第41話 話の方向が「真面目」に流れて良く
「それにしても、ここ死の森最深部って言うのが未だに信じられないよ。未到達の地だよ、ここ」
「ああ。まさかここで、美味い食事と酒を飲み食い出来ることになるとは思わなかったぜ」
「だよねえ」
マッカダンさんとレーネお姉さんがうんうんと頷きあっている。
「だってつい2日前は死と隣り合わせだったんですよ」
「そうだよなぁ」
「
ピピ、ローザ、エクレールお姉さんもしみじみと話をしていた。
私はと言えば、ハッセルバックポテトのアルミホイル包みが気になって仕方ない。
「ロージャおねしゃん」
「ん?何?」
「あえ、おしゃや、載せゆ、お願いちましゅ」
近くに置いてある耐火用グローブと炭ばさみを指し、ダッチオーブンを火から降ろすようお願いする。
ローザお姉さんは「任せて」と言って私をレーネお姉さんに渡し、木炭を取り除いて、中のアルミホイルを木製皿に載せてくれた。
「これ、何?」
「開けゆ、おたのちみ」
「銀色なのに食べられンの?」
レーネお姉さんもそこですかっ。
「お、私も気になっていたんだよ」
「銀色、剥がしゅ。とっても、あちゅい、気をちゅけゆ」
「了解」
ローザお姉さんは再び私を抱いていたので手が離せないからと、マッカダンさんがアルミホイルを開けてくれた。
「あつっあつっ」
ほわあっと湯気が出て、バターとチーズとベーコンの良い香りが漂う。
「何だこれ!美味そう!」
「じゃがいも、ですの?」
「うん。あちゅいうち、どうじょ。あ、銀の、食べる、ヤメよ」
「この銀色のは調理器具だったのか。でも、何で出来ているんだろう?」
ローザお姉さんはまだアルミホイルを気にしている。
「あちゅあちゅ、おいちい」
「うん、そうだね」
マッカダンさんが全員分のアルミホイルを開け、エクレールさんが私を抱いたままのローザさん分を切り分けてくれる。
「んーーーーーーー!」
いち早く口にしたマッカダンさんが悶えていた。
「あっつい!そしてうんまい!」
「ほんと、美味しすぎる!」
「これがじゃがいもですの?本当に美味しい」
この世界では農家や村人など、あまり裕福じゃない人しかじゃがいもは食べないんだって。
荒地でも育つから大量に採れるので食材の乏しい地域で食べられているけれど、食中毒の症状や、過去には死亡例もあるのであまり口にしないらしい。
私は無限収納からテーブル、まな板、包丁を出す。
それから無限収納内で普通のジャガイモ、少し芽が出たジャガイモ、すごく芽が出ているじゃがいも、変色したじゃがいも、若いじゃがいも、ぶよぶよしたじゃがいもを再構築しておく。
「だえか、おてちゅだい、お願いちまちゅ」
「じゃあ、私がするね」
ピピお姉さんが手助けしてくれると言う事なので、エプロンをしてもらった。
まず、すごく芽が出ているじゃがいも、変色したじゃがいも、若くて小さいじゃがいも、ぶよぶよしたじゃがいもをテーブルに出す。
「こえ、食べゆ、ヤメ。毒、あゆ、くしゃってゆ」
次に、普通のジャガイモ、少し芽が出たじゃがいもを出す。
「生、ラメ。火、通す、食べゆ」
まず、ピピさんに厚めに皮を剥いてもらった。
「皮、食べえゆ、でも、なるべく、あちゅめ、剥く」
そして皮が残っている芽の部分と、包丁のアゴ(角)の部分を指して、
「ここ、芽、出ゆ。芽、毒、食べゆ、ダメ。包丁、凹んでゆトコ、ほじる」
ピピさんに芽の部分を多めに穿ってもらった。
「こえ、食べゆ、だいじょぶ」
そういうと、皆が驚いた。
「つまり、芽がうんと出ていたり、変色したり、小さすぎるもの以外は、このチーズが入ったお料理のように美味しくいただける、と言う事ですのね?」
「あい。くしゃっていゆ、ダメよ?」
「ええ、もちろん腐っているもの以外で」
エクレールさんがクスリと笑った。
「じゃがいも、たくしゃん、エシピ、あゆ。とても、おいちい」
「え?そんなに色々あるの?」
「あい。しょして、体に良い、便秘解消、お肌に良い」
食物繊維もあってビタミンCも含まれるし、カロリーも控えめ。
脂とかバターとか使った料理だとカロリー上がっちゃうけれどね。
「肌に、良い…」「肌に、良い…」「肌に、良い…」「肌に、良い…」
あ、女性陣が食いついた。
それに、たぶんこの世界にもある病気の予防にもなりそうだから伝えておこう。
異世界あるあるの、アノ病気。
「しょれと、壊けちゅ病、予防、なる」
「かいけちゅびょう?」
「怠くなゆ、血が出ゆ、骨、折えやしゅい。船乗ゆちと、ないやしゅい病ち」
「船乗る人?船乗りの病……あ!出血死病か!」
「え?出血死病の予防?」
「あれ、うつるんじゃないのか?」
これには全員が食いついた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待っててください」
ピピお姉さんは慌てて自分のテントに戻り、羊皮紙とペンを持ってきて、記録を始める。
病気のことなので、舌足らずでもわかってもらえるまでしっかりと説明する。
まず、出血する病気は伝染病にもあるので安易に近づかず注意が必要なこと。
船乗りさんなど長期で野菜不足になる人、貧困で食事が偏っている人が患った病気であれば、じゃがいもでも改善、予防ができること。
ただし、完治までには長期間必要なので、諦めず通常の食事に野菜を取り入れ続けること。
壊血病、皆の言う出血死病は野菜や柑橘類などの果物でも予防できること。
中でもジャガイモは他の病気にもならない成分が豊富なこと。
じゃがいもは涼しく風通し良く暗い場所に保管、出来れば紙に包む、そうすれば3か月以上保存できること。
また、何か1種類だけを食べ続けるのは良くないので、野菜、肉、魚などバランスよく食べることが健康につながると説明した。
「なるほど…食って大切なんですね」
ピピお姉さんが書き終わったメモを読み直しながら言った。
「エルフは何でも食べます。でも、比較的お野菜を口にするように思いますわ」
「アタシ、肉ばかり食べていたよ」
「俺も」
そこでハッとする。
ここは地球と違うから、肉しか受け付けない種族がいるかも。
「色んな種じょく、いゆ。野菜、毒になゆ、種じょく、食べゆ、ダメ」
「あ、そうか。でも、アタシら猫族は野菜も普通に食べるから大丈夫だよ」
「俺達犬族も何でも食べるぜ」
悪いと思いつつ、念のため二人を鑑定する。
その際、食べてはいけない食べ物はあるか?のみ鑑定と強く考えて鑑定したら、『毒物以外特になし』と出る。
何か、楽しくて食べ物を出しちゃったけれど、アレルギーとかもあるんだし安易だったな、と思わず落ち込んでしまう。
「どうした?」
「食べ物、たくしゃん、出ちた。でも、食べゆ、危ないちと、いゆかもちえにゃい、考えゆ、ちなかった」
「ああ、ゆきちゃんは優しいね。食べたらいけないものが入っていれば、自分で口にしないから大丈夫だよ」
「うんうん。自分の体に合わないものは絶対口にしないから大丈夫。自己責任」
「でも…」
ローザお姉さんもレーネお姉さんも慰めてくれる。
「そこまで気にしたら宿屋や飯屋は商売上がったりになっちゃうよ?食べる方が気を付ける。それが当たり前なんだから気にすんなよ」
「
マッカダンさんもエクレールお姉さんも大丈夫と言ってくれた。
そうか。
フェリアでは自己責任ってことになるんだね。
「あにあと」
私が笑うと皆も笑ってくれた。
「それにしても、こんな有用性の高い情報を提供してくれて感謝している。ありがとう」
突然マッカダンさんと他の人も頭を下げてお礼を言ってくれた。
「じゃがいもは品質に気をつけて芽部分を除けば食べても大丈夫なこと。貧困層の餓死を大幅に防げるため、国や領の重要な情報となるでしょう」
「それに、出血死病の予防や改善になるかもしれないならば、これは本当に重要な情報となります。確かに病気用のポーション、若しくは回復魔法はあります。でも、出血死病を治すには特級ポーションかエクストラストロングキュアが必要となり、それに支払いが出来るのは極一部の裕福層だけです。多くの民は治すことが出来ずに亡くなってゆくのです。じゃがいもや他の野菜、果物を食べるだけならば、冒険者ギルドでも出血死病患者に食事をしてもらい、改善されるか確認することができます」
「サバンタリア王国でも確認してみるよう提案するよ」
エクレールお姉さん、ピピお姉さん、マッカダンさんがお互いの顔を見て頷いた。
「餓死を避けられるかもしれなくて、出血死病も避けられるかもしれなくて、更に美味い。これからはじゃがいもを軽視出来ないな」
「たくさんレシピあるんでしょ?他のも食べてみたいな」
ローザお姉さんとレーネお姉さんもニッコリ笑った。
「これをギルマス達に知らせても良い?」
「うん、良いよ」
「一緒に行く?」
舌も回らないしもう面倒くさいので、皆さんにおまかせしよう。
「他のちとのとこよ、行く。ローザおねしゃん、抱っこ、あにあと。降よちて?」
「わかった」
お姉さん達とマッカダンさんとはここでお別れした。
ちなみに、毒ありのじゃがいもや剥いてしまったじゃがいもは無限収納のゴミ用フォルダに入れました。
この森から出たら、どこかでその土地の土に再構築して処理する予定。
さて、他の人のところへ行ってみようかな。
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