第80話 お祭り屋台?参加しますよ、もちろん
そうこうしているうちに商業ギルド到着。
ギルド内はそれほど混んではおらず、窓口もかなり空いていた。その中に、件のトランデ嬢がいると鳳蝶丸に告げられて見る。
………あ!黄色点の人!
そう、桜吹雪でずっと黄色点だった女性だ。
トランデ譲は不機嫌な顔でチラリとこちらを見ると、すぐに視線をそらす。
鳳蝶丸は構わずずんずん近づき、声をかけた。
「ギルド長に話がある」
「……………お約束されていますか?」
「してはいないが、いつでも声をかけて良いと許可をもらっている」
「フィガロギルド長はただいま不在でございます」
「ではエレオノールさんを呼んでください」
ミスティルも参戦。
「エレオノールも一緒に不在でございます」
「ふうん」
【虹の翼】の皆さんに視線を移す3つ向こうの窓口で何かを話している。
そして、しばらくするとエレオノールさんがこちらに向かって歩いて来た。
「不在じゃなかったのか?」
トランデ譲が顔を歪ませたところで、私達は窓口を離れる。
「いらっしゃいませ。本日のご要件は……、何かございましたか?」
私達の様子を見て顔を引き締めるエレオノールさん。
「少し話がしたい。時間をいただけるだろうか」
「はい。こちらへどうぞ」
ローザお姉さんが問いかけると、エレオノールさんが別室に案内してくれた。
私達が着席すると、桜吹雪を手伝ってくれたお兄さんがお茶を出してくれる。そして深々と頭を下げ部屋を出て行った。
一呼吸おいてエレオノールさんが姿勢を正す。
「フィガロギルド長は只今来客中です。まずは
「かまわない」
まずは鳳蝶丸が今回起こったことの説明をし、次にローザお姉さんが宿の女性達に対し抗議をした。
「当ギルド職員が御迷惑をおかけし大変申し訳ありません」
エレオノールさんが全てを聞いてから頭を深く下げる。
「そして、宿にも抗議文を送り、然るべき対処を行います」
再び深く頭を下げた。
「只今トランデを連れてまいります」
「いや。こなくて良い」
「今後わたし達に近づかなければそれで良いです。処罰や今後の処遇などはお任せします」
鳳蝶丸とミスティルが首を横に振った。
「私等も君とフィガロギルド長に任せるよ」
彼女らの行く末も興味がない私達。
でも、私達以外にも迷惑に思う人を出さない為、きちんと処罰をしてほしいと付け加える。
人を陥れる行為は洒落にならない事態も引き起こすんだよ!
ダメ、絶対!
「他のちと、迷惑ちてたや、イッパイ、メッ!ちて」
「!………………。はい、徹底的に調べきちんと処罰を与えます。ご安心を」
プンプン怒っていたら何故か周りが悶え始め、鳳蝶丸に頭ナデナデされ、ミスティルにギュッとされたんだけれど、なんで?
「この後どうされますか?もしよろしければ他の宿を紹介いたします」
「今の宿、もう出ゆ」
「はい。こちらでキャンセルの手続きと返金の指示をいたします」
「なら、ウチらの拠点で過ごしたら?」
レーネお姉さんが誘ってくれたけれど、お礼を言ってお断りする。そして、もう町を出ることを告げた。
「え!し、しかし、まだ買取個数も決まっておりませんし、お預かりした品の査定が終わっておりません」
エレオノールさんが慌てている。
なので、2ヶ月後くらいに戻るからその時にやり取りをしようと告げた。
「2ヶ月後、ですか?」
「おまちゅい、やたい!」
「立冬祭に屋台を出したいんだって」
「まあ!歓迎いたします!」
リンダお姉さんが私の代わりに伝えると、エレオノールさんが手放しで喜んだ。
「あ、あの。失礼しました」
そして直前を思い出し、直ぐに姿勢を正す。
「私達は宿屋に抗議をしてくれれば問題ないよ」
「わたし達もあれらの事はどうでも良いです。それより主が希望する屋台の方が大事です」
「やたい、はなちしゅゆ」
「かしこまりました。商業ギルドはゆき様のご参加を大歓迎いたします。少々お待ち下さいませ」
エレオノールさんが一度退席し、やがて大きなロール状の羊皮紙を抱えて戻ってきた。
「この町の行事は町役人が仕切っておりますが、商業ギルド、冒険者ギルドも合同で役目を担っております。冒険者ギルドでは警備を、私共商業ギルドは屋台の区画整備です」
そして応接セットの隣の机にロール紙を広げた。
「こちらは屋台を出す広場と通りの見取り図となります」
見取り図には太い線で丸い広場と広場から伸びた八本の通りが書かれてあり、その中に細かく区切られている細い線が書かれていた。
「まだ確定をしておりませんが、今年の立冬祭はスタンピード終息の祝賀祭も兼ね、5日間開催されると言う案が出されているらしいのです」
「しょうなの?」
「最終日は屋台を出さないので、設営は4日間になりますが、いかがしますか?ちなみに屋台人気コンテストも開催されます」
「そうそう。優勝者は辺境伯家から褒美がもらえるんだっけ?」
「確か、去年の優勝者は翌年の店舗税免除だったよね」
ご褒美が現実的。
「4日、メニュ、しゅゆい変えゆ、出来ゆ?」
「4日間、メニューの種類を変えて出すことは出来ますか?」
「可能です。毎年メニューを変える店もございます。コンテストは全てのメニューの総合点で競われます。ただし、メニューを変えたことで優勝候補から外れると言う波乱な展開もございますのでご注意を。一本で勝負するもよし、変更してさらなる高みを目指すのもよし、でございます」
コンテストは別にいいんだけれど。
お祭りも楽しみたいしね。
「1日目、しゃいごの日、あしょぶ。真ん中、屋台だしゅ」
「ああ、祭りが3日間なら屋台は2日目だけで、5日間なら2、3、4日目の3日間出したい、という事だ」
「コンテストで不利になりますが…」
「お嬢はそれにあまり興味がないようだ」
「あしょぶ」
「全部出なければいけませんか?」
「いえ、大丈夫です。わかりました。ただ、ゆき様の屋台は捌ききれない数のお客様が予想されます。この辺りの広くて他の店と重ならない場所を考えておりましたが、やらない日があるなれば他の場所を………うーん」
エレオノールさんが見取り図の一区画を指して唸っている。見ると、確かに隣接した屋台は無いけれど、そこはやたら広い区画だった。
「ここは去年まで屋台を出していた店があるんじゃないか?」
「はい。いつも決まった屋台が出ておりましたが、今年から代表が隠居されるため不参加の連絡が来ております。問題ありません」
「ちなみに、参加費はお幾らですか?」
「参加費は無料ですが、場所代がかかります。ちなみにこの区画ですと2日間で10万エンとなっております。が、ゆき様の場合おそらく商業ギルド持ちになると思われます」
「何故だ」
「ゆき様の料理は特別で、この祭りの目玉となるでしょう。ギルド長に確認いたしますが、了承されると思います」
うーん。
でも、お祭りも楽しみたい。ずっと屋台はちょっと…。
一瞬の静寂。
それを破ったのはローザお姉さんだった。
「では、私達が店を手伝おう。友人として手伝うから給金はいらないよ」
「おっいいね!」
「賛成ですわ」
「やる。そして食べる」
「大賛成ー!」
リンダ、エクレール、ミムミム、レーネお姉さんも参加してくれるみたい。
「他に、料理が得意で信用できるヤツに声をかけるかい?給金は発生するけどそれでも良ければ」
「あい。おねだい、しましゅ」
どれくらい払えばいいのかわからないけれど、本人と話し合えば良いかな。
「2日、もしくは4日間、場所取りしておきますがよろしいですか?」
「あい。あ、場所代、はやう。にたげちゅ後、くゆ、おちえて」
「そちらはまた2ヶ月後にお話いたしましょう」
エレオノールさんが何やら書類に書き込みをする。
「この度は、当ギルド職員が御迷惑をおかけして本当に申し訳ありませんでした。宿にも抗議をいたします」
深々と頭を下げた。
「ゆき様には、次回おいでになった時に宿代の精算や、査定関連を行いますのでご了承ください」
「あい。よよちく、おねだい、しましゅ」
今回の話はこれくらいでいいかな?
屋台楽しみだね!
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