胸に手を当てお祈りをしてからフォークとナイフで食べ始める。
最初のひとくちで「んっ!うんまいっ!」と叫び、夢中で食べ始めた。
の、喉に詰まらせないでね!
一息ついてから、ハンスモンスギルマスが話し始める。
「そなた達のカード情報を見たが、発行元がミールナイトの商業ギルドじゃった。あそこのギルド長はフィガロギルド長じゃろう?」
「あい」
「フィガロギルド長は高品質、貴重品、希少品好きのへんた…ん、んん、こだわりのあるギルド長で有名じゃ。そのこだわり故、今まで誰一人承認した者が居らんかったのよ。彼は長命のエルフ族で長い年月商業ギルド長を務めているにも拘わらず、じゃ」
あ、今変態って言おうとした。
うん、フィガロギルマスって、ヲタク気質と言うかコレクター気質と言うか、こだわり有りそうだもんね。
「で、優秀商とやらに認められたらマズイことでもあるのか?」
「いやいや。優秀商である事はとても良い事なんじゃよ。ただ、フィガロギルド長が承認したことは、商業界隈で騒ぎになると思うぞ」
ふわっ!
目立たずのんびりと思っていたのに…って、私の再構築を考えると無理があるよね。
転移・転生ものあるあるだったよ。
「じゃが、フィガロ殿が承認してしまう気持ちは理解出来る。この食事や飲み物の美味さ、珍しさ。皿やグラスの均等な厚み、不純物のない美しさ。ゆき殿の服の珍しさや高品質の生地。素晴らしいデザインと良質な皮の靴」
チェック細か!
でも、この世界の物と比べると確かに品質違うし、調味料や調理方法も違うもんね。
もちろん、ここにはここの良いものが沢山あると思うけれど。
世界の発展に繋がるきっかけを作るのがウル様に頼まれた使命の一つ。
だから私は相手が悪人でない限り、食べたい・飲みたい・欲しいと言われれば売る事にしている。
本当は無料でも良いけれど、商人さん他、その仕事を生業にしている人に迷惑がかかるから売るほうが良いと従者2人に言い含められた。
この世界の人は逞しくて、あの人はタダでくれた。アンタ達もタダにするべき!何て言う人もいるからって。
ビョークギルマスにも似たような事を言われたのでお金はいただいてるよ。
「話は変わるが、ハロハロの職員と冒険者が商談の為北方面に行っていたんじゃよ。偶々ミールナイトのスタンピードに遭遇しての。ポーションや武具等の提供と、冒険者臨時参加の為町に残っていたんじゃよ」
「あい」
「本来は全員命を落としてもおかしく無い状況だったが、不思議なことにスタンピードが急に終息したと連絡が入っての?」
「あい」
「その後、冒険者ギルド所有の広場で素晴らしい行商の商人が現れたと言っていた」
素晴らしいかはわからないけれど、私達だよね?
「それはそれは素晴らしい食事や酒類の提供がなされたそうでの。我が職員が商談を試みたらしい。じゃが、直接会う事は叶わず、魔法契約により仕入れて売る行為を禁止されたらしいんじゃ」
転売防止の魔法契約したから。
「念の為確認じゃが、サクラフブキの皆さんかな?」
あ、うん。
そうですね。
「そうだったらどうしたいんです?」
「いやなに。ワシも商業ギルド長。興味があるんじゃよ。お前さん方の扱う商品に」
たぶん<文書通信>で連絡が来ていたんだろうな。
そして、商業ギルド長ならば私の持つ商品に興味が湧くよね。
「それと」
ん?まだあるの?
「ミールナイトからだと陸路、海路あわせ早くて5ヶ月、場合によっては半年以上かかる道程を、どうやって来たかも興味があるのう」
空を飛んで来ましたー!
うん、そこも気になるのね。
「俺達は確かに桜吹雪の者だ。商品のやりとりは吝かではないが、先を急いでいるので今は無理だ。そしてここにどうやって来たかは言わん」
「おう、そうかそうか。いやいや、少し聞きすぎたかの?すまんすまん。では、次回ハロハロに来た時にでも声をかけておくれ」
丁度私達の食事が終わったので、鳳蝶丸が立ち上がる。
ミスティルも私を抱っこしたまま立ち上がった。
「そろそろ港に向かおうか、お嬢」
「うん」
鳳蝶丸は私達が食べたお皿やグラスをどんどん片付けて行く。
「アンタが今使っている皿とグラスは次回来た時返してくれ」
「わかった。話を聞いてくれてありがとうの」
「モンシュ、ギユマシュ、バイバイ」
「はい、バイバイ」
気が付くと8時近かった。そろそろ船着き場にいかなきゃ。
忘れてなければまたハロハロに来るね!(怪しい…)
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