第83話 Breath Of The Sea
街道は馬車が通り、冒険者らしき人が歩いている。
だんだん暗くなってきたからか誰もが急いでいる雰囲気だった。
その中でのんびり歩く私達。かなり目立っているみたい。
いや、のんびりしているからではなくて美形の二人が目立っているのか。しかも、年若そうに見える鳳蝶丸が赤ん坊をおんぶしているしね。
何の集団か?って思うよね。
辺りがすっかり暗くなった頃町に到着する。門はすでに閉まっていた。
門の前に広めの空き地があり、冒険者っぽい人や門に入りそこねたらしき人々が野営の準備をしている。
男女6人組の冒険者らしき人達の隣が広く空いていたので、私達はそこに行った。
「ここ、空いているか?」
6人組がハッとして顔を上げ、私達を繁々と眺める。そして、厳つい男性が「おう、空いてるぜ」と返事をした。
「ではここにテントを張りましょう」
「そうだな」
おぶわれたままテントを出すと、二人が手慣れた手付きでペグを打つ。私はテントがすっぽり入る範囲で結界を張った。
「変わった形のテントだな」
すると、先程の厳つい男性がテントを眺めて声をかけてくる。
「そうかもな」
「マジックバッグ持ちか?人のいる所で出すのは気を付けた方がいい」
小さい声で忠告された。
一応地図を開く。
隣の冒険者は青点と白点。
他の冒険者らしき集団は殆どが白点で、赤点と黄色点が4、5人混ざっていた。
「あにあと、だいじょぶ」
私がそういうと、厳つい男性が一瞬キョトンとしてから破顔した。
「お礼が言えて良い子だねぇ。可愛いねぇ」
可愛がられたことはあるけれど、赤ちゃん扱いされたのは初めてでびっくりした。
そういえば私は赤ちゃんだった。
「でも、お兄ちゃん、心配なんだよぉ」
!!
お兄ちゃん!
「おっさんの間違いでしょ!」
一緒にいた女性が厳つい男性……お兄ちゃんの頭をゴンッと叩く。
「お兄ちゃんは無いだろう」
「赤ちゃんからすればリーダーはおじさんだぞ」
他の4人がツッコミを入れていた。
「ごめんね。ビックリしたよね」
女性がニコッとする。
サバサバした感じのカッコイイ大人な女性だ。
「お兄さん達かな?ごめんね。この人子供が大好きで、小さい子見ると声をかけちゃうのよ」
「問題ない」
「我が主が可愛いのはわかっております。そして声をかけてしまう気持ち、わかります」
ちょっ!
ミスティル!
「主?」
お姉さんとお兄ちゃんが驚いた表情をする。
「俺達はお嬢の従者だ。まあ、家族みたいなモンだが」
「うん、かじょく」
「はい。家族です」
すると、厳ついお兄さんがちょっと悲しそうな顔をして、直ぐにニコリと笑う。
「遅れたが、俺達は冒険者パーティーの【海の息吹】。俺はリーダーのカルメハオと言う」
「アタシはモーリン」
「ミタロ」
「タロモ」
「オーシャン」
「アンシャン」
「ちなみに俺は25歳だ。よろしくな」
!!!
25歳だった!!!
「ゆちでしゅ。鳳蝶まゆ、ミシュチユでしゅ」
「念の為、ゆき、俺は鳳蝶丸」
「わたしはミスティルです」
和やかに挨拶を交わす。
そして、立ったままも何なので、カルメハオさん熱望で、一緒に夜の食事をする事になった。
いったんテントに入って商用マジックバッグ(その他)を置き、夕食をどうしようかとミニ会議。
2人はハンバーガーセットが食べたいそうなので今夜のメニューを決定。
希望すればこの空き地にいる他の人にも販売する事にした。販売方法は2人に丸投げしよう。
とりあえず二重チーズバーガーセットとお魚フライセット、ミネストローネを用意する。
確か外で売ると約3倍の値段だけれど、話し合いの結果ドリンク付き1千5百エンにした。
余談だけれど、鳳蝶丸、ミスティルのマジックバッグと2つの商用マジックバッグは私の無限収納と共有してある。
なので商用(食品用)マジックバッグに、お弁当セット、お鍋のスープ、飲み物、鳳蝶丸が魔道具化したカセットコンロ、帆布シート、簡易テーブル、椅子を入れておいた。
何か足りなくなったら共有フォルダにそっと入れれば良いよね。
外に出ると【海の息吹】の皆さんは焚き火にケトルを乗せて湯を沸かしていた。
「アンタ達メシはあるか?無けりゃ、干し肉とカンパンがあるが……赤ちゃんには無理だよな?湯でふやかすか?」
カルメハオさんが私の心配をしてくれた。地図でずっと青点だし、本当に子供好きなんだね。
「いや大丈夫だ。俺達は商人で美味いメシの用意がある」
「ん?商人?」
「ええ。行商をしております」
「……行商人には見えん」
「ちょっと!失礼だよ!うちの人がごめんね」
モーリンさんがカルメハオさんの肩をベシッと叩いた。
うん、わかる。
鳳蝶丸もミスティルも行商人ってイメージじゃ無いよね。
そんな会話の間も私達は夕食の準備をすすめる。
帆布シートを引いて防砂・防塵の結界を張り、簡易テーブルと椅子を出し、カセットコンロをセットした。流れるように作業をする私達の連携プレイに固まる周りの人々。
「ねえ、魔力の流れを感じたんだけれど、何したの?」
「何か複雑そうな感じだったな」
アンシャンさんとオーシャンさんが目を見張っている。
「結界を張りました。食べ物に埃や砂が入るといけないので。結界に入ると同時にクリーンもかかります」
「………………………は?」
「そんな結界張れる魔法使いなんて聞いたことないんだけど」
「俺達は出来るんだよ」
「はあ…………」
【海の息吹】の皆さんは、しばらくポカーンとしていた。
鳳蝶丸が自分のマジックバッグからビールサーバーを出して簡易テーブルに設置する。ついでにミニ冷蔵庫も出し、冷えたジョッキにビールを注ぎ、ゴクゴク飲み始めた。
もちろんミスティルも一緒に飲んでいる。
ゴクリ……。
【海の息吹】の皆さんが喉を鳴らす。
「良かったらアンタ達もどうだ?タダには出来ないが、安くしておくぜ」
ミスティルはビールを飲みつつスープの鍋をコンロに乗せ、火を細めにして温め始める。結界は香りオッケーにしているので、辺りにミネストローネの良い香りが漂い出した。
私はベビーチェアに座って、スープ、コーラ、お肉のハンバーガーセットの手掴み食べを始める。ミスティルがスープを冷まして口に入れてくれるし、時折コーラも飲ませてくれる。
そして二人はお肉のハンバーガーセットを出して食べ始めた。
その様子を見ていたカルメハオさんが、ニヤリと笑って近づいて来る。
「アンタら面白いな。気に入った!美味そうだし買うぜ」
「毎度。ちなみに購入者には結界のクリーンをタダにするぜ」
「わたし達に悪意がある場合は入れないので悪しからず」
「俺は悪意なんて無いぜ!」
カルメハオはそう言って躊躇なく帆布シートに入って来た。
「うを!」
「どうしたの?!」
「いや、本当にクリーンがかかった」
心配しているモーリンさんにサムズアップするカルメハオさん。
「俺も」
「俺も」
ミタロさんとタロモさんも入ってくる。
二人は全く同じ顔をしているので双子なんだね。
「じゃ、じゃあ、あたしも」
モーリンさんも入る。
「本当にクリーン!髪までスッキリになったよ。凄いね!大丈夫だから二人も入りな」
「う、うん」
最後にオーシャンさんとアンシャンさんが入って来た。
まず、2種類のハンバーガーセット、ドリンクはオレンジ、ブドウ、アップルジュース、コーラと温かい紅茶を出した。
「う、美味そう」
「う、美味そう」
ミタロさんとタロモさんが同時に呟く。
「見たこと無いが、何て食べ物だ?」
「これはハンバーガーと言う食べ物だ。こっちは肉とチーズを使った二重チーズバーガーとローストチキンのセット。こっちは白身魚のフライバーガーと海老の塩焼きだ」
「このお弁当とスープ、飲み物セットで1千5百エンです」
「なあ、エールを売っちゃくれないか?」
「ちょっと!町の前とは言え外なんだよ。止めときなよ」
モーリンさんがカルメハオさんを止めた。
「この一帯には魔獣なんて滅多に来ないし、俺がエールで酔うかよ」
いざとなれば他の人も含み結界を張るからね。
「見てみろよ、美味そうなエール。お前も飲みたいだろう?」
「そりゃ、飲みたいけどさ」
「兄貴、俺も飲みたい」
「兄貴、俺も飲みたい」
ミタロさんとタロモさんは息ピッタリだね。
「いいよ、姉さん。俺らが起きているから」
オーシャンさんが寝ずの番を買って出てくれた。
「結界、ひよげゆ」
鳳蝶丸にこっそり伝えると笑顔で頷いた。
「いざとなりゃ、結界を広げるさ」
「えっ?本当に?」
「ああ」
「ちなみにビール付きは1千8百エンです」
「買った!」
カルメハオさんが二重チーズバーガーセットとビールを買ったので、鳳蝶丸がサーバーからビールを注ぐ。
「それは魔道具か?見たこと無いが」
「無限にエールが出るとか?」
カルメハオさんとモーリンさんが不思議そうにビールサーバーを眺める。
「無限には出ない。ビールが入った樽が必要だ。ちなみにこれはエールとは製法が違う酒だ」
「へえ」
「エールにしか見えないけどね」
「ビールと言います。喉越しを楽しむ酒ですよ」
ミスティルはバーガーセットを出していた。
アンシャンさんのみ魚で、他はお肉を選び、オーシャンさんとアンシャンさんがオレンジジュースを選んでいた。
【海の息吹】の皆さんが自分達のテントに戻り、お疲れと言いながらまず飲み物を飲んだ。
んっんっんっんっ、プハーッ!
「何じゃ、こりゃ!」
「冷たい、そして美味い!」
「冷たい、そして美味い!」
「危険………おかわりが欲しいわ」
4人とも一気に飲み干したみたい。
「なあ、その、ビール?だけ売ってくれるか?」
「4百エン」
「買った!」
ビール組がおかわりをして、今度は落ち着いてハンバーガーを手に取る。
「美味いっ!ヤバい、何個でも食えそう」
「柔らかっ!」
「うんまっ!」
「うんまっ!」
「スープも美味しい。買って良かったよ」
「このお魚の調理法面白い。サクッと香ばしくて、魚の旨味が閉じ込められていて本当に美味しい!」
カルメハオさん達が夢中で頬張り始めると、空き地にいた他の人が寄って来た。
「なあ、俺達も売ってもらえるか?」
「ああ、いいぜ」
ほとんどの人が購入し、嬉しそうに食べ始める。
ただ、数人の赤点達は購入せず遠巻きにこちらを見ていた。
ビールサーバー等を仕舞い、ゴミ箱を出す。
籐籠のお弁当箱が欲しい人は持って帰ってもかまわないし、いらない人やその他ゴミはゴミ箱に入れるよう伝え、私達はテントに入った。
その後皆でお風呂。
私は歯磨きが終わったら、グレー猫ちゃんロンパースでお休みの時間です。
ポンポンしてくれるミスティルを眺めていると、段々まぶたが重くなる。
う~ん……おやすみなさい。
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