第14話 作ったり、遊んだり、遊んだり
今後のことについての話をする。
まず、野営の道具作りをすることになった。
人のいる町には宿があるけれど、私たちは旅をすることも多くなりそうなので、なるべく快適空間を用意しておきたい。
でも、野営中に人の目に触れる可能性があるから、見た目はこちらにもありそうな道具を揃えるということで話がまとまった。
私はテント作り、鳳蝶丸はこの世界で使われている魔道具のキッチン用品などを作ってくれる。
「俺は『魔法陣創造』と言うスキルを持っている。細かい作業が得意だし、魔道具を作るのは人の子で言う趣味に近いな」
「しゅごい!」
『魔法陣創造』は読んで字の如く魔法陣を組むスキルで、かなり複雑なものまで創造できるらしい。
魔法陣を組み合わせるのはとても難しく、正確に描けないと爆発を起こしたりする危険性もある。鳳蝶丸は反発しあう魔法陣を組み合わせたりも出来るスキル持ちなんだって。
「不可能そうな魔法陣をカッチリ組めた時の達成感が良い」
鳳蝶丸は職人さんでした。
色々と話を聞いてみると、魔道具は電化製品と変わりない使い勝手で、電気を使わず魔石という魔力を込められる石を使うらしい。
ちなみに、魔石は山などで鉱石として採掘されたり、魔獣の体内から採取されるんだって。
「こえ、使えりゅ?」
私はオーブンレンジ、トースター、ガスコンロ、カセットコンロ、炊飯器、ホームベーカリー、冷蔵庫、電気ポット、洗濯機、LEDランタン、工具などを複写、一通り説明しながら無限収納から取り出した。
「いいのか?」
「複写ちたかや、分解ちて壊しゅ、だいじょぶ」
「了解」
お互いの作業のため、早速取り掛かろうとすると、鳳蝶丸が思い出したように私に声をかけた。
「ああ、そうだ。テントに取り掛かる前にお嬢に頼みがある」
「なあに?」
「結界なんだが、もう一種類つくってほしい」
伝説の武器は、創造神であるウル様に直接つくられたのでとても強く破壊されることはほとんどない。でも、絶対ないというわけではない。
そこで、戦う時だけ動きやすい結界を張って欲しいということだった。
「生涯、一緒にいたいからな」
なんて殺し文句付き。
そりゃ、作るでしょう。張り切って作るでしょう!
<結界3>
指定した対象の衣服・履物・装飾品を含む表面5mm上に結界を張る
指定した対象の動きに合わせて結界の形を変える
透明
結界内は温度26℃湿度50%酸素濃度約21%に常時調整
二酸化炭素は酸素に変換
結界外から結界内には全てを通さない
但し、指定した対象が必要と判断したものを除く
結界内から結界外への攻撃可能
一応確定出来た。
念のため、鳳蝶丸に結界3をかけてみる。
「自分ではわからんな。お嬢、俺に何かぶつけてくれ」
「ええぇ。こあい」
大丈夫だ、と説得されてシブシブ応じてみる。テニスボールがあるので思いっきり投げてみた。
コン、テン、テン、テン、…コロコロコロ。
私が思いっきり投げても特に問題なかった。
いや、結界なしで直接当たっても大して痛くないだろう力だったんだけれど。うん。
「ぶつかったのは分かったが、肌には触れていない。成功みたいだな。よし、行ってくる。お嬢は心配しないで待ってな」
そう言うと、右手を少し前に出す。手の中が淡く光り、鳳蝶丸の本体(?)である短剣が表れた。
その剣を口に銜えて走り出し、勢いよく海に飛び込む。
「鳳蝶まゆ!」
自分に結界2を張り島のぎりぎりまで浮遊する。
「鳳蝶まゆ……」
不安になってウロウロする。気配完全遮断して私も海に飛び込もうか。でも待っているように言われたし、どうしよう。
10分程で鳳蝶丸がザバァ!と浮上してきた。その顔を見てホッとする。
「よっ、と」
島の端に持ち上げたのは、ビックリするほど大きな魚とエビだった。
鳳蝶丸自身も軽々と海から上がる。
「ただいま、お嬢。ん?」
「あ…げ…」
「ど、どうした?」
「は…ま…」
自分でも驚くくらい声が震え、涙がこみあげてくる。
「ゆ~………うわ~~~ん!」
大きな声で泣いてしまう。そして、どうにも止まらなかった。
「お、お、お、お嬢!」
鳳蝶丸がウロウロして焦っている。
「とちゅじぇん、いなくなっちゃ、やあぁー!」
ビャーッと泣きじゃくる私に戸惑い私をギュッと抱きしめた。
結界はお互いを許可しているので、干渉することなく直接温もりを感じる。
「すまん、お嬢。…ごめんな」
私が泣き止むまで抱き上げてあやしてくれる。
「次はキチンと説明してから行動するから」
「うん」
「許してくれるか?」
「うん、ゆゆちゅ」
「そうか。ありがとうな」
破顔する鳳蝶丸はとても綺麗でちょっと羨ましかった。
「今、結界を試しに海へ行ってきた。これは土産」
足元に転がる魚は赤くて大きくてとても綺麗だった。まだ口をパクパクさせている。
エビは鳳蝶丸がガッツリ踏んで逃がさないようにしていた。
ちなみに、どちらも大きくて食べでがありそうだ。
「おいちい」
「…アハハハ!まだ食べていないぜ、お嬢」
即清浄、即収納。
生きてる水産物収納OKにしてくれてありがとう!ウル様ありがとう!
鑑定すると、どちらも魔獣ではなくこの世界の生物だった。
赤い魚は1mくらいあるアカハマダイという深海魚。エビは岩石エビ。50cm位の大きさで伊勢海老に似ている。
どちらも良質で美味と結果が出た。
何して食べようか。
レインボーアコヤもあるからやっぱバーベキューか?
「お嬢のメシは本当に美味いからな。これからが楽しみだぜ」
「あにあと」
褒められて嬉しくなる。気合入れて作りますよ。ほぼ鳳蝶丸まかせだけど。
鳳蝶丸が私を抱き上げたままパラソル方面に歩き出す。もう島の結界内なので、それぞれに張っていた結界を解除した。
「作ってくれた結界だが、かなり使いやすいし頑丈で良かったぜ」
「だいじょぶだった?」
「ああ。あのデカイ蟹魔獣のハサミに挟ませたが全く問題なかった」
「にゃ、にゃにちてんの!」
ハハハとか笑っているけれど、そんな危ないことしないでよ!
キッと睨む私に、大丈夫だと手をワキワキさせる鳳蝶丸。
本当に何するかわかんないよ、この伝説の武器は。
「結界をつくってくれてありがとうな、お嬢」
「危にゃい、しちゃらめ」
「う~ん。俺は武器だからなぁ」
「じゃあ、わじゃと、しちゃらめ~!」
体を反らして抗議。
「おっと。落ちるぞ、お嬢」
「いやぁ~!やくしょく、ちてぇ~」
どんどん体を反らして頭を下に向ける。
「わかった、わかった。ワザと危ないことはしない…ようにするから」
「やくしょく~」
「おう」
「うしょちゅく、ちゅかまえてごらんなしゃいごっこ~」
「ええ…」
やっぱりやりたくないんだな。今後も使えるぞ、嘘ついたらつかまえて御覧なさいごっこ。
「そうだ。道具つくるの後にしてちょっと遊ぼうか?」
「う?」
気を反らそうって魂胆ね。引っかからないから!
「さっき思いついたんだが、楽しいぞ」
楽しい…。
「思いっきり遊ぶのは好きか?」
「しゅき…」
「遊ぶ?」
「あしょぶ」
思わず頷いちゃった。
結界の端が島ギリギリで、外はすぐ海という場所が一か所だけある。
その場所の横には結界外の陸地も少しあった。
私達はそこへ向かう。
「先ほどつくった結界を俺とお嬢にかけてくれ」
結界3を二人にかける。もちろんお互い結界内に行き来OK。
「お嬢は洞窟に来た時、気配完全遮断をかけていたよな?」
「うん」
「俺も持ってるんだ。だから自分に気配完全遮断、互いは認識にしてくれ」
「ちた。わかゆ?」
「おう」
そして、今だけ島の結界に入れないようにして欲しいと言われ設定をし直す。
何するんだろう?
よし、
という掛け声とともに、鳳蝶丸がタッと跳躍する。二回ほど結界の外壁を蹴って、頂上に到着した。
「わぁ!」
浮遊で上から島を眺めたことあるけれど、結界の上から眺める海の景色がとても綺麗。
「アビサルメガロドン達は今離れているな」
「しょうね」
鳳蝶丸が私を前向きに抱きなおす。
何?何するの?
「お嬢、俺がしっかり抱いているから安心してくれ」
と言った途端、突然の浮遊感。二人で結界の外壁を滑り落ちる。
「ひゃあああぁぁぁ!」
ザブン!
海中に落下。
何だろう、これ。お腹の中がヒュンってなった!
ジェットコースター…いや、ウォータースライダーだ!
面白い!めっちゃ面白い!
ザバッと島に上がる。
「もっと!もっとちて、鳳蝶まゆ!」
「おう、気に入ったか?」
「楽ちい。もっともっと!」
後ろから抱きしめている鳳蝶丸の腕をペチペチ叩き催促する。
【幼児の気持ち】爆上がり中。
「了解」
また結界の上に行き、滑り台みたいに海に向かって一直線。
海中に落下。
グルグルと回って上か下かわからないが、鳳蝶丸がしっかり抱きしめてくれているので怖くはない。
ザバッと島に上がる。
これをしばらく繰り返した。
「おもちろかった!」
「そうか、良かったな」
よく見たら、二人が滑っている時外壁に水が流れていた。
鳳蝶丸は水属性で水魔法が使えるそうな。剣なのに水、そもそも海水って大丈夫なの?と聞いたら、伝説の武器だからアリなんだって。
良くわからないけれど便利だなぁ。
あと、水着着ないまま水遊びってのも斬新。
楽しかったので、またやりたいって言ったら快諾してくれた。
独りで砂遊びした時よりも何十倍も楽しい。
今度は何して遊ぼうかな?
ん?
私、何か忘れている?まあいいや。
楽し過ぎて、嘘ついたらつかまえて御覧なさいごっこの件をすっかり忘れた私だった。
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