第30話 野菜お肉お肉お魚野菜お肉お肉

 外は相変わらずシンと静まり返り魔獣の気配は全く無い。

 空は陽が少し傾き始めていた。


 ちょっと早いけれど食べ始めようかな。


 バーベキューコンロの焼き網など外して、固形着火剤の上に小さめの木炭を積みライターで火をつける。

 三人でバタバタとうちわを扇いで空気を送り木炭に火をつけた。後は少しずつ木炭を増やしながら火の着いた炭を増やし三台に分ける。野菜用コンロには木炭少なめにした。



 冷蔵庫からグラスを取り出してサーバーからビールを注ぎ一旦席に着く。

 私は幼児なのでサイダーだよ!

 いや、普通の1歳がサイダー大丈夫なのかわからないけれど。

 テーブルに普通の枝豆と暖かいおしぼりを出す。そして、私が乾杯の音頭を取らせてもらった。



「ええと、従ちゃ、なってくえて、あにあと!テント完しぇいおめでと!ちの森浄化、おちゅかえしゃま!かんぱーーーーい!」

「俺は毎日楽しいぜ、カンパイ!」

「お疲れ様でした、カンパイ!」



 ゴキュゴキュゴキュ…。



「プハー!美味い!」

「ハァ~、美味しいですね!」


 二人ともめっちゃハイになってる。


「これはどうやって食べるんだ?」


 枝豆を指しながらスペアリブと玉ねぎをそぎ落とした牛肉ブロックを網に乗せる鳳蝶丸。ミスティルは野菜とトマトベーコン巻を焼き始めている。


「こやって、皮ごと口に入れゆ。指で、プチュッて出しゅの」


 私が食べてみせると、二人とも枝豆を食べてビールを飲んだ。


「ん~~~、すごく合いますね」

「こりゃ、止まらんな」


 プチプチ食べながら、肉や野菜を焼きながら、ビールのおかわりをしている。


「こえもあるよ」


 黒胡椒香るニンニク醤油枝豆炒めを出す。

 同じように食べながら、またしてもビールのおかわりをしている二人。



 ペース早すぎやしないかい?



「このビールってのは美味いな。エールとは違うのか?」

「エールだと常温に近いですものね。物凄く冷やしたビールは最高です。のどごし最高です」


 はぁ、とため息をつきながら、野菜やトマトベーコン巻をひっくり返すミスティル。


「詳ちくない、でも、エーユななくて、ヤガーよ」

「ヤガー?」


 鳳蝶丸の手の平にラガーと書く。


「ラガーは聞いたことないな」

「エーユは味わい、ヤガーはのどごち、友だち、言ってた」

「確かにな」


 私は我が家秘伝焼肉の醤油ダレと味噌ダレを出した。肉はもちろん、野菜にも魚介類にも合うのだ。

 そして、デッカイ岩石エビの半身を鉄板に乗せ、塩コショウをふる。

 小さな鉄鍋のアヒージョも鉄板の端っこに置いた。


「野菜と串が焼けましたよ」


 トングで各自の皿に乗せてくれる。


「トマト、あっちゅい、気をちゅけて」

「おう、はふはふ、熱っ、ん!美味い!」

「野菜も甘くておいしいですね」


 鳳蝶丸がスペアリブと牛肉ブロックを裏返しながら、カルビやロースを焼きだす。

 こちらはすぐ焼けるので、秘伝ダレをつけて食べてみた。


「肉も美味い…。何だこの柔らかさは!」

「脂が甘く溶けて、肉質も柔らかくて美味しいですねぇ」


 そのたびにビールをおかわりする二人。

 樽がバンバン無くなっていくので、ビール樽を冷蔵庫に追加した。




 その時。


 シュッと地図が展開する。少し離れた木々が深い所に動く点が20個くらい。

 白点が大半で、黄色点が2個。青点が2個。


 2人は気にする風も無く、相変わらず飲んで食べていた。


「何か来た?」

「ええ、そうですね」

「多分人間の町から来た連中だろう」



 そうだった。

 スタンピードの危険に晒されていた町が近くにあるんだった。

 私の地図には町が表示されないので忘れてた。


「色ちあう、なに?」


 黄色点をタップしてみると、ラ・フェリローラル王国騎士団第二部隊長ムットー・マーキスと騎士マクレーン・ボイストと表示され、説明に警戒中と書いてある。

 騎士団って言う事は貴族かな?面倒くさそう。


 青点をタップすると、ロストロニアン魔導士ピリカとミールナイト冒険者ギルド職員ピピと表示され、説明に興味津々と書いてあった。

 こちらはどういう繋がりなんだろう?


 それにしても、魔導士と冒険者ギルドってファンタジーど真ん中じゃないですか!ワクワクするね!



「フェイア人!」

「そうか、お嬢はまだフェリアの人間に会ってないな」

「うん」

「こちらの様子を見ていますが、どうします?」

「んと、バーベちゅー、ちょうたいちて、良い?」

「………呼ぶんですか?」

「俺達は別にいいが、困ったヤツが混ざっている可能性もあるぞ」



 これから色々巡ってフェリアを堪能するのに現地の人たちとの交流は不可欠だし、せっかくのチャンスだから初めましてしてみたい。

 地図の黄色点は恐らく要注意人物だと思うのでちょっと気になる…。あ、青点はたぶん好意的ではあるんだろうけれど、興味津々も要注意だね。

 でも、やっぱり交流してみたいと思う。


 鳳蝶丸とミスティルがいてくれるから大丈夫だよね。


「鳳蝶まゆ、ミシュチユ、いゆかや、だいじょぶ」


 二人に笑いかけると、頭をなでなでしてくれた。


「おしゃけ、お肉、たくしゃんありゅ。皆、楽ちもう」


 冷蔵庫を開けてもらって赤ワインと白ワインを出す。ついでにウイスキーを無限収納から出してチラ見せする。


 二人は笑顔で頷いた。




「よお、あんた達!いつまで隠れている気だ!」


 スペアリブを豪快に齧り付きながら鳳蝶丸が大きな声で呼びかけた。私はミスティルが切り分けてくれたお肉を食べながら地図を確認する。

 人の気配が動いて、やがて男性が両手を挙げて森から出てきた。


「ダンジョン都市ミールナイトからこの森を調査に来た者だ!俺は冒険者ギルドのギルド長ビョーク!敵意はない!野営がしたいんだがこの辺りにテント設置しても良いか?」

「ここはセーフティエリアだ。誰のものでもない!自由にしてくれ!」


 地図の点が忙しなく動き始めた。私たちの方へゆっくり近づいてくる。

 始めましての挨拶しなきゃ。あ、そう思ったらちょっと………。


「トイエ、行きたい」

「え?」

「行ってくゆ」


 もじもじしていたらミスティルが抱き上げてくれた。


「わたしが一緒に行きます。鳳蝶丸、あなた一人で大丈夫です?」

「俺を誰だと思ってんだよ」


 お互いフフンと笑って背を向ける。

 私とミスティルはその場を退場したのだった。




「鳳蝶まゆ、だいじょぶ?」

「ええ、大丈夫ですよ」


 私はトイレを済ませた後、濡れたタオルで口元を拭かれ、髪を梳かれていた。


「無限ちゅうのう、このしぇかい、持ってゆちといゆ?」

「魔力量の多いエルフにアイテムボックスというスキル持ちはいます」

「わたち、エユフちあう」

「人族にもたまにいますけれど極まれですね。エルフも人もアイテムボックスの容量は多くありません」


 私は人に近い姿をしているから、無限収納はバレると面倒くさいかも。念のため、ここから出しました的な小さい鞄作るか。

 ってことで、友人の子に贈ったモコモコ白うさぎちゃんショルダーバッグを再構築した。


 すると、ミスティルの真顔が発動。

 バッグを私に斜めがけしてうさぎちゃんをなでなでしている。

 そうか。パジャマの時もそうだったけれど、ミスティルは可愛いものが好きなんだね!


「おしょろい、ちゅくゆ?」


 お揃いをつくろうか?と言うと、首を横に振る。


「いいえ。私にはこのマジックバッグがありますから」


 そう言って私を抱き上げた。


「そろそろ行きましょうか」

「うん!町のちとに、こんにちは、しゅゆ。あと、いっぱい食べゆ!」


 微笑んだミスティルと共に、テントの外に向かうのだった。

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