第42話 勝手に失恋とお酒

 またよちよち歩きしていると、物凄く大きなお兄さん2人と背は小さいけれどガッチリした体躯のおじさん(?)が目に入った。

 大きなお兄さんは一番最初にテントに来た人。たしかオルガさんだったと思う。


「オユダしゃん」

「ん?俺か?ん?声はするがどこにいる?」

「お主の足元におるじゃろう」


 デカすぎてオルガさんには私が見えなかったらしい。


「お、おう!嬢ちゃ……主殿!ご機嫌麗しゅう」


 ん?


 オルガさんは恭しく片膝をついた。


「何だ、兄貴。気持ち悪いぞ」

「うるさい、バカッ。将来俺も仕えるかもしれないんだから」

「は?何だ、それ」

「だってよ~ミシュチユさんが仕えている主様だぞお。結婚すれば俺もそうなるだろう」

「はあ?!」「何言っとんじゃ!」



 ミシュチユ?結婚?えええーーーーー!



 男性が男性を好きになることに関しては何とも思わないけれど、ミスティルと結婚すると言い出して、更に私と主従関係結ぼうとするのは許容出来ないよ!


「オユダしゃん、おのこのちと、しゅき?」

「ん?いや、女が好きだぞ!ミシュチユさんのちょっとツンとした所とか、色っぽい仕草とか、俺の好みド真ん中だぜ!まあ、ちょーっとここが足りないけどよ」

「馬鹿野郎!こんな小さな嬢ちゃんの前で何しとんじゃ!」

「いっっっっっっってーーーーー!」


 オルガさんが胸のふくらみを両手でジェスチャーをした途端、ガッチリしたおじさんがオルガさんの弁慶の泣き所を思いっきり蹴り上げた。

 オルガさんはあまりの痛さにのたうち回って悶絶している。


「すまんな、嬢ちゃん。こいつ冒険者として腕はあるが、凄い馬鹿でよ」

「俺の兄貴がごめん。本当にごめん」


 おじさんともう一人の大きい人が謝ってくれた。


「ミシュチユ、おのこのちと。あと、オユダしゃん、わたちの従ちゃ、ちない。嫌っ」

「へ?」

「ミシュチユ、あげない!」


 思わず腕を組んで(組めてない)、頬を膨らませてしまった。


「ミシュチユさん、男なのか?」

「おのこのちと」

「えええええ………」


 すると、シクシク泣き出すオルガさん。

 私がドン引いていると、もう一人の大きなお兄さんが抱き上げてくれた。


「本当にごめんな。兄貴は放っておいて。何か飲み物貰いに行こう」

「うん。あたち、ゆち」


 お兄さんの腕に<ゆき>と字を書く。


「ん?もう一度?ゆ、き?ゆきちゃんか。え?こんなに小さいのにもう字が書けるのか?」

「うん」

「おお!凄いな~。勉強しているんだ。偉いな~」


 頭をなでなでしてくれた。


「俺はエルガ。巨人族と人族のハーフだ」

「俺はガグルル。見ての通りドワーフだ」



 おおお!



「きょじんじょく、人じょく、ハーフ。赤ちゃん、大きい?」



 巨人族のハーフって、もし女性側が人だった場合産むのがめっちゃ大変そうなんだけど。

 他人事ながら心配になって聞いてみると、巨人族の子供は生まれた時とても小さいんだって。それこそ、人族の子供より小柄らしい。でも、五歳頃からグングン大きくなるんだって。


 じゃあ、産むこと自体は問題ないんだね。大きすぎて母体が大変そうって思っちゃった。何だかホッとしたよ。


「ドワーフ、鍛冶、上手?」


 って聞いたら、ドワーフは鍛冶屋が多いのは本当だけれど、手先が器用で細かいことも得意なので装飾品とか、家具作りや、建築なども得意なんだって。

 ガグルルさんはあまり器用ではないけれど、力が強かったので冒険者の斧使いになったんだって。あと、自分や仲間の武具が修繕できるくらいの技術はあるんだって。


 おおお…と言って拍手をしたら、ガグルルさんがちょっと照れている。

 そして、エルガさんが力なら俺も強いぞ!と何故か張り合っていた。


 ドワーフと言ったら、アレでしょう?

 聞いてみたかった、アレ。

 お・さ・け!


「ドワーフ、おしゃけ、しゅき?」


 私の言葉にビクッと体を震わせるガグルルさん。


「嬢ちゃんは、赤ん坊だから知らないのは仕方ない。ドワーフが酒好きなのを知らん人なぞいないぞ。酒を飲まねば1日が終わらんほどじゃ!」


 ほうほう、やはり異世界あるあるの通りなんだね!


「俺達巨人族も酒は好きだがドワーフには勝てない。任務中でも夜には酒を飲みやがる。しかも、飲んでた方が強かったりするから止められねえ」


 そんななんだ!

 酔えば酔うほど強くなる酔っぱらい拳法みたい。


「酒と言えば、嬢ちゃんが出してくれたエール、あれ、物凄い美味いなあ。キンッと冷たくて喉ごしがいい」


 やっぱり喉ごしの違いを感じるんだね。


 あれはラガーという種類でエールとは作り方が違う事。エールは常温で香りを楽しむもの、ラガーは冷やして喉ごしを楽しむもの。私達は総称としてビールと呼んでいることを説明した。


「そうかそうか。いや、気に入った!あれはいくらでも飲める。酒は他にもあるのか?」

「うーん、ワイン」

「ワインか。まあ、嫌いではないが、もちっと度数の強いもの、とかは無いか?」

「んー、ウィシュチ?」

「うぃしゅち?知らんな。知らん酒か。…ぜひ飲んでみたい」

「お、俺もご相伴にあずかりたいな」


 そんな話をしながらタープテントに到着した。



 タープテントには調査隊の人達はいなくなっていて、鳳蝶丸とミスティルがナッツ類をつまみながら丁度ウィスキーを飲んでいた。


「ギユマシュ?」


 声をかけるとミスティルがサッと立って、エルガさんから私を受け取る。


「皆さんは何やら大騒ぎをしながら自分達のテントに戻って行きましたよ」


 ミスティルが指した方を見ると、ビョークギルマス他の皆さんが円座を組み、何やら真剣に話し合いをしている。


「お嬢が何か言ったんだろう?」


 あ、言いました。じゃがいもとか壊血病とか。

 えへへへへって笑ったら、ミスティルもニコッと笑顔を浮かべた。



「はあ、兄貴が惚れるのわかる」

「綺麗な男だのう」


 その言葉にミスティルが眉を顰めた。


「ぬ、こっちの兄さんも綺麗な顔しとる」


 鳳蝶丸はわけわからん、と言う表情を浮かべた。


「たいしぇちゅな、かじょくよ。鳳蝶まゆ、ミシュチユ」

「おお、そうかそうか。すまんな。俺はガグルル」

「俺はエルガ。冒険者だ」

「ガウユユしゃん、ウィシュチ、飲みたいって」

「ああ、ドワーフは酒好きが多いもんな」

「おう、そうなんじゃよ」


 ウキウキのガグルルさんとエルガさんに座ってもらい、プチ宴会が始まった。

 最初は炭酸水で割ったハイボールを飲み始める。これには、国産のウイスキーの12年ものを出した。

 私はお酒が飲めなかったので味わいや香りを知らないけれど、友人達がお酒大好きでビール、ワイン、ウイスキー、ブランデー、日本酒や焼酎、その他もろもろ、色々飲んでいたため、ほんのちょっとだけ知識があって再構築が可能なのだ。


「爽やかで果実のような香りで美味いのう」

「マジで美味い!少し木の香りを感じるぜ」


 おつまみに出したナッツ類や燻製チーズ、ビターチョコレート、ドライフルーツ、ガーリックシュリンプやスモークサーモンがどんどん無くなっていく。


「このつまみも美味い!何じゃ、ここは天の国か?」

「海辺の町でしか食ったことないが、海老ってこんなに美味かったっけか?」

「こんな森…と言うか、ダンジョンで食えるもんじゃないよな」

「ガグルルの言う通り、ここは天の国なのか?」


 天の国じゃないけれど、異世界の品なのでこの世界では食べられないシロモノですよ。


「このウィシュチ?ってヤツ、そのまま飲んでみたいのう」

「ウィスキー、だな。俺もそのまま飲んでみたい」

「わたしも興味あります」


 との事だったので、無限収納で25年ものを再構築する。

 友人がストレートならこれだよねって言っていたのを思い出したので。


 再構築したウイスキーとショットグラスを出す。一応、オンザロック用に大きな丸い氷の入った冷え冷えのグラスも用意しておいた。


 鳳蝶丸とミスティルと小さいけれど体のガッチリしたガグルルさんと巨躯を小さくして座っているエルガさん。なかなか不思議な組み合わせで酒盛りが始まる。


 私はミスティルの膝の上でサイダーを飲みながら、楽しそうにしている人たちを眺めつつ、夜が更けていくのだった。

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