第78話 共有ポーチ、なかなか良いでしょう?

「ところで硝子容器なんですが、こちらも買い取って良いでしょうか?」

「あい、どうじょ」

「ありがとうございます!この入れ物も本当に素晴らしいです」

「こえ、ここ、カチッしゅゆ。液体、だいじょぶ」


 空の密閉容器に水を入れてミスティルに振ってもらい、液漏れしないところを見てもらった。


「容器のみでも売っていただけますか?」

「うん、いいよ」

「では、とりあえず30個ほど」

「あい」


 納品しますよ!

 この容器を研究してやがて自分達でも作れるようになってくれたら良いなあ。


 支払いは他の素材と一緒で良いと伝え帰ろうとすると、慌てて私を呼び止めるフィガロギルマス。


「あの、クイーンの素材を…」

「あ、しょうだった」

「お願いします」

「肉、ないぞう、いゆ?」

「ないぞう…内蔵ですね?いえ、正直言えば不要な部位です」


 アサルトメガロドンの肉は猛毒入りで更に不味いし、毒を抽出するなら血液の方が楽だしね。


 なので、以前私が複写後解体したクイーンの肉、内臓系以外を出す。

 解体済みだから歯、骨、ヒレ、皮、血液等がすでに分かれており、作業台イッパイに鎮座した。

 血液は容器一つに入り切らず、梅酒とかで使う大きさの硝子製密閉容器を作り、結局それが9個になった。


「それにしても凄い技術ですね。全身ほぼ毒なので解体は困難を極めると聞いておりますが、骨に身一つ残っておりません。それに血液以外無毒化されているのにも驚愕です」

わたくしもこんなに美しい断面を見たことがありません。骨、ヒレ、全てに無駄な傷が無く驚きました。何と言っても驚異的な技術はここです。この切り口無く皮だけを剥ぎ取る技術。王都のギルドでもこれほどの解体技を持つ者はおりません」


 うん、私のスキルで解体したの。

 謎技術によって各部位に解体されるから、自分でもどうなっているのかわからないんだ。

 鳳蝶丸も解体出来るけれど、血一滴も残さず分ける事は出来ないって言っていたよ。


「どのように解体したかは秘密です。あちこちで話さないように」

「は、はい。勿論です」

「そちらについてはお任せください。他の担当者にも口外せぬよういい含めます」


 フィガロギルマスがエレオノールさんにチラリと目配せをしてから私達に頭を下げる。エレオノールさんも一歩下がってお辞儀をした。


「ではそのようにお願いします」

「はい」

「知っていると思うが、血液は猛毒なので気をつけてくれ」

「はい。お気遣いありがとうございます」

「いつ頃査定が終わりますか?」

「5日後までには」

「どうする?お嬢」

「宿、延長、しゅゆ」

「わかった」

「では、5日後に参ります」

「承知いたしました」




 一度宿に戻って3日ほど宿泊の延長する。

 お昼ご飯を食べてお昼寝をしてから午後は冒険者ギルドに向かう。その途中でレーネお姉さんとミムミムお姉さんにバッタリ会った。


「おねしゃーん!」

「ゆきちゃん!」

「元気だった?」

「うん!」


 2人はギルドへ行って、私から伝言が無いか確認しようと思ったんだって。


「町案内の話があったからさ。どうするのかなって思って」

「ごめなしゃい」

「あ、いいのいいの。アタシら今休暇中だから」


 レーネお姉さんが明るく笑い、ミムミムお姉さんはウンウンと頷いている。

 【虹の翼】は1ヶ月間休暇にしたんだって。その間は鍛錬以外各自自由。ただ、やっぱり暇なので隣国のダンジョンにでも行こうかって話をしていたんだって。

 でも、その前に私達と会ってみようと思って冒険者ギルドに行こうとしていたらしい。

 のんびりせずダンジョンに行くなんて冒険者の鑑だね!


「俺達はあんた達に連絡を取ろうと冒険者ギルドに向かっていたんだ」

「そうなの?じゃあ、目的達成って事で、良かったら今からアタシらの拠点に来ない?打ち合わせしようよ」

「いいの?」

「もっちろん。こっちだよ」


 2人に案内され、着いたところは貴族達の居住区に近い高級住宅街の大きなお屋敷だった。


「しゅごーい!」

「【虹の翼】の拠点へようこそ!」


 基本は5人で住んでいて、皆の家族や恋人が訪ねてきた時はこのお屋敷で過ごしているんだって。

 まずは応接室に案内された。ミムミムお姉さんが皆さんを呼びに行って、レーネお姉さんが紅茶を淹れてくれる。


「おねしゃん、おだま、しまちゅ」

「お邪魔します、だそうだ」

「いらっしゃい。我らの拠点へようこそ」


 ローザお姉さんが私達の前に座った。


「町案内をギルマスから頼まれているんだけど、君達の都合はどう?」

「いちゅでも、だいじょぶ」

「では明日でも良い?」

「うん、いいよ」

「明日迎えに行く。宿はどこ?」

「流るる雲雀亭です」

「わかった。朝早くても良い?6時待ち合わせにしたい」

「あい、だいじょぶ。たのちみ!」

「うん、楽しみだね」


 皆さんがニコニコ笑顔で頷いた。


「あ、おねしゃん」

「うん?」

「こえ、持てて」


 私は【虹の翼】用に作った共有ポーチを出した。


「これはあなた達と主の間で共有出来るマジックバッグで、これを貸し出すそうです」

「ん?共有?」

「ええ、共有です。シャンプーやボディソープを何本と書いてお金と一緒に袋に入れておけば、主が品物を納品します」

「え!そんな事出来るの?」

「ああ。中の大きさは大きめの木箱2つ分くらいだそうだ。時間停止ではないので注意してくれ。あと、登録した者以外は使用できないのでそこも注意な」


 保有者は私なので、お姉さん達に髪の毛を1本貰い全員分登録する。

 これで、私達と【虹の翼】のメンバーしか触れられなくなった。


 続いて、鳳蝶丸作成ミスティル記入の注文書を渡す。ベースはお酒の注文書と同じ。



 シャンプー・コンディショナー 1千6百エン

 トリートメント・ヘアオイル  3千エン

 ボディソープ         1千エン

 ボディローション       2千エン

 クレンジングジェル      1千エン

 洗顔フォーム         8百エン

 化粧水・乳液         2千円

 美容液            4千エン

 フェイスマスク10枚入り    3千エン



「こんなにすぐ考えてくださるなんて。ありがとうございます。とても嬉しいですわ」

「ありがと!まだ数日しか経っていないのに恋しかったんだよね」

「やった。ありがとう」

「ありがとう、嬉しいよ!こんなに早く手元に届くなんて思ってもみなかったよ」

「本当にありがとう。それに、ゆきちゃんといつも繋がっていると感じてとても嬉しい」


 エクレール、レーネ、ミムミム、リンダ、ローザお姉さん達が笑顔で喜んでくれた。


 いつも思う。ローザお姉さんって発言がイケメンだよね。容姿はダイナマイトボディの美女だけれど。

 優しくて少しクールで美人でナイスボディで強くて統率力がある、ローザお姉さんのように私はなりたい。

 (知ってる。性格的に無理だって知ってる)


 小瓶にエターナルローズオイルを少量入れて全員に嗅いでもらった。

 ダメな香りなら、香料になっちゃうけれど、シトラスやムスク、サクラの香りにしようと思って。

 でも皆さんとても気に入ってくれたので問題なし。良かった!



「こえ」


 商品を無限収納から出すと、一斉に感嘆の声が上がった。


「何て美しいのでしょう」

「凄い!こんな綺麗な硝子、初めて見たよ」

「この容器だけでも売れそう……」


 エクレールお姉さんがうっとりとガラス容器を眺める。

 リンダお姉さんとレーネお姉さんは恐る恐る瓶に触れていた。


「この模様どうやった?魔法でつけたの?師匠!」


 ミムミムお姉さんはブレないなあ。


「器も素晴らしく、効果も素晴らしい。何と言ってもこの品物を用意できるゆきちゃんが一番素晴らしい」


 イケメンスマイルのローザお姉さん、恐れ入ります!


「ここ、名前」

「うん?シャン…シャンプー、トリートメント?」

「効果、覚えゆ」


 あとはミスティルが製品名と使い方、効果をひとつひとつ説明する。

 皆さん羊皮紙にメモをしつつ、真剣に聞いていた。


「なるほど。ゆきちゃんのテントでも使っていたけれど、そういう名前だったんだね」

「あの時より更に効果アップって凄くない?」

「どのような使い心地なのかしら。楽しみですわ」

「香りも良いね。何だか安らぐよ」

「問題はお風呂。どうする?」


 う~ん。


 リンダ、レーネ、エクレール、ローザお姉さんが喜んでくれたけれど、ミムミムお姉さんが最後に爆弾発言をする。

 一般的にお風呂の習慣はほぼほぼ無くて、湯を沸かして体を拭いたり、髪を拭いたりしているんだって。

 貴族の屋敷にはお風呂があるけれど、それでも毎日入浴することはあまり無く、普段は魔法使いを雇ってクリーン魔法をかけているんだって。

 【虹の翼】邸にもお風呂場は無く、体を拭いたりして過ごしているんだって。


「私もクリーン覚えた。でも、師匠程さっぱりしない。今後の課題」


 私と出会った後、ミムミムお姉さんがクリーン魔法を習得したけれど、髪一本一本までサラサラになることは無いと嘆いていた。


「まあ、そのことは後にして、続きを聞こうよ」

「そ、そうだね」


 レーネお姉さんがパンと手を叩いて話を戻したので、ミスティルが説明を再開する。



 共有にしたポーチをトントンと叩くと管理画面が表示される。

 2枚綴の注文書をすでに入れてあるので、練習がてらそこから出してもらった。


「へえ、出し入れや管理ってこうするんだね。この指示板は触れられないけど文字や絵に触れると反応するんだね」

「空中に浮かんでて不思議」


 ローザお姉さんが管理画面を見てチョンチョンと触っている。ミムミムお姉さんは裏側を覗いたりしていた。


「仕組みが全然わからない。魔力の流れもわからない。教えて、師匠!」


 ミムミムお姉さんがキラキラした瞳で私を見つめるけれど、どうなっているかなんてわからないもん。

 そういうものって受け入れているだけだから。


「マジックバッグを作るなんて素晴らしいことですわ」

「しかも離れている相手とも空間で繋がっているなんて、前代未聞だよ」


 エクレールお姉さんとリンダお姉さんがポーチを見ながら言った。


「時間停止の付与、出来る?」


 ミムミムお姉さんの質問には鳳蝶丸が応える。


「時間停止の付与は可能だが、色々な制約がある。簡単に何個も作ることは出来ない」


 私や従者達が利用する場合は個数制限なく作成が許されているけれど、その他は年1個くらいにするよう言われているしね。


「それだけでも凄いよ。あ、アタシらはお宝かドロップで大容量のマジックバッグを取得するつもりだから、気にしないで」

「そうだね。私達は自らの力で大容量を手に入れてみせるよ」

「絶対、手に入れる!その時テントよろしく」

「あい!」


 もしかして大容量時間停止マジックバッグを作って欲しいと言われるかな?って思ったけれど、レーネお姉さんとローザお姉さんがそのつもりはない事を告げてくれてホッとする。

 ミムミムお姉さんもドロップする気満々で良かった。

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