第75話 ちょっとクセがある、カナ?

「ああ、テント………」


 ミムミムお姉さんが貸出テントにしがみつく中、私は使った物をどんどん清浄して収納。

 自分達のテントを仕舞っている間にリンダお姉さんがミムミムお姉さんを引っ剥がしたので、貸出テントもササッと収納した。


「お手ちゅだい、あにあと、ごじゃいまちた。シャクヤフブチ、かいしゃん!」



 桜吹雪、解散です。お疲れさまでした!

 パチパチパチパチ



 皆で拍手して、それぞれ自分達の場所へ去って行く。

 私達はそれを見送った。




「良し、じゃあ行くか」

「流るる雲雀亭でしたよね?」

「あーい」


 鳳蝶丸抱っこで町に入る。門で商業ギルド証を出したらすんなり入れてもらえた。と、言うか、飯と酒をありがとう!美味かったよ!って挨拶されたよ。


 町は初めて見た時と違い結構人が戻っているようだ。

 ミスティル案内でどんどん歩く。そして、様々な店舗が立ち並んでいる一角に目的の宿があった。


 この町では10日くらいゆっくりする予定で、2人にはその間宿に泊まりたいと事前にお願いしてある。お酒が思っていたより多く売れたので、滞在費は多少高くても問題ないしね。


「こんにちは」

「いら………んん、いらっしゃいませ」

「……………」


 上品で可愛らしいお年を召されたマダムが一瞬2人に驚いて、すぐに表情を取り繕う。

 もう1人の若くて綺麗な女性は言葉を失っていた。


「お泊り、しゅゆ」

「ありがとうございます。どの様なお部屋がご希望ですか?」

「広い部屋が良い」

「おすすめは?」

「広いお部屋でしたら2部屋ございます。季節の花々を眺めるお部屋は1階、町並みや表通りが見えるお部屋は3階となります。どちらも2人部屋ですがよろしいですか?」

「それは問題ない。どうする?お嬢」

「うーん、しゃんかい」

「では3階に」

「1泊2万エンになりますが、問題御座いませんか?」

「ああ。とりあえず10泊分頼む」

「かしこまりました。木札をお渡ししますので、お食事の際にお持ちになって食堂にいらしてください」

「食べない場合はどうしたら良い?」

「ご予定がお決まりの際は従業員かわたくしにお伝えください。どうしても急用の場合はそのままでも問題ありませんが、21時を過ぎるとキャンセルになりますのでご注意ください」

「あい。わかいまちた。あにあと、ごじゃいましゅ」


 私がお礼を言うと、まあ、と言ってニッコリと笑顔になる。


「お礼が言えて偉いのね?お兄様とご旅行かしら?」

「お兄しゃま…うん、お兄しゃま、一緒、町、ちたのよ」

「そう。良かったわね」

「あい!」


 ニコニコ笑顔の鳳蝶丸とミスティル。

 鳳蝶丸に頭をナデナデされて嬉しくなり、思わずキャッキャと笑ってしまった。

 その様子を笑顔で見ていたマダムが一呼吸置いて、話を再開する。


「それでは、10日で20万エン、先払いとなります」

「ではこちらで」


 ミスティルが硬貨を渡す。


「ありがとうございます。頂戴いたします」



 先程も述べたように、今回のお弁当やお酒販売で私は小金持ちになった。

 お金を三等分しようと言ったら、全額私のものだと断られたけれど、外での支払いをスムーズに行うために持っていて欲しいとお金を多めに渡した。

 勿論、買い物など自由に使ってとも言ってある。


 今回の宿代はミスティルが出してくれた。時折残高を聞いて補充するつもり。



 お金を引出しに仕舞ったマダムが丁寧に頭を下げる。


「流るる雲雀亭へようこそお越しくださいました。わたくしは当宿の女将、ヒソラと申します。何かございましたら従業員かわたくしにお声がけくださいませ。こちらはお部屋の鍵にございます。ごゆっくりお過ごしください」


 丁寧に頭を下げ、側にいた従業員のお姉さんに声をかけた。


「お客様をお部屋にご案内して」

「………」


 あ、まだ惚けてる。

 あなたはミスティルがお好みなのね。


「メイヤ。お客様をご案内してちょうだい」

「…は、はい!」


 やっと我に返り、私達を3階の部屋に案内してくれた。


「こちらのお部屋になります」

「あにあと」

「………ごゆっくりお過ごしくださいませ」


 メイヤと呼ばれたお姉さんは軽く私を無視し頭を下げてから立ち去る。地図は黄色点になっていた。

 2人もあまり良い印象では無かったらしく、一瞬冷たい視線を送る。

 あの人には気をつけよう。


 気を取り直して、カチャリとドアを開ける。


「おお!」


 なかなか広い。

 部屋は明るくてベッドの他にも布張りのソファや小さな棚、書斎机などなかなか設備が整っている。

 ただ、お風呂とトイレ、洗面台など水回りの設備が無い。


「一般的な宿はどこもこんな感じだな。トイレは共有、風呂に入る習慣はない。朝と夜に湯が配られれるので顔や体を拭く。水が飲みたければ受付に言って持ってきてもらうか、食堂で飲む」

「なゆほど……」

「わたしの神域にテントを張りますか?」

「今日、このまま、良い」

「わかりました」


 せっかくなので今日はこのまま過ごしてみよう。

 私は窓からの景色を眺めたり、ソファ(座り心地硬め)で無限収納の整理をしたりしていた。


 少し眠くなったので、ベッドに横になる。……硬い。ソファ同様硬い。

 私は早速音を上げて、人ダメソファを出し横になった。もちろん2人の分も出したよ。




 お昼寝から目覚めると窓の外が暗くなり始めていた。

 2人は私が渡した日本の雑誌を読んでいる。

 のどが渇いたのでお水を出して飲む。

 まだちょっぴり眠いのでミスティル抱っこでウトウトしていた。


「お嬢、そろそろ夕食の時間だぜ」

「うん…食べゆ…」

「まだ眠いみたいですね」


 食事の木札は鳳蝶丸のマジックバッグに入っている。

 私はウトウトしたまま1階の食堂に運んでもらう。


「お嬢、食堂に着いたぞ」

「目を覚ましてください」

「うにゅん………」


 目を擦って周りを見る。

 そこは白い壁に飴色の柱や机のシックな食堂だった。


 鳳蝶丸情報によると、宿の食堂は泊まり客だけではなく、食事だけのお客さんも受け入れているんだって。

 そして、夜遅くなればなる程お酒目当てのお客さんが増えるので、今の時間はファミリーとかお年寄り、若い女性が多いらしい。

 まあ、日本のホテルもそんな感じなので普通かな。


 従業員のお姉さんに木札を見せ、案内されて席に着く。

 私はミスティルの膝の上です。


「本日のメニューはオーク肉のステーキとカナカナ鳥の煮込みとなっております。どちらになさいますか?」

「どちらにします?」

「うーん、かにゃかにゃ………かにゃ……」


 言えない…。


 2人はニコニコ笑顔だった。微笑ましい目で見ないで?


「カナカナ鳥と、俺はオーク肉」

「わたしもオーク肉でお願いします」

「は、はい。かしこまりました」


 お姉さんが顔を真っ赤にしてキャーと言いながら小走りで行ってしまった。

 いや、食堂で走っちゃダメなのでは?



「かにゃかにゃ、どんなの?」

「カナカナ鳥はこの辺りでよく見かける飛ばない鳥です。魔獣ではありません」

「カナカナ鳴くからカナカナ鳥って呼ばれている。岩や石に擬態してあまり動かないからか、丸々と太っている鳥だ」

「おぉ」


 オークは何となく想像できるけれど、カナカナ鳥ってどんなんだろう?と思ってオーダーしてみたよ。

 楽しみ!


「お待たせしました」


 女子3人になった。

 それぞれ私達の前に料理を置きながら、チラチラ2人を見ている。

 2人は全く気にせずナイフとフォークを持った。


「食べやすくしましょうね」


 ミスティルがカナカナ鳥を切り分けてスープと一緒に口に入れてくれる。

 もちろんフーフー付き!


 モグモグモグ


 身は柔らかめ。肉の脂はちょっとクセがあるかも。鶏と比べると味が濃くて野性味溢れている感じ。

 スープは基本塩味で、ピリッとした香辛料がアクセントになっている。

 好き嫌いが分かれるかも。ちなみに…正直言えば私の好みではない。でも勿体ないから全部食べるよ!


 鳳蝶丸はオーク肉を切って豪快に食べているし、ミスティルは私の口に運ぶ合間に自分のお肉を食べている。途中鳳蝶丸抱っこに代わってミスティルが食事していた。

 オーク肉も一口もらう。脂ののった美味しい豚肉という感じかな。鳳蝶丸情報だと上位種になればなるほどもっと美味しくなるんだって。

 ドロップした美味しいお肉は上位種のかな?今度調理してみよう。



 食事が終わって部屋に戻る。

 人ダメソファに沈んでいると、コンコンとドアを叩く音がした。


「はい」

「湯はご入用でしょうか?」

「ええ。お願いします」

「畏まりました」


 ミスティルが対応する。ドアから気配が遠のき、再び近付いて来てノックが聞こえる。


「おまたせしました」


 宿の人が木製の桶にお湯を張って持ってきた。


「有料となりますが、拭い布はご入用ですか?」

「そうですね。1本いただきましょう」

「5百エンになります」


 ミスティルが銅貨を5枚渡して桶と布を受け取り、鳳蝶丸がドアを閉じて鍵をかけた。


「これで体や頭を拭います」

「うん」


 鳳蝶丸が私の服を脱がせている間に、ミスティルが布をお湯に浸けようとしたので慌てて結界3を張る。

火傷してはいけないしね。


「ありがとうございます。でも、私は大丈夫ですよ」

「ん?」

「俺達は火傷はしないからな」

「あ、しょうだった」


 私達は怪我も病気もほぼしないんだった。

 でも、感覚はあるからお湯を熱く感じるわけだし結界3のままでいいかな。


 ミスティルが湯に入れた布を硬く絞っ…………………あ、



 ブッチィ!



 布、絞り千切りました。


「………やっちゃいました」

「やっちまったな」

「やったった」


 3人で笑って、結局半分に千切れた布で体と頭を拭ってもらう。


 その後は話をしたり自由に過ごし、眠くなってきたのでベッドに横になる。

 でも堅くて眠れず、頑張ってもやっぱり眠れず、結局人ダメソファに落ち着く私だった。


 おやすみなさい。

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