第81話 暗部?貴族あるある?え?違う?そうですか
とりあえず商業ギルド関連は終了。外に出るとすっかり暗くなっていた。
「もうすぐ門が閉まる。今日は私達の拠点に泊まって、明日出発はどう?」
「いいの?」
「もちろん。大歓迎だよ」
ローザお姉さんも皆さんも笑顔で頷いた。
「あにあと、泊まゆ!」
「良し、じゃあ夕食食べに行こう」
「美味しいお店ですのよ。ゆきちゃんの料理には及びませんけれど」
「ううん、たのちみよ!」
「ウフフ」
にこやかなエクレールお姉さんの案内で行った食事処は、高級そうなお店だった。
「特別室をご用意いたしましたの。テーブルマナーなどは気にせず、楽しくお食事してくださいな」
お店に到着して案内されたのは、別棟の離れ屋みたいで貸切状態だった。
今日は高級レストランに相応しくない格好だけれど、ここならば問題ないのかな?
部屋は広く落ち着いた雰囲気だった。家具や装飾も上品で高級感がある。
座席は大きなテーブルに椅子が8脚用意してあった。
ローザお姉さんから奥へどうぞと言われ、窓側に私、ミスティル、鳳蝶丸、リンダお姉さんが座り、扉側にエクレール、ミムミム、レーネ、ローザお姉さんが座る。
元々12人用のテーブルらしく、とてもゆったりとした間隔だった。
私だけミスティルの席にピッタリ付けてもらったけれど。
「
エクレールお姉さんが席を立ち、しばらくして30代半ばくらいで落ち着いた雰囲気の男性と一緒に戻ってきた。
「こちらはオーナー兼シェフのアスナロリット様。
エクレールお姉さんがにっこりと微笑んで次に私を紹介する。
「こちらはゆき様。そして、鳳蝶丸様、ミスティル様ですわ」
「お初にお目にかかります。
美しい所作でお辞儀をするアスナロリットさん。ファミリーネームをお持ちだし、恐らく貴族の方なんだろう。
「はじめまちて、ゆちでしゅ。鳳蝶まゆ、ミシュチユ、でしゅ。よよちく、おねだい、しましゅ」
ミスティルに椅子から降ろしてもらい、スカートをちょっと摘んでカーテシーで挨拶した。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。素敵なお嬢様ですね」
ニコリと微笑むアスナロリットさん。昔の私だったら思わずトキメク素敵な青年だ。
そして、我が家族達は何故か得意気な表情だった。
再び座席に着いたもののテーブルが高すぎたので、許可を貰いモコモコうさちゃんバッグ(と、見せかけた無限収納)から赤ちゃん用のハイチェアーを出す。
私が座らせてもらう様子を見て、アスナロリットさんが反応した。
「その椅子はお子様用ですか?」
ミスティルがしれっと無視しようとしたので袖を引っ張って説明してもらう。
「………ええ。ここに落下防止のベルトもあって、幼児でも高いテーブルの食事がしやすくなる椅子なんですよ」
「なんと、素晴らしい!」
ミスティルの言葉に凄く驚いているアスナロリットさん。
「当店に時折お子様をお連れになるお客様がいらっしゃいます。お子様がいつも食べにくそうにしていらしたので、それが気になっておりました。そちらはお子様も安心して食事ができる素晴らしい椅子ですね。どちらの工房で……………」
「ん、んん。ゆき様?この後、アスナロリット様とお話するお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
話が長くなりそうだなって思ったら、エクレールお姉さんが咳払いしつつ遮ってくれた。
「あい。だいじょぶ」
「ありがとうございます。アスナロリット様。お料理をお願いしても?」
「そ、そうでした!遅くなりまして申し訳ありません。只今お持ちいたします」
アスナロリットさんがチリチリンと優雅にベルを鳴らすと、扉の向こうで人が動く気配があった。
「コースは伺っておりますが、メインはいかがなさいますか?」
羊皮紙のメニューを渡されたけれどわからないので二人にお任せ。
二人はお肉と川魚、私にはお肉にしたらしい。【虹の翼】の皆さんは全員お肉だって。
まずは小魚の酢漬け。次は茹で野菜とお団子のスープ、パン。
小魚の酢漬けはとてもとても酸っぱくて食べきれなかった。
クセになる、と言ってミムミムお姉さんが食べてくれた。
茹で野菜は知らない野菜ばかりだったけれど美味しかった。
スープは川魚のつみれが入っていてちょっぴり臭みがあったかな。でも香辛料がふんだんに入っていて気になるほどじゃないし、美味しかった。
そしてメインのお肉。
私のはマクワウーと言う魔獣だって。
お肉の上に、炒めてある香りの強い野菜が乗っており、一緒に食べると美味しかった。お肉は柔らかくてちょっと豚肉に似ているかな?
鳳蝶丸のお肉とミスティルの川魚も一口いただいた。どちらもクセがあるけれど美味しかった。
全体的に塩味+香辛料やハーブ、香りの強い野菜を使ったお料理って感じかな。
メインの後は水菓子。
食感は桃で味は薄めのラ・フランスっぽい果物が美味しかった。でも、私には甘さも香りも少し物足りなく感じてしまう。
日本の果物は糖度が高くて美味しいんだな、と改めて思った。
食後に紅茶と干した果物の蜂蜜漬けが出されると、アスナロリットさんがやって来る。
「当店の食事は御口に合いましたでしょうか?」
「あい。おいちかた、でしゅ」
「それはようございました」
お姉さん達もニコニコしていた。
「ゆきちゃん」
「あい」
「
「あい。どうじょ」
「ありがとうございます。それでは失礼して」
店員さん達がやって来て、エクレールお姉さん側の座席を少しずつずらし、私の前に椅子を追加してアスナロリットさんが着席した。
「皆様のお時間に突然参加いたしまして申し訳ありません」
まずはアスナロリットさんが頭を下げた。
「あい。だいじょぶ」
「ありがとうございます」
「貴殿が客席に着くなど珍しいが、何か気になることでも?」
ローザお姉さんの言葉にアスナロリットさんが深く頷く。
「はい。実はスタンピードを止めるべく戦っておりました、【虹の翼】様以外の冒険者に、サクラフブキと名乗るお方の料理がとてもとても美味しかったとお聞きしました」
おお、そうなのか。
「
私が使う調味料は塩だけじゃ無いから。
「【虹の翼】の皆さんが今日一緒にいらっしゃるのがサクラフブキの方々とたまたま耳にしたものですから、お会いできるのを楽しみにしておりました」
耳にしたって………貴族のお抱え暗部?
異世界あるあるの暗部?
ワクワク!
「お譲。ワクワクしているところ悪いが、俺達を追っていたのはあの女供だけだぞ」
「あえ?」
「誰かに尾行されればわたし達も気付くし、主もわかるでしょう?」
「しょうだった」
私が何に期待しているのか、何故バレた。そんなに表情に出てたかな?
「あの、どうかなさいましたか??」
「いや、何でもない。話を続けてくれ」
アスナロリットさんだけじゃなく【虹の翼】の皆さんも困惑している。
すみません。ただあるあるにワクワクしただけです。
「ええ。そ、それで、大変厚かましいと承知でお願いいたします。可能であれば何か食べ物を売っていただけませんでしょうか?」
そうなりますよね。
「あと、先程のお子様用の高椅子。本当に素晴らしいです。どちらの工房でお作りになられたのか、お教えいただけませんでしょうか?」
ご飯も、ハイチェアーの販売も可能だけれど、明日早く出発するためじっくり商談をする余裕はない。
「2ヶげちゅ後、戻って来ゆ」
「は、はい…?」
「明日朝早くこの町を発つ予定ですし、もう少しで主の眠る時間となります。2ヶ月後この町に戻りますので話はその時に」
「そうでございましたか。お忙しいところに申し訳ありませんでした。2ヶ月後でも結構です。楽しみにしてお待ちしております」
帰り道の途中でエクレールお姉さんが謝罪してきた。
「まさか商談のようなお話だと思っておりませんでした。同席をお願いしていまい申し訳ありません」
「だいじょぶ」
気にしなくて良いよ。
それに私の役目は私の知識を広めることだからね。
フェリアの人々が、私の、ううん、地球の料理や物に興味を持ってくれれば、少しずつでも発展していくだろうから。
それがウル様の願いでもあるしね。
「ゆきちゃんのご飯は本当に美味しいからなぁ」
「そう。最高」
「それに、アスナロリット様、早速アタシらのガマグチに興味持ってたよ」
「持ち歩きやすいし、使いやすいからね」
リンダ、ミムミム、レーネ、ローザお姉さん、ありがとう。
喜んでもらえると嬉しい。
ただ、紳士にがま口は似合わない……かな。コインケースの方が良いかも。考えよう。
【虹の翼】の拠点に戻り、一部屋借りて夜を過ごした。
念のため部屋に結界を張り、私が人ダメソファで眠りについたあと鳳蝶丸とミスティルは酒盛りをしたらしい。本当にお酒好きだよね。
そして、2人に渡した清浄カード500を使ってみたんだって。口の中までスッキリするから便利って言っていた。
これだと歯磨きの習慣根付かなくなるかな?
………何もしてくれないより良い?
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