第55話 ダンジョン都市 ミールナイト

「町に着いたぞ、お嬢」


 鳳蝶丸の声に目が覚める。

 まだ午前中だろう。辺りは明るく陽が注いでいた。


 目の前には驚くほど大きな門と防壁がある。

 ダンジョンに隣接しているわけだから、物凄く頑丈に作られているんだろうと思う。

 でも、ところどころ崩れている箇所があって職人らしき人があちこちで修復作業をしているようだった。

 ビョークギルマスがS級の魔獣まで溢れていたと言っていたので、その時に防壁の一部が壊れたみたい。


「ほえー…」


 見上げていると、ビョークギルマスが近づいてきた。


「俺達は調査報告がある為ここで失礼する。町にはいつまで滞在するんだ?」

「しばあく、いゆ」

「そうか、良かった。もし可能ならば3日以降の都合の良い時でいい。冒険者ギルド・死の森ダンジョン支部に来てもらえるか?」

「うん、行く。冒険者、ギユノ!」


 おおおう!

 色んな話で読んだ憧れの冒険者ギルド!そりゃもう、ぜひ行ってみたい。

 冒険者ギルドあるある、あるかな。お前みたいなガキが来る所じゃねえ!とか。

 ワクワク!


「ああそうだ。これを持っていってくれ。門番にこれを見せれば税金の支払いが免除になって、町に滞在する間の証明書にもなる。町を出る時に冒険者ギルドへ戻してくれれば良いからな」

「あい」

「あと、これは門番に渡してくれ」


 受け取ったのは、巻物状の羊皮紙と金属のプレート。

 プレートには紋章とその下に冒険者ギルドと彫刻されている。これは【冒険者ギルドの客人】という証明書なんだって。無くさないようにしなくちゃ。

 直ぐ無限収納に入れてビョークギルマスとお別れした。


「ゆきちゃん、またね!」

「ご飯の販売、楽しみにしているから!」

「酒もよろしくな!」

「あーい!」



 調査隊の人達とも一旦お別れし門に向う。すると、フィガロギルマスが走って来た。


「お待ち下さい。これをどうぞ」


 差し出したのは先程もらった金属プレートの商業ギルド版。


「こえ、ビョークギユマシュ、貰った」

「ええぇ!……クッ、先を越されましたか……」

「ん?」

「い、いえいえ、良かったです。あの、商業ギルドにもぜひぜひ来てくださいね」

「うん、行く!」


 商業ギルドも異世界あるあるだよね?ええ、行きますとも。


 あ、そうだ。


「ヒナヨギユマシュ」

「はい」

「おしゅしゅめ、宿あゆ?」


 森を歩いている時、ビョークギルマスから冒険者ギルドが宿を用意する、と言われた。どんな宿?って聞いたら、高級な宿だと言われたから辞退した。だって泊まってみたいんだもん、町の宿。


 その後、ビョークギルマスにオススメ宿を聞く機会が無かったので、フィガロギルマスに聞いてみる。商業ギルド長だから宿の事とか詳しいんじゃないかな?



 ちなみに、鳳蝶丸とミスティルに聞いたら、この町には何度も来たけれど、泊まったことないんだって。

 そもそも寝ないし、好きなところ飛んで行けるし、宿泊は必要ないらしい。



「もしよろしければ、我が家に滞在していただいてもかまいませんよ。部屋数は多いので気兼ねなくお使いいただけます」

「あにあと。でも、宿、泊まゆ」

「そうですか?でしたら高級な宿を、」

「ううん、中の上、くやい」

「中の上、ですか。それでしたら、私がお薦めするのは………」


 フィガロギルマスから2つの宿を教えてもらった。



 [踊り続ける仔馬亭]と[流るる雲雀亭]。うわー、どっちも気になる!



 踊り続ける仔馬亭は某指輪な物語に出てきたお店の名前に似ているし、流るる雲雀亭は、偉大なる歌姫のあの歌を思い出すんだもん。


 どちらか悩んで、結局流るる雲雀亭から見てみることにする。ミスティルが宿の場所に心当たりがあると言うので、案内してもらうことになった。




 門(第1門と言うんだって)はとにかく大きくて、そしてガッチリ閉ざされていた。

 門番さんに、ビョークギルマスから預かった巻物を渡し、プレートを見せる。


「ありがとうございます」


 巻物を読んで、プレートを確認すると、


「少しお待ち下さい」


 と言って防壁と繋がっている頑丈そうな建物のドアを開ける。


「ジンはいるか」

「何だ?」


 門番さんとジンと呼ばれた人が何やら小さい声で話し、2人で巻物を確認してからこちらを向いた。


「おまたせしました。こちらの者が第3門までご案内します。どうぞ」

「近衛兵団第3部隊長、ジンラートと申します」

「よよちく、おねだい、ちまちゅ」


 私が挨拶すると、驚いた表情をしてから起立みたいにビシッと姿勢を正す。


「ご案内します。こちらへどうぞ」


 建物の中へ招き入れてくれた。そして石造りの頑丈そうな廊下を通ってまた外へ出る。

 第1門と第2門の間は特に何も無く、ただ広い道だった。


「いちゅも、門、開いてゆ?」

「はい。いつもは第3門から第1門まで開いております。スタンピード前はこの辺りに冒険者が沢山いて賑わっていたんですよ」


 そんな話をしていると第2門に到着。同じ造りの建物を通って外に出た。



「わあ!」


 第2門と第3門の間には、道両脇に宿屋や、店、屋台他、沢山の建物があった。

 ただ、どの建物も閉まっていて閑散としている。


「この辺りには、冒険者ギルド、武器屋、防具屋、薬屋、宿屋、飯屋などがあるんです。あの大きな建物が冒険者ギルド・死の森ダンジョン支部ですよ」


 ジンラートさんが指した場所にはどっしりとした大きな建物が建っていた。

 お店周辺には人がいなかったけれど、冒険者ギルドには冒険者らしき人達がチラホラ歩いている。


「ビョーク、ギユマシュ、あしょこ?」

「この町にはもう一箇所、町中に冒険者ギルドがあって、ギルド長はそちらに常駐しています。こちらには支部長がいらっしゃいます」

「しょうなの」


 説明を受けながら歩いていると、やがて第3門にたどり着いた。また頑丈な建物を抜けて、町中に到着。



「ダンジョン都市ミールナイトへようこそ!」



 わあ!

 古いヨーロッパの町並みみたい!石造りの建物がめっちゃファンタジー!



 って、感動したいんだけれど、兵隊さんっぽい人ばかりで町に一般人らしき人がいないよ…?


「と、言いたいところ何ですが、スタンピードで皆避難中でして、町民がいません」


 そ、そうだったー!


「数日中には色々と再開されるでしょう。‥…今日、この町に泊まるご予定でしたか?」



 ッアーーー!

 やってもうたーーー!



 言ってよ、両ギルマスー。

 町民いないから泊まるトコ無いって、言ってよー。



「しょこまで、考えゆ、ちて無かった。ごめんね」

「俺達の事は気にするな、お嬢」

「どうせしばらく滞在するんですから、宿が再開されたら泊まれば良いと思いますよ」

「うん、しょうしゅゆ」



 仕方がないので、ジンラートさんにテントを張れる場所は無いかを聞く。

 すると、第2門と第3門の間、冒険者ギルド・死の森ダンジョン支部の裏手に、宿代が払えない、若しくはどこも一杯で宿を確保出来なかった冒険者達がテントで寝泊まり出来る場所があるって教えてもらった。


「第1門と第2門の間は治安が悪いので奥にいかないでください」



 門の間、東の方向に税金が払えず町中に住めない貧民層の集落があって、本当は納税していないから防壁内に入ることは違法だけれど、外には魔獣がいて危険な為、領主さんが目を瞑ってくれているんだって。


 但し、町中で犯罪を犯した場合、罪の重さにもよるけれど、体罰程度から、奴隷落ちか武器無しで死の森の5層より深い場所に捨てられると言うのがあるらしい。

 しかも、どちらの場合も家族ごとという決まりがあるんだって。


 罪のない家族ごと?と思ったけれど、その決まりのおかげで町中での犯罪が少なく済んでいるとの事。

 貧民層の人々は互いに力を合わせて生きているので絆が強く、自分が罪を犯せば家族まで罰を受ける、と言う決まりが抑止力になるんだそう。

 そして、居住者全員に、ここに住むならばこの条件を飲むと言う制約もしてあるんだって。


 今まで軽犯罪があっても重罪になるようなことは起こってないらしい。


 あと、今回のスタンピードみたいな事があっても安全な場所に誘導される事は無いんだって。

 もちろん、自分で逃げてきた時は受け入れるけれど。


 まあ、税金払ってないから兵士を動かさないのは仕方ないのかな。


 そして今、人がいなくなった町に貧民層の人が出入りしようとして捕まることが増えているみたい。

 目的は何となく想像がつく。

 ただ、スタンピード中に残って戦ってくれた兵士や、自警団、冒険者達で門や通用口などを警護しているので、今のところ大きな問題にはなっていないとの事。



 どんな時もしっかり取り締まっているんだね。

 皆疲れているだろうに凄いな、と感心する私だった。

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