第59話 勝手に進めないで欲しい

「お、お客さん、こちらに並んでください!」


 その声にピーターさんの方を見ると、何人かが並ばずこちらに来ようとしていた。何とか止めようとしているけれど身なりからして騎士らしく強く言えないみたい。


 並んでいた人達も注目しつつ見守っている感じ。

 鳳蝶丸を見上げたら、飯屋にいちゃもんなどは良くある事なので基本は店主に任せるらしい。

 大暴れしたりする場合、衛兵などに対処を任せるか、その場にいた冒険者に止めてもらい後から依頼と礼金の支払いをするらしい。

 相手が騎士なので町の衛兵は注意し辛いし、ピーターは冒険者なので護衛と判断されたのだろう、と言う事だった。



 騎士達はもう一度声掛けしようとしているピーターさんを強めに小突く。


「うるさい!冒険者ごときが我らに命令するな!」

「平民ごときが貴族である我らに並べとはどういう了見か!」

「おい、店主!我らに来させず、食事を運べ!」


 ああ、またか。

 やんなっちゃうな、貴族。誰かアレを諫められないの?


「ミシュチユ、よよちく」

「了解です」

「鳳蝶まゆ、抱っこちて」

「おう」


 お弁当出しとお金の受け取り、飲み物提供をミスティルに任せ、鳳蝶丸抱っこで現場に急行。

 まずは尻餅をついたピーターさんを助け起こす。



 私は鳳蝶丸に降ろしてもらい、騎士達の前に仁王立(の、つもり)。


「わたち、しぇちにんしゃ。アナタに、売なない!」

「…………………。は?」

「わたちたち、みびゅん、関係ない、おみしぇ。ななばないちと、食べない、イイ」

「なっ」

「アナタ達、いゆと、おいちい、ゴハン、まじゅくなゆ!威張ゆちと、帰ゆ!」



 ビシイ!



 調査隊関係者テント方向にビシッと指してみた。



 あちらこちらから「おおおおぉ~」と言う声が聞こえて拍手が起こった。

 鳳蝶丸も私の傍らに立って頭をなでなでしている。



 すると、騎士達の顔が段々と赤くなって憤怒の表情を浮かべる。


「何を、この、ガキ!ふざけ……!」

「止めな」


 そこへ、両手に沢山のお弁当を抱えたローザお姉さんとレーネお姉さん、そしてガグルルさんが割って入った。


「アンタ達はこの国の騎士だろう?人々を守るどころか攻撃するなど言語道断だ」

「ほんと。あいつ等といい、この国の騎士はどうなってンの?」

「この嬢ちゃんを攻撃するなら、冒険者クラスS、このガグルルを倒してからにするんだな」


 おお!カッコいい!

 私がニコニコ笑いながら拍手したら鳳蝶丸が私を抱っこしてグイッと前に出る。


「人の子の一部は本当にくだらない生き物だな。ヤッていいか?」

「ヤッちゃ、ダメ」


 ローザお姉さん達が睨みあっている間に、誰かが呼んだのかビュークギルマスがやって来た。



「いい加減にしてくれ、騎士さんよ」

「煩い!冒険者ごときが、だ…」

「このままだと、アンタ達の隊長と同じ運命になるが、それでも良いと?」

「うっ」


 ビョークギルマスが被せ気味に言うと、私達を睨みながらテントへ戻って行く騎士達。

 巻き起こる拍手。


 この後やっと買い物の列が動き出した。ピーターさんも怪我はなく、すぐに仕事へ戻っている。



「はあ、第8、第9部隊はクズの集まりだな」


 ビョークギルマスが深くため息をつく。そして私に頭を下げた。


「重ね重ねすまない」

「第8、第きゅ、部隊、何?」

「…いや…」


 言葉を濁すビョークギルマス。

 引き継いだのはローザお姉さんだった。


「王国騎士団の中でも使えないヤツが所属する部隊だよ。貴族と言うだけで配属された甘ちゃんばかりで、国に対する忠誠心も国民を守ろうとする気概もないバカばっかりさ。この国が滅びるかもしれない規模のスタンピード調査だってのに、あの騎士団団長はわざわざ無能だけを残していった。何を考えているのかねえ」

「あー。それに関してだが、色々、な」

「何か考えがあるのか?」


 鳳蝶丸が楽しそうに聞くと、ビョークギルマスがバチコーン!とウインク。


「今回、2か国と親交が深まったからな」


 ニヤリと笑う。


 あ、ご協力いただくんですね?

 わかります。



「またしても迷惑をかけた、すまなかった。詫びはまた後日…」

「もう、お詫びいなない。おちごと、戻って」

「あ、ああ。では、悪いが俺はこれで」

「あい」


 ビョークギルマスが手をひらひらと振りながら調査隊テントに戻って行く。

 冒険者ギルドのギルド長って大変だな。



「ローザおねしゃん、レーネおねしゃん、ガウユユしゃん、あにあと、ごじゃいまちた」

「いや、無事で良かった」

「私達の可愛いゆきちゃんに手を出すなんて許さないんだから!」

「大丈夫じゃ」


 するとローザお姉さんが何か思いついた表情を浮かべた。


「なあ、ゆきちゃん。後で手伝いに行っていいかい?」

「てちゅだい?」

「ああ。この弁当を食べ終わったらゆきちゃんの店の手伝いをしたい」

「いいね!アタシ等の仕事終わったし。しばらく自由だし。やりたい、やりたい!」


 ありがたい申し出だけれど良いのかな?

 一応報酬は1日7千エンと食事の提供だって話をしたんだけれど、ぜひ手伝いたい!手伝わせてくれ!報酬はいらない!と言われた。

 鳳蝶丸殿やミスティル殿が強いのはわかっているけれど、クラスSのパーティが居れば悪さするヤツ等への抑止力にもなるだろう、と。


 報酬は食事で良い、最終日まで時間が取れる、と言う事なのでお手伝いをお願いする。

 護衛はいらないけれど、問題は起こらない方が良いしね。


「じゃあ、食事が終わったら行くよ。あと仲間が2人いるんだが一緒に手伝っても良い?」

「あい、よよちく!」


 こうして【虹の翼】のメンバーが手伝ってくれることになった。

 あ、ガグルルさんはまだ仕事が終わっていないから手伝いが出来なくて残念だ、と言ってくれたよ。

 ありがとう!




 お客様の列は順調に進んでいた。

 ミスティルは優雅な動きで仕事をこなしている。1人で何役も出来て凄いな。


「ミシュチユ、あにあと」

「問題ありません」


 私は真ん中の席に座ってお金の受け取りとお弁当の用意を交代し、ミスティルと鳳蝶丸は飲み物の用意に戻る。


「ふたいも、あにあと」


 ハイジさんとクララさんにもお礼を言うと2人ともニッコリ笑って頷いてくれた。






 お客様の列も途切れやっと落ち着いてきた。ハイジさん達に休憩してもらい16時に戻るよう伝えてある。

 私達3人で店番をしていると、ローザお姉さん達がやって来る。


「お待たせ」

「お弁当、とても美味しかったですわ。思わず2種類食べてしまいました」

「はあー、幸せ!アタシゆきちゃんと知り合いになれて良かった!」


 私の知っている3人のお姉さんの他に、あと2人の女性が一緒だった。


「紹介するよ。私達の仲間、リンダとミムミム」

「おお!ちっさくて可愛い!初めまして、あたしは【虹の翼】のリンダ」

「こんにちは。私、【虹の翼】のミムミム」

「始めまちて。わたち、ゆち。じゅうちゃ、鳳蝶まゆ、ミシュチユ」


 ミムミムお姉さんは10歳位に見えて可愛らしいけれど、体の小さなハーフリング族でもう大人なんだって。

 リンダお姉さんは反対に背がとても高くがっしりしていて、巨人族の優しそうな女性。


 【虹の翼】はリーダーのローザリアさん、斥候のレーネさん、大弓使いのエクレールさん、大斧使いのリンダさん、魔法使いのミムミムさん、女性5名のパーティー。

 ローザお姉さんがクラスSで他の皆さんはクラスA。依頼成功率が高いのでパーティーランクはクラスS何だって。

 調査隊に3人しかいなかったのは人数制限があったから。

 リンダお姉さんとミムミムお姉さんは、残っている町人の護衛に就いていたんだって。


 ちなみに冒険者ギルドの仕事は、町のごみ拾いや薬草採取から高ランク魔獣の討伐等色々あって、ランクによって受けられる仕事が違い、ランクはF→E→D→C→B→A→S→SSとレベルが高くなっていくとの事。


 異世界小説やマンガで読んだことがある。

 目の当たりにするとワクワクするね!




「おてちゅだい、あにあと、ごじゃいましゅ」

「大丈夫。美味しいご飯、お金より大事」

「本当に、あんな美味いの食べたことないよ。報酬何ていらないから手伝わせてよ」


 ミムミムお姉さんもリンダお姉さんも、他のお姉さん同様優しい人で良かった。



 ちょうどそこへフィガロギルマスがやってくる。


「お疲れ様です」

「おちゅかえ、しゃまでしゅ」

「お弁当、大変美味しかったです。実は、差し出がましいとも思いましたが、商業ギルドから10名ほど手伝い要員を連れて参りました」


 後ろに女性5人、男性5人が立っている。


「あ、報酬は必要ありませんのでご安心を」

「え?でも…」

「あと、食事処をもう少し広げられるようビョークギルド長にも許可を取ってきました」



 えええええ!



 驚いていると、鳳蝶丸が中に入ってくれた。


「おい、勝手に進められては困るんだが」

「申し訳ありません。ただ、ちょっとした情報が入りまして…」

「情報?」

「少しずつではありますが町に人が戻ってきております。それに伴いそろそろ冒険者や衛兵達が町内警護を終え通常任務となります。その者達へ本日の弁当を届けたところ、皆が今夜からは広場へ行きたいと食事を楽しみにしているようでして…」

「人数が増えるんだな」

「はい」

「そういう事は動く前に言ってくれ。俺達が望んでいないのに先走られるのも迷惑だ」

「料理は無限ではありませんよ。大規模に展開するほど食事が行き届かないかもしれないと思わないのですか?」

「あ…」


 ハッとした顔をしたフィガロギルマス。フットワーク軽すぎるのも困ったもんだね。

 鳳蝶丸もミスティルもちょっと怒っている。

 まあ、料理は無限なんだけれど、勝手に色々決められても困るよね。最初お手伝い3人だったんだよ?

 ローザお姉さん達はちゃんと手伝いに行っていいかと確認してくれたけれど、フィガロギルマスはこちらに確認無しだったもん。


「申し訳ありません。お役に立てるかもしれないと興奮してしまいました」


 しゅんとしている。

 そして後ろに控えた10人も困惑した表情で立っている。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「……………うーん。えっと、おてちゅだい、おねだい、しゅる」

「ゆき殿!」


 フィガロギルマスが嬉しそうに顔を上げた。


「鳳蝶まゆ、ミシュチユ、言う通い、勝手、困ゆ」

「は、はい」


 再びしゅんとする。


「でも、ちとで、あいがたい。皆しゃん、おねだい、しましゅ」


 すると1人の女性が一歩前に出た。


「この度は当ギルド長がご迷惑をおかけして申し訳ありません。わたくしは商業ギルド所属エレオノールと申します。よろしくお願いいたします」


 わあ、フィガロギルマスよりしっかりしていそう。


「本日の販売方法を拝見し、ゆき様のお手伝いは勉強になると確信いたしました。可能であればぜひお仲間に入れていただきたく存じます」

「わかいまちた。よよちくおねだい、ちまちゅ」


 フィガロギルマスには早々に帰っていただいて、【虹の翼】のメンバーと商業ギルドのメンバー15人が残る。

 そして、鳳蝶丸からハイジさん達にした同じ説明をしてもらう。

 商業ギルドのメンバーは明々後日のお疲れ様会を辞退したけれど、出られたらぜひ参加してね、と言ったら承知してくれた。


「14時、おみしぇ、閉めゆ。16時、ここ、集合」

「了解」

「承知しました」


 結局【虹の翼】のメンバーとエレオノールさんは14時まで残って、チラホラ来るお客さんの相手をしたりしてくれたのだった。

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