第70話 祭りじゃ、祭りじゃ!

 只今14時くらいです。

 目の前には恐ろしいほど長蛇の列が出来ております。


 皆手に大きな袋を持っているか、仲間らしき人が列の外に荷車を待機しているなど様々です。

 商品一覧や注文書には美味しくなくなるので保存は難しいと書いていたのに、買う気満々の模様です。

 皆目がギラギラしていてちょっと怖いです。

 ローザお姉さんの話だと、飲む奴はあの荷車くらいひと月持たないよ、と言っています。

 体を壊しそうで心配です。



 今はスタッフ数人が列まで行って購入方法の説明をしている。時折おお!と声が上がるのは何でだろう?


 その後全員揃ったところで最終確認のミーティング。

 ミーティングの後は各々の配置に着き、不備が無いかの確認をしてから全員が両手で大きな〇を作る。準備完了だね!


 私はミスティル抱っこで長蛇の列の先頭に向かう。


「本日最終日、量は十分あるので争いが起きないようにしてください」

「おう!」

「では、しゃくやふぶち、開店でしゅ!」


 スタッフの誘導で列が進む。

 6つの窓口は直ぐに埋まり、それぞれ稼働し始めた。


 私とミスティルと鳳蝶丸は2ルームテントの前に簡易テーブルを並べて試飲コーナーを用意。

 購入は終わったものの、まだ迷っているという人達がポツポツと来て試飲する。そして、諦めたり並びなおしたりしていた。


 今のところは大きなトラブルもなく順調で、飛ぶようにお酒が売れていく。

 当初在庫が減ったら追加すれば良いと思っていたけれど、とにかくガンガン無くなるので、結局試飲コーナーは鳳蝶丸に任せ私は在庫置き場付近で待機していた。

 凄く大量の場合は荷車を持ってきてもらい、直接品物を載せたりもした。


 こんな大量に買って転売出来るんじゃ?って思ったら、購入資格を持った人達は皆[町]と魔法契約を交わしているんだって。

 購入したお酒を価格より高く売った場合、何らかのペナルティがあるみたい。

 また、譲ったお酒を転売した場合も転売した人にペナルティがあるらしい。

 ペナルティの内容は教えてもらえなかった。



 しばらくすると、ライアン団長の番になった。

 受付と計算をお願いし注文書を見せてもらうと、尋常じゃなく大量だったので私が応対する。

 兵士さんが荷車を2つ持ってきていた。


「お買い上げ、あにあと」

「いや、こちらこそ」

「しゅごい、たくしゃんね」

「国王陛下に献上する分とキーリク殿下の分、今回こちらに来ていない兵団の連中の分と、俺の家族、親族の分、もちろん俺の分」

「皆しゃん、たのちんで、くえゆ、うれちいな」

「皆、絶対に喜ぶよ。販売の時間を設けてくれてありがとう。我が国にも来て欲しい。待ってるよ」

「あい!あにあと」


 マッカダンさんのお手伝いを許可してくれたことにお礼を言ってお別れした。



 次はモッカ団長とピリカお姉さん。こちらも大量の注文をもらった。

 騎士の皆さんがやはり荷車を2つ持って来た。

 エルフの皆さんが集まると美しさで目の保養半端ない。透けるような白い肌、輝く金色の髪、青や緑や紫の宝石みたいな瞳。

 やっぱり思い出す、指輪がマイプレッシャースな物語。


 獣人の皆さんが表情豊かで賑やかだったのに対し、エルフの皆さんは無表情で静かだった。

 モッカ団長が初めて会った時から優しく話をしてくれたので、フレンドリーじゃなくてちょっと戸惑う。


「この度は、購入する機会を設けてくださってありがとうございます」

「有意義な時間でした。ありがとうございました」

「こちなこしょ、たくしゃん、あにあと」

「ゆき殿に出会えた事は僥倖でございました。またぜひお会いしとうございます」


 ピリカお姉さんが優雅にかつ小さめにカーテシーで挨拶をする。


「あい。あしょび、行きましゅ」


 私はミスティル抱っこ中なのでスカートをちょんと摘んで小さく頭を下げた。


「ええ、ぜひぜひ遊びにいらしてください。大歓迎いたします」

「あい!あにあと」


 無事、約束した人達に販売できたのでちょっと安心。

 ライアン団長他獣人の皆さんはウイスキー多め、モッカ団長他エルフの皆さんはワイン(特に白ワイン)多めでした。



 日が傾き始めた頃、客足もまばらになり落ち着いて来た。

 従者達2人が集金や荷物の整理などしてくれているので、私は荷物置き場で1人座っていた。

 ポツリポツリとお客さんが来てくれるので、いつものランタンに灯りをつける。

 すると、ローザお姉さんが近寄ってきて私を抱き上げた。


「綺麗だなぁ」

「あい」


 空を眺め、ほうとため息をつく。


「ゆきちゃんの側にいると、可愛いと美しいと不思議と便利が大氾濫していて楽しいよ」


 そう言っていただけて光栄です。

 クスクス笑いながらしばらく景色を眺めているだと、大きな荷車を引いた男性がこちらにやって来た。


「おうい、嬢ちゃん!」

「あ!ガウユユしゃん!」


 ドワーフのガグルルさんだ。


 会計を済ませたら私が応対するとAグループに伝え、こちらに案内してもらう。一緒にオルガさんとエルガさんもいた。


「こんばんは、お嬢ちゃん」

「よう。あー、この間は済まなかった」

「こんばんは、いいよ、だいじょぶ」


 オルガさんはミスティルを女性だと勘違いした上、私の従者になる妄想をした人。ミスティルはとても綺麗なので妄想くらいは許そうと思う。

 …………でも、男性だよ!


 3人の注文表を見ると、すんごい量が書かれていた。


「たくしゃん」

「おう。仲間は俺を含め10人。これくらいはあっと言う間じゃ」

「いや、殆どお前のだからな」

「俺が稼いだ金で買っている。文句はあるまい?」

「無いけどさ」


 だって、ライアン団長やモッカ団長が買っていった量の3分の2くらいあるよ?

 内容はウイスキーが多く、日本酒も沢山注文してくれた。


「日本酒、すち?」

「すち……好きか?ああ、とても気に入ったぞ。酒精の強さも香りも味わいも最高だ!」


 そして豪快にワッハッハ!と笑った。

 美味しいお酒がたくさん買えて嬉しいんだって。良かった!


 出来ればビールも……と言われたけれど、「シュワシュワが無くなるし、冷やしたほうが美味しいので売れないです」と伝えると「そうか…」としょんぼりしながら諦めてくれた。


「ここで出すのはダメか?」

「そうですね。多少は人の子達も楽しめるでしょう」


 すると、いつの間にか戻ってた2人が、珍しく私以外のことに興味を示し話に入ってくる。

 うん、私的には問題ないよ。



 ガグルルさんに在庫としては売れないけれど、立呑で良ければ出すよと言うと大喜びしてくれた。


「荷物をマジックバッグに入れてくる。待っててくれるか?」

「ああ、問題ない」

「もう買い終わった奴らに声かけても良いか?」

「ええ、良いですよ」

「ぃ良しっ!」


 ガグルルさん達が慌てて荷車を引いて行く。って、早い、早い!瓶割れちゃうよ!気をつけて!



 じゃあ私は仕度をしますか。

 無限収納内で立呑用のテーブルを再構築して出し、ランタンを置く。そして試飲コーナーの簡易テーブルを増やしてビールサーバーを3台置いて、炭酸のカートリッジとビール樽をセットした。

 もちろん冷やしジョッキ入りの冷蔵庫も出しておく。食器返却用とゴミ用の箱もいくつか出した。




 しばらくすると、ドォッと人々が押し寄せてきた。

 最早この場所は試飲コーナーでは無い。賑やかなお祭り会場である。


 スタッフとそこら辺に立っている人に頼んで立呑用テーブルを適当に設置してもらう。偉い人が混じっているかもしれないけれどお構い無しに声をかけた。皆さん快く協力してくれた。

 ガヤガヤと沢山の人が集まり皆で準備をする。


 もう、死の森調査隊打ち上げ大会って事で良いよね?



 祭りじゃ、祭りじゃ!



 最終日だし、予想よりたくさん買ってくれたし、もういいや。

 大盤振る舞いいたしましょう!


 まず、エレオノールさんを呼んで、食べ物と飲み物を無料で提供するので、皆さんに労いの言葉とか挨拶とか言いたい事があれば来てほしいとビョークギルマスに伝えてもらう。


 その間、Cグループの人に会場を回って皆さんに伝えてもらう。


 無料で提供すること。

 飲み物や食べ物は自分で取りに行くこと。

 空いたお皿やコップは自分で返却箱に、ゴミはゴミ箱に入れること。

 そして、皆で楽しむこと!


 ただ、挨拶があるので乾杯の音頭があるまで待っていてね、とも。


 Cグループが固まっている人達の所へ行き、話をするたびに「うををを!」「やった!」と歓声が上がる。


 その間、私は朝礼台と拡声器を再構築する。

 朝礼台は再構成で見た目を木製に、拡声器は……変えたら使えなくなる可能性もあるしそのままで良いや。せっかくの防水、軽量、ワイヤレスだしね。



 しばらくしてビョークギルマスとフィガロギルマス、知らない男性がやって来る。


「良いのか?ゆき殿」

「あい。皆しゃん、ばんばった。おちゅかえしゃま、しゅゆ」

「何て優しいのでしょう」


 フィガロギルマスが瞳をウルウルさせていた。


「ん、んー」


 知らない男性が咳払いをする。


「あ、そうでした。こちらはミールナイト市長のダグラス・ベイクドマンです」

「お初にお目にかかります。わたくしはミールナイト市長、ダグラス・ベイクドマンと申します。みつか………」

「市長、ゆき殿です」


 ビョークギルマスが被せ気味に訂正してくれる。今、御使いって言おうとしたね。


「は、そうでした。本当によろしいのでしょうか?」

「あい」

「で、では。ゆき様のお目にかかることが出来まして、至極光栄に存じます」


 一瞬跪きかけ、持ち直して丁寧に頭を下げた。


「あにあと。よよちく、おねだい、しましゅ」


 市長さんはガッチガチに緊張している。


「この度は、ミールナイトをスタンピードの脅威からお救いくださいまして心より御礼申し上げます。ダンジョン外でのスライム発生からS級魔獣への切り替わりが大変早く、この町の住人や客人などは…」


 うーん、私の時代の校長先生みたい。長くなりそうだなあ。


「あー。悪いが手短にしてくれ。皆、乾杯を待っている」


 と、思ったら、鳳蝶丸が言葉を遮った。


「も、申し訳ありません。兎にも角にも、スタンピード終わらせ、食事や酒類の販売をしてくださってありがとうございました。また、この度、食事をご提供とお聞きしました。全てにおいて感謝申し上げます」

「ごていにぇいに、あにあと、ごじゃいましゅ。しゅちで、ちてゆので、お気になしゃやじゅ」

「???」

「丁寧な挨拶をありがとうございます。好きでしているので気にしないように、と言っています」


 ミスティル訳で伝えてもらいました。

 市長さんはひたすら頭を下げている。普通にしてくれて良いんだけどな。

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