第74話 ヨーホイ・ブートキャンプ!

 早朝。

 まずモッカ団長率いるロストロリアン王国騎士団がこの広場から出発する。


「ゆき殿。スタンピード終息も含め大変お世話になりました。我が国へいらっしゃる時はいつでもお声掛けください。お待ちしております」

「あい。皆しゃん、おでんちで」

「ありがとうございます。ゆき様もお元気で」


 ピリカお姉さんとモッカ団長から、それぞれ違う紋章の入った綺麗なカードを渡される。


「どちらかを提示していただければ問題なく入国出来ますので、どうぞお受け取りください」

「わあ!ちえい!いいの?」

「はい。是非とも遊びにいらしてくださいね」

「あい!あにあと」


 私がカードを受け取ると手を振りながら笑顔で隊列に戻って行く。

 そしてこの町の役人に先導されて広場を出ていった。



 次にライアン団長率いるサバンタリア王国近衛兵団が出発する。


「アイアンだんちょ、マッタダンしゃん、てちゅだう、あにあと」

「マッカダンはゆき殿のお役に立てただろうか?」

「あい、とっても!」

「それは良かった。こちらもマッカダンに色々と心を砕いていただき感謝している。そして、スタンピードを止めてくれてありがとう」

「どういたちまちて」


 ライアン団長と握手。

 明るく爽やかなマッカダンさんに何度も助けられたよ。ありがとう!


「マッタダンしゃん。たくしゃん、あにあと」

「こちらこそ!とても楽しくてとても貴重な体験が出来たよ。ありがとうな。ショルダーバッグやコインケース、色々なグラスは宝物にする。また今度会おうな」

「うん、あしょび行く」


 身を乗り出して手を広げると、慌てて抱きとめてくれた。


「このしゃき、マッタダンしゃん、しあわしぇ、たくしゃん、くゆ、祈ってゆ」

「〜〜〜〜〜、ありがとう!」


 マッカダンさんが一瞬泣きそうな顔をしてからニカッと笑った。


「俺も、ゆきちゃんの幸せをずっと願っているよ。またね。絶対にまた会おうな」


 こうしてサバンタリア王国近衛兵団はラ・フェリローラル王国騎士団と一緒に王都へ向け去って行った。




 死の森調査隊は解散となりテントも解体された。

 今広場にはポツポツと冒険者のテントがあるだけでガランとしている。死の森探査が再開されれば、冒険者達がここに泊まるのだろう。


 私達も今日の打ち上げの後ここを出ることになる。


 さて、ある程度お片付けして、打ち上げ会の準備もしよう。

 タープテントや帆布シート、簡易テーブル、ゴミ箱などを清浄して一旦収納。

 結界も解除。

 2ルームテント前に移動して帆布シートを1枚敷き直し、結界1(防塵・防砂、入ると同時に清浄付き)を張った。

 帆布シート脇にはゴミ箱と食器返却箱、男性用と女性用のトイレ。

 帆布シート上には冖型に簡易テーブルを置き、その中に6人用テーブルを4台と椅子も設置した。

 白いテーブルクロスを敷いて、綺麗な硝子の一輪挿しに荊棘ドームちゃん製【永遠の聖なる薔薇】を挿し、6人用テーブルに飾る。


 うん、良い感じ。


 集合は12時なので、皆が来たら料理や飲み物、食器類などを出そう。

 今日はビュッフェ形式にするので、料理は先程大皿に盛りつけた。

 あと、某ホテルのスイーツバイキングの一口サイズケーキやデザート各種を再構築する。見た目も綺麗、かつとても美味しかったんだ。

 きっと皆喜んで…いや、正直言えば自分が食べたいだけとも言う!

 だって今の私病気にもならないし、太らない!


 支度をしているとエレオノールさんがやって来た。


「おはようございます」

「おはよう、ごじゃいましゅ」

「実は商業ギルドが再開したため、商業ギルド職員は打ち上げ会に参加できなくなりました。せっかくお誘いいただいたのに申し訳ありません」

「しょっかぁ、じゃんねん。でも、おちごと、ちかたない。おてちゅだい、あにあと、皆しゃん、ちゅたえて、くだしゃい」

「はい。こちらこそ、大変有意義な時間をいただきました。この経験は今後、我が人生の力となるでしょう。本当にありがとうございました」


 エレオノールさんはお辞儀をして、キビキビと去っていった。

 残念だけれどお仕事ならば仕方ない。でも桜吹雪の報酬を何一つ支払っていないので、そのうちご飯やお菓子を持っていこうと思う。

 お給料はどうしようか?後でフィガロギルマスに確認しなきゃ。






「おちゅかえ、しゃま、でちたー!」



 カンパーーーーイ!



 カチン☆



 今日はスタッフ達の打ち上げ会。

 残念ながらマッカダンさんや商業ギルドの皆さんは不参加だけれど、今いるメンバーで楽しむぞ!


 飲み放題、食べ放題、ただしセルフサービスで好きなだけどうぞと言ったら皆喜んでそれぞれお皿に盛っていた。


「これこれ。味見じゃなくてガッツリ食べたかったんだよねえ」

「私は魚介かな。岩石海老なんて滅多に食べられないからね。うん!美味い!」


 リンダお姉さんがお肉を大量に盛り、ローザお姉さんは海老に齧りついていた。


「昼間っからお酒、幸せだねえ」

「ええ本当に。食べ物も飲み物も貴族でさえ口に出来ない極上品。美味しくて手が止まりませんわ。どうしましょう」


 レーネお姉さんが美味しそうにお肉とビールを交互に堪能し、エクレールお姉さんはワインとチーズを口にしている。


「私、こんな高級品食べて大丈夫かな」

「俺も。でも止まらないよ」


 ハイジさんとピーターさんはカレーとビーフシチュー、合間にお肉や野菜をひたすら食べていた。


「これ、美味しいよね」

「はい、とても美味しいです」


 ミムミムお姉さんとクララさんは食べ物の好みが合うらしく、二人で魚貝たっぷりパスタを食べていた。


 鳳蝶丸とミスティルは二人でおつまみを食べながらお酒を飲んでいる。


 うん。皆さんがそれぞれ楽しそうで嬉しい。


「酔っ払う前に酒を買いたいんだけど良いかな?」

「うん、いいよ」


 それぞれに注文書を配ると、凄い速さでチェックを入れる。売っている間や試飲で目星をつけていたんだって。

 お金いらないって言ったらそれはダメ、きちんと計算してと皆に言われたので鳳蝶丸にお願いする。

 そしてそれぞれに希望のお酒を渡した。


 お酒の他にシャンプーやリンスはどうする?と聞いたら、出来れば後日にしたいということだったので、【虹の翼】のお姉さん達とは桜吹雪解散のあと時間を作って会いましょうということになった。



 あとは……そう!今のうちにお給金を払うことにする。

 ビョークギルマスとの話し合いでお給金は1日7千エンにしたけれど、端数繰り上げで3万エンに変更した。

 事前に大銀貨3枚を入れたがま口のお財布を人数分用意した。和柄でコロンと丸いフォルムのがま口を再構築しておいたんだ。


 商業ギルド職員さんの分は後ほどフィガロギルマスに渡すとして、今いる皆には受け取ってほしい。

 【虹の翼】の皆さんからはやはり辞退されたけれど、ハイジさん達が受け取りにくくなるし、桜吹雪の決まりだからと言って受け取ってもらった。


「えっえっ!何これ、可愛い!」

「可愛い…」

「とても愛らしいですわね。素敵」


 レーネお姉さんとミムミムお姉さん、エクレールお姉さんががま口に反応した。


「これはどうやって使うの?」


 ローザお姉さんに聞かれたので説明する。


「こえ、お金入れゆ、しゃいふ。こうちて、パカンしゅゆ」


 がま口の使い方を教えたら、えらく感動された。

 こちらの世界では丈夫な布袋の口を革ひもで結わいてお金を持ち歩くので、買い物の時とても面倒くさいらしい。


「と、言うか、このガマグチ?の構造、商業ギルドに登録した方がいいんじゃない?私達が使っていると誰かに真似されてしまうよ」

「それ、私も思っていた。コインケースとかも登録した方が良いと思う」


 リンダお姉さんとローザお姉さんに心配されてしまう。

 ウル様に私の国の文化や技術を広めて欲しいとお願いされているので、私は真似されてもかまわないんだけれど……。

 ウル様の事は伏せて、真似されてもかまわないと言ったら、何故か鳳蝶丸とミスティルに登録を強く勧め始める皆さん。


「3人で考えてみるよ。せっかくお嬢が作ったんだからそのガマグチはアンタ達で使ってくれ」

「ああ。とても便利だしありがたく使わせてもらうよ。それからお給金ありがとう」

「ありがとうございます」×全員

「こちらこしょ、おちゅかえしゃま、でちた」




 飲んだり食べたり皆がほろ酔いになった頃、私はあることをお願いする。


「シュチップ、ちってゆ?」

「シュチップ?」


 ハイジさん達にスキップを覚えてもらおう。


「タンッタタン、タタンッタタン♪」


 リズムと足運びを教えると、すぐにスキップを習得してくれた。

 流石冒険者!


 ハイジさん、クララさん、ピーターさん、私の順に並んで、ハイジさんにはシート内をスキップで自由に移動してもらい、その他の人は前の人に着いて行って欲しいとお願いした。


「お歌、うたう!」

「おお!いいぞ、ゆきちゃん!」


 皆が拍手した。

 私はハイジさんにスキップを始めるようお願いする。



 ヨーホ、ヨーホ、ヨッホッホ♪

 ヨッホッホイ、ヨッホッホー♪



 何か違う?

 いいの、冒頭のアレは歌えないから。


 私は3人の一番後ろでピョンコピョンコと下手っぴなスキップをしながら歌う。

 最初は皆さん楽しそうに手拍子をしていたけれど、何か違う空気が漂い始めた。


「そうか!これは鍛錬かもしれない!」

「ああ、足を高く上げて両手を大きく振れば体が鍛えられるな」

「何が重いものを持てば更に良いかもしれないよ」


 リンダお姉さんとローザお姉さんがそんな会話で盛り上がっているとも知らず、私はスキップしながら歌を歌う。


「クララ!もっと足を上げて!ハイジはもっと大きく腕を振るんだ!」


 ん?


 突然リンダお姉さんが二人に声をかける。


「腿をもっと上げる!ハイハイハイハイ!」

「私達も加わりませんこと?」

「うん、そうする」

「よっし、私も鍛えるぞ!」


 【虹の翼】の皆さんも何故か加わりだした。


 スピードに付いて行けなくなった私をリンダお姉さんが掲げ、ライオンな王の状態に。



 ヨッホッホーよりハーニャヘンニャーになった。



「歌は何だっけか」

「聞いたことない言葉だったな」

「わかるところだけ歌えばいいんじゃない?」

「そうですわね」



 ヨーホーヨーホーヨッホッホッホホーイ♪

 ヨーホーヨーホーヨッホッホッホホーイ♪



 日本語だったからか歌詞がわからず、わかりやすい箇所だけを歌いだした皆さん。

 とうとう某海賊と化した。


 すると、ローザお姉さんが掛け声を始める。


「足を上げろ!腿を上げろ!腹から声を出せ!」



 ヨーホーヨッホホー



「拳を握れ!腕を上げろ!」



 ヨーホーヨッホホー



「全速前進!スピードを上げろ!」


 あ、何とか軍曹みたいなノリみたいになっちゃった。



 アルプスからサバンナを巡り、大海原を渡ってナントカ軍曹と化す。



 面白すぎて大笑いした。



 アッッヒャッッヘアッッッ



 跳ねているからガックンガックンする。変な笑い声になっちゃうよ!




 一通り終える。ハイジさんとクララさんとピーターさんは屍と化していた。

 一方、あれだけ激しくスキップしても、私をダンベルが如く上げ下げしても、【虹の翼】の皆さんは息すら上がっていない。


「いやあ、良い運動が出来たよ」

「汗かいて醉いが冷めたから、もう一度飲み直すか!」

「この運動、良い」

「今後取り入れましょうね」

「山道でもやってみようよ!」

「いいね!」×4名




 少し未来に冒険者ギルドや武術関連施設で【ヨーホイ鍛錬法】という名の鍛錬方法が取り入れられることになるが、この時の私は想像すらしていなかったと言う。


 筋肉痛の新人達が魂飛ばして転がっ………。



 合掌。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る