第37話 肉肉魚肉野菜肉肉肉肉肉 -ミールナイトサイド-
「お腹ちゅいたぁ!ご飯食べゆ」
「そろそろ良いか?お嬢は今日のバーベキュー楽しみにしていたんだ」
「あの、でもまだ聞きたいことが……」
「食べながらでも出来るでしょう?」
「す、すみません……」
食い下がるピリカ殿に美人が少し顔をしかめた。ピリカ殿は恥ずかしそうに肩をすぼめる。
「とにかくメシだ。アンタ達も食べるだろう?」
鳳蝶丸殿は気に止めることもなく動き出した。
「お嬢、コンロが汚れちまった。火も消えかかってる」
「あい」
詠唱なしでクリーンを放ったらしい。焼き網の焦げや汚れが一瞬で綺麗になる。
「こえ」
「おう、これな」
テーブルに置いてあった平べったい柄の付いた四角い物を手渡され、コンロを扇ぐ鳳蝶丸殿。
すると、木炭が赤くなり熱を持ち始める。そこに小さな木片と新しい木炭を追加すると赤々と炎が燃え上がった。
「あのね、シェーフチ、エリア、結界ひろえゆ。皆、ごはん食べゆ。クイーン、ちていい?」
「ん?」
「セーフティエリアの結界を広げる。メシを食うならクリーンをしていいか?とお嬢が言っている」
「お、おう、ちょっと待っていて欲しい」
俺は慌てて皆を集め、結界とクリーンと食事の説明をした。
「それは大丈夫なのか。あの者達に騙されているのではないか?」
「フィガロ殿から危険物はないと合図があり、ピリカ殿も問題ないと言っている。話をしたが悪意は全く感じられない。食べ物に関してはこれからだが、俺は問題ないと思っている」
第9部隊長が難色を示す。
これは間違いではない。相手の得体が知れない以上警戒するのは当たり前だ。
「我らは辞退する」
「わかった。強制ではないが皆はどうする?」
第9部隊以外に声をかけると、その他は皆参加すると頷いた。
主殿のところに行く。
全員参加ではない事は特に気にしてないようだ。
「じゃあ、清じょ…ななくて、クイーン、しゅる」
やはり無詠唱で集まった者達にクリーンをかけたようだ。皆スッキリしたと喜んでいる。
魔術師であるミシャは、略式でもなく、全くの無詠唱だった事に相当驚いていた。
ちなみに、略式とは魔法名だけを唱える方法で、例えば「ファイアーボール」や「ウインドカッター」のみ唱える方法だ。
これは相当魔術に長けた者でないと発動しないと言われている。
より早く攻撃出来るため、魔術師達は略式を目指す。
いつの間にか雨避けテントの外にもコンロやテーブル、椅子が増えていて、箱に沢山の食材が入っている。
フィガロ殿が食料を覗き大丈夫と合図した。
「ギルマス。あの子供マジックバッグ持ちです。このコンロやテーブル、食料をあの小さな鞄から出していました」
「これを、全部か?」
「はい」
フローが報告する通りなら、10年に一度出るか出ないか、容量のデカイ希少なアイテムバッグだ。
小さな赤ん坊がそんな高価な物持っていて危険じゃ……。いや、SSS倒す奴らがついてるから問題ないのか。
「あい」
「ん?」
「こえ、うちわ。木炭こうちて」
鳳蝶丸殿がコンロに木炭を積み上げ、その中に入れた小さな木片に火をつける。俺が主殿と同じように木炭を扇ぐとやがて火力が強くなり炎が上がった。
他の台も同じようにしている。
そして皆、肉などを焼き始めた。
「やばい、食べてないのに美味いのがわかる」
「はあ~早く食べたい!」
あちこちから呟きが聞こえた。
「ギルマス!エールとかワインとかふるまってくれるらしい!飲んで良いかい?」
「まだ任務中だぞ?」
「わかってる、わかってる。でも、少しなら、な?酔わない様にするからさ」
ローザリアがウキウキしながら言った。他の皆も期待の眼で俺を見ている。
はあ、こうなったら止められねえだろ?
「飲むのは良いが、今夜の見張りと明日の調査に支障がないようにしてくれ」
ワッと盛り上がり、皆が雨避けテントに向かって行った。
俺もそちらに向かう。質問がまだ終わってないからな。
雨避けテントのテーブルにはピリカ殿、モッカ団長、ライアン団長、オルフェス団長、フィガロ殿がいた。
「グラスはここに入っているから適当に出して、飲み終わったらあの箱に入れてくれ」
鳳蝶丸殿がエール専用の魔道具?で、酒に群がっている皆に注ぎ方を教えている。
そして、テーブルには沢山の見たことのない食べ物が並べてあり、皆美味そうに頬張っていた。
「ビョーク殿。あなた方の質問が終わったら私も時間をいただきたいです」
「ん?ああ、質問して良いかは彼らに直接聞いてくれ。何か気になるか?」
「気になることだらけですよ!この食材は高品質ばかりです。あの網で焼いているのなんて滅多に市場に出ない、岩石海老ですよ!幻の岩石海老をあんなに沢山振る舞うなんて!それにどの料理も美味しくて素晴らしいです。ぜひレシピを公開していただきたい!そして、あの酒をつぐ魔道具!ビールサーバーって言うらしいんですが、これも素晴らしいです。先程からいただいているのはエールではなくラガーと言う種類らしいんですが、キンと冷たくて喉ごしが良い。いくらでも飲めそうです!このワインはまだ若いですが口当たり良く肉料理にとても合います。いえ、それより珍しいのは黄金色で美しいこのワイン。白ワインと言うらしいんですが、長く生きてきて初めて目にしました!魚介料理に合うとの事なので、後で戴くつもりです。それにこの体に吸い付くような不思議なクッションも気になります。いや、全て気になることだらけです!ああ、調査隊に参加して良かった!高品質、希少品、本当に素晴らしいです」
「お、おう……」
うっとりしながら語りまくるフィガロ殿。これか。これが高品質フェチと噂される所以か。
ん?待てよ。何でそんなに詳しいんだ?
既に俺達より質問しまくってねえか?
何か出遅れた感が……。まあ、気を取り直して。
鳳蝶丸殿は一通りの説明が終わって、肉を焼き始めている。
美人は主殿に付きっきりで、小さく切ったものを食べさせたり口元をぬぐったりしていた。
「おいちい」
「良かったですね。次は何が良いですか?」
「おにく」
「おう、焼けたぞお嬢」
こう見ると主従関係というよりは仲の良い家族に見える。
主殿が小さいから敢えてそうしているのか。
「どうしたんだ?モッカ団長殿」
「ええ…」
微笑ましいやり取りを見ていると、モッカ団長にライアン団長が小声で話しかけていた。
「鳳蝶丸、と言う名に覚えがあるような…」
「何処かで会ったのか?」
「いいえ。気のせいかもしれません」
思い出したら話てくれると言う事になった。何か引っかかることがあるのだろうか?
しばらく歓談していると、主殿がスイッと俺達に目を向けた。
「しちゅもん、答えゆ。ねも、言えない答えない」
「ああ、そちらの都合もあるでしょう。それでかまいません」
こくんと頷く主殿。
「しちゅもん、どうじょ」
まず俺が手を挙げる。
「鳳蝶丸殿からダンジョンコアが暴走しないように細工をしたと聞いたのですが本当ですか?」
「あい、しょうよ」
「どうやったのかは聞いても?」
首を横に振る。
「ダンジョンコアのある場所を教えていただくことは?」
首を横に振る。
「しゃいくちた。でも、じぇったいな無い。永ちゅう無い、皆ちゅねに警戒、ひちゅようよ」
「じぇったいなな?…す、すまん」
思わず鳳蝶丸殿を見る。
「ダンジョンコアが暴走しないよう細工をしたが、永久に絶対安全だと言う保障は無いから皆常に警戒して欲しい、と言っている」
まず、死の森のダンジョンコアはとても危険で、その場所に行けたとしても生きて戻ることは不可能なため教えることが出来ない。
ダンジョンコアの暴走を止める細工はどの種族にも不可能であり、秘術のため教えられない。
一応今後も監視を続けるが、どうにもならない程暴走した場合は死の森自体を封印する考えがある。
何かあった時、自分達がすぐ駆け付けられるとは限らないので人々の危機感が薄れることを避けたい。
各国で有事の準備をしていて欲しい。
今は細工の発動が始まりダンジョンコアが一時休止中なので安全である。
今の所、活動開始は三日後くらいだが変動があるかもしれないのでその場合は知らせる。
ダンジョンコアに対する主殿からの情報は想像以上だった。
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