第51話 ゲンキンなダンジョン
次に目が覚めたのは、立ち止まって何かを確認している最中だった。
「どちた?」
「魔獣の活動が始まった様です」
「えっ、だいじょぶ?」
「この辺りの魔獣ならば問題なく対処出来るらしいですよ?」
「まあ、近付いて来ないんだが」
「どちて?」
「お嬢と俺達がいるからな」
「分体にも言い聞かせましたしね」
あ、そうか。
私達には一切攻撃しないように言ったんだった。
地図を見るとチラホラ魔獣らしき赤い点が出現している。
ただ、私達を中心に直径1Kmくらい綺麗に丸く何もいないみたいだった。
「次の休憩地で少し調査するらしい。俺達はその間ゆっくりしていれば良いってさ」
「あい」
一緒に調査したら、逃げちゃうもんね。
それから1時間ほどして休憩地に着いた。これが最後の休憩だって。
ただ、木の根がゴツゴツしていて、トイレテント置くのが難しそう。
うーん…。あ!そうだ!
「ビョークギユマシュ、ここ、シェーフチ、エニア?」
「いや、ここは普通の開けた場所だ。セーフティエリアはもっと奥に行かなけりゃ無いな」
「ここ、あったら、べんに?」
「ん?」
「ここにセーフティエリアがあったら便利かと聞いている」
「そりゃ便利でありがたいが、まさか作れるのか?」
「んーん、頼む」
「恐らくダンジョンコアに頼んでみるつもりでしょう。出来るかはわかりませんが」
「ダンジョンコアに頼む………」
ポカーンとするビョークギルマス。
「いや、何でもアリなゆき殿だったらあり得るか。いちいち驚いてちゃ、身が持たん」
大きめに呟き、サッと指示を出す。
「皆、一旦"5-12"エリアから出てくれ!何が起きても驚かないように!」
全員が開けた場所から戻ってくる。
私は背中から下ろしてもらい、両手で地面に触れて少しだけ魔力を流した。
「本たーい、ここ、シェーフチ、エニア、ちてー!」
シーン…
「シェーフチ、エニア、ちゅくゆ。しょれ利用、ぼーけんちゃ、ダンジョン、入ゆ」
ゴゴゴ………
途端に地響きがして辺りが揺れた。調査隊の面々が驚いて身構える。
人が森に入ると聞いた途端動き出すって、…ゲンキンだな。
ゴゴゴゴゴ…
轟音と振動が続き、やがて平らな土地になった。その後地面がパァ!と輝いて終了。鑑定してみると確かにセーフティエリアとなっていた。
遠くからも音がしていたので地図を確認する。
「あ!」
どうやらダンジョンコアは複数のセーフティエリアを用意したらしい。
但し、偽セーフティエリアもある。気が緩んでいるところを襲う魂胆だね。
「いくちゅか、シェーフチ、エニアでちた。でも、にしぇエニアも、でちた」
「…」
「聞こえているか?」
念の為、鳳蝶丸からも説明してもらう。
セーフティエリアが複数出現した事。
但し、セーフティエリアに見せかけた、只の広場も出現したから注意しなければいけない事。
「だいじょぶ?」
「あ、ああ。驚かないと言ったがやはり驚いちまった。まさか本当にセーフティエリア作らせちまうとは」
「偽エリアもあるからな」
「わかっている」
「ましゃか、にしぇエニア、ちゅくゆとは」
「まあ、元々無かったものだしな。冒険者ギルドで注意喚起と上への報告をしておく」
分体のどや顔(のっぺらぼうだけれど)が頭に浮かび、ちょっとイラッとしたのは仕方ないよね。
鳳蝶丸抱っこで各トイレテントを設置してお役目終了。後は皆が辺りの調査を終えるまでのんびりするんだ。
ミスティルが敷物を用意してくれたので、そこに人をダメにするソファーを出し、三人で寝っ転がる。
ここはセーフティエリアだけれど、私達の周りだけに小さな結界1を張っておこう。
おやつでも食べようかな。ロールケーキ?たい焼き?
二人にどんな甘味か説明して、どちらが良いか聞いたらたい焼き希望だった。
自分と二人に清浄。湯呑、急須、茶葉、お湯入りポットを出してミスティルにお茶をいれてもらう。
木製のお皿には色んなたい焼き。つぶ餡(黒白)、栗餡、ウグイス餡、チョコ、カスタード、お好み焼き風を用意。
さあ食べようかな、と思ったところでビョークギルマスから声をかけられた。
「では行ってくる。セーフティエリア内だが気を付けてくれ」
「あい、いてやったい」
調査隊の面々がいなくなり私達はだけとなる。
お茶を飲んだりたい焼き食べたり、ソファーに寝転がったりとのんびりと過ごしていた。
「赤点、戻ってちた」
「何を考えているのやら」
「離えて、青点しゃんにん」
「俺達で問題ないのにな」
「命、とったあ、ヤメよ」
「ええ。貴女との約束ですから、もちろん、命は、取りません。フフフ…」
「まあ、命は、な。」
やたらいい笑顔の二人。
大丈夫かな。
しばらくすると、あの二人が姿を現し、そしてズカズカと大股で私達の元へ来る。到着するやいなや腰に手を当て大声で言い放った。
「その様に高価なものは、お前達平民に相応しくない!……まあ、良い。ワタシから我が国へ献上しておいてやる!そのマジックバッグを中身ごと渡せ!」
踏ん反り返って偉そうに、高らかにパクリ宣言ですよ。
私達は無視してソファーに埋もれ、ダメな感じになっていた。
「青点、到着ちた」
「さて、どう出ますかね」
無視している間に顔を真っ赤にして怒り狂う赤点。
赤だけに。
「マジックバッグを寄越せと言っているのだ!」
「聞いているのか!何だその態度は!不敬だぞ!」
キーキー騒ぐ赤点とソファーに埋もれている私。外から見たら凄い絵面だよね。
「鞄、あげない。取りあげゆ、ドロボー、同じ」
「は?」
「ドロボー」
普段は絶対やらないけれど、この人達ならいいや。
指で奴らの顔をガッツリ指す。
「ドロボー」
「なっ!赤児と思って下手に出ていれば!」
「何という愚弄!それを止めぬ二人も共犯である!」
下手に出てたの?その態度で?
スラリと剣を抜く赤点達。
「お前達は貴族であるワタシを愚弄するという罪を犯した。よって、死罪とする!」
あ、本当に斬り掛かって来た。
ガイン!
当然結界に阻まれるんですが。
「卑怯な!」
いや、誰もいない時間を狙ってマジックバッグ(偽)を中身ごと奪おうとしているあなた達に言われたく無いですよ。
「止めなさい!」
その時、木陰から青点の三人が飛び出して来たけれど、鳳蝶丸が手で制す。
「何もせず彼奴等に引き渡すのもな」
「やり返さないと」
にっこり笑うミスティルと鳳蝶丸。
青点ことオルフェス団長、フィガロギルマス、ローザお姉さんは止められて戸惑っている。
赤点二人は頭に血が登っているのかローザお姉さん達に気づいてないみたい。
鬼の形相で剣を振り下ろしている。
……怖くないけど。
「はあ、うるさい。ヤッちゃダメなんですよね?」
「うん」
「仕方ありません」
ミスティルが人差し指をスイッと動かすと、荊棘ちゃん達が現れて、赤点二人をグルグル巻に縛り上げた。
「なっ、何をする!平民ごときがワタシに…ウギ、ギイィ!」
ミスティルがまた指を動かし、荊棘ちゃんで締め上げる。
「黙れ」
今度は鳳蝶丸が水で二人の顔を覆う。膜が貼っているみたいに薄いのでよく見ないとわからない。
グ、ゴボ………
少量の水だけれど、二人共呼吸が出来ずに溺れかけている。
ちょっと可愛そう?…かな?
「鳳蝶まゆ、ミシュチユ」
私が声をかけると、棘攻め、水攻めを止めてくれた。
ドサッ
二人の体が崩れ落ち、顔を覗くと白目を剥いて気絶している。
そこにフィガロギルマス達が駆け寄って来た。
「大丈夫でしたか?」
「まあ、見ての通りだな」
オルフェス団長が首に手を添え脈を測っている。
「気を失っているだけだ。問題ない」
そう言うと、赤点の二人に何かを嗅がせる。
「ガアア!」
よっぽど酷い薬なのか、二人が飛び起きた。ついでにフィガロさん達も顔を顰めている。
音以外禁止の結界にして良かった!
「ここは…ハッ!貴様、ワタシに攻撃をかけ………っ」
赤点が調査隊の三人に気付き、口を閉じる。
「あなた達は魔獣の調査に向った筈なのに、何故ここにいるのですか?」
フィガロギルマスが問いただす。
「で、で、では、そ、そちらも、何故ここにいるのだ」
「それは調査隊長の命令で、あなた達を監視していたからですよ」
「か、監視など、無礼ではありませんか!」
「いいや。君達は調査の始めから色々やらかしてたから当たり前だ」
「クッ…」
すかさずローザお姉さんがツッコミを入れる。
「何をするため戻ったのだ」
「う、五月蝿い!わたし達に返答する義務は無い!」
「田舎者の辺境伯にしか仕えられない雑魚のクセに、王国騎士団の我々に話しかけるな!」
オルフェス団長にはかなり強気。
「アンタ達が王国騎士団だとは、嘆かわしい限りだよ」
本当に。ローザお姉さんの言う通り。
赤点達は阿呆なの?
「へんちょう伯、田舎者、ちあう。伯爵位、中でも、身分、たたい。辺境伯よう、国のしゃかい、守ゆ。しょんなこと、ちやないの?おべんちょ、ちた?わかゆ?だいじょぶ?」
ちょっと煽っちゃった。
だが、後悔はない。
…………?
ん?あれ?皆さんわからなかった?
代わりに鳳蝶丸さん、お願いします。
「辺境伯は田舎者ではない。伯爵位の中でも侯爵に近い身分だ。辺境伯領は国境を守る要である。王国騎士団のクセにそんなことも知らないのか?勉強したか?私が言っている事は理解出来ているか?頭は大丈夫か?、と、お嬢は言っている」
鳳蝶丸さん。今の大分、盛っとりますよ。
すると、フィガロギルマス達三人が大爆笑した。
「その通り。凄い!よく知っているね、ゆきちゃん!」
漫画とか小説とかの知識だけれど、合っていたみたい。良かった!
ローザお姉さんに褒められてちょっと嬉しいな。
「赤ちゃんも理解しているのに、アンタ達は何も知らないんだね?子爵家殿、准男爵家殿?」
「……」
「国境を守り、死の森を管理し、国王陛下に信頼をいただいている辺境伯を田舎者と称した事、報告したらどうなるでしょうね」
ローザお姉さんの言葉にフィガロギルマスが更に追加する。
「私は辺境伯領騎士団に所属している事を誇りに思っている」
オルフェス団長も胸を張った。
当の赤点達は頭から湯気が出そうなほど真っ赤で、こみかみに青筋を立てている。
「それから話は変わるけど、マジックバッグを寄越せ!と聞こえていたけど間違いない?」
「………」
「中身ごと全て寄越せ、とまで聞こえていましたよ?」
「他者の所有物を、取引するならまだしも寄越せとは。強盗と同じではないか」
すると、赤点の一人が立ち上がる。
「五月蝿い………五月蝿い、五月蝿い!うるさーい!!!」
はあはあと肩を怒らせ、鬼の形相で私を指す。
「アレはこのような平民風情が持っていて良いものではない!王国で所有するものであるぞ!」
「そうだ!そうだ!」
「代わりにワタシが国王陛下に献上すると言っているだけだ!」
この人、何言っちゃってんの?
貴族って平民の持ち物を奪うもの………あー、うん、あり得るか。歴史関係の本を読んだ時、そんな内容が書かれていたような……。身分の高い貴族には普通逆らえないもんね。
きっと、もっと、えげつない要求もあるんだろうな。
ちょっと身震いする。
でもフェリアでそんな心配しなくても良いよう力を授けてくださったウル様、ムウ様、桃様、そしてヒミツちゃん様に心から感謝。
ありがとう!
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