第33話 死の森調査 -ミールナイトサイド-
生きていた。
驚いたことに両腕も治り普通に動いている。
大怪我をして血だらけだったリインも傷が綺麗に消えていた。
そして何よりも驚いたのが、あの光の一瞬でスタンピードが終息していたのだった。
一夜開け、俺は役所にある大きな会議室にいる。
メンツはスタンピード終息後に到着したラ・フェリローラル王国騎士団団長と副団長。
同じく近衛兵団団長と副団長。
サバンタリア王国近衛兵団団長と副団長。
ロストロニアン王国騎士団団長と副団長、そして魔導師ピリカ。
アルシャイン辺境伯領騎士団団長と副団長。
ミールナイト市長と副市長。
冒険者ギルド長の俺と副ギルド長、そして冒険者ギルド職員ピピ。
あと、何故か商業ギルド長が参加していた。
まずラ・フェリローラル王国騎士団団長から二か国の騎士団、近衛兵団へ礼が述べられる。
ミールナイト関係者は皆右手を胸に当て頭を下げた。
「昨日の今日だ、皆疲れているであろう。早速本題に入る。まずは経緯を」
ラ・フェリローラル王国騎士団副団長が話を進めるようだ。
まずミールナイト市長からスタンピードの経緯を説明された。
「10日程前、最初はセーフティエリアにスライムが発生したと報告があり、すぐにダンジョンの閉鎖、アルシャイン辺境伯へ<文書通信>にて通知、住人の避難、冒険者ギルドとの連係、ダンジョンの調査を行いました」
<文書通信>とは遠く離れた相手に文字を送れる魔道具で、王族や貴族の一部、町などでは役所やギルド、教会などが所有している。
文書を書いて<文書通信>にかざすと、受け取り側の<文書通信>にセットしてある羊皮紙に文字を焼き付けるという魔道具だ。
魔石に充填した魔力を多く使うので使用する時は割と高額になる。なので、この魔道具を使う時は主に緊急の場合が多い。
「このダンジョンは発見されてから今までスタンピードを起こしたことがありません。この度、溢れ出しから大脅威までのスピードがとても早いと言う事がわかりました」
市長の意見にこの町に住む者達が頷いた。
「今回、この大脅威に打ち勝てたのは皆様の御協力によるものでございます」
市長が頭を下げると、今まで黙っていたサバンタリア王国近衛兵団団長が自嘲気味に笑う。
「まあ、俺達は何もしてないけどな」
「とんでもございません。直ぐに我が町に赴いて下さっただけでも有り難く存じます」
ラ・フェリローラル王国騎士団副団長が言葉を続ける。
「サバンタリア王国第5王子キーリク殿下が偶然ご訪問なさっていてな、今回の参戦をご指示下さったのだ」
それでこれだけ早くミールナイトに向かえたのか。
「SS級まで出たらしいが、何故これ程まで急に事態が終息したのだ」
ラ・フェリローラル王国騎士団団長の疑問は最もだ。下手すりゃ国が滅んでもおかしくない事態だしな。
「アルシャイン辺境伯領騎士団団長オルフェスです。終息について、実はまだ詳しく分かっておりません。起こった出来事をそのままお話することになりますが宜しいでしょうか」
ラ・フェリローラル王国騎士団団長が頷いた。
「では、こちらのミールナイト冒険者ギルド長から」
俺か?
まあ、この中じゃ俺が一番詳しいのか。
「ミールナイト冒険者ギルド長、ビョークです」
そして、最初は冒険者や衛兵、傭兵などが協力して戦っていたこと。途中アルシャイン辺境伯領騎士団とロストロニアン王国騎士団が参戦したこと。
怪我人は出たが奇跡的に死亡者は出なかった事などを説明した。
そう、俺もこの会議に出ているように無事だったのだ。
理由は分からねえが、骨も筋肉もイカれた筈なのに、気付いた時には両腕が治っていた。
リイン他、怪我していた者も完治していた。
出血などで体力低下した者達は休養しているが、命を落とさなかっただけ儲けモンだと俺は思う。
「死者が出なかったのは幸いだが、これ程の大規模災害であったのに関わらず、何故ここまで被害が少なかったのか」
あれだ。
あれのおかげだ。
あれの事を話さねば…。
「実は死の森深層部にスケルトンの多頭竜が出現しました」
「何だと!」
会議室がザワついた。
多頭竜だと!しかもアンデッドか!災厄級じゃないか!
何があったのか知らぬ者達は皆動揺している。
「この町だけではなく、他国にも脅威がおよぶと思いましたが、正体不明の者達が救ってくれました。この事態を終息させたのはその者達です」
皆言葉を失っている。
「正体…不明…?」
「はい。我がギルドの職員が固有スキル千里眼を持っております。見た者の報告をさせたいのですが、発言のご許可をいただけますか」
「ロストロニアン王国騎士団団長モッカです。我が国の魔導師も目撃しております。共に発言の許可を」
「詳細を教えていただきたい。宜しくお願いいたします」
ラ・フェリローラル王国騎士団副団長がモッカ団長に向かって頭を下げ、俺に向かって頷いた。
ピピとピリカ殿が正体不明の者達の行動や経緯を説明する。
皆固まって聞いていた。
「S級以上が出現しギルド長が討伐に加わった後、突然多頭竜の胸辺りが強く光りました。そしてそこを中心に光の輪が広がったのです。眩しくて目を瞑ってしまい光が通り過ぎるまでの間を見てはおりませんが、光が消え去ったあと森の入口を見ると皆倒れていたり座り込んでいました。でも、怪我をした者達は不思議なことに全員完治しておりました。そして、あれだけいた魔獣は一頭もいなくなり、多頭竜も消えておりました」
俺が討伐に加わった後の話は今始めて聞く。
多頭竜の胸元が光った?
するとピリカ殿が神妙な顔をして言葉を続ける。
「これからお話しするのはあくまでも私の推測です。ご了承下さい」
「かまいません。続けて下さい」
一呼吸。
ピリカ殿が真剣な表情で話し出した。
「あの光に魔力を感じませんでした。恐らく…'浄化'かと思われます」
「浄化!?」
瘴気や穢れを祓うと言われる浄化は聖女か賢者しか使えないと言う。
聖女も賢者も文献が残っているのみで現存していない。詳細は不明だ。
浄化とは、言わば伝説級の力なのだ。
「ただし、浄化の力で怪我が治るなど聞いたことも読んだこともありませんので、他の力の可能性は否定できません」
「なるほど」
皆が頷き、それぞれ沈黙している。
しかし、興奮し始めたのかピリカ殿の瞳が爛々と輝きだした。
「それに伝説の武器を使用したかも知れないのです」
「伝説の武器?」
先程ピピが経緯を説明した時には伝説の武器の話が出なかった為、困惑する面々。
「文献によると、SSS級オリハルコンバイパーの鱗は普通の剣で傷ひとつ付けられないと書いてあります。それを熟れた果実のごとくあっさり切っていました。もう1名はたった数本の矢で多頭竜の頭部を粉砕。私は伝説の武器が2つで、2名はその所有者と推測しております」
「な、なるほど」
「しかも飛行!2名は飛行をしながら戦っておりました。飛行は我々の夢です」
ああ、あれば便利そうだが…。どちらかと言えばピリカ殿の夢だな。
「私は知りたい。あの秘術を、そしてあの2人の正体を!調査させて下さい。今ならば深層まで行けるかもしれません」
今、死の森は活動停止している。
クラスSのメンバーに軽く見回ってもらったが、小さな魔獣でさえも出現していないそうだ。
このままダンジョンが枯れてしまうのか、一時的な停止か分かっておらず調査の必要がある。
正直言えば、ダンジョンの死は冒険者やダンジョン都市に生きる者達の死活問題だ。
俺も調査に行きてえ。
「何にしても調査は必要でしょう。我が町の財源は主にダンジョンとなっております。私共といたしましては今このうちに、出来れば深層部まで調査に向かいたい。この旨をアルシャイン辺境伯に願い出る所存です」
「調査に向かうならば早い方が宜しいかと思います。いつ活動が始まるかわかりません。最奥にいる時に森の活動が再開すると、複数のSSSと対峙することになるかもしれません」
市長が調査を希望すると、モッカ団長がそれに付け加えた。
「なら、俺もいくぜ」
サバンタリア王国近衛兵団団長が親指で自分を指し言った。
彼の名はライアン。獅子族でガッシリした体躯を持っている。基本人と変わりの無い容姿だが、耳と尾が動物のソレだ。
「なりません。キーリク殿下にお借りした貴方に危険な調査など…」
ラ・フェリローラル王国騎士団団長が慌てて言った。
「そこは気にしなくて良い。キーリク殿下は恐らく参加せよとおっしゃると思うぜ。とりあえず、俺から連絡するから魔道具を貸してくれ。あ、料金はキーリク王子にな」
ニカッと笑って調査隊参加を決めてしまう。
死の森は踏破者のいない謎多きダンジョン。最深部まで行ければその情報は他国でも有用なものになるだろう。
我が国にとって他国にその情報を得られるのは痛手になりかねない。だから、ラ・フェリローラル王国騎士団団長がライアン団長を慌てて止めたのであろう。
恐らくモッカ団長やピリカ殿にも何かしら申し出て断ろうと思っていたに違いない。
だが今回、スタンピード被害を抑えるため危険を承知で参戦している隣国の調査希望を無下に断ることは難しいだろう。
それにダンジョンは国や場所によって色々な規約があるものの、どの国の者でも挑戦が出来ることになっている。
結局は、許可を出さざるを得ないのだ。
それから各自、己の主君や上司などに確認又は指示を仰ぎ以下のように決まった。
ラ・フェリローラル王国騎士団は第八部隊、第九部隊を残し帰還。
サバンタリア王国近衛兵団は団長と近衛兵数名以外キーリク殿下の元へ戻り待機。
ロストロニアン王国騎士団は団長と数名の騎士、大魔導士ピリカ以外帰還。
アルシャイン辺境伯領騎士団は調査が終わるまで引き続き町に待機。第一門の警護にあたる。
冒険者ギルドにはアルシャイン辺境伯から死の森調査を正式に依頼され、名乗りをあげたクラスSのパーティー複数が参加する事になった。
さて、これから忙しくなるぞ。
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