第54話 ワレワレハカセイジンダァ
カレーが煮詰まっちゃう!
と言うことで、6千エンで話がまとまった。
「おーい、メシ売って…お、おう!」
ギルマスが呼びかけようと皆の方に振り向くと、既に赤点以外が集まっていた。
あ、赤点はまだ転がっています。
皆にちょっと待ってもらい、私だけテントに入り2種類のトレーに冷たい水と大きめのフォークとスプーン、冷たい濡れタオル、ミニサラダ。小皿に福神漬。
空の深皿、平皿に大きなチーズナン1枚と焼き野菜のセット、深皿半分に中盛ご飯と焼き野菜のセットをそれぞれトレーに置いて収納した。
後はカレールーをかけるだけ。
その間、鳳蝶丸達からカレーの説明をしておいてもらう。辛さ選びと、食べこぼしが衣服につくと落ちないってやつ。
「おまたしぇ!」
私は簡易テーブルにそれぞれのセットを置いていった。
そこから超絶忙しかった。
皆、今回はご飯、次はパンと何度もおかわりに来てくれる。
お、お金持ち!
ご飯もパンも変わらず人気があって、どんどん売れてるよ。
「ここ、お借りしても良いですか?」
フィガロギルマスがタープテントの会議デスクを指した。
「いいよぉ」
ビョークギルマスや他の何人かがタープテントで食べ始める。
ちなみに獣人の皆さんは美味しく食べられるけれど、匂いが強烈でテントには近付けないらしい。
何度もおかわりはしていたけれどね。
一段落したので、私達も食べることにしよう。
もう面倒臭いのでおかわりが来たらトレイセットを渡して、自分でよそってもらう事にする。
「おみしぇカエー、しゅゆ?」
「いや、お嬢家のカレーが食いたい」
「わたしも」
皆には木製のお皿にしたけれど、私達用はちょっと素敵な陶器の深皿に炊きたてご飯と我が家カレーをかける。
お水、福神漬、ミニサラダも出したよ。
三人で「いただきます」して、早速………。
うん!美味しい!
………………………………。
そして、懐かしい。
「お嬢」
「主」
気がつけば大粒の涙をホロホロと流していた。
そんなつもりなかったのに…。
懐かしい味に亡くなった母の笑顔を思い出す。
異世界で我が家カレーを食べるとは思わなかったよ、お母さん。
結局私は泣きながら一皿を完食する。
ミスティルが何も言わず、口や手を拭いてからギュッと抱きしめてくれた。
そして、その後鳳蝶丸からもギュッと抱きしめられた。
「えへへ、おいちい?」
ちょっと恥ずかしくなって照れてしまう。
「ああ。お嬢の家カレー、最高に美味しいぜ」
「ええ、とても。とても美味しいです」
「あにあと。たくしゃん、食べてね」
「もちろん」
二人は笑顔で頷いて、そしておかわりを沢山してくれた。
「大丈夫か?」
「うん、だいじょぶ」
ビョークギルマスが心配そうに声をかけてくれる。
この場にいた他の人も心配してくれたので、何でもないと言ってニカッと笑ってみせた。
「そうか」
それ以上追求しないでくれるのはありがたい。
「カエー、辛い、食べた?」
「おう!全種類食べたが、俺は普通が好きだな。あと、チーズナンだっけか?あれ美味いな。ご飯と甲乙付け難い」
フィガロギルマスも会話に加わる。
「本当に美味です。普段あまり食べないんですが、3杯も食べてしまいました。あの、そちらのカレーは私達が食べたものと違うんですか?」
私達が食べている家カレーについて聞かれる。
それについては鳳蝶丸とミスティルが応えてくれた。
「カレーは沢山の種類があって、店でも食べられるが各家庭で味が違うんだそうだ」
「こちらは主の家に伝わるレシピで作ったもの。家族だけが食べられる特別なカレーです」
「…………そうなんですね」
フィガロギルマスが神妙な顔で頷き、ビョークギルマスが「親を思い出したのか…」と呟き、ローザお姉さんが悲しそうな瞳で私を見つめた。
すると、フィガロギルマスがニコッと笑い、話題を少し変える。
「ご飯と言うのは美味しいんですね。白い穀物は東方にある国の主食と聞いております。遠い国ですが伝手が見つかったら入荷してみようかと思っております」
「お、いいな」
「もしかしたら、だけど、遠方の国に行った時、白くて細長い硬いツブの穀物を見たことある。ゆきちゃんが出してくれるのよりもうちょっと細長かった気がするけど…それかな?」
「フィガロ殿の言う、東方の国へ行ったのか?」
オルフェスさんの問いにローザお姉さんが首を振った。
「いや、エルドゥール方面」
ビョークギルマスの話によると、この国より南方にある国らしい。
「東方ではなくても手に入りそうですね?」
「穀物は硬かったのか?」
「ああ、硬かった」
フィガロギルマスとビョークギルマスがローザお姉さんにお米について質問している。
この世界のお米がどんなのかわからないけれど一応補足してみる。
「あのね」
ご飯は穀物で硬い時は米、炊き上げて柔らかくなるとご飯または飯と言うこと。
お米には沢山種類がある事。
中には加工するとお餅というコシと粘り気が強い、美味しい食べ物になるお米もある事などを話した。
あと、私が知っている細長いお米は味が薄くパサっとしているもので、カレーみたいにおかずと混ぜて食べるものには合うお米。でも私が使っているのは違う種類のものなので食感が違うかもしれない。
ただ、ローザお姉さんが見たお米がどういう味かは食べてないからわからない。
「そうですか。もし、ですが、ゆき殿のお手持ちをお売りしていただくことは出来ますか?」
フィガロギルマスからのリクエスト。
出来るは出来るけれど、今後のことを考えれば他国から輸入した方が良いのでは?と思う。
「しぇけん、行き渡ゆ、にゃい」
「そうですか…」
寂しそうな顔しないで下さいよ。
「食べゆ分、あゆ。またご飯売ゆね」
「!、ゆき殿のご飯はとても美味しいので、せひ食べたいです!その時は必ず教えて下さいね」
「私も」
「俺も」
「あい」
そしたらオルフェスさんが寂しそうに「羨ましい…」と言った。
町に着いてオルフェス団長が帰るまでに何かしら作るよ、と言ったらとても喜んでくれた。
次は何にしよう?やっぱりご飯がいいのかな?
それにしても東方か。
あったりして。黄金の国ジパング。
ウル様は日本を気に入ってくれているから、ありそうだよね。
今後チャンスがあったら探してみよう。
まだ夜明け前に目が覚めた。
外に出て、トイレ以外のテントはすぐに収納。調査隊の皆さんも片付けを始めていた。
ずっと放置していた赤点達はと言うと、昨日のうちに結界を外しておきました。
お漏らししてぐったりしてたから、清浄だけしておいたよ。
だって一緒に帰るのに、臭いの嫌だしね。
後は調査隊の皆さんにお任せ。
魔法封じの魔道具を着け、上半身をガッチリ拘束されていたよ。
足は拘束せず、自分で歩いてもらうんだって。
出発する時間となり、私はまたおんぶされている。
な、な、何と!ビョークギルマスに!
鳳蝶丸もミスティルも断っていたんだけれど、どうしても足のお礼がしたいと言われ、私が2人以外の背中はどんな?って好奇心からおぶってもらったんだけど……。
ハッキリ言おう。
窮屈。
ビョークギルマスって鍛え上げられた体躯のイケオジなのだ。
髪の色は金髪じゃなくてミルクチョコ色だけれど、若い頃のダダンダンダダン♪I'll be back氏に少しだけ似ている。
頼り甲斐ありそうだし、渋いイケメンだし、日本での私ならドキドキしたかもしれない。
そんなビョークギルマスの胸板は厚く、最初おんぶ紐が使えなかった。
無限収納内で再構成して紐を伸ばしたものを使っているんだけれど…………。
背中の筋肉がゴツくモリモリしていて、おんぶ紐の中に余裕がなく窮屈なのだ。
あと、鳳蝶丸もミスティルも不思議と揺れずスムーズな歩きだったのに対し、ビョークギルマスはユッサユッサ揺れる。
「あ、あ、あ、ぁ、ぁっ。ワ、エ、ワ、エ、ハ、カ、シェ、イ、ジ、ン、ダア」
揺れるたび声を出して、宇宙人ゴッコをしてしまった。
「どうした?」
「あ、しょ、ん、で、ゆう」
楽しくなってキャッキャと笑っていたら、それを見ていたミスティルが「次は揺らせば良いんですね」と言い出した。
いや、揺れないほうが良いんですよ、ミスティルさん。
結局、途中で鳳蝶丸におぶってもらいました。
うん、楽チン。
やっぱり、おんぶは揺れない細マッチョですよ。
後は黙々と町に向かうだけ。単調な道行に、私は次第に夢の中へ。
お休みなさい。
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