第50話 ラメーン………
抱き上げられる感覚があって目が覚めました。
「んう?」
目を擦って周りを見ると森の中。私は再びミスティルにおんぶされている所だった。
「目覚めたか?」
「うん」
「人間達の進行方向が微妙にずれたようなので、合流します」
「あにあと。よよちく」
二人がゆっくり歩き出す。
地図を見ると人を表す点が動いていて、そちらに向かっていた。
調査隊の進行方向先で立ち止まり待っていると、やがて斥候のレーネお姉さんが姿を現し、しばらくすると先頭のビョークギルマスも見えてくる。
「ビョーク、ギユマシュー!」
私が手を振ると、こちらに気付いて手を振り返してくれた。
「主殿は自由だな」
ギルマスが肩を竦めて言い、その言葉にミスティルがムッとした表情を浮かべた。
「主はあなたの願いを叶えるために頑張ったんですよ。文句を言わないでください」
「俺の?」
「かちだちトイエ、ちゅくった」
「え!」
私が使っているトイレは1つしかないし、調査隊の人数には足りない事。
でも、困っているだろうから用意しようと思った事。
休憩地でつくるのでは間に合わない事。
錬金魔術でつくる所を見られたくない事、などを説明する。
まあ、私用トイレは複写すれば何個でもつくれるけれど、目的もないのに複数個持ってちゃ変でしょ?
「す、すまん!俺の言った事を気にかけてくれていたのか!ありがとう」
「どういたちまちて」
私達は再び調査隊に加わってその先の開けた場所まで歩き、そこで昼食休憩となった。
ビョークギルマスがトイレを組み立てようとしていた人達を止めて私達に近づく。
「早速見せてくれるか?」
「うん、いいよぉ」
私は男性用トイレテントと、少し離れた場所に女性用トイレテントを出した。
そのたびに周りから「おおぉ!」と声があがるのは何でだろう?
「ギユマシュとぉ、だえか男のちと来て」
真っ先にフィガロギルマスが飛んできた。他にモッカ団長とライアン団長も来る。
私はミスティル抱っこで男性用テントに入り、使い方をひと通り説明した。
「な、何か凄いな」
ビョークギルマスは私のテントでトイレを見ているからそれほど驚いていないけれど、他の三人はポカーンと口を空けて固まっている。
「ふくしゅうのちと、入ゆ。しぇいけちゅ、くしゃくにゃい」
「複数人で使用出来、清潔で臭くない、とお嬢は言っている」
「おう、完璧だ!」
「男のちと、ギユマシュ、しぇちゅめいちて」
「男性分は貴方が説明して、と主が言っています」
「了解だ」
あとは男性陣を集めているビョークギルマスに任せて、今度はローザお姉さんが待つ女性用に近づいた。
「ミシュチユ、待ってて」
「このままでも良いですよ?」
「ここ、おにゃにょ子。ミシュチユ、男の子」
「…わかりました」
って事で、ローザお姉さん抱っこで中に入り、使い方を説明した。
ローザお姉さんとエクレールお姉さんは体験済みなのでリモコンの説明は任せて、手を清潔にしたり、化粧台の説明をする。
ローザお姉さんに一旦外に出てもらって、ミスティル抱っこに戻してもらった。
「あと、ゆっくい、どうじょ」
「ありがとうね、ゆきちゃん」
「どういたちまちて」
臭くて汚いトイレってストレスだよね。
私とミスティルは鳳蝶丸のところに戻って、三人を全身清浄。靴を脱いで用意してくれた敷物に座った。
「ごはん、何食べゆ?」
「腹に溜まるものがいいな」
「わたしもそれで」
「じゃあ、こえにしゅる」
定番のラーメン、炒飯、焼き餃子!
ミスティルも何回か食べて好きになってくれたみたいだしね。
本日は、味噌、醤油、塩に加えて、野菜たっぷりタンメンをご用意しました。
私はタンメン、ミスティルは醤油ラーメン&炒飯&焼き餃子、鳳蝶丸は味噌ラーメン&炒飯&焼き餃子を選んで、
「いたあちましゅ」「いただきます」「いただきます」
ちゅるちゅるちゅる…。
んー!やっぱり美味しいね、ラーメン!
いつものごとく、ミスティルに食べさせてもらっているけれどね!
美味しく食べていると、ビョークギルマスがやって来た。
「食事中すまない。貸出料の話だが、今と次の休憩で10万エンはどうだろうか?」
10万エン!って、日本で言う約10万円だよね?
思わず鳳蝶丸を見るとニッと笑みを浮かべていた。
「2回使用で10万エンか。かなり高額だが良いのか?」
「あれはそれくらいの価値がある。持ち歩いてもらえるのも加点だな」
いや、でも10万は高すぎるよ。
「しょれ、貰いしゅぎ」
「いや、妥当な値段だ」
「半分?」
「いや、10万。俺達は金持ちだから心配すんな。使用する奴らで人数割するしな」
「え?調しゃ隊、ち用、ちないの?」
「そう思ったんだが、皆が自分達で払いたいって言うんでな」
頭割りなら大丈夫かな。結局10万エンを貰うことにした。町に着いたら冒険者ギルドでまとめてくれるらしい。
「うーん、それにしてもゆき殿の飯、良い匂いだな」
ビョークギルマスが鼻をヒクヒクさせながら言った。
ラーメン、餃子、炒飯は良い匂いだよね。
「ヤーメンよ。食べゆ?でも、ゴハン、麺、食べなえゆ?」
「ラーメンと言う。旦那達があまり食べたことの無いご飯や麺だが大丈夫か?とのことだ」
「鳳蝶丸殿、ありがとう。確かに見たことも食ったことも無いが、美味そうだし俺は食ってみたい」
「しょう?」
「食料の在庫に余裕があるか?」
「うん、沢しゃん、ちゅくってあゆ」
複製だけど調理した事にしよう。
私は偽マジックバッグであるモコモコうさちゃんバッグをポンと叩いて、沢山在庫があるアピールをした。
「そうか、時間停止付きだもんな。飯、売ってもらえるか?」
「タダ、いいよ」
「金は払う」
ダンジョンや町の外では携帯食が殆どで、温かくて美味いご飯は食べられない事が多いんだって。
あと、タダ何て言ったらタカるヤツがいるし、いいように利用しようとする連中もいるから言わない方が良いと注意された。
黄色や赤点の人にはタダ何て言わないよ。青点のビョークギルマスだから言ったんだよ。
「しょっかぁ。じゃ、ヤーメン、炒飯800エン、餃じゃ400エン」
「いや、もう少し高値に。3,000エンと1,500エンでいいんじゃないか?」
外では約3倍強くらいの設定ていいのかな?鳳蝶丸が頷いたのでそれでいいや。
「どえ、食べゆ?」
ラーメンは塩、醤油、味噌、タンメンの四種類ある。
塩以外の調味料がわからないというので、大豆を使って作った調味料と簡単に伝えた。
一応、食べ物で具合悪くなるものある?と聞いたら無いとの事だったので、全種類出して小鉢に入れ食べてもらう。
「う、う、う、美味あああああ!」
小鉢を次々と平らげるビョークギルマス。
その声に何事だと集まってくる調査隊の中で、食べたいと言う人に味見してもらう。
あ、念のため食べ物で具合悪くなるものあるか聞いたよ。
「ヤバイな。どれも美味すぎる」
「俺、このチャハーンっての?好きだ!」
「私はこの塩ラメーンが好きです。透き通った美しいスープがこの細い食材に絡み、鶏肉も口の中でホロホロ崩れて後味に優しい香りを残す。最高です!」
「
皆口々に感想を述べている。
「こえとこえ、3,000エン、こえ、1,500エン。食べゆ?」
「おう!俺はミソラメーンとチャハーンだな」
ラメーン…ビョークギルマスまで…。
「ラーメンと炒飯です」
「あい、6,000エン」
ビョークギルマスから銀色のコイン6枚を受け取る。たぶん銀貨、かな?
ミスティルが頷いたので、お水とフォークとレンゲをトレーに載せて渡す。
「どれも捨てがたいな…私はミソラメーンとギョーザでお願い」
「あい、4,500エン」
「ゆきちゃんはもう計算も出来るのか。本当に天才だね」
「エヘヘヘヘ」
こっちの人はラメーンの方が言いやすいのだろうか?
「食べたら、おしゃら、わたち、持ってちて」
調査隊のメンバーのほとんどが買ってくれた。
皆が嬉しそうに自分の休憩場所に座って食べ始め、あちこちから「美味い!」と言う声が聞こえた。
ラーメンも炒飯も餃子も大好評で、おかわり購入をする人も現れたくらい。
気に入ってもらえたようで何よりです。
お腹一杯食べて、トレー回収や片付けをしているうち出発時間が迫って来た。
自分用のトイレテントと他のテントも収容して、鳳蝶丸におんぶされて出発。
私達は隊列の真ん中位を歩いていた。
念の為、地図を開く。
ん?
隊列の青点々の中に赤点二つを確認。
ああ、あの要注意人物ね。黄色点だったのがいつの間にか赤点に変わっていた。
鳳蝶丸とミスティルは強いので問題ないけれど、念の為注意を促しておく。二人はにこりと笑顔を浮かべて頷いた。
何故笑顔?
しばらくは無限収納を整理したりしていたけれど、森を進むだけの単調さに、途中からやっぱり寝てしまう。
自分から一緒に行きたいと頼んでおいて、ほぼ寝てる私。
鳳蝶丸、ミスティル、ごめんね。
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