第82話 旅は気まぐれ突っ張り棒!
早朝。
まだ太陽が登り切る前、私達は拠点を出る。
昨夜に挨拶は済ませていたんだけれど、皆さん起きてきてお別れの挨拶をしてくれた。
「またね、師匠」
「道中気をつけて」
「お帰りをお待ちしておりますわ」
「土産話、楽しみにしてるよ!」
「健康や怪我にはどうか気をつけて。2ヶ月後にまた会おう」
「うん!またね!」
ミムミム、リンダ、エクレール、レーネ、ローザお姉さん、ありがとう!またね!
早朝だから声には出さず、手をブンブン振ってお別れする。
行ってきます!
この町に入ったのは死の森からだったけれど、今日は東門から外に出ると決めた。町の中から
東門は死の森に続く南門より小さかった。でも、やっぱり第1門から第3門まである。どの門も衛兵が立っているけれど、検問は一番外側の門だけなんだって。
まだ朝早い時間だけれどすでに開門していて、商人や冒険者らしき人々や馬車が行き交っていた。
徒歩の列の最後尾に並び、順番になって私の商業ギルドカードを提示したらすんなり通してくれた。
町に入る時は厳しく取り締まりをするけれど、町を出る時は比較的緩いらしい。
「町、出ゆ。何もない」
「どの村も町もこんな感じですよ」
「しょうなんだ」
門の外は広く何もない。平原と遠くに山や森が見え、土で硬められた街道がその向こうに伸びているだけだった。
「しょういえば、どこ行く?」
「どこに行こうか?」
「うーん、よち」
日本の家で使っていた突っぱり棒を複写して、再構成で片方のキャップを赤に変える。
「鳳蝶まゆ、こえ、上に投げて。赤い方、行く」
「いいな!気まぐれ旅」
「楽しそうです」
人のいないところまで行って、鳳蝶丸がポーンと突っぱり棒を投げる。
棒はクルリと回りながら弧を描き、地面に落ちてバウンドしながらあらぬ方向へ転がった。
コロ、コロロ…………。
そして、ゆっくり動きを止める。
「こっち」
私達の行く方向が決まった。
「南西か…」
「それなら」
顔を見合わせ頷く二人。
「お嬢。こっち方面に行くと、観光地で有名な南の島がある」
「ここから
おおう、南の島に逆戻り。
観光地って言う事は、人のいる土地だよね?
うん。突っぱり棒で決まった方向なのだから異存はないよ。
「ちま、行く」
「ああ、島に行こう」
「決まりですね」
私達は
ここまで高速で飛ぶのは初めて!
雲の上まで上がった。今はスコール中なのか下が見えない。
空気抵抗を考えて、天と地と平行に体を横にして飛ぶ。
飛行機になった気分!
自分達に結界3を張ったから息苦しくもない。
風に靡かず下に落ちたミスティルの髪が結界ごとブリンブリン揺れる珍事があったけれど、朝食のために降りた小さな島で髪をお団子にして解決した。
ちなみに朝ごはんはおにぎり、卵焼き、ブロッコリー、プチトマト、ウインナーのお弁当にしたよ。
飛びながら頭だけ前を向いている事に疲れて下を見ていたら逸れそうになり、二人に両手を繋がれて飛ぶ。
時折空飛ぶ系の魔獣を見かけたけれど、遠巻きにしていて近寄ってこなかった。
近くで見てみたかったな、残念。
お昼は白い砂浜だけの小さな島で食べることにした。
カツ丼。
美しい海、白い砂浜、青い空、カツ丼と緑茶。
ロコモコ丼にすれば良かったかな?
午後は私が眠くなり、鳳蝶丸におんぶ紐で背負われぐっすり眠る。
「主、そろそろ降りますよ」
ミスティルに起こされて眼下を眺めれば、広い大地の上を飛んでいた。
「下は、シェリシェリモア帝国に属しているアハーロ王国で、あの港町はハロハロ。俺達が向かっているのはその向こうのデリモアナ王国と言う3つの島からなる小国だ」
「あの港町から船に乗ってデリモアナに入国します」
遠くに町と海が霞んで見えた。
「このまま飛んで目的地に直行してしまっても良いが、お譲は船に乗ったり入国手続きをしたいと思ってな」
「うん!ちたい!」
船に乗るんだね。たのしみ!
ゆっくりと高度を落とし、生い茂る森の中に着陸する。
そして、お茶やお菓子で小休憩とした。
町に入ったり入国手続をする場合、身分証が必要になるとローザお姉さんから聞いた。
冒険者は冒険者ギルドカード、商人は商業ギルドカード、一般人は町や村で発行される住人カード(何々国の住人でありますよ、と言う証明書)があるらしい。
基本的に冒険者や商人は免税で、一般人は入国税、場合によっては町に入る時に税金がかかるんだって。
私は商業ギルドカードがあるからそれで………と思ったけれど、そういえば2人は身分証のような物持っているのか気になる。
「そういえば持っていないな」
「そうですね」
伝説の武器達は、基本気配遮断か空から町に入るので、身分証のような物は持っていないらしい。
死の森調査隊の広場でも私だけのカードを作れば良いと断ってしまった。
でも、私だけ身分証を持っているのは変だし、税金を払って済むならいいけれど、変に勘繰られて町に入れないと困る。と言うことで、急遽ミールナイト商業ギルド近くに転移の門戸を繋ぎ、フィガロギルマスを電撃訪問。
今朝出かけたばかりなので驚かれたけれど、引き返して来たと言って二人の商業ギルドカードも作ってもらった。
その時、フィガロギルマスから当職員がご迷惑をおかけしましたと謝罪を受ける。私達は良いので、他の人に迷惑がかからないようお願いをすると、すでに調査を始めておりますと返答があった。
流石だね!
お暇する時に廊下ですれ違った男性職員さんは、確かもう1人の黄色点だった人。
今は青点に変わっていて「沢山の素晴らしい品々をありがとうございました」と爽やかな笑顔を浮かべていた。
黄色点の時はギルド以外の仕事を手伝わされるのが不満だったんじゃないか?と、鳳蝶丸。
うん、そうかも。
再び転移の門戸で先程の場所に戻る。これで町に入れない問題は解消されたかな?
この先私達は行商人を装う事にする。
でも、さすがに荷物無しはちょっと体裁悪いかも。
私は無限収納、二人はマジックバッグがあるけれど、その他に行商スタイルとして別のマジックバッグを作ろうと思った。
「行ちょう人、なゆ」
「ああ。商業ギルドカードで町に入るから、行商人になるってことだな」
そこで、大小2つの帆布ショルダーバッグを作り、どちらも六畳一部屋分のマジックバッグ(管理機能付き)に変えた。
「時間、停ち、しゅゆ?」
「そうだな。時間停止持ちは犯罪者に狙われやすいが、俺達なら問題無いだろう」
「あい、わかた」
ん?
あれ?
いや、待って。
と、するとアレやるの?
「どうしたんです?」
「時間、停ち、はじゅかしい」
「どうしてですか?」
うーん。
でもこの先も作る予定あるし、2人にはカミングアウトしておいてもいいか。
それにしてもちょっと恥ずかしい。
今まさに必要なのに、どうして【幼児の気持ち】が発動しないんだろう。
「スーハー、スーハー、よち!」
深呼吸する。
「マイカユ、アブイン、萌え、ちゅんちゅん☆!時間停ちに、なあえ♪」
相変わらずのド派手な演出のあと、時間停止のショルダーバッグが2つ完成。
2人はと言うと、ちょっとビックリした後、可愛い可愛いと褒めてくれました。
ありがと。
マジックバッグに3人を登録、呼び戻し機能付きで私達しか使えないようにしておく。
「売ゆ、何、喜ぶ?」
「そうだな……食べ物や飲み物、皿やカップ、グラス、布地」
「こえ、だいじょぶ?」
家で使っていた模様の無い普通のグラス、白い陶器の皿、ボウル、珈琲カップ、ちょっと小洒落た安価なティーカップ、海外で買ったアンティークティーカップセットとアンティークシルバーのカトラリーセットを再構成で新品にして出す。
フェリアでは、ここまで不純物と歪みの無い綺麗なグラスや陶器は無いので、売り物として喜ばれるだろうと言われ安心した。
あと、ハンドメイド用に買った色々なデザインのビーズ、透かしパーツ、チャーム、ビジュー、布地、釦。海外で買った様々な形のレース。
こんなに美しい物は無いので珍しくて良いのでは?と言われ、こちらも沢山複写した。
その他は死の森ドロップの、鑑定で美味と出たから売らなかったお肉と、死の森で採れた果物、桜吹雪で売ったワイン、水、ジュース類を複写。
本人の希望で、食べ物関連は鳳蝶丸、食器その他はミスティルのマジックバッグに収納した。
「そろそろ行きますか?」
「そうだな。日が暮れる前に街の近くまで行きたい」
鳳蝶丸に再びおんぶされ、低空飛行、猛スピードで移動する。
今回は結界2で直立、でも歩いてるように頭が上下しないので高速の子連れ幽霊みたいに見えるんじゃ………、と心配したけれど、途中からどうでも良くなってウトウトしてしまった。
「お嬢、そろそろ結界を解いてくれ」
「うみゅ?」
「街道近くなので歩きます」
「うん、わかた」
森を出る一歩手前で起こされ、結界3に切り替える。そして、人が切れたタイミングで街道へ出た。
さっきよりだいぶ町が近い。
辺りの木々が南国系の植物に変化していた
楽しくて鑑定して見ると、多種類のヤシ、ソテツ、ティーリーフ、クロトン、プルメリア、ハイビスカス、シャワーツリー、アンスリウム、レッドジンジャー、モンステラ、バード・オブ・パラダイス、ナッツ類、パパイヤ、マンゴー、バナナ、パイナップル、パッションフルーツ、柑橘類。
何となく聞いたことのある植物の他に、オッコソルト、イックイ、ミンナミンナなどフェリア特有の植物も自生していた。
わりと節操なしに生い茂っているな。全てではないけれど、どれも花が咲いており果実が実っている。鑑定ではどれも通年となっていて驚いた。
凄いな、フェリアの南国。
それにしても、野生のフルーツ美味しそう。収穫しないのかな?
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