第72話 おーしーおーきーだーーー

 王国騎士団の人は嫌いだ。この国に騎士道は無いのか。

 震える青年達の姿に段々怒りが湧いてくる。

 何の罪もない人を痛めつけ物を奪う。

 もちろん貴族の中にはしっかりした考えを持つ人もいると思うけれど、でも今回は、お兄さん達を傷つけた貴族を……、


 ぜ っ た い に 許 さ な い !



 悪い事したんだから天罰が下ればよいのだ。

 神様にお願いするならば、命で償うのではなく今後の生活に困ることで罰をあたえて欲しいと伝えたい。



 例えば…………。

 頭髪がなくなる、だけじゃ弱い。

 もみあげ以外の頭髪が無くなり、もみあげと鼻毛と耳毛とワキ毛とチチ毛と下の毛が5分に1m伸びればいいのに。

 次に悪事をはたらこうとしたら2m、次は3mと、1mずつ増えればいい。


 そのままだと救われないから、善い行いをしたら10cmずつ減って、正しい人になったら美しい髪が生え、生涯フサフサの髪でいられるとか。



 心の中の妄想でウサを晴らす私。

 すると、どこからか声が響いた。



 うん、良いと思う

 神の愛し子よ

 そなたに新たな力を授けよう



 雲ひとつない夜空を稲妻が横に走り、一箇所に集まる。



 ピシャッ


 バリバリッ


 ドオォォーン!



 激しい稲光りと空気が震える程の大音量。

 先程従者達が走って行った方向に落雷したみたいだった。



「どうなっている!」

「慌てるな。お嬢を悲しませた奴らに天罰が下っただけだ」

「て、天罰?」


 気付けば会場の皆がしゃがみ込んで姿勢を低くし、何があったのかとキョロキョロしている。


「皆に問題ないから食事を続けるよう言ってくれ」

「わたし達は様子を見てきます」

「待ってくれ。俺も行く。その前に声を大きくする魔道具借りられるか?」

「あい」


 拡声器を貸すと、問題ないので食事を続けて欲しい。詳細は後ほど伝えると言い、リインと呼ばれた女性には青年達の治療を続けるよう指示する。

 そして私達とビョークギルマス、何事かと近くまで来ていたライアン団長とモッカ団長も一緒に、落雷場所へ行くこととなった。


 と言っても、調査隊テントの向こうなのですぐに到着。

 そこには全身びしょ濡れで、鎧だけが器用に斬られ散乱し、荊棘ちゃんにギッチギチに締められた騎士らしき男達3人が転がっていた。

 皆意識はあるけれど荊棘ちゃんの痛みに顔を歪ませている。



 ん?あれ?

 全身びしょ濡れで雷にあたったのに無事なの?天罰は形が雷ってだけで落雷とは違うのかな?



 しばらく眺めていると、鳳蝶丸、ミスティルの存在に気付きヒッと怯えだす。


「な、どうなっている?」

「主を悲しませたのでお仕置きをいたしました」

「息の根が止まる一歩手前で止めたから安心してくれ」


 爽やかな笑顔のミスティルと楽しそうな笑顔の鳳蝶丸。

 笑顔だけれど発言が物騒だよ?


「すごいな」

「ええ。鎧が紙のようです」


 散らばった鎧を拾って2人の団長が顔を引きつらせていた。



 そして、天罰が下った騎士達である。

 3人共こめかみ以外つるっつる。こめかみと耳と鼻からすでに毛が伸び、服の下はあちこちモッコモコになっていた。


 私が鳳蝶丸とミスティルに天罰の内容を伝えると、肩を震わせて笑い出す。


「救いまで考えてあるとはさすがお嬢」

「良いと思います」


 ミスティルが指をパチンと鳴らすと、荊棘ちゃんが騎士達を解放した。


「お前達は神の怒りを買い天罰が下った。悪しき心を改めなければ伸びる長さは加速してゆくであろう」

「お前達に正しき心が芽生えれば救いはあるだろう」


 鳳蝶丸とミスティルが神託を下すが如く3人の騎士に告げる。。

 そして遠巻きに見ていた王国騎士団に顔を向けた。


「アンタ達も見ていたろう?貴族の力で下々の者達に無理難題を強いたり、搾取や暴力をふるうと天罰が下されるかもしれんぞ」

「善行以外の救いはありません。悔い改めるように」


 そしてブハッと吹き出す。


「ハハハ、こめかみだけ残っているのが良いな」

「お似合いです。ふふっ」


 土からひょっこり出ている荊棘ちゃんも笑っているのか小刻みに震えていた。



「あー、どうしたもんかな、これ」


 ビョークギルマスが肩をすくめてから頭を掻く。


「そのまま伝えれば良いんじゃないか?」

「ええ。天罰が下ったと報告すれば良いと思います」


 両団長がギルマスの肩を叩いて励ますと、ふうーっと一息吐いて頷き、騎士達に顔を向けた。



「そもそも、ウチの冒険者に暴力を振るって怪我させたんだ。助けてやる義理はねえ。勝手に帰ってくれ」

「お、おい、何を言っている、そこのお前!この者の呪いを解く手配をせよ!」


 遠巻きに見ていた騎士の1人が声を張り上げる。ビョークギルマスはムッとした顔で返答した。


「天の配剤を覆すことが出来る人間なんていねえ。それに善行を積めば救済があると聞いただろう?それが唯一の解呪方法だろうよ。あとは自分達で考えろ。俺達はあんたらに嫌悪感しかねえ。今日は大人しく毛を切り続けて明日速やかに帰ってくれ」

「あ、俺達も一緒に王都へ行くが、毛刈りの手伝いはしないからな」


 ライアン団長が言葉を付け加える。



 ですよねえ。

 他人の鼻毛とか下の毛とかカットなんて嫌だよね。



「貴様らはそいつらとグルだろう!我らを嵌めたな!」


 ギルマスの言葉を聞いてもなおギャンギャン騒いでいるが近付いて来ない。鳳蝶丸とミスティルがいるから、かな?


 私達は騎士達がどんなに喚いても無視一択。

 頑張って締め続けていた荊棘ちゃんに顔を向ける。


「いばやちゃん、あにあと」


 お礼を言うと、棘無しの荊棘ちゃんがススス…と近づいて来る。

 そしてフルフルフル…ポンッ、と身を震わせて青い薔薇を咲かせ、私に差し出した。


「くえゆの?」


 ウンウンと頷いているような仕草だったので、薔薇を受け取ると、私の頭を撫でてからシュルッと凄い速さで姿を消した。


「いばやちゃん、帰った?」

「ええ、戻りました」


 荊棘ちゃん達は土の中を通って来ているのかと聞いたら、ミスティルの魔術で空間移動しているんだって。



「ゆき殿は何でもアリだな」

「皆、わたちに、ちかやかちて、くえゆ」

「あー、…それはブルー・ラ・レーヌか?」


 ビョークギルマスに聞かれたので鑑定してみた。



 名称 永遠の聖なる薔薇

 別名 ブルー・ラ・レーヌ

 品質 最高級

 説明 食用飲用可

    神の祝福を受けた植物

    頭花は特級ポーションの材料

    頭花を食べれば体力と魔力が50%回復する

    咲いている場所がほとんどないため大変な貴重品

    美味



「うん、こえ、ブユー…ブユー・ヤ・エーニュ」


 すっごく言いにくかった。


「とんでもなく貴重な薔薇で、特級ポーションの材料だな」

「聞いたことがあります。初めて見ましたがとても美しいですね」

「花を愛でる習慣はあまりないが、確かに気品のある美しい薔薇だ」

「しょうよ。いばやちゃん、とても、きえいよ」


 荊棘ドームちゃんの薔薇はとても綺麗なんだよ!香りも良いんだよ!


 私が無限収納に入れようとすると三人が声を揃えて「あっ…」と言ったけれど、これはあげないよ。

 だって荊棘ちゃんが私にプレゼントしてくれたものだからね。




 その後は皆で打ち上げ会場に戻る。

 少しザワザワしていたけれど、皆落ち着いた様子だった。

 モッカ団長とライアン団長は自分の隊がいる辺りに戻って事の顛末を説明しに行くらしい。


「正直言えば自国の、しかも王国騎士団の騎士に天罰が下されたことを他国に知られるのは恥だが、あいつ等のトップがあの部隊を残すと決めたんだし俺の知ったこっちゃねえ」


 ビョークギルマスはため息をついて吐き捨てるように言った。

 そうだよね。天罰は私が願っちゃった事ではあるけれど、心中お察しいたします。


「さて、とりあえず俺は皆に説明して回る。またアレを貸してくれないか?」

「うん、いいよ」


 拡声器を出すと、落雷ではないので安心せよ言いながら会場を回り出した。

 私はさっき怪我した人の所へ連れて行ってもらう。するとそこだけとても暗い雰囲気が漂っていた。


「どちたの?」

「…ゆき様ですね?初めまして。わたくしは冒険者ギルド職員のリインと申します」

「はじめまちて。怪我、治なない?」


 怪我をした3人の青年は未だ座り込んでどんよりと下を向いている。


「怪我は治りました。ただ、骨の一部が粉々に砕けていてこれ以上の治療は難しいのです」

「ただの骨折ならば患部を固定して時間が経てば治るが、粉々だと神級ポーションかエクストラストロングヒールしか治せない」

「冒険者を続けるのは無理でしょうね」


 鳳蝶丸とミスティルの言葉にうう、と呻き、震えながら涙する青年達。


「ごめんね?」

「いや、君が悪いわけじゃない」

「悪いのはあいつ等だから」

「俺達、運が悪かったんだ」

「どうか気に病まず、後はわたくし共にお任せください」

「あい。よろちく、おねだい、しましゅ」


 リインさんに挨拶してからミスティル抱っこで会議テーブル辺りに戻る。

 その道すがら青年達から充分離れた事を確認し、そっと無詠唱で治癒魔法を使う。もちろん骨折まで治るように願って。

 少しして「うをを!」「やった!」「奇跡だ!」という声が聞こえた。


「お嬢は優しいな」

「えへへ」


 ミスティルも優しい笑顔で頭を撫でてくれた。

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