第60話 1歳児、ひっそりと遊び人になる

 今回は初動からバタついて色々準備が出来なかった。

 夜までちょっぴり時間があるので今のうちに色々準備しておこう。


 まずトイレ!

 うっかりしてた。飲食のお店ではトイレが必要だよね。


 既にトイレテントはあるからそれを出せば良いけれど、死の森で貸出した時に[男性用]と[女性用]の見た目が同じだなと思ったことと、お酒などを出す場合酔って間違いやすいのではないか?と思ったので、オリジナルのトイレテントに再構成で色を付けた。


 女性用は薄いオレンジ。男性用は薄いグリーン。


 寛ぎの間は広いので一応出してみる。うん、一目でわかるようになった。

 これを複写して外に設置しよう。




 次はゴミ箱と食器返却箱。

 お昼はバーベキューの時に使った箱を複数用意して、時折回っては無限収納に回収&清浄していたけれど、お客様が多すぎて追い付かず箱からゴミや食器が溢れることもしばしば。

 これはさすがにマズイと思ったのでちょっと工夫する。


 贅沢な話だけれど、私は食器やトレーを複写しているので、放って置くとどんどん増えてしまう。

 無限収納に溜まったゴミは町の外に出た時にその土地の土に再構築して捨てようと思っていたけれど、もうすでに結構溜まっているから今より増えたら小山が出来てしまいそうなのだ。


 そこで、箱に溜まらないタイプに変更。

 複数のキング魔石を使って中が見えない形のゴミ箱に再構成する。

 不要物を押し入れると扉が開いて捨てられる、遊園地などでよく見かけるタイプのゴミ箱。

 これに我がテントの排水溝と同じような仕組みを作る。


 鳳蝶丸に魔石製ゴミ箱に【魔石を繫げる魔法陣】を焼き付けてもらって私の部屋のキング魔石を繫げる。

 次に中側の真ん中に平面の結界4を張り、ゴミと認識される物体、液体、食器類のみの通り抜けを許可する。

 これは貴重品やアクセサリーをうっかり捨ててしまった時の対策。上手くいくかちょっとわからないから気休め程度だけれど、何もしないより良いよね。

 一段目の結界よりその少し下に再び平面の結界4を張り、通り抜けと同時に清浄を付与。

 あとは周りを木材で覆い、押し入れる扉には『ゴミ箱』と『食器返却箱』と文字を表示する。



 はい!中に溜まらない箱の完成!



 これを複写して帆布シート内に複数置けばいいかな。




 あと、お昼のお弁当を売っている時に思いついた、制服!

 せっかくなのでギャルソンユニフォームを着てもらおう!白いシャツに黒い小さな蝶ネクタイ、黒いカマーベストとギャルソンエプロン。黒のスラックス。

 女性は同じ格好でタイの部分が黒の細いリボン。

 私はギャルソンユニフォーム風で黒のフリフリミニスカート。


 憧れ全開だけどいいのだ!


 早速再構築。

 せっかくだからカマーベストに名前を入れたいよね。再構成で胸の所に刺繍何てどう?

 名前は、うーん…………。

 立派な筆文字風に日本語で『伝説の武器屋』と入れた。


 ふふふ、誰にも読めまい。そして真似出来まい。

 ふふふ…。



 出来上がったので2人に見せる。

 鳳蝶丸もミスティルも興味津々で制服を眺めているので、私達の世界には、全てでは無いけれど店員が制服を着ている飲食店がある事。この制服は私の憧れである事、胸の刺繍には店名が書かれていると説明した。


「ここに書いてあるのは何だ?」

「こえ、わたちの国、文字。でんしぇちゅの、ぶち屋、書いた」



 一瞬の間。


 そして2人が笑いだした。



「ハハハ、俺達の事を名前にしてくれたんだな、ありがとう」

「フフフ、とても嬉しいのですが、伝説の武器商人になってしまいますよ?」

「………あ、しょうだった!」



 武器屋って、武器を売る人になっちゃう!

 しかも伝説の!



「か、変えゆ」


 でも日本語にはこだわりたいな。


 うーん………。

 日本人だし桜と入れようかな。桜…桜…。うーん………。



 そうだ!

 桜吹雪さくらふぶきはどうかな?



 おうおうおう、この桜吹雪、よもや見忘れたとは言わせねえ!



 小さい頃、時代劇が好きで名奉行のキンさんを楽しみにしていた私。

 うん。良いんでない?



 桜吹雪に決定!



 まずはロゴを作ろう。

 再構成で有明月を円に近い形にして大小の桜モチーフ散らし、そこに草書体で桜吹雪と文字を入れた。

 在り来たりなデザインだけれど、こちらにない形じゃないかな?

 以降これを私達のロゴにしようと思う。


 ロゴはカマーベストの左胸に、私、鳳蝶丸、ミスティルが桜色の糸、その他は白い糸で刺繍した。

 良し、制服再構成終了!



「しゃくや、ふぶち、書いた」

「シャクヤフブチ?、ではないですよね」

「うん」

「この花は桜だな?」

「うん!」


 あれ?鳳蝶丸、桜知っているの?


「ウルトラウスオルコトヌスジリアス神が、とても気に入っている花だと言っていた」

「この世界にも桜はあるんですよ。春を告げる縁起の良い花とされています」

「しょうなの!見たい!」

「春になったら見に行きましょうね」

「あい!」


 この世界にも桜って、しかも発音は[さくら]何だね。春を告げる縁起の良い花か。嬉しいな。

 ウル様も気に入っていただいているし、名前に入れて良かったかも。


「シャクヤ、は桜だな?」

「うん」

「フブチ…お嬢は自分の名前をゆちと言うから、フブキ、か?」

「しょえ!シャクヤフブチ!」

「サクラフブキ、ですね?フブキの意味は?」

「しゃくや、はなびや、風に、ぶわーって」

「ああ、桜の花びらが吹雪みたい舞う光景か」

「あれは美しいですね。わたしも春になると見に行っています」

「そうか、サクラフブキか。良い名だ」


 2人がうんうんと頷いた。



 言えない、言えないよ。

 キンさんの名ゼリフからとった、なんて言えないよ。


 変な冷や汗を拭いつつ、笑ってごまかしてしまおう。


「あー、あのね?こえ、ちてくえゆ?」

「もちろんだ」

「早速着てみますね」


 二人は直ぐに制服を着てくれた。

 サイズは着ながら合わせて………。



 ……………はい、カッコイイ!

 やっぱり、カッコイイ!

 わかってた、カッコイイ!



 この二人がいるカフェなら女子達が毎日通っちゃうレベルだね!


「すごおく、しゅてち!」

「ありがとうございます」

「お嬢に言われると嬉しいな」


 私もギャルソンユニフォームもどきの可愛い服を着せてもらう。

 嬉しくて飛び跳ねていたら、ミスティルにギュッ、スリスリ、をされた。




 他の人たちの分も作ったけれど、お着替えの場所どうしようか。

 全員私達のテントに招くわけにいかないし…。


 と、言うことでお着替え用テントを作ることにする。

 どうせならハイジさん達やローズお姉さん達が泊まれるようにしようかな。まあ、泊まらなくても良いんだけれど、ベッドとかあると休憩出来るしね。


 一から作るの面倒なので色付きのトイレテントをひとつ出す。

 中のトイレなど全て撤去してから空間操作で広くする。部屋の造りは我がテントのゲストルームと同じにした。


 トイレの空間も広くして2つ設置、その横に再び広めの空間を作って脱衣所とシャワー室2つを作る。


 シャワー室は私のお風呂と同じシャワーヘッドと排水口を設置。壁はシンプルに白いタイルにした。

 電気をつけると清浄にしたのでいつでも綺麗。

 もちろんシャワールームには女性用のシャンプー、トリートメント、ボディソープを置く。

 脱衣所は、ロッカー、棚、洗面台を設置。フェイスタオル、バスタオル、ボディスポンジ他、私達のお風呂に置いてある女性用スキンケア、ヘアケアアイテムも充実させた。


 うん。こんなもんかな。



 お着替え用テントを結界4で四角く囲み、悪意ある者の入室禁止と音を外に出さないよう設定。もちろん入ると同時に清浄も付けた


 それを複写して便座を1台撤去、男性用便器を設置、シャワー室や脱衣所のスキンケア、ヘアケア用品を男性用に入れ替える。


 一応テントの外見を女性用を薄いピンクに、男性用を薄いブルーに変更して分かりやすくしてから収納した。



 正直、ここまで作る必要ある?って思わなくもない。でも、私は日本にいた時からクラフター気質なんだよね。

 DIYはしないし本格的なクラフターさん達には足元にも及ばないけれど、ビーズやレジンでアクセサリー作ったりワンピースやスカートを縫ったり、その程度には物作りが好きだった。

 あとは…写真を撮ったりイラストを描いたりかな。

 そんなワケでちょっと凝り性だったりする。思いつくとあれもこれもこだわって作りたくなっちゃうんだ。




 お着換え用テントを作り終えて外に出ると、ハイジさん達がやって来た。


「まだ、時間、ちてないよ?」

「はい。でも手持無沙汰で。何か手伝う事はありませんか?」


 ええ子達やぁ。


「おてちゅだい、無い。おちがえ、あゆ」

「はい、ええと、お着替え?」

「待ってて」



 ミスティル抱っこで2ルームテントの横に移動し、そこにお着替え用テント(女性用)を2つ出す。

 率先してペグを打ってくれるピーターさん、ありがとう。

 ついでに反対のタープテント側にお着替え用テント(男性用)を1つ出してこちらも固定してもらった。


「テント、ですか?」

「あい」


 通うのが大変そうなので最終日まで泊っても良い事。休憩時間に使用して良いこと。制服を作ったのでこのテントで着替えて欲しい事。

 そして、このテントは無料で貸し出すと伝えた。



 そこへローザお姉さん達がやって来る。

 やっぱりヒマなので何かない?と言われた。この世界の人達って働き者だね!


「にっ!」

「に?」


 裏返った声に驚いて振り向くと、ハイジさん、クララさん、ピーターさんが背筋をピシッと伸ばして立っていた。


「に、に、に、虹の、ちゅばしゃ!」


 あ、ピーターさん、噛んだ。


「ごきげんよう。私達わたくしたちも一緒にお手伝いする事になりましたの」

「え!あ、あ、あ、あのっよろしくお願いします!」


 エクレールさんの言葉に3人が90度近くお辞儀している。


「ま、まさか、憧れの、ランクSの【虹の翼】の皆さんと一緒に仕事が出来るなんて!」

「き、ききき、緊張しますっ」

「ああああ、どうしよ、俺!」



 そうか。

 冒険者にとってランクSのパーティーは憧れだよね。

 ピーターさんなんて「飯も飲み物も美味いし、ランクSの冒険者と働けるなんて!俺、この仕事受けて良かった!」なんて言いながら泣いている。


「あのっハイジです!よろしくお願いします!」

「私はクララです!よろしくお願いします!」

「ピーターです!【虹の翼】は俺の目標です!よろしくお願いします!」

「私はローザリア。それからミムミム、エクレール、レーネ、リンダだ。ゆきちゃんの仕事では冒険者のランク関係ないから。こちらこそ、宜しく」



 3人とも嬉しそうにしている。良かったね!

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