第45話 自分、加減が分からないんで…

少し汚い表現があります。ご了承ください。

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「テントは小さいはずだ!何でこんなに中が広いんだ!」

「すごい綺麗だね。異国みたいだ…ここテントの中だよね?」

「広いわ!不思議……夢のようですわ」


 三人はキョロキョロしながら玄関を通り過ぎようとするのでミスティルが手で制す。


「まず靴をこちらの棚に置いてください」

「テントに入る時にクリーンがかかっているから気にせず脱いでくれ」

「おう、そうだったな。ここで………………ヒュッ」


 ギルマスが息を飲む。

 そのまま目を見開いて無言のまま固まっていた。


 って言うかギルマス、足?……アレ?義足のはずじゃ?


「水虫、治っているだろう?」


 鳳蝶丸とミスティルがクスクス笑っている。



「あ、あ、足……」

「欠損部が……」

「生えてゆぅ!」



 お姉さん達が驚いた。

 そして私も驚いた!


「嘘だろ、俺の足が……」


 足踏みしたり、その場でくるくる小さく歩いて確かめている。


「……なあ、これ現実か?夢か?…………嘘だろう?俺の足、俺の足が!自分の足で歩いているぞ!」

「ギ、ギルマス!」

「夢ではありませんわっ」


 私を含む四人が驚きまくる事態に。


「なんで、生えた?」

「やはり気づいてなかったんですね」

「お嬢の付与した治癒魔法がエリクサーや神級ポーション並みだったからな」


「えええぇ!」


 普通に付与したつもりなのに最強の治癒魔法だったなんて。

 別に悪い事じゃないけれど!


「しょんなちゅもい、無かた」


 すると、ローザお姉さんが困惑した表情を浮かべる。


「そんなつもり無かった?じゃあ、どうしたかったんだい?」

「みじゅむち、治しゅ」


 突然の沈黙。

 私達以外の三人が視線を交わしあい、



 あっはっはっ!



 どっと笑いだした。


「み、み、水虫の、つ、ついでに、がはは、生えたのか、俺の、クックックッ、俺の足!」

「良かったね!あっはっはっ!ついでに、ふふ、治って!」

「本当に、うふふ、幸運です、ふふふ、まさかの、理由ですわね」

「なあ、お前達の傷も治ったんじゃねえか?」


 ギルマスの言葉にハッ!として、エクレールお姉さんがローザお姉さんの背中を確認、次にローザお姉さんがエクレールお姉さんの胸もとを開けて確認した。



「治ってる…………」

「……………」



 呆然として二人で手を握りあっている。


「良かったな」


 ビョークギルマスが二人の肩を軽く叩いて頷く。

 女性二人が声もなく涙を流していた。そしてお互いを抱き締め合う。


「嬉しい…………」

「ああ、嬉しい……」


 私に体を向けて、三人が深々と頭を下げる。


「ありがとうございました」


 声が重なった。


「私は若い頃、討伐中に大怪我して背中に醜い傷があったんだ」

わたくしは肩から胸にかけ火傷跡があって肌が爛れていました」

「俺も討伐中に足を失い冒険者を引退した。ある程度の稼ぎがないと高価な治療が受けられず、ましてや神級ポーションなど買えるわけがねえ。もし買えるほど稼げるようになったとしても古傷になると完治が難しくなるんだ」


 やっぱり古傷は治療しにくいんだね。


「まさか水虫治療で足が生えると思わなかったが……感謝してもしきれない」


 女性二人はまだ涙を流している。そうだよね。体に傷があるのは辛いよね。

 そのつもりじゃ無かったけれど喜んでもらえて嬉しいよ!


「良たったね!」


 私の言葉に三人が深く頷いた。




「それで治療費についてだが、プレミアムヒール代で良いか?全額いっぺんに払えねえが支払い方法の相談にのってもらえるか?一生をかけてでも支払うつもりだが」


 え?お金?何も考えて無かったな。


「お金、いなない」

「いや、そこはキチンと請求してくれ」

「いなない。わたち、勝手、やった。しぇちゅめいなち、お金もやう、しゃぎ、おなじ」


 私の言っている事がわからないらしく三人が困った顔をしている。

 長い文章は難しいんだよう。


「お嬢は、説明も無しに勝手に治療して金を請求するのは詐欺と同じだから貰わない、と言っている」


 鳳蝶丸が私の気持ちを伝えてくれる。


「いや、しかしだな」

「町行く。ご飯、食べゆ、ちょうだい?」

「食事代で良いらしいですよ」


 今度はミスティルが。


「でも、それじゃ私らの気持ちが収まらないよ」

「そうですわ。長年の悲しみを払っていただいたんですもの。お支払いたします」


 いらないと言っているのにお金を支払おうと考えてくれている。良い人達だなあ。気になるようだから何かもらおうか。うーん……そうだな。


「みじゅむち、おかにぇ、ちょうだい」

「ん?何だ?」


 ギルマスが聞き返す。


「みじゅむち、治ちた。あと、ごはんと、町、あんにゃい」

「水虫治療代と美味いメシと町の案内希望そうだ。まあ、今回はお嬢に甘えて良いんじゃないか?」

「けれど、あちこちに格安で治してもらったと言い回らないで下さいね?面倒なので」


 三人は神妙な顔で頷く。


「そうだな。後々面倒な事になりそうだ。格安で治療してもらった事をあちこちに口外しないとウルトラウス神に誓おう」


 女性二人も誓ってくれた。


「ただ、俺の足が生えたことは隠しようがねえ。一部の人間に説明させてもらっても良いか?」


 まあ、ぶっちゃけると別に真実を話した所で問題ない。私達を拘束出来る人はいないし、結界があるからテントは盗めない。

 いざとなれば別のところへ移動しちゃえば良いしね。


 でも、面倒くさい事にはなりそうなので、鳳蝶丸通訳で三人に伝えておこう。



 お金は分割で払うことになっている。

 少しだけ割り引いてくれたが、今回特別らしいので次回は全額支払いかもしれないし、そもそも治癒しないかもしれない。

 全ては私の気分次第のようだ。


 と、誰かに聞かれたらそう説明するように。


「しょえなや、話ちていい」

「わかった。その通りにしよう」

「うん」

「承知いたしました」


 後でテントの治癒魔法を感染症や中傷を治す程度に変更するので次回はこうならない、と言うのも告げておく。

 期待してもらっても困るしね。

 って事で、靴を脱いでもらい寛ぎ部屋へ。ここまで長かった〜。




「足に気を取られたが、改めて見ると凄いテントだな」

「これは空間魔法ですの?この広さを保てるなんて…始めてみましたわ」


 三人がキョロキョロ辺りを見回していた。


「トイエ、こっちよ」


 私は客間に連れて行き、洗面所とトイレを見せた。


「こりゃどうなってんだ?」

「みじゅ流しゅ。便器の中、クイーンしゅゆ。出たもの、消えゆ」

「いや、普通クリーンくらいじゃ物体消せないからな」

「しょうなの?」

「主はプレミアムクリーンですから」

「お嬢は力加減覚えたほうが良いかもな」

「ううん。キエイになゆ、良ち」

「そっか、良しか」

「主が良いならわたしも良いです」


 私達は笑っているけれど三人は微妙な表情を浮かべている…あれ?まあいいや。

 気にせず説明を続ける。


 入ってから出るまでの流れ、ウォシュレットの使い方、男性の場合の使い方等々。

 「面白いな」何て言いながらギルマスがウォシュレットのおしりボタンを押そうとするので、


「やめー!」


 慌てて止めました。

 誰も座っていない状態でスイッチオン!なんてしたら水浸しになっちゃうよ!


「しゅわってない、おしゅ、やめ!」


 もう一度説明してまずはギルマスに入ってもらう。

 私達はソファーに座って待機。


「どわぁー!」


 ギルマスの声にビックリして固まる女性陣。


「はぁ……………」


 しばらくしてため息と共にギルマスが出てきた。


「これいいな。サッパリするし、キレが悪い時とか最高だ」

「キレとか…」

「いやですわ」

「何だよ、俺が言う分には別にいいだろ」


 ギルマスは気に入ってくれたみたい。


 男性陣は部屋に残ってもらい、女性は隣の部屋で体験してもらう。




 そして、また集合した。


「私も気に入ったよ。ゆきちゃんのトイレは言ってた通り臭くないね!」

「清潔で美しいですわ」

「ああ」

「確かに凄く良いが、持ち歩きは出来んだろう」


 うんうん、と三人が頷いている。


「でもギルド内には欲しいな…頼めば設置してくれるか?勿論費用は支払う」

「うん、良いけよ、このまま、むじゅかちい」

「ああ。魔石が空になった場合、交換か魔力注入が必要になる。交換の場合、今の所ある程度大きい魔石が必要だ」

「うーん。それだと維持費用が大変か」

「わたち、かんなえゆ。開発しゅゆ」


 日本のトイレを考えながら作ったから複雑なんだよね。

 広めるならもっと単純化しないと無理かも。


「出来たら教えてくれる?」

「持ち歩きが出来るのでしたら、パーティーでも個人でも購入致しますわ」

「あい、わかた」


 トイレの話はここで終了。一旦寛ぎ部屋に移動する。


「あしゃごはん食べゆ?」


 三人に聞いたところ、お姉さん達はそろそろ皆起きるから戻って、ギルマスは私達のところにいると仲間達に伝えてくれるとのこと。


「お誘いありがとうね!落ち着いたらゆっくり話そう」

「お礼は後日いたしますわ」


 と、テントを出て行った。



 私達とギルマスは寛ぎの間に座り、無限収納からサンドイッチと珈琲や紅茶を出した。


「どうじょ」


 とオススメしてみる。


「おう、すまんな。んじゃ遠慮なく」


 ギルマスは神様に感謝の言葉を述べ、早速サンドイッチを頬張った。

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