第48話 めきょっ!

 早めに寝ているからか、最近夜明け前に目が覚める。


 昨夜温室のライトアップ見るの忘れちゃったなぁ。

 今日は温室で夜ご飯食べようかな、何て思いながらベッドで転がっていると、ミスティルがやって来た。


「おはようございます」

「おはよう、ごじゃいましゅ」


 ミスティル抱っこで顔を洗い、うがいをする。


「今日はどんなお洋服にしますか?」

「うーんとねえ、こえかな?」


 今日は可愛い洋服の気分だったので再構築、再構成した中で一番女の子っぽい服を選択。

 フリルの多いバフスリーブの白い半袖ブラウスと、薄めの桜色にさくらんぼ柄のフワフワミニスカート、白いフワフワパニエ付き。

 一つ折でレースの付いた白い靴下にはさくらんぼのワンポイント。足元はピンクベージュのフォーマルシューズ。


 ミスティルが着替えと、髪を整えるのを手伝ってくれる。


「似合ってますよ」

「あにあと」

「では行きましょうか」


 ミスティル抱っこで自室を出る。



 鳳蝶丸は寛ぎの間で朝の珈琲を飲んでいた。


「おはよう、ごじゃいましゅ」

「おはよう。今日もお嬢は可愛いな」


 朝早くからありがとう。

 照れてクニョクニョしちゃうじゃないか、ちみ。


 微笑んでいるミスティルが鳳蝶丸に私を預け、ホットミルクと紅茶を入れて戻ってきた。


「それで、今日はどうする?」

「おしゃんぽと、のんびいしゅゆのと、あちた、あしゃ、もう一度、分体見ゆ」

「了解しました」


 んー、でも遊びたいな。何しよう?あ!そうだ!


「ちま行く!みじゅあしょび!結界しゅべゆ」

「あれか。いいぜ、沢山遊ぼう」

「何です?」


 鳳蝶丸が南の島について説明する。

 私が初めて降臨した島であること、自分を探して1人で海に潜ったこと、キングやクイーンのこと、テントを作ったこと。


「頑張りましたね」


 それを聞いて私の頭を撫でてくれる。

 くすぐったくてフフッと笑ったらミスティルも微笑んでくれた。


「じゃあ、こえ」


 急いでTシャツとアロハシャツと膝丈のハーフパンツを再構築。

 着替えたばかりだけれど、私もオレンジ色のハイビスカス柄ワンピースを作った。

 皆で着替えて、結界3を張って、転移の門戸で南の島へ。



 死の森は夜明け前だったけれど、島はもう夜が明けていた。青い空、白い雲、太陽が眩しい!

 でも島の結界を張ったままなので温度は快適だよ。


 少し前までいたのに何だか懐かしい。

 初めて作ったサンダルや初めて食べたパンを思い出す。

 そして、初めての夜。満天の星空の下で1人泣いた日もあったけれど、今は鳳蝶丸もミスティルもいるから寂しくない。


 何か心が暖かくなるね。


 私が景色を見つめていると鳳蝶丸が抱き上げてくれた。


「これからは俺もミスティルもいるからな」

「あい!」


 これからもよろしくね!



 せっかくなので、白いパラソルとビーチチェア、ローテーブルを設置。

 トロピカルジュースと、サラダ、パンケーキ、ソーセージ、スクランブルエッグをのせたプレートを出し、皆で朝食をいただく。


 少し休憩したら、いよいよ遊びの時間!




「きゃー!」


 まずは鳳蝶丸と結界ウォータースライダー。

 めちゃくちゃ楽しい!


 一応キングの後継者、ちびキングがいないか確認して、鳳蝶丸と何度も滑って遊んだ。



 その後トロピカル気分を満喫していたミスティルと砂遊び。

 真っ白い砂はサラサラで固まらないから土と砂の境目で小さな山を作る。トンネル掘ってみたけれど崩れてしまって無理だった。

 仕方ないので砂に水を含ませて丸くする。


「ホットケーチでしょ、こえはぁ、バターでしょ、こえはぁ、メープウチヨップでしゅ。どうじょ」


 最後に白い砂|(メープルシロップのつもり)をサラサラとかけて出来上がり。


「いただきます。モグモグ、美味しいですよ」

「おいちいねぇ」


 ミスティルが食べるふりをしてくれる。私も一緒になって食べるふりをした。


 幼児の気持ち絶賛爆上がり中!




 次に三人で海に潜って食べられるものを集める事にした。

 海の中は暗いので途中から暗視にする。


 到着した海棚で私が大きめの貝を拾っていると、急に激しい海流が渦巻いた。

 とっさに鳳蝶丸が左手で私を抱え、右手で岩を掴んで海流を凌ぐ。


 何?


 見上げるとあの巨大な蟹が私達を襲おうとしていた。

 深海に生息しているはずなのに何で海棚にいるの?



 巨大蟹は動きが遅いし結界張ってあるので挟まれても問題ないけれど、海水がウネってこちらも動きづらい。


 そういえば気配遮断するの忘れてたな…。



 蟹的に素早く?ハサミを動かして私達を挟もうとする。

 その時、ミスティルがハサミをガッと掴んで裏返し、蟹の眉間辺りに片手を当てグッと押すような仕草をした。



 ドーン!



 地響きがして海底の砂が舞い上がる。

 砂が舞って何も見えなくなると鳳蝶丸が私を抱き直し水上へ浮上した。



「びっくい、ちたねぇ」

「気配完全遮断してなかったからな」

「ミシュチユは?」


 陸に上がりミスティルを待っていると、海面がザアア!っと盛り上がり蟹が現れた!

 驚いて鳳蝶丸にしがみついたけれど、彼は全く動揺していない。


 島にズンズン進んでくる巨大蟹。

 やがて蟹が空中に持ち上がって、その下からミスティルが現れた。


「これ、使えます?」


 片手で巨大蟹を持ち上げながら小首をかしげるミスティル。見ると、蟹の眉間がめきょってヘコんでいた。


「しゅばやちい!ミシュチユしゃま」

「お褒めの言葉、光栄にございます」


 巨大蟹片手で、王子様みたいに優雅なお辞儀。

 流石です、ミスティル様。


「鑑定、おいちい、出まちた。蟹、食べゆ」


 よし、折角だから浜辺でバーベキューをしよう!

 お昼ご飯にはちょっと早いけれど、この前と同じ品揃えに今日採った貝や蟹追加で!


 蟹や貝を清浄してから無限収納に入れ複写。

 鳳蝶丸に蟹爪を切り取ってもらって、コンロへのせる。

 蟹だけで一台ふさがっちゃったので、別のコンロも出して楽しいバーベキューを催した。


 蟹爪は大きすぎて中々焼けず時間がかかったよ。

 でもすごく美味しくて満足、満足です!


 大勢のバーベキューも楽しかったけれど、三人は気楽で良いな。

 時々この島に来ようね!


 その後はテントに戻り転移の門戸を解除してお昼寝した。




 目が覚めたのはおやつの時間前頃。

 ミスティルにまたフリフリな洋服を着せてもらって、うさぎちゃんポシェットを斜め掛けして、いざ、お散歩へ!

 抱っこ率が高いので今日は歩くよ。



 テントを出る。出払っているのか外にはあまり人がいなかった。

 私が適当に歩き出すと、後に鳳蝶丸とミスティルがついて来る。



「嬢ちゃん!」


 ん、私?


 突然声をかけられた。


 地図は青色マークだったので問題なさそう。

 振り返ると、背が低く、ガッシリした体躯、顔半分が髭で覆われ、長めの髪や顎髭を数箇所三編みしているガグルルさんだった。


「ガウユユしゃん、こんちちは。なあに?」

「おう!こんにちは。昨夜は美味い飯と旨い酒、馳走になった。ありがとう」

「美味ちかった?」

「ああ、全部食ったことのねぇ旨さだった」


 フィリアの皆さんの口に合って良かった!

 私がニコニコしていると、ちょっと言いにくそうに頭をボリボリ掻いている。


「ん?」

「あー、嬢ちゃん。で、だな。もし可能ならあの酒売ってくれないか?」

「おしゃけ?」

「ウイスキーじゃよ、ウイスキー!酒の強さ、鼻に抜ける香り、全てがたまらなく美味い。金はきちんと払う。後生だから売ってはもらえないか?」

「うん。おしゃけ、いいよぉ」

「どれくらいある?」


 どれくらい売れば良いの?鳳蝶丸を見上げたら、代わりに交渉を始めてくれた。


「町に帰ってからにしても良いか?」

「町に行くのか?」

「ああ、一緒にな」

「そうか…では、町に戻ってからにするか。どうせ報告やら何やらで足止めくらう」


 うーん、と腕を組むガグルルさん。


「冒険者ギルドの受付に空いている日時を伝言してくれ。何があってもそっちの都合に合わせるぜ」

「了解した」

「ありがとうな。宜しく、嬢ちゃん」

「うん、バイバイ」


 よし、お酒で現金手に入れよう。

 ドロップ品の買い取りもお願いしなくちゃね。マジックバッグを売る事も考えているけれど、大金になりそうなのでそちらは様子見してから。


 正直、再構築、再構成、複写があるから無一文でも全く問題がない。でも、ここはやはりお金を儲けて使って、回すで!フェリアの経済!



 …いや、買い物したいだけ、とも言う。



 散歩の後、テントの寛ぎの間でおやつのどら焼と牛乳をいただきながら、売る品物の整理、それと再構築、再構成をしてお酒やおつまみの種類を増す。


 あとは夜ご飯を食べたり、お風呂に入ったり、のんびりしてから早めの眠りについた。

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