第32話 危機・スタンピード 2 -ミールナイトサイド-

後半痛い描写があります。

********************************************



「ギルマス、Bが出始めました。少数ですがAも混じっています」


 副ギルド長からの報告。


「とうとう来たな。俺もそろそろ出るか」

「いや、まず俺が参戦します。ギルマスはSが出たらにして下さい」


 そう言って副ギルド長がきびすを返す。


「クラスA参戦。C以下は裏方だ!」


 副ギルド長と入れ違いにリインが来た。


「死人、怪我人は?」

「今のところ死亡者はいませんが怪我人は多数です」

「正念場だ。ポーションをありったけ用意しておけ。治癒魔法が使える者は全て治療にあたらせろ」

「承知しました。私も参戦します。許可を」

「手配が終わり次第の参戦を許可する。無理すんじゃねえぞ」


 リインは真剣に頷いた。


「ギルマス、私も参戦しま…」

「いや、待て」


 ピピの言葉を遮った。

 オルフェス団長は指揮をするために騎士団の元に戻った。

 モッカ団長もロストロニアン騎士団に地上戦の指示をしている。

 ピリカ殿はこの場に残り、見える範囲の魔法攻撃を繰り出しつつ少年の動きを探っているようだ。


「お前はここに残り、少年の動向を記録、俺に報告してくれ」

「わかりました」




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…




 突然地響きが起こる。


「何だ?」


 討伐隊に動揺が走る。

 すると、死の森ダンジョンの深層部辺りに大きな影が現れた。



「あ、あれは…」



 一瞬の静けさ。

 魔獣まで動きを止めた。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…




 完全に首を持ち上げた。



「ギ、ギルマス………多頭竜、しかもスケルトンです………」

「何!」


 姿形まではハッキリ見えないが、ここからでも動く影が見える。

 目にした者は皆固まっていた。

 下で戦っている奴等にも動揺が伝わり、判断が鈍った隙に動き出した魔獣に攻撃され、怪我人が多数出てしまう。


「気を引き締めろ、お前達!まずは目の前の敵を倒せ!」

「お、おう…」


 そうは言ったが、あれがここまで来たら終わりを意味する。オルガとフローが言っていた災厄クラスの魔獣、アンデッドの多頭竜だ。



 通常の攻撃は効かねえ。炎系の魔法か聖魔法。

 教会の中に聖魔法出来るやつぁ、いたか?炎系の魔術士集めとくか、モッカ団長に話つけねえと。


 頭をフル回転させていると、ピピが突然叫んだ。


「ギルマス、飛んでます!」

「はあ?!こんな時にふざけてんじゃねえ!」

「ふざけてなんか無いですよぉ!」



ドオオン!



 大きな音と共にスケルトンドラゴンが崩壊しながら倒れた。


「今度は何だ!」

「ほらぁ!あの美少年が空飛びながら攻撃したんです!」

「はあ?!」


 もう、何が何だかわからねぇ!


「人が空飛ぶかよ!」

「でも本当に飛んでますぅ」

「ピリカ殿?」

「間違いありません」


 エルフ最強の魔導師が目を爛々と輝かせていた。



 光の刃よ、天の力を帯び、仇名す敵を切り裂け!

 雷刃!



 ダァン!



 森の入口付近の複数の魔獣を雷魔法で一撃。

 そして興奮気味に言い放つ。


「飛行は私の夢!どんな魔方式なのかが聞きたいわ!このスタンピードに打ち勝って必ず彼の所へ行く!」



 光の刃よ、天の力を帯び、仇名す敵を切り裂け!

 雷刃!



 ズガァン!



 またしても強烈な魔法を落とした。


 こりゃ魔法オタクの部類だな。

 その少年とやらに会うためなら何だってやりそうだ。




 ゴゴゴゴゴゴ…。




「スケルトンドラゴン、再生しましたっ」


 そう、スケルトンは再生しやがる。だから物理攻撃は効かねえ。魔法攻撃しかない。



 ヒュンッヒュンッヒュンッ!


 パァン!



 突然別の頭が弾け飛んだ。


「ギルマス!もう一人飛んできました!今度は驚くほどの美人です!」

「はあ?!」


 美少年とか美人とかそんなこたぁいいんだよっ!


「何てこと!飛行できる人間が二人もいるなんて!行かねば、私はあそこに行かねば!」



 光の刃よ、天の力を帯び、仇名す敵を切り裂け!

 雷刃!



 ズガァン!



 ピリカ殿はもうヤる気満々である。

 敵を蹴散らしてくれるから良いんだが、その勢いが怖えぇ。


「もう一人は弓を持ってます」

「弓は伝説の武器のひとつにあります」

「じゃあ、あの二人揃って伝説の武器所有者ってことですか?」


 ピピの発言にピリカ殿が応えた。


 まさか、それがここに揃ったってことか?

 俺が言葉を無くしていると、



 ガブッ!



 今度は多頭竜の首同士がお互いを攻撃し始めた。


「ギルマス、スケルトンドラゴン達が喧嘩始めました」

「何が何だか…」


 その間も大弓のヤツが攻撃しているらしく、それぞれの頭が弾けては再生、砕けては再生を繰り返している。


「物理攻撃は無駄だ。魔法攻撃に切り替えろ!」


 離れすぎていてここからじゃ声が届かないのがもどかしい。


「えっ!」「あっ!」


 同時にピピとピリカが声をあげる。


「今度はどうした!」


 二人はお互いの顔を見ながら微妙な表情をする。額から汗が流れていた。


「どうしたピピ、報告!」

「は、はい!」


 背筋をピンと伸ばす。


「こっちを見て笑いました!」

「んあ?」

「美少年と美人が、千里眼で見ていることに気付いてます」

「それがどうしたよ…。ん?千里眼をか?」


 そう。

 千里眼は固有のスキルだ。魔力を使わねぇから当然、魔力の流れを感じる事は出来ない。

 つまり、通常ならば相手から見られていることに気付きにくいのだ。

 まして、ここから深層辺りまでの長距離で気付くなど…。


 その時、冒険者クラスCのヤツが駆け込んで来た。


「S出現、複数!クラスSが対応中!応援願う!」

「わかった。すぐ行く」


 ピピが固唾を飲む。


「やはり国の騎士団が到着する前か。ピピ、お前自身が危険と判断したら下がれ。首都方向に向かえば国の騎士団や兵団と合流出来るだろう。そして、ここで起こったことを伝えるんだ」

「ギルマス…私も戦います!」

「これはギルド長としての命令だ。生き延びろ、いいな」


 俺は自分の武器、バトルアクスを掴む。

 そして、第一門前まで駆け抜けた。



 うおおおぉぉぉ!



 ザシュッ!

 ザシュッ!

 ザシュッ!


 襲いかかる魔獣共を蹴散らしながらS級の元へ急ぐ。


「相変わらずデケェな」


 スクリクオーガとスクリクオーガの変異種だ。

 その皮膚は固く、生半可な刃物じゃすぐ欠ける。


 今、コイツらに10人のクラスSとリインが応戦していた。


「リイン、下がれ!」

「ギルマス!」



 俺のバトルアクスが唸りをあげてヤツらの皮膚に食い込む。


「お前らの相手は俺だ!魔鉄製バトルアクスを喰らいやがれ!」


 既に疲弊しているクラスSとリインを休ませる為に、オーガ達の気を引いた。



 ガアア!



 切られたことに腹をたてたオーガ達が、俺に向かってくる。



 これ、これだ!

 この現場の高揚感!


 頼むぜ、バトルアクス相棒



 俺は自分の腕を振り上げた。




 全員でようやく二匹を討伐する。

 だがまだ他所にもS級が出ている様なので向かうことになった。



「ああ!」「ギャッ!!」


 叫び声に振り返るとリインとクラスSの一人がすっ飛んだ後だった。二人とも血だらけだ。



 そして、

 そこにいたのはスクリクオーガキングの、しかも変異種だ。



「SSだ、SSが湧いた」


 誰かの呟きが聞こえる。


「クソ!」


 俺は咄嗟にリイン達との間に入り、スクリクオーガキングの変異種が振り下ろした剣を受け止めた。


「ぐ…う………」


 なんて力だ。

 どんなに鍛えていようと人間である俺がコイツの力には敵わない


 俺の腕からミシッミシッと音が聞こえ、やがて、



 バンッ



 と言う音と共に力が入らなくなる。


 肩の骨と筋肉がイカれたか。

 武器が持てず、ダランと垂れた俺の両腕。


 スクリクオーガキングの変異種は一旦剣を引き、力を無くした俺の様を眺めてニタ~と笑った。


 死は避けられんだろうが心は絶対に屈していない。

 俺はヤツを睨み付ける。


「クソったれ!」


 そして、剣が振り降ろされようとした。




 その時だった。


 フワリと暖かい何かを感じた。辺りが心なしかキラキラしている。

 その途端、目も開けられないほどの強い光が森の奥から迫って来た。

 俺はたまらず目を瞑ったが、それでも眩しい程の光。



 サアアァ!



 優しい何かが俺の中を通り過ぎ、そして意識を手放した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る