第52話 騎士失格!

「いや、何でゆきちゃんの所有物を我が物の様な感覚で献上しようとしてんの」

「うるさい!このような卑しい平民が国王陛下にお会い出来るわけ無いだろう!」


 私の従者達が卑しいと言う言葉に反応。攻撃しそうだったので慌てて止める。


「あなた達の目は節穴ですか?」

「は?」

「こんなに身奇麗なお嬢さん達が、平民なわけ無いでしょう!」

「アンタ達は食べていないけど、あれほど美味しい食事をあの量提供できる平民なんていないでしょう」

「お忍び中の身分の高い方かもしれない、と想像もつかないのか!」

「な!」


 動揺し始める赤点達。何も考えず行動しているんだろうな。

 コレが王国騎士団って、この国、大丈夫なの?


「友好国への差別発言。女性冒険者への性的嫌がらせ。辺境伯への侮辱発言。他者の所有物強奪未遂及び殺人未遂。調査隊の活動を放棄。どれをとっても問題ある行動となるのだが?」

「全て報告される事になると思いますよ」


 オルフェス団長とフィガロギルマスの言葉に赤点達が顔面蒼白でブルブル震えだす。


「だ、だ、だからだ!お前達がワタシを脅すからこのような事に!」

「国宝級のマジックバッグを献上すれば、我らの心象が!変わ………っ!」

「それが理由か」


 ん?ああ、そう言う事か。

 私達に会う前に沢山やらかしちゃって報告されそうなので、マジックバッグ献上を功績として罪を免れる、若しくは減刑しようとしたのか。


「わたち達、こよしゅ、ちにん、くちなち」

「ああ。マジックバッグを奪い俺達を殺せば、遺体はダンジョンに吸収され証拠隠滅が出来る」

「ち、違う!」

「死罪だと言いあっさり剣を振り下ろした事を忘れたのですか?馬鹿なんですか?」


 何か、単純過ぎて頭が痛い。


「きち、ちっかく!」

「は?」

「主はお前らを騎士失格だと言っています」


 あ、ミスティルがお前らって言ってる。新鮮。


「我が主を侮辱しただけではなく、斬り殺そうとした。絶対に許しません」

「卑しい平民だと?卑しいのはお前達阿呆の事だ」



 ブワッ!



 肌にビリビリと感じる畏怖。恐怖。

 ミスティルも鳳蝶丸もかなり怒っている。


 赤点二人がバターン!と倒れた。泡を吹いて白目を剥いている。

 もう。君たちの白目、見飽きたよ。



 グ、…グウ。



 喉から絞り出すような声が聞こえた。

 フィガロギルマス達が胸を押さえ、蹲っている。


「あ………あげ、は…」

「ミス…………ティ………ルど……の………グゥ」


 苦しそうに肩で息をして、脂汗を浮かべていた。



 あ、あれ?



「ミシュチユ、鳳蝶まゆ」


 私が声をかけると二人から放たれていたビリビリが止まる。



 ハッ!



 途端に体が崩れ落ちるフィガロギルマス達。



 ハッハッハッハッハッ…



 過呼吸みたいに苦しそうな息遣いだったので、慌てて三人に近づいた。


「だいじょぶ?」


 ローザさんの背中を摩、れなかったので(身長的に)、飛行ひぎょうでちょっと浮かんで摩る。


「ロージャおねしゃん、だいじょぶ?」

「あ、ああ。死ぬかと思ったよ」

「凄い威圧でした」


 大きく息を吐きながら、フィガロギルマス達が座り込む。

 私が振り返るとすぐ後ろに鳳蝶丸とミスティルが立っていて、両手を挙げるとミスティルがサッと抱っこしてくれた。


「怒ってくえて、あにあと。うれちい」


 キュッと抱きしめられる。


「やくしょく、守ゆ、あにあとね」


 二人は威圧だけで人を殺してしまえるかもしれない。

 けれども、私との約束あってギリギリのところで我慢してくれたんだと思う。


「わたち、ちたいこと、ちゅきあわしぇて、嫌な思い、ごめんね」


 鳳蝶丸は私と目線を合わせニコッと笑う。そして、頭を撫でてくれた。


「俺達はお嬢のしたい事を一緒にしたい。だから付き合わされてる、何て全く思っていないぜ」

「自分達だけでは味わえない体験が多くて、毎日が楽しいですよ」


 私の従者達は優しいな。




 暫くして、フィガロギルマス達の体調が落ち着いてきた。赤点達はまだ目を覚ましていない。

 三人は、倒れている赤点達を介抱することもなく一瞥して、私達に体を向けた。


「皆様のお怒り、御尤もです。御迷惑をおかけして大変申し訳ない。ただ、ここから先は我らに託してはもらえないだろうか?今回の件は上部に報告し、処分方法の検討をいたします。その結果は決定次第お知らせしますので…」

「あ、いいでしゅ」

「え?」

「おちやしぇ、いなない」


 オルフェス団長が私達に提案してくれたけれど、処分内容に興味ないしね。


「処分、おまかしぇ、しゅゆ。おちやしぇ、いなない。しょーじち、どーでもいい」

「…………?」

「わたち、このちと達、ちょうみない。どーでもいい」

「す、すみません。報告はいらない、と言うことですか?」

「あい」


 やはり、聞き取りにくいかあ。

 ミスティルと鳳蝶丸に委ねよう。


「正直、どうでもいいので処分は任せます。お知らせはいりません。と言うことです」

「興味ないからどうなってもいいし、結果もいらない。お嬢の言う通りだ。こいつらの行く末など確かにどうでもいい。ただ、今後お嬢に近づけないでくれ」

「わかりました」




 気がつけば辺りは暗くなっていた。

 ここに到着した時点で日が傾いていたので当然だけれど。


 赤点達はまだ目が覚めないらしく、横たわったままロープでグルグル巻にされ、その辺りに放ってある感じ。フィガロさん達は書類らしきものを書いたり、見たことない道具に耳を近付けたりしていた。


「ヒ、フ、ヒナヨギユマシュ」


 フィガロって言い難い!気づいてくれなかったので、足を叩きながら呼んでみよう。


「ヒナヨギユマシュ!」


 タシタシ


「は、はい!」

「あえ、どうじょ」


 タープテントを出してオススメする。テーブルもあるし、ランタンの灯りが明るいし、そのほうが書きやすいでしょ?


「いいんですか?」

「あい、どうじょ」

「ありがとうございます」


 フィガロギルマス達が嬉しそうに笑顔でお礼を言いながらタープテントに入る。


「ああ、サッパリしますねぇ」

「クリーンで綺麗になれるっていいね!今まで必然性をあまり感じてなかったけど、今度習得してみようかな」

「ロージャおねしゃん、魔法出来ゆ?」

「多少、ね」

「しゅごい~」


 魔法はファンタジーだね!

 いや、私も使えるんだけれど魔法創造で作ったものだし、フェリアの人が使っている魔法とは何となく違う気がするんだ。


 三人は早速席に付き、書類を書いたり調べ物を始める。

 私達はまた人をダメにするソファーに寝っ転がっていた。

 結界の中は適温だけれど、一応タオルケットを出してお腹にかける。灯りは……。タープテントがあるからいいや。


 辺りが真っ暗になった頃、調査隊がセーフティエリアに次々と戻って来る。

 私達はフィガロさん達の作業が終わったので、ソファーや敷物を仕舞って一緒にお茶を飲んでいた。


 ちなみに、赤点二人は目を覚ましてからギャーギャーうるさかったので結界で囲み、音を遮断してある。静かで快適。


「ビョークギユマシュ、おかえになしゃい」

「おう、ただいま」


 全員怪我もなく帰って来たみたい。流石、高ランクの皆さん。


 帰ってきた人達が、グルグル巻に縛られている赤点二人をチラリと見る。そして、肩を竦めたり、ため息をついたり、首を横に振ったりした。

 でも、二人に声をかけたり縄を解こうとする人はいなかった。


「何かやらかしたか。この件は報告を受けたあとで話をさせてほしい。あと、今夜はここに泊まって明日夜明けと共に出発するのでよろしく頼む」

「あい」


 ビョークギルマスが私達に声をかけ、その後集まっている調査隊の元へ行った。


「町まであと少しだが、今日は遅くなったので夜営とする。明日早くの出発となるので今夜は各自休んでくれ」


 ビョークギルマスが告げると、皆それぞれ夜営の支度を始めた。



「監視役、感謝する。書類を読んでおくので、夜営の準備をしてくれ」

「了解です」「ああ、分かった」「了解」


 フィガロギルマス、オルフェス団長、ローザさん達は頷いてそれぞれ夜営の準備をしに行った。


「テントありがとうな。申し訳ないが、このまま借りていてもいいか?」

「いいよお」


 ビョークギルマスはタープテントの椅子に座り、書類を読んだり、謎の道具に耳をつけたりし始めた。

 物凄く怖い表情を浮かべ、眉間のシワがどんどん深くなる。


 たぶん赤点達のやらかし報告を読んでいるんだね。彼らの事はビョークギルマスに任せよう。うん。


「テント、出しゅ」


 さて、お腹が空いたし休む準備をしよう。

 とりあえずタープテントの隣に私達のテントを張る。そしてミスティル抱っこでテントに入った。

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