第77話 買い取ってください。全部じゃなくていいので。

「ん?あえ?」


 何か変更されてる?

 ウルちゃん宛フォルダが無くなり、神様フォルダが出来ていて、その中は更にヒミツちゃん、ウルちゃん、ムウちゃん、桃ちゃんと書かれたフォルダに分かれていた。


 うん?

 茶菓子を贈る用かな?


 とりあえず全種類のカードを複写して、ウル様フォルダに入れておく。



 次にヒミツ様ラインに異世界の茶菓子を召し上がりますか?もし必要ならば何セットですか?と入れた。

 速攻返事が届く。ぜひ食べたいので4セット欲しいとのこと。

 はい!たい焼き入りまーす!



 次に桃様ライン。

 最初は1人ぼっちだったけれど、2人の従者に出会えたこと。スタンピードを止めたこと。町に到着したことなどを書いた。

 そして、日本の菓子で目新しく無いと思うけれど、たい焼き召し上がりますか?もし必要ならば何セットですか?と書いた。

 桃様からは直ぐに返事が来なかった。今はお忙しい時間なのだろう。



 次にムウ様に挨拶しようと思ったら、御本人から連絡が来た。


『ヤッホー(スタンプ)』

『ムウだよ☆』


『お久しぶりです、ムウ様』


『ウルトラウスオルコトヌスジリアス神からお菓子いただいたよ☆』

『すっごく美味しいね!』


『御口に合いましたか?』


『うん、とっても♪』

『時間のある時で良いから』

『また何か奉納してね』


『もちろんです』

『私が作ったもので』

『食べたい物がありましたら』

『連絡いただければ奉納します』


『ありがとう!(スタンプ)』

『その時は連絡するね♪』

『よろしくお願いします(スタンプ)』


『新しい能力ちからを賜ったのね』

『おめでとう(スタンプ)』

『無理せず、新しい生を楽しんでね』

『ウインク☆(スタンプ)』


『はい!』


『バイバイ(スタンプ)』


『ありがとうございました』


 ムウ様は通常運転だった。



 しばらくして桃様からも連絡が来る。

 息災か?という日本語を読んで何だかホッとする。桃様は私をとても心配してくれていた。

 従者と出会って大切にしてもらっていると伝えると安心したみたい。

 そして、自由に生きよと言ってくれた。

 桃様、ありがとうございます。私、結構自由に楽しく過ごしてます。


 あ、桃様もたい焼きが食べたいと言うことだったので、5セット程フォルダに入れました。




 そうこうしているうちに日が傾いてきました。


「いばやちゃん、テント、張ゆ」

「良し、荊棘のトコへ行こう」

「あそこならゆっくり出来ますね」


 転移の門戸を出して荊棘ちゃんドームに行く。

 もちろん、転移の門戸は即解除した。


「いばやちゃん、ここ、テント、良い?」


 と聞くと、ザワザワと揺れて綺麗な薔薇が降ってくる。


「あにあと!」


 許可も出たので、2ルームテントを出して二人にペグを打ってもらった。


 私はちょっと遅いお昼寝して、二人は各自の部屋で好きなように過ごす。

 夜ご飯を食べて、お風呂も入って、2人は酒盛りして、そのままテントに泊まった。


 何のための宿屋かって?

 いいの。転移の門戸を使えるから。

 (特大の開き直り)




 数日は町を散策したり、テントでのんびりしたり、ウル様フォルダにダンジョン用のドロップ品を入れたり、ゆったりした時間を過ごした。

 町の様子を見ると人も増え、日常が戻ってきているみたい。いや、以前を知らないんだけれど。


 では、そろそろ行こうか、商業ギルド。

 場所は散策中に把握してあるので、鳳蝶丸抱っこで向かう。


「しゅごいねぇ」


 商業ギルドはどっしりとした構えの石造りの立派な建物だった。

 中に入ると総合案内所の様なカウンターがあった。


「こんにちは」

「あ、は、はい。商業ギルドへようこそいらっしゃいました。本日のご要件をどうぞ」


 受付のお姉さん達は従者2人を見て一瞬ポーっとしてから慌てて挨拶してくれた。


「ゆちでしゅ。ヒナヨ、ギユマシュ、おねまいしましゅ」

「ヒナヨ、でございますか…」

「フィガロギルド長かエレオノールと言う女性をお願いします」

「アポイントはお取りですか?」

「いいえ。ゆき、またはミスティルが来たと言っていただければわかります」

「……少々お待ちくださいませ」


 少し待っているとフィガロギルマスが翔ぶが如く走って来た。


「ゆき様!ミスティル様!鳳蝶丸様!ようこそ商業ギルドへ!ささ、どうぞ此方へ!」


 めちゃくちゃテンション高くて若干引いた。

 商人や職員の皆さんも引き気味にこちらを見ている。


 私達はニコニコ笑っているフィガロギルマスに案内され、ギルド長室のソファに腰を下ろした。



 コンコン


「いらっしゃいませ、皆様」


 現れたのはお茶を持ったエレオノールさん。

 良い香りの紅茶を配膳して、それからフィガロギルマスの横に腰を下ろす。


「この間、おてちゅだい、あにあと、ごじゃいまちた」

「いえいえ、とんでもない。手伝いました職員たちも良い刺激になったと申しております。こちらこそ、貴重な体験をありがとうございました」

わたくしも良い勉強になり、またとても楽しかったです。ありがとうございました」

「ああ、羨ましい。私も参加したかった…」


 エレオノールさんの笑顔を見て、フィガロギルマスが残念そうな表情を浮かべる。

 そして、小さく咳払いして話を進めた。


「本日はどのようなご用件でしょうか?」

「ああ。手伝ってくれた皆に給金を渡したい」

「主が気にしておりますので」

「わざわざありがとうございます。前回も申し上げた通り、彼らには特別手当を出したので問題ありません」

「でも……」

「ありがとうございます。フィガロギルド長が申しているようにお給金はいただきましたし、貴重な体験や品々もいただきましたのでどうかお気遣いなく」


 エレオノールさんが力強く頷いた。

 そう?遠慮しないよ?

 お給金は良いとして、せめてこちらは受け取ってもらおう。


「あにあと。皆しゃん、ちゅたえてくだしゃい。こえ、皆しゃんに、渡ちて」


 昔私がよく作ったパウンドケーキ3種(プレーン、クルミ、チョコマーブル)と、お酒グラスセットをそれぞれ11セット渡した。


「てちゅだって、くえたひと、ヒナヨギユマシュ」

「えっ!私もですか?」

「あい」

「ありがとうございます!嬉しいです」

「ありがとうございます。責任を持って皆に渡します」

「よよちく、おねだいしましゅ」



 次にフィガロギルマスの目の前に、クイーンの魔石を置く。

 本当は巨大なキング魔石にしようと思っていたけれど鳳蝶丸に高価すぎると言われたので、お詫びの品はクイーン魔石に変更した。

 クイーン魔石だってバレーボールくらいの大きさなので良いよね。


「こ、これは!」

「おてちゅだい、いなない、怒ってごめなしゃい。たしゅかにまちた。個人的に、感謝でしゅ」

「いえ……いえいえいえ、こちらこそ勝手に勧めたこと、お詫び申し上げる立場です。いただけません」


 と言いながら、ゴクリと喉を鳴らしクイーン魔石をガン見するフィガロギルマス。


「これは………アビサルメガロドンの魔石、ですね?」

「あい」

「討伐されました?」

「ちた」

「あの、他の部位をお持ちですか?」

「あゆ」

「買い取られてください!ぜひ買い取らせてください!魔石も買い取りいたします」

「こえは、ヒナヨギユマシュにあげゆ。他は買い取ゆ、よよちく」

「ほ、本当によろしいのですか?」

「うん、いいよ。あと、ほか、たくしゃん、買い取ゆ、出来ゆ?」

「はい。お任せください」


 よしよし。

 死の森で浄化した時、大量に集まったドロップ品でいらないやつは全部出しちゃおう。



 連れて行かれた場所は、体育館くらいの建物が5棟連なる倉庫だった。


「順番に出していただけますか?」

「あい」


 まずはランクE、Dあたりの素材やお肉などを出す。


「も、申し訳ありません。この量は受け付けられません。価格が暴落してしまいます」


 ですよねえ。

 そんな気がしてました。すみません。


 しかたないからどこかの土になってもらおう。


「SやSSの素材も大量だが止めておくか?」

「SSが大量………出来るだけ買い取りたいですっ」

「価格が暴落するんじゃないのか?」

「申し訳ありません」


 さっきからフィガロギルマスの表情がコロコロ変わって面白いなんて言っちゃいけない…かな?

 鳳蝶丸もちょっと楽しんでいるよね?


 何となく使えそうかな?って思ったものは別フォルダに分けてあるので、売って良いものを全種類1つずつ出す。


「ほちい、何個、言って?」

「この中からどれを何個買い取るか決めてくれ」

「はい、数日お借りしても?」

「あい、いいよ」

「では、数日お借りして買い取る素材と個数を決めてお知らせします」


 エレオノールさんが持ってきたものにササッとなにかを書いて渡される。


「2枚共にサインをいただけますか?全種類の内訳は省かせていただきました。ご了承ください」

「あい」


 内容は、私所有の素材を一時的に預かりますよ、と言う内容だった。

 ミスティルが代筆でサインをすると、そのうちの1枚を渡される。


「こちらはお持ちください」

「あい」


 無くす前に無限収納に入れておこう。

 カモフラージュ用のモコモコ白うさぎちゃんショルダーバッグに仕舞うフリをした。



「あ、お肉、ナマ物は?」


 オークのお肉とか、オーガのコーガンとか、フィアスブッシュベイビーの目玉とかあるんだけれど……。


「ナマ物ですか?では、こちらへどうぞ」


 隣の棟に移動する。

 中はひんやりしていて、沢山の氷があちこちに置かれていた。

 そこに作業台のようなものがあったので全種類一つづつ出す。

 お肉、目玉、コーガン、肝臓、毒袋、血液など。


 もちろんナマ物を出すのはそのままではない。

 私の無限収納は内臓や液体がそのまま収納されるんだけれど、同じく収納された容器にドラッグ&ドロップすると、その容器に収納される便利機能がある事に最近気がついた。

 だから液体対応の硝子製密閉容器を作り、お肉以外全てその容器に入れてあるのだ。


 お肉はとりあえずB級以下を出す。

 A級以上は残しておいて、体がもう少し大きくなったら料理しようと思っているんだ。

 特に美味しいと鑑定されたのは、鳳蝶丸討伐ドロップのタクティクスオークキング(SS級)とフォレストバイソンキング(SS級)のお肉。

 肉質は柔らかく脂が甘くて超美味な最高級品の肉って書いてあったんだよね。

 それぞれ1頭分しかないし、もちろんこれは売りません、絶対!


「それにしても、液体まで回収出来るとは……素晴らしいです!」

「?どちて?」

「通常液体のドロップは拾えず地面に落ち、やがて吸収されてしまいます」


 あ、そうか!

 液体は容器に入っていないし、戦った直後に受けとるのは難しいよね。

 ダンジョンでなければ魔獣の体が残るので、血液採取とか出来ると思うけれど。


「肉以外のものはどれくらいお持ちですか?」

「こえ」


 ポイズンホーネットの毒袋 22個

 オーガのコーガン 8個

 タクティクスオークのコーガン 1個

 フィアスブッシュベイビーの目玉 5個

 マジッククェイルの血液 大瓶13個

 アドヒースィヴスライムのジェル 20個

 レイザーデンティロストゥラルダックの肝臓 18個


「こちらも素晴らしく状態が良いですね。ありがとうございます。全て買い取りいたします。あとは……」


 お肉の量は程々、他の内臓系は全て買い取ってもらった。

 はあ、スッキリ!

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