第34話 森を進む -ミールナイトサイド-

 調査隊隊長は俺。

 第9部隊の奴らは渋ったが、死の森に詳しい俺が隊長に相応しいだろうとラ・フェリローラル王国騎士団団長が決めた為、しぶしぶ従うことになった。

 冒険者ごときに指示されたくねえってか。面倒くせえな、ったく。



 冒険者以外は各2名選出してもらう。あんまり大所帯だと小回りがきかねえからな。


 第9部隊からは部隊長ムットー・マーキスと騎士マクレーン・ボイスト。

 アルシャイン辺境伯領騎士団からは団長オルフェス・モーガフェンと騎士ジャグレイ・ポッタル。

 ロストロニアン王国からは騎士団団長モッカ・ディ・フルトードと魔導師ピリカ・ライザリアン。

 サバンタリア王国からは近衛兵団団長ライアンと近衛兵マッカダン。


 冒険者からクラスSパーティーの【青き焔】剣士フロー、魔術師ミシャ、治癒及び後方支援マイロ。

 【紅蓮の牙】大剣士オルガ、盾使いエルガ、斧使いガグルル。

 【虹の翼】鞭使いローザリア、斥候レーネ、大弓使いエクレール。


 ギルド職員で千里眼持ちのピピ。


 そして、何故か参加すると譲らず、商業ギルド本部の了解をもぎ取って来たミールナイト商業ギルド長フィガロ・ゼッテンシュート。


 ちなみに、ピリカ殿、ミシャ、【虹の翼】の3人、ピピの6名が女子、他は野郎。種族はバラバラだ。


 この総勢20名で死の森調査に向かうこととなった。

 本来であれば数日かかるであろう調査隊結成だが、今回は猶予がないため緊急の寄せ集めだ。

 まあ、仕方がない。


 期日は明日。集合は夜明け前3時、第1門前。遅れた者は置いてゆく。

 そういうことでその日は解散となった。






「夜明け前は少し涼しいですね」


 第1門前に俺とピピが早めに到着した後、ピリカ殿、フィガロギルド長が姿を見せた。

 季節は夏も終わる頃。昼間はまだ残暑厳しいが夜は大分涼しくなってきた。


「モッカ団長は?」

「もうすぐ到着すると思います。私は居ても立っても居られず先に来てしまいました」


 ピリカ殿はやはり例の2人が気になるようだ。


「ところでフィガロギルド長。何故この調査隊参加を?」

「はい。この森に入った者達は大変良い品質の薬草や果実を持ち帰ってきます。ですからずっとこの森の調査がしてみたかったのです。でも死の森に入るには冒険者であることが条件です。私は入ることが出来ません。今回はそのチャンスが巡ってきました。あわよくば採取がしたい。薬草と、あれば鉱石も!」

「いや、わかったが、道中は採取禁止だ。他の者の足止めをされると困る」

「わかっています。採取は休憩時や最深部の調査時に行います」

「休憩時も離れないでくれ。出発の時に不在なら置いていくぞ」

「もちろん、迷惑はおかけしません」


 商業ギルドとは薬草やドロップ品などの事で交流がある。そして、その度にフィガロギルド長の噂を耳にした。

 変わり者で高品質、貴重品、希少品フェチだとか、希少品採取の為に己を鍛え上げ剣の腕はクラスSと同等だとか。

 まあ、だからこそ商業ギルドのギルド長を務められるのだろう。


「私は品物のみですが鑑定が出来ます。森の毒物や危険物、宝箱の鑑定が出来ますのでお役に立てると思いますよ」


 なるほど、そいつぁ良いな。

 宝箱を鑑定出来なければ魔獣だということだし、うっかり毒物に触れなくて済むかもしれない。


「そうか、宜しく頼む」

「こちらこそ、宜しくお願いします。ビョークギルド長」

「ああ~…。公式な場以外ではビョークで良いぞ」


 いちいちギルド長とか面倒くせえ。


「はい、では私の事はフィガロで」

「おう。鑑定して気付いたことがあればすぐに報告してくれ」

「了解です」


 そうこうしているうちに人が集まってくる。

 集合時間内ではあるものの第9部隊はぎりぎりに到着した。お貴族様は偉いから一番最後にってか。

 いやいやいや、他国の騎士様も参加しているのに何考えているんだ。


「お待たせしてしまい申し訳ありません」


 市長が頭をさげる。

 モッカ団長もライアン団長も苦笑いしていた。




「出発する。深層部到着予定は休憩もはさみ13時間後。森の状況次第で遅延する場合もある。途中にもし魔獣の上位が出現したら調査は中止、ただちに引き返す。隊列は……………」


 様々な指示を出しまだ暗いうちに出発する。

 鬱蒼とした森を進むので明るくなってからが良いのだろうが、7、8層くらいまでの魔獣ならは暗くても問題なく倒せるだろう。

 深層に近づく時間は明るい方が良いのでこの時間に出発だ。

 上位クラスの魔獣が現れなければ野営、もし途中でS級が出現したらその場で引き返し7、8層辺りまで休憩なしの強行軍となる。



 俺は現役の時S級の魔獣に右足をやられて冒険者を引退し、紆余曲折を経てギルド長になった。現在は足に木製の足型を包帯で括り付け歩いている。

 義足の訓練はキツかったが、今じゃすっかり慣れて普通に歩けるし、走ることだって出来る。

 本当の足にはかなわないのは確かだが、今の所不自由なく過ごしている。

 まあ、古傷が痛んで歩けない日もあるけどな。

 ただスタンピードを終息させたあの光を浴びてから不思議と調子が良くなった。

 日頃から鍛錬もしっかりしているし、問題なく深層部まで歩けるだろう。


 それより心配なのは第9部隊の連中だ。普段騎馬移動なので歩行はあまり得意ではないだろう。

 あいつらのあの様子じゃ訓練もちゃんとやっているんだか。

 国の騎士団なのにあんなんで大丈夫か?とも思うが、貴族ってのは色んなしがらみがあるからな。

 気位ばかり高いお荷物にとりあえず役職だけ与えている。そんな感じ何だろう。

 騎士団団長はとんでもないお荷物置いていきやがったぜ……はあ。



 そんなことを考えながら、いや、注意を払いながらだが、森の中を進む。

 今の所何もない。不気味なほどにな。

 魔獣はスライムすら出てこない。森で時折見かける宝箱も無い。

 ランタンの灯りを頼りにただただ暗闇を歩く。

 聞こえるのは俺たちの足音と、息遣い。草や小枝を踏む音。風に揺れる木々の葉。

 カサリと音がして見ると、虫が葉から落ちた音だった、と言うくらいで、俺たちが立ち止まれば忽ち静寂が訪れる。


「ギルマス、この先も魔獣の気配は全くなかったよ。ただ、虫はいるので毒虫とかに注意かな」

「了解した」



 斥候のレーネが先の様子を見てから戻って来た。

 レーネは女子のみで結成されたクラスSの冒険者【虹の翼】のメンバーで獣人。

 猫族なので夜目が効き、身が軽く、気配を消して行動できるため斥候は適役なのだ。


 やはり森には魔獣の気配はないか。このまま深層まで行ければいいが…。いや、俺達の生活の為このダンジョンに死んでもらっては困るけどな。


 空を見上げると少し白んで来ているようだ。

 木の根や生い茂った背の高い草などで歩きにくいが、魔獣がいない分順調に進んでいるので休憩にする。


「前半1班15分、後半2班15分の休憩に入る。固まって遠くには行かないように」


 調査隊を2つに分け、片方が休憩している時片方が見張りをすることにした。



 今回の調査隊はある程度稼ぎの良い者ばかりなので、それぞれマジックバッグを所有している。

 各自必要な物とテント以外を空にしてもらい、アルシャイン辺境伯領から支給された食料や飲料、怪我をした時に使用するポーション、簡易トイレなどを入れてもらっている。


 まずは見張り以外の者で簡易トイレを用意する。衝立を四角く囲い真ん中にスライムバッグを置く簡単なものだ。

 もちろん野郎用と女子用は離して設置する。


 スライムバッグというのは、汚物を吸収する人を襲わないスライムが入った袋で、そこに用を足すとやがてヤツらが処理してくれる冒険者の必需品。吸収速度が遅いのでそこが難点だが無いよりはマシだ。

 長い時間ダンジョンに潜る時などは、消臭の効果がある袋に入れて持ち運んでいる。



 フィガロギルド長が魔道具の小さなコンロを持ってきて、大き目のケトルで湯を沸かし始めた。


 前半組が簡単な食事と湯で休憩し、トイレを済ませたら後半組と交代する。後半組の休憩が終わったら皆で一斉に片付けて出発をする。


 第9部隊のムットーとマクレーンが、貴族の自分がそのようなことを!食事を用意せよ!と言い出したが、「調査隊は皆平等だ。嫌なら2人で勝手に帰れ!」と言う内容を穏やかな言い方で伝えたら渋々少しだけ手伝った。

 いや、自分のメシを自分で用意しただけなんだが。


先が思いやられる…はぁ。

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