第56話 フットワーク軽いエルフさん

 そんな話を聞きながら、冒険者ギルド・死の森ダンジョン支部まで戻る。

 忙しいだろうから私達だけで行くと言ったけれど、これも任務なので大丈夫と言われ、ジンラートさんの案内で冒険者ギルドのカウンターまで連れて行ってもらった。


 私の、冒険者ギルド初体験は、全く普通に案内され、何事もなくカウンターに到着しました………。

 冒険者ギルドあるあるは経験出来なかったよ。


「ジンラート第3部隊長。何かありましたか?」

「こんにちは。今日、裏の広場に寝泊まり出来ますか?」


 可愛い受付嬢が、鳳蝶丸とミスティルを見てポーっと頬を赤らめる。


「どうしました?」


 ジンラートさんが苦笑いでもう一度声をかけると、ハッとして更に顔を真っ赤にした。


「失礼しました。申し訳ありませんが広場はただ今閉鎖しております」

「では、ビョークギルド長にお取次ぎ願いたい」

「ただ今立て込んでおりまして…」

「今、どちらに?」

「あ、あの」


 ちらりとこちらを見る。


「ああ、この方々はビョークギルド長の客人なので問題ありませんよ」


 念の為プレートを出したら拝借しますと言って、受付嬢側のカウンターに設置してある黒い板にかざした。

 私達には何が分かるのかが分からないけれど、受付嬢さんは頷いてありがとうございます、と、プレートを返してくれた。


「お待たせして申し訳ありません。ビョークギルド長は裏の広場にある臨時の調査隊………………」


 すると、急にガヤガヤと騒がしくなる。振り返ると入口から沢山の人が入ってきた。


「ギルド長!マジでその足、どうしたんすか?」

「死の森に古傷が完治する薬草があったんですか?」

「いや。詳細は言えんが、この足はある人に治してもらった。死の森とは関係ねえから変な噂広げんなよ」

「ある人って、誰ですか?」

「あー、悪いがその話は後にしてくれ」


 私達に気付いて、ビョークギルマスが歩いて来る。


「どうした?町に行ったんじゃないのか?」

「行ったは行ったんだが、皆避難していて宿屋が無い」

「……………あ………そうだった!すまん!」

「俺達も失念していた。何処かにテント張れる場所を提供してほしい」

「裏の広場は空いちゃいるが、スタンピード調査用のテントが一区画に張られている。それでも良きゃ、案内するぜ」


 とりあえず、宿屋再開までそこにテントを張らせてもらうことになった。


「ジンナートしゃん、あにあと、ごじゃいまちた」

「手間取らせて申し訳ない」

「いえ、これが私の役目ですから」


 私とビョークギルマスがお礼を言うと、ジンラートさんが深刻な表情を浮かべていた。


「………その、ビョークギルド長……足、完治したのですか?」

「…………ああ。お陰様でな」

「おめでとう御座います」

「ありがとうございます」


 ジンラートさんはまじまじとビョークギルマスの足を見つめている。


「古傷を治せる方が、いらっしゃるのですか?」


 ビョークギルマスと冒険者達の話が聞こえたらしい。


 治せるのは私です。名乗りを上げずすみません。


「……その人との約束で詳細は話せない。何というか、偶然治してくれた感じで、頼んでもやってくれるかどうか。あと、タダでは…………ない」


 ビョークギルマスはタダだからちょっと心苦しいような表情を浮かべた。


「支払いは当然です。もし………もし可能であればその方にお取次ぎ願えませんか?」

「あー、まずは彼女達を広場に案内したい。後で連絡するので話はその時に、で良いか?」

「ハッ!そうでした。お邪魔してしまい申し訳ありません。ビョークギルド長、後ほどよろしくお願いします。それでは」

「あにあと、バイバイ」


 私が手を振ると、ジンラートさんが笑顔で手を振ってくれた。


 古傷の治癒か。ジンラートさん、深刻そうだったけれど、怪我している人がいるのかな。

 うーん…。

 治してあげるのは問題ない。でも、広められて厄介事はちょっとなあ。



 外に出ると、冒険者ギルド死の森ダンジョン支部の両側に小屋があって、元冒険者なんだろうな……と言う感じの屈強な男性達が待機している。

 普段はここで身分証を見せて滞在証明札を貰ってから広場に入るんだって。

 今は使用禁止なので、調査隊関連の人しか出入り出来無いみたい。


 ビョークギルマスについて行くと、ここでプレートを提示してくれと言われたので待機所の男性に見せてから入場する。

 今後はプレートを提示すれば出入り自由との事。



 とても大きく頑丈そうな冒険者ギルドの建物を過ぎると視界が広がった。

 武具店やご飯屋さんなどの家屋に沿って、背の高い塀が第2門の防壁まで伸びている。この第1門と第2門の間全てがテントを張れる広場で、冒険者ギルドが管理している場所と言う事だった。



 冒険者ギルド側にはいくつもの大きなテントが設置され、沢山の人が忙しそうにしている。役職がありそうな人、兵士、騎士、冒険者他。調査隊に参加していた人達もいた。


「あの辺りならテント張っても問題ないが良いか?」

「うん、あにあと」



 ビョークギルマスが指したのは沢山のテントから少し離れた場所。


 私達を知らない一部の人が、あいつ等誰だ?って雰囲気でチラチラ見てくるけれど、ビョークギルマスがいるから何も言ってこなかった。


「悪いが用事があるのでこれで。あー、後で話したいことがあるんだが」

「治療の事か?」

「ああ」


 鳳蝶丸とミスティルが私を見る。


「はなち、聞く。声かけて」

「感謝する」


 ビョークギルマスが軽く手を振りながら冒険者ギルドの方へ走って行った。


「良いのですか?」

「うん。たしゅけやえゆ、たしゅけゆ」

「承知した」


 私達は指定された所にテントを張って、休憩する事にした。



「んはあー、おいちい」


 寛ぎの間で、人をダメにするクッションに埋もれながらたい焼きを頬張る至福の時。

 鳳蝶丸はビールサーバーを魔道具化したいと自室に籠もり、ミスティルだけが傍にいた。


「緑茶と言うのは美味しいですねえ」

「ミシュチユ、気にってくえて、よたった!わたちも、しゅき」


 フフフ、と笑いながらのんびりと過ごしていると、外から男性の声が聞こえたので地図を表示して確認する。

 青点が四つ。

 タップすると、モッカ団長、ライアン団長、マッカダンさん、フィガロギルマスだった。


 ミスティル抱っこで前室から外を覗くと、皆がニコッと笑顔を浮かべた。


「お寛ぎの所申し訳ありません。お聞きしたい事があり、また、お願いもあって参りました」


 フィガロギルマスが頭を下げる。


「あい。じゃ、しゅこし、待って」

「はい」


 とりあえず座れる方が良いかと思い、2ルームテントの横に、タープテントを用意する。


「すみません」

「だいじょぶ、どうじょ」


 マッカダンさんが、結界の清浄に「わっ」と驚き戸惑っている。その他の人は慣れた感じで席に着いた。


「鳳蝶丸を呼んできます」


 ミスティルが議長席の赤ちゃん用椅子ハイチェアーに私を座らせると、一旦テントに入って行く。


「呼びに行かなくても、外から声かければ良いんじゃ?」


 マッカダンさんが不思議そうに呟いている。

 他の人達は何も言わないので、ビョークギルマスからテントの話を聞いているのだろう。



 それにしても、話って何かな?

 やっぱり欠損部の再生のことかな?

 それなら、ビョークギルマスが来てからでも良いような気がするけれど…………。


 ミスティルと鳳蝶丸がやって来て私の後に控えると、フィガロギルマスが話し始めた。


「まずは、スタンピードで現在町が機能していないことを失念していた事、お詫びします」

「俺達も失念していた。まあ、何とでもなるので問題ない」

「ありがとうございます。言い訳になってしまいますが、死の森調査が一部を除きあまりにも平和だったので………スタンピードの事を忘れていました」


 皆もうんうんと頷いている。


「皆様のおかげで命の心配なく最深部での調査が出来、また有意義な時間を過ごせましたこと、感謝いたします」

「あい、良かた。でも、わたち、ちごとだった。気にちないで」


 私は私の役目があったんだから、そんなにお礼を言わなくてもいいのに………。

 ただ、感謝の気持ちは嬉しいので受け取ろうと思います。



 次にモッカ団長が話し始めた。


「ありがとうございます。では、聞きたかった事についてですが、」


 自分達が飲み食いしたのは神界の物か?と言う質問だったので、違うと答えた。

 詳細は話せないけれど、とある国で売っているもので、神々のおわす世界のものではない、と伝える。


「そうですか」


 神界って?と首をかしげるマッカダンさんを除く、他の人達が少しホッとした顔をした。


「次にお願いの件ですが、もし、もし可能であれば…、で結構です。その、お持ちのものをお売りいただけないかと思いまして」

「売ゆ?」

「はい。数日後に国へ帰る予定があるので、その前に」


 てっきり、欠損部の治癒だと思っていたら、違いました。


「調査中に色々な物を使わせていただいたり、食事をご提供いただいてから忘れられずにおります」

「しょうなの。売ゆ、出来ゆ。でも、出来ない、あゆ」

「はい、出来るもので結構です」

「そこで、私の出番なのです」


 突然、フィガロギルマスが話に入って来た。



 販売行為、販売目的の仕入れをするには商業ギルドに登録が必要で、一部を除き、登録をせず売買すると違法となって罰せられるらしい。

 除かれる一部とは、ダンジョン内や野営でのポーションや食料の売買、町民同士の単発的な少額でのやりとり、冒険者が狩った、又は採取した素材の買い取りを申し出る等。


 小さな屋台や食事処なども商業ギルドに登録が必要なんだって。


 お酒を売るって約束しているし、何か思いつく事があれば販売とかしてみたいので、登録をお願いする事にした。


「書類はこちらです」


 用意が良いな。

 ギルド長権限で即登録が出来る書類なんだって。


 念の為、契約内容をじっくり読む。


 色々と細かいことが書かれていたけれど、ざっくり言うと、

 登録、又はクラスの種類は、行商·屋台、店舗(1店舗)、店舗(3店舗以内)、店舗(4店舗以上)。

 それぞれ年間手数料があって登録、又はクラス変更した際に支払う。

 手数料の金額はクラスによって変わり、一部を商業ギルド、残りは国に税金として納められる。

 違法の物品や薬物を扱うとと罰せられるので注意。


 こんな感じだった。



「この欄に名前、こちらにご希望の業態を書いて下さい。代筆でもかまいません」

「とうりょく、わたちだけ、良い?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 と、言うことで、私の名前、業態(行商·屋台)をミスティルに書いてもらった。

 私も書けるけれど、まだ字がヨロヨロだからね。


「手数料の金額はいくらです?」


 ミスティルが書類をフィガロギルマスに渡しながら聞いた。


「ありがとうございます。手数料は当ギルドでお支払いしますので結構です」

「それは何でだ?」


 鳳蝶丸が怪訝そうな顔を浮かべる。


「ゆき様は、商業ギルドにとって有益となるお方だと判断致しました」

「うーん?」

「では、早急に登録手続きしてまいりますね」


 私が困惑しているうちに、調査隊用の大きなテントに向うフィガロギルマス。



 やっぱりやめると言う前に手続きをしようと思った?

 私が商業ギルドにとって有益って何だろう?

 ……………………まあ、いいけれど。

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