第57話 ご飯と口笛とあの雲と
とりあえず、こちらはこちらで話をすすめておきますか。
「ほちい、にゃに?」
「はい。色々ありますが、私どもはゆき殿が提供出来うる食料と飲料、ビールサーバー、トイレ、テントなどが希望です」
「俺達も同じだ」
モッカ団長とライアン団長が欲しい物は、ダンジョンで目にしたもの全てって事ね。
「うーん……と、」
結界付きテントは断ろうかな。
そもそも、テントを解体せずそのまま持ち歩くのは、大容量のマジックバッグかアイテムボックスを持っていないと無理だと思う。
「トイレ、ちゅくゆ、変えゆ、待って」
以下、鳳蝶丸に補足してもらいながら説明する。
トイレは沢山の人に広められるよう考えているので待ってほしい。
タープテントは結界無しならば販売可能。寝泊まり用のテントは不可。
ビールサーバーは冷やして飲むラガー用で、他にも必要なもの(炭酸ガスカートリッジやビール樽)があるのでオススメ出来ない。
食料は時間停止のアイテムボックスかマジックバッグじゃないと、腐らせてしまいそうなので難しいかもしれない。
飲料はある程度保つので売ることは可能。
「カ、カレーは?カレーは駄目か?」
ライアン団長が懇願する。
流石に何日も持ち歩いたらダメになっちゃうよ。私が首を横に振ると、悲しそうに項垂れた。
「正直、カレーは香りが強くて最初は鼻が辛かったんだが、食ったら最高に美味くて病みつきになっちまった。だから、また食いたいと思ってな………」
「ごめんなしゃい。傷むの、怖い。お腹、こわしゅ」
それこそ、じゃがいもとか傷むの早いんだもん。
「しょうだ!このひよま、売ゆ、ゆゆちてくえゆ、カエー屋しゃん、ちても、良いよ」
「この広場での販売を許可されたら、カレー屋をやるとの事だ」
「ビーユ、だしゅ」
「ビールも出すそうだ」
ドッと盛り上がる面々。
調度その時、フィガロギルマスが戻ってきた。
「こちらが商業ギルドの身分証です。未開の地以外は何処でもギルドがあるので身分証明として使えますし、売買が可能になります」
キランとした笑顔で身分証を渡してくれるフィガロギルマス。
「あにあと」
わあ、初身分証だ!
カードの大きさは免許証くらいで、材質は冒険者ギルドのプレートと同じ。
自分の名前と、業態、商業ギルド・ミールナイト支所という文字と、印の様な紋様が彫刻されていた。
なかなかオシャレな感じ。
「それで、何に盛り上がっていたんですか?」
私がシゲシゲとカードを見ていると、フィガロギルマスが皆に質問する。
ライアン団長がここで販売許可がおりれば、私がカレー屋をやってくれると説明した。
「なんですって!カレー屋を!こうしてはいられません。ビョークギルド長に交渉せねば!」
今帰ってきたのに、もう飛び出すフィガロギルマス。
フットワークの軽さハンパないよ。
ではまたしても話をすすめてこおう。
「国、帰ゆ、いちゅ?」
「我らは4日後にラ・フェリローラルの王都へ向け出発する」
「私達も4日後にこの町を出発する予定です」
「もち、許可、おいゆ。しょの前、カエー、飲みもの、売ゆ」
「本当か?ありがたい!」
ライアン団長、本当にカレーお気に入りだね?
しばらく話をしていると、フィガロギルマスがビョークギルマスを連れてきた。
「あー。販売についてだが、その他の関係者が購入しても問題ないか?」
「あい、だいじょぶ」
「感謝する。今、町が機能していないので、皆、簡易的に調理した食事だけなんだ。良ければ今日からでもお願いしたいが、大丈夫か?」
「あい、だいじょぶ」
ビョークギルマスに、今日と明日の12時にお昼ご飯、18時から夜ご飯の販売を開始するので告知して欲しい。あと、偉い人とかに配慮出来ないので、その辺りはビョークギルマスに任せるとお願いした。
それとテーブルの配置や販売補助のお手伝いを3日間3名程借りたい。報酬は1日1万エン。食事と甘味の食べ放題、とお願いすると、フィガロギルマスが思いっきり挙手。
「何でもやります、よろこんで!」
「いや、フィガロ殿はゆき殿の売り上げに貢献しないと」
「あ、報酬は受け取りませんし食べ物や飲み物のお金は払いますよ?ちゃんと。ただ、どんなことをするのか見てみたいだけです」
「気持ちはわかるが、フィガロ殿はまだ報告があるだろう?」
「………………あ、そうでした。やることが山積中でした」
ビョークギルマスの指摘にトホホ…と肩を落とす。
「冒険者のクラスDあたりで、真面目に働くのを連れてくる。あと報酬は1日5千エンで良い。手伝い関連のクエストで1日1万エンは破格すぎる」
「じゃあ、お金、7しぇんエン」
「7千…。うん…まあ良いだろう」
「あと、あしゃって、15時かや、おしゃけ、販売しゅる」
「酒か!」
ビョークギルマスも食いついた。この世界の人は比較的お酒が好きだよね。
「ガグユユしゃん、言っておいて?」
「ドワーフは酒が好きだからな。分かった、伝えておく」
そして、ビョークギルマスとフィガロギルマス、モッカ団長は手を振りながら忙しなくテントへ戻って行った。
「ライアン団長、私もゆき殿の手伝いをしても良いでありますか?もちろん、食事代は支払います」
「お金、いなない」
「いや、しかし」
「他の手伝いが遠慮することになる。食事代はいらない」
鳳蝶丸が補足してくれた。
「……ご配慮感謝する。マッカダンにゆき殿の補佐を命ずる。俺に代わり力となるように。では、御前を失礼します」
ライアン団長もマッカダンさんを残して調査隊のテントへ戻って行った。
しばらくすると、若い女性2人、男性1人が緊張の面持ちでやって来た。
タープテントの手前で立ち止まって、背中をピンと伸ばしている。
「ビョークギルド長から派遣されました、冒険者クラスD、ハイジです」
「同じく、クララです」
「同じく、ピーターです。よろしくお願いします」
ちょっと、待って?
ハイジさんとクララさん?
って言うか、ピーターさん?惜しい、実に惜しいよ!
偶然なんだろうけれど、この組み合わせは何故?
教えて、お爺さん!
「ゆちでしゅ。鳳蝶まゆ、ミシュチユでしゅ、よよちく、おねだい、ちまちゅ」
「俺はマッカダン。一緒に手伝いをするからよろしくな」
ハイジさんとクララさんは少し緊張しているみたい。
視覚的に。
ミスティルと鳳蝶丸をチラチラ見て顔を赤らめている。イケメンだもんね、分かります。
「おてちゅだい、あにあと」
お願いしたいのはテーブルや椅子の設置と、売り子さんやその他手伝い。
期間は今日と明日の食事提供と明後日のお酒の販売まで。
明々後日にお疲れ様打ち上げ会をするので実質4日間をもらうことになる。
報酬は1日7千エン。あと食事の提供だが大丈夫か?と鳳蝶丸通訳で説明する。
「はいっ大丈夫ですっ」
「一生懸命頑張りますっ」
鳳蝶丸に声かけられて、張り切っている2人。
鳳蝶丸かミスティルに指示してもらえば何でもやってくれそうだね。
フフフ…。
「とにあえじゅ、こえ、ひよげて、ちいて。おねだい、ちまちゅ」
島で使っていた大きいブルーシートを、再構成で帆布シートに変え更に大きくして無限収納から出す。それを鳳蝶丸達を含む6人でタープテント前に大きく広げ、杭を打って固定してもらった。
シートから一旦出てもらい、結界4で帆布シートとタープテントを四角く囲う。
結界は悪意ある者の拒否と防砂防塵、入ると同時に清浄を設定した。
「清浄、結界ちた。よにん、しぇちゅめい、ちて?」
鳳蝶丸が4人に説明している間、ミスティル抱っこで帆布シート内に入り複数の6人掛けテーブルと椅子を出す。
その後結界に入って来た4人に、適当に間隔を開けて並べるようお願いした。
「本当、体も髪も服も綺麗になった」
「気持ちいい」
「うん。ねえ、結界って清浄が付いているのが普通?」
「んなわけ無いよ。これはゆきちゃんが凄いだけ」
ハイジさんとピーターさん、クララさんの疑問にマッカダンさんが応えた。
「わたち、準備、しゅゆ」
「わ、わかりました!」
外は4人に任せて、私は2ルームテントに入った。
「おひゆ、何食べゆ?」
「俺はご飯が良いが、食べ慣れない奴らも多いだろう」
「両方用意出来ませんか?」
「うん、だいじょぶ」
何にしようかな?うーん…………。
そうだ!
友人達とピクニックした時作った、肉巻きおにぎりと焼肉ドッグにしよう!
俵型に握ったおにぎりに少しだけ塩胡椒をまぶした豚バラ肉を巻いて小麦粉をまぶして焼く。焼き目が付いたら余分な脂をとって焼肉のタレで煮詰める。最後に白ごまを少々散らして肉巻きおにぎりの完成。
コッペパンに切れ目を入れてマヨネーズを薄く塗っておく。薄切り牛肉と玉ねぎを炒めて焼肉のタレで味付けをする。コッペパンにレタスを挟んでその上に炒めたお肉をタップリ挟んで完成。
つけ合わせは、茹でたインゲンとブロッコリー。甘い卵焼き。プチトマト。小さく切ったパルミジャーノ・レッジャーノとレッドチェダーチーズ。マヨネーズを入れた小さな紙製のソースカップ。
と、当時作ったり用意した物を少し冷ました状態で再構築。
大き目のお弁当用バスケットに、薄いピンク色のワックスペーパーを敷いて片方肉巻きおにぎり、片方焼肉ドッグをメインにしておいて、付け合わせを彩りよく詰め込んで無限収納に入れておく。
あとは収納内で複写して売れば良いかな。
一応、鳳蝶丸とミスティルに味見をしてもらいました。
美味しい!ととても喜んでくれたので一安心。
その他に飲み物の用意など色々済ませているうちに時間が過ぎていったのだった。
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