第76話 プレゼンはしたことないケド、頑張るぞ!

 翌日の朝食は塩味の薄切り肉を焼いたものと硬いパン、野菜のスープ。


 朝食ついでに受付で食事とお湯の辞退をした。

 この世界の環境に慣れようと思ったけれど私にはハード過ぎた。

 鳳蝶丸とミスティルに相談したら、自分達も私のご飯と快適なテントが良いと言ってもらえたので、宿に泊まりつつテントを利用する事にする。


 よく読んでいた異世界小説の主人公のように努力や我慢せず、快適な環境を選ぶ私。堪え性がなくてごめんなさい。




「鳳蝶まゆ、トイエ、清浄、魔法陣、むじゅかちい?」

「うーん、そうだな。俺にとっては大したこと無いが、幾重にも重ねて定着させるのは相当な魔法量を使うから人の子には難しいかもな」

「例え作成出来る者がいたとしても、量産は難しいと思いますよ」

「しょっかぁ」


 ひとつ思いついた事があるし、ウル様に相談してみようかな。



『お疲れさまです』


『おつかれ(スタンプ)』


『町に到着しました』


『そのようじゃの』

『見とったよ』

『スタンピードの終息に感謝しよう』


『こちらこそ』

『ミスティルとの出会い、嬉しいです』

『ありがとうございます』


『うむうむ(スタンプ)』


『ウル様に相談があります』


『何じゃろ?(スタンプ)』


『この世界は衛生に関して遅れているように感じます』


『そうなんじゃよ』

『そのため流行り病などなかなか治まらぬ』

『子の死亡率も高い』

『日本の衛生観念を何とか広められんかの』


『医学が衰退していますから、ウィルスの知識も広まりにくいですし』

『簡単にはいかないと思います』


『そうだの』


『治癒魔法やポーションの治療が富裕層以外受けにくいのもあるかと思います』

『まずは感染予防などを浸透させられれば良いのですが』


『今すぐと焦ることはないが』

『ジワジワと広めておくれ』


『はい』

『手洗い、うがい、身体を清潔に保つ事』

『トイレの改善を考えています』


『何か案はあるかの?』


『思いついた事がひとつあります』


『うむ』


『時計のダンジョンです』


『時計?』


『時計のダンジョンがあるならば』

『清浄のダンジョンは作れませんか?』


『可能ではあるが、どのような物をドロップさせるかの?』


『はい、例えば』



 私は清浄ダンジョン案を説明する。


 ダンジョンの浅い層は比較的弱い魔獣を配備する。ドロップ品は、体が綺麗に出来る程度の清浄魔道具。

出来れば魔力が無くても使えるもの。浅い層で沢山ドロップ出来れば安価になるので、平民でも買える。


 1つのドロップ品をずっと使えるのではなく、使用回数を設けて階層が深くなる毎に百回、2百回、3百回使える物と設定して、段々ドロップ率を下げていけば良い。


 汚物まで浄化出来る魔道具もあると良い。出来れば持ち運べるタイプ。冒険者や商人などがトイレ代わりに利用するんじゃないかと思う。そうすれば道端の垂れ流しも減って衛生面が向上するのでは?と考える。


 深い階層には私が作ったようなシャワーヘッドや、ウォシュレット付き便座などはどうだろうか。

 最下層では、適温の湯が張れたり処分出来たり、ついでに清浄が出来る猫足の豪華な浴槽とか、ウォシュレットと清浄付きの便座とかどうだろう?


 最下層のボス戦では、大きな目玉として大容量・時間停止のマジックバッグを極々々々稀ドロップとかにすれば冒険者も探索するのでは?


 と、色々提案してみる。


 ウル様にはなかなか良い考えなので検討すると言ってもらえた。


御神子みかんこが作った』

『トイレやシャワーヘッドなど』

『貰うことは出来るかの』


『差し上げるのはもちろん大丈夫ですが』

『どうやってお渡しすれば?』


『うむ。少し待っておくれ』



 3分程待つ,



『お待たせ(スタンプ)』

御神子みかんこの無限収納にウルちゃん宛と言うマスを作った』


 急いで見ると、無限収納にフォルダが一つ増え、ウルちゃん宛と表示されている。


『そこに見本となる物を入れてくれれば』

『ワシの所に届く故』

『これはと思うものを入れておいておくれ』

『急いではおらぬからの』


『わかりました』

『試しに何か入れても良いですか?』


『うむうむ(スタンプ)』

『かまわんよ』


 どうせならと、たい焼き全種類セットをフォルダの中の1マスに入れてみた。


『おお!良いな!』

御神子みかんこの食べ物は気になっていたのじゃ』

『もし問題なければもう2セットほど貰えぬか?』

『ムウ神にも届けたいからの』


『はい!ぜひムウ様にもお願いします』


 言われた通りもう2セット追加した。

 ウル様の周辺で、私の再構築した食べ物が食べてみたいと話題になったんだって………。いや、一体何柱の神様が覗いているの?困る!

 お風呂やトイレは覗かないでね、と釘を刺す。

 そんなことは絶対にしていないとウル様からの返答。絶対だよ!



 まだ時間は大丈夫か聞いたら問題ないとの事だったので、あの事を聞いてみる。


『あの、天罰はウル様がしてくださったのですか?』


『いや、わしではないよ』

『ステータスを確認するのじゃ』


 慌ててステータスを見ると、半神スキルに『半神の配剤』と書いてあった。



 良い行いの者に幸運を与え、悪い行いの者に天罰を与えられる。

 効果は即死以外、若しくは神の加護4分の1程度の幸運を与える。



 とある。


 え……………ええ!


『もしかしてアレは』


『そう、新たなる能力ちからよ』

『尊いお方が御神子みかんこならば良いであろうと与えてくださった能力ちからじゃ』

『とくと考え活用するように』


『も、もしかして、ヒミツ様ですか?』


『いや、彼の方々とは別のお方じゃ』


『私、沢山の神様に見守られているんですね』


『そうじゃよ』

『そろそろ時間じゃ』

『急いでないのでダンジョンドロップの見本をよろしく』

『それではの』

『バイバイ(スタンプ)』


『わかりました。ありがとうございました』



 清浄ダンジョンは何とかなりそうかな。


 鳳蝶丸に魔法陣の案をいくつか話したら、問題なく作れると言う事だったのでので、ここに滞在する9日間にある程度作ってウル様に渡そうと思う。



 それにしても無限収納から他の箱とか袋に送れるっていいなぁ。

 空間魔法で作れるかな。時間停止じゃなければ作って良いよね?


 冒険者だから持ち歩けたほうが良いのかな?

 まずはメイク道具を入れるような小さなポーチを再構築。布製のシンプルな大人可愛い物にした。

 中を空間魔法で特大段ボール箱二つ分くらい拡げる。

 「収納庫管理」で私と同じ操作が出来るようにして、生物は植物以外収納禁止にした。

 所有者は私。使用者登録は鳳蝶丸とミスティル、それから【虹の翼】の皆さんに行なってもらう。


 魔法創造で無限収納と指定した物を繋げる魔法を作成する。

 リンク?うーん、しっくり来ない。クラウド?アップロード?うーん………、うん、良し!

 もう、[共有]でいいや。



 [共有]

 無限収納の指定したフォルダと、指定した容器の空間を繋げ、容器の持ち主との物品共有を可能にする。



 これでどうだ!


 【虹の翼】フォルダを作りポーチと共有で繋げる。

 テストでシャンプーを入れてポーチを確認してみたら問題なく取り出すことが出来た。あとは距離の問題かな。どれくらいまで大丈夫かそのうち検証しなくては。




 ついでだから美容用品を改善しよう。

 ヘアケアやボディケアは荊棘ちゃん産エターナルローズの香りに統一した。

 再構築した時の香料を排除して、エターナルローズから抽出したオイルを配合。

 エターナルローズはダマスク・モダン香に近く、でもそれより柔らかく優しい香りなのだ。


 ん~とっても良い香り!

 あ、スメハラにならないようふんわり香る程度だよ。


 次に、全ての美容品はどんな人でも効果があるよう私の魔力[治癒]をほんの少し練り込む。

 乾燥する人はしっとり保湿。オイリーな人にはサラサラ保湿。傷んでいる人は修復・改善ケアと保湿。

 鑑定したら万人に効果ありと出たので大丈夫だと思う。

 しかもエターナルローズオイルを使っているものは、お風呂で成分を落とさない限りずっと保湿効果や香りが残るみたい。


 美容用品は全て綺麗な硝子の容器に入れた。

 アンティークな香水瓶や蓋つきの器やボトルを再構築。再構成でエンボス加工の桜吹雪マークをつける。

 こちらではシャンプーやリンスに該当する製品名が無いので、もうこの名前で覚えてもらうしかない。

 今の所は【虹の翼】にしか卸さないので何とかなるかな。皆さんはすでに経験済みだし。

 念のため、硝子容器の下の方にエンボス加工で小さくシャンプーとかリンスとかこちらの文字で書いておいた。あとは口頭で説明しよう。



 あと、2ルームテントと休憩用テントに常備していたヘアケア、スキンケア製品の中味は全部取り替えた。

 容器は今まで通りプラスチックボトルだけれど、万人に効果あり成分のものにしておいた方が良いものね。




 一通り作ってちょっと休憩。

 お昼を食べて午後からはダンジョン用の何かを作ってみようと思う。


 まずクリーン(髪・身体)かな。

 木製の四角いカードを作り、真ん中に小さな魔石を填める。魔石に[身体の表面と髪の毛と着用・装備している物を清浄]を付与する。


 発動条件は鳳蝶丸に相談した。


 カードの表面に矢印マークを削ったように凹ませて、2回振ると矢印方向に魔術発動の魔法陣組み込み定着させてもらった。

 適当に魔力を入れて鑑定すると、魔力125・約1回分となっている。

 2回振ると問題なく発動し、魔力25・約0回分に減っていた。

 このカードで発動する1回に必要な魔力は100なのか。じゃあ、100回は魔力10000だね。

 カードに魔力を注入しようとしたら、途中でパキッと魔石が破れてしまった。


 やっぱり容量が小さかったかぁ。



「例えばだが、キング魔石でカードを作って100回目にカード自体まで消す、と言うのはどうだ?」

「!そえ、イイ!………ろっかげちゅ、ちゅかわにゃい、消えゆ、出ちゆ?」

「ろっかげちゅ…6ヵ月使われない場合もカード自体が消える、という事だな?」

「うん」

「魔法陣を重ねて組み込めば問題ないな。キング魔石だったら出来るだろう。1回だけカード自体の清浄も付与してくれるか?」

「あい」


 キング魔石をカード型にして表面に矢印を削る。

 先程と同じ清浄と1回だけカードも清浄を付与して鳳蝶丸に渡そうとすると、待ったがかかった。


「3回で消えると5分で消えるの魔法陣を組み込もう。とりあえず、お嬢の魔力を1000くらい入れて複写してくれ」

「わかた」


 言われた通り複写して渡すと、カードの上で何かを操作するような仕草をする。

 そして5分も経たないうちにフワリと魔法陣が浮かび上がり、カードにスーッと吸い込まれ、キラキラと眩しく輝いた。


「これを2枚に複写してもらえるか?」

「あい」


 片方はこのまま放置、片方は使用してみる。


「じゃあ試すな」

「うん」


 鳳蝶丸が自分に向かって2回振ると清浄発動、もう1回、更にもう1回振ると、身体が清浄されたと同時にカード自体がスウッと消えた。


「成功だな」

「あい!」


 もう片方も5分経つとカード自体に清浄が発動しスウッと消える。


「こちらも問題なさそうだ」

「やた!」

「良かったですね、主」

「あいっ。鳳蝶まゆ、あにあと」

「俺も楽しいよ。ありがとうな」


 二人に頭ナデナデされて嬉しいな。


「最初のカードを5枚複写してもらえるか?」

「あい」


 私の魔力が1000入ったベースのカードを複写する。


「これで100回から500回の五枚を作ってしまおう」

「また実験しゅゆ?」

「いや、さっきの魔法陣はもう登録したから回数と日にち部分をいじれば問題ない」


 鳳蝶丸は[魔法陣創造]という能力を持っていて、自分で組み合わせた魔法陣を登録しておくことが出来るんだって。

 なので先程よりずっと早く、5枚とも魔法陣を定着させた。


 私はカード表面に100、200、300、400、500と削った後、100回カードを鑑定すると、使用7回になっていた。 予め魔力を1000入れて、清浄に必要な魔力が100だから10回使用できるのかと思っていたけれど、よく考えればカード自体の清浄用魔力が必要なんだった。


 と言うことで、100回カードは魔力20000、200回カードは魔力30000とそれぞれ10000多く魔力を注入する。

 鑑定すると全部ちゃんと機能することがわかった。


 完成!

 ウル様宛フォルダにダンジョン用アイテム第1弾を入れよう!

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