第53話 辛さはどれがお好み?

 入ると同時に清浄で体中が清潔になったけれど、一応手洗いうがいをしてからご飯の用意する。



 アレだよね。

 キャンプと言えば、カレーだよね。



 まずテントのキッチンに寸胴鍋を用意。

 時間もないのでミネラルウオーターを鍋にたっぷり入れて、日本で食べていた我が家のカレーを再構築。

 ちなみにお肉は豚肉。お肉多めにしたよ。


 我が家カレーの寸胴を無限収納に仕舞う。

 あとは、炊きたてご飯があるので良いとして、一応パンも用意するか。

 一般家庭で食べるこってりカレーだけれど、合うパンが思いつかなかったからチーズたっぷり焼き立てチーズナンでいいや。あとはミニサラダ。


 全部複写するから沢山食べられるね。


「さっきから食欲そそる良い匂いが漂っているな」

「何という食べ物ですか?」

「こえは、カエー」


 ミスティルの手に文字を書く。


「カ、レー?カレーですね?」

「うん!」

「カレーか」

「カエーはぁ、たーくしゃん、しゅゆい、あゆ。家ごと、味ちあう。こえ、日本、わたちのお家、味、カエーよ」

「主の家のカレーが食べられるんですね。嬉しいです」

「ああ。何か特別感があるな」

「う、うん。2人は、わたちのかじょく。とくべちゅ」


 2人が嬉しそうにニコニコ笑顔を浮かべている。


 おおう!そんな凄いカレーではないのに。

 販売しようと思っていたんだけれど、こんなに喜んでくれるなら我が家カレーを売るのは止めたほうがいいな。


「もうひとちゅ、おみしぇ、カリェー、ちゅくゆ。しょれ、販売しゅゆ」

「あんな事をされたのに売るんですか?」

「あいちゅ、うなない。他のちと、うゆ。お金、しゅゆ」


 だって赤点2人以外に特別思うところは無いし。


 それよりこの世界の現金が欲しい。

 買い物したり………。何と言っても、宿に泊まってみたい!それには現金が必要だもんね。


 ラーメン売って12万エン位のお金になった。貸出テントは10万エンだけどすぐ貰えないみたいだし、街に着くまでにもうちょっと貯めておきたい。


 その旨を2人に説明し納得してもらった。


 また寸胴鍋を3個出してミネラルウオーターを入れて。

 今度は美味しかったお店のカレーを再構築。とりあえず、普通、中辛、辛口の3種類。中には大きくてスプーンで切れるほど柔らかい牛肉。あとは焼き野菜数種。


 良し。


「本当に違うのですね」

「こっちの方が濃い色で少しだけサラサラしてるか?」

「おみしぇ、カエー、しゅこし、ゆゆい」


 スープカレーほどサラサラじゃないけれど、家庭のより少し緩い感じのカレーだよ。


 2人が販売の手伝いをしてくれると言うので、カレーは普通、中辛、辛口があって選んでもらうこと、洋服にシミが付くと落ちないことを説明してほしいとお願いした。

 まあ、いざとなれば清浄があるからなんとかなるかな。




 外に出ると、フィガロギルマス、オルフェス団長、ローザさん、ビョークギルマスが話し込んでいた。


 そして私達を見るとビョークギルマスが立ち上がり頭を下げる。

 他の3人も一緒に頭を下げた。


「この度は、調査隊隊員が迷惑をおかけして申し訳ありません。深くお詫び申し上げます」

「ギユマシュ、わゆくない。あのちと達、わたちの事、ちやなかった」


 赤点達は未だ転がったまま放置されている。


「でも、あのちと達、きやーい!」


 思わず顔をくしゃっとして嫌がってしまった。

 いいよね?これくらい。

 調査隊の皆さんも、俺達も嫌いだ、と口々に言っている。

 ビョークギルマスはハハハと笑ってからまた真面目な表情になった。


「本当に申し訳ない」

「しゃじゃい、受け取にまちた。こえで、おちまい」

「念の為、コレらの今後について報告しなくて良いからな」


 鳳蝶丸が赤点達を顎で指し、ビョークギルマスが頷いて話を終えた。



「はなち、まだあゆ?こっち、ご飯食べて、いい?」


 大きな会議テーブルなので、端と端で離れれば食事をしても問題ないだろう。


「あ、ああ。ずっと借りていてすまん。話は終わったので、飯食ってくれ」

「な、何を食べるのですか?」

「フィガロ殿?」

「人の食べ物聞いてはしたない、と言いたいトコロだけど。私も気になるよ」

「ローザリアまで……。あー、でも、実は俺も気になってんだよな」


 ビョークギルマスがツッコミ入れつつ、普通の話し方に戻してくれた。


「ビョークギユマシュ」

「ん?何だ?」

「また、ご飯、売る、ちたい」

「えっ?良いのか?」

「おかね、ほちい」


 ふふふふふ…。

 優しい気持ちじゃないですよ?カモにするんですよ?


「買う買う!」

「メニュー、見ゆ前、いいの?」

「もちろん!だって、ゆきちゃんのご飯、凄く美味しいからね」

「昼に食べたラメーン、美味しかったですよねえ」

「ラーメンな」


 フィガロギルマスが鳳蝶丸からツッコミ入れられてる。


「美味ちい?」

「ああ。ゆき殿の飯は食ったこと無いし恐ろしく美味い。恐らく王族でも口にしたこと無い美味さだと思うぞ」

「しょんな?」


 これって、異世界あるあるなんじゃ?

 ウル様からは知識を伝えてほしいって言われているから良いのかな?


 売ってもらえるのはありがたい、と言うことだったので、コンロを3つ出して、細い火で既に熱々のカレー3種を温める。


「初めてだが、かなり食欲を刺激される良い匂いだ」


 ビョークギルマスが香りを思いっきり吸い込む。


「香辛料がふんだんに使われていますね。大変贅沢な、そして美味しそうな香りです」

「はあ、ウマそう!」


 フィガロギルマスもローザお姉さんもニコニコ笑っている。


「確かに、こんな贅沢なもの食べたことないな」


 オルフェス団長もカレーを覗き込んでいた。


「香辛料は何が入っているのですか?」


 えー?

 クミンとカルダモンと、あと何だっけ?家でも市販のルーだからわからない。

 いいや。とりあえず秘密にしておこう。


「えっとぉ…………ひみちゅ」

「そ、そうですよね?レシピは秘匿ですよね?すみません」


 フィガロギルマスが慌てて謝った。秘匿でも何でもなくわからないだけなの。

 ごめんね?


「でも、かやだに良い」


 再構築や再構成したものは念の為全部鑑定している。皆問題ないものばかりなので提供しているんだ。

 ちなみに私の鑑定では、新陳代謝を高め、食欲増進し、疲労回復するって出ているよ。


「とにあえじゅ、味見ちて?ご飯とナン、どっち、食べゆ?」


 ご飯は炒飯以外食べたことはないけれど、穀物であると聞いたことはあるらしい。この世界にもあるんだね!

 パンじゃなくてナン?と言われたので、パンではないけれど似たような感じと言っておく。


「私はナンにしようか」

「俺はご飯」

「私もご飯をお願いします」

「私もご飯で」

「でも、迷いますね。どちらも食べてみたい」

「あい、配ゆ~」


 フィガロギルマスの迷いは無視して、木製の小さい深皿にカレーライスとカレーだけを盛り、無限収納内で半分サイズのチーズナンを再構築、複写して木製の小皿に出した。

 ちなみに味見カレーは全部普通の辛さです。


「どうじょ」

「ありがとうございます!おいくらですか?」

「こえは味見。お金、なち」

「味見…。食べても良いんですか?」

「いいよぉ」



 ゴクリ



 皆の喉が鳴る。

 そしてパクリとカレーを口にした。



 !!!



 4人共あっと言う間に食べ終わる。


「美味い!」

「美味しい!」

「何て美味さだ!」

「美味しすぎる!」


 皆悶絶していた。

 そうでしょ、そうでしょ。カレー美味しいよね!


「彩り鮮やかな香辛料の香り、それに負けない肉や野菜の織りなす深い味わい、刺激的な辛さ!そして白いご飯がカレーとからみ合い私の舌と喉とお腹を満たしてくれる!全てが揃って出来上がるまさに至極の一品!」

「このナンも負けてないよ!香ばしい香り、噛んだときジュワッと滲み出るチーズの旨み、外側は焼き目が香ばしく、ほんのりと甘さを感じる。このままでも美味しいけどカレーにつけて食べた時のまろやかさ。こんなの初めてだよ!」



 はああ



 4人ともうっとりしていた。

 美味しく食べてくれて嬉しいよ。


「こえ、夜ご飯、買ってくえゆ?」


 4人は首を縦に激しく振った。


「しゃんじぇんエン?」

「これだけ香辛料を使っていてそれは安すぎます。1万エンでも安いくらいです」

「でも、皆に食べてほちい」

「ゆきちゃんは優しいね」


 ローザお姉さんが頭をナデナデしてくれる。


「金が無いなら食べないって選択もあるし、そもそもここにいるやつは皆稼いでるから大丈夫」


 優しいのはローザさんだよ。ありがとう。

 でも、ラーメンの時も思ったけれど、元々お金かかってないし心苦しいよ。


「うんと、おともらち、値段、しゃんじぇんエン」

「いや、1万」

「でも、しゃんじぇん」

「いや……」



 …………………………………

 …………………………

 …………………



 なかなか決まらない。どうしよう?

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